浮舟(21・22) 浮舟引取り合戦 薫か匂宮か

p233-236
21.薫、女二の宮に浮舟引取りの了解を求める
 〈p84 女二の宮にお話しをなさるついでに、〉

 ①薫、正妻の女二の宮に浮舟のことを語る。
  →殊更話をしなければならないことだろうか。
  →源氏は紫の上に全て語っていたがそれは紫の上を心底愛し信頼してたから。
  →薫は女二の宮と左程心を通わせているとは思えないのだが。

 ②女二の宮 「いかなることに心おくものとも知らぬを」
  →貴人の答えの常套句。「私には分かりません、、、」

 ③薫 「されど、それは、さばかりの数にだにはべるまじ」
  →貴女が気にするような女ではない。それなら尚更言わなくてもいいのに。
  →薫の自己満足であろうか。
  
22.薫の準備の様子、ことごとく匂宮に漏れる
 〈p85 新築の家に宇治の女を移そうと計画されていましたが、〉

 ①造りたる所に渡してむと思したつに、
  →浮舟の匿うために新造中の屋敷。三条宮に極近い。

 ②この内記が知る人の親、大蔵大輔なる者に、睦ましく心やすきままにのたまひつけたりければ、聞きつぎて、宮には隠れなく聞こえけり。
  →匂宮の漢籍アドバイザー大内記の妻は薫の家司大蔵大輔の娘、情報は匂宮に筒抜け。
  →薫は秘密裡に造営してた筈だが上記人脈は知らなかったのだろうか。実務能力に長けている薫にしてはチト不思議。

 ③匂宮、薫の新造営計画に先んじて浮舟を匿うべく引き取り先を段取りする。
  わが御乳母の遠き受領の妻にて下る家、下つ方にあるを、、
  →うまい具合に乳母の家が空き家になるのでそこを引き取り先とする。
  →下つ方=下京 七~九条あたりか。こんな下町に匂宮が通おうとする。

 ④薫は匂宮が先手を打って浮舟を連れ去ろうと計画しているとは知る由もない。
  →薫の新邸は4月初め完成との情報も入ったのであろう。匂宮は乳母の家が空く3月末に浮舟引き取りを計画する。
  →段末脚注 事態は一気に緊迫する。

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浮舟(19・20) 二人から贈歌 悩む浮舟

p224-232
19.匂宮帰京後病臥 宇治では上京の準備進む
 〈p76 こういう時のお帰り先は、やはり二条院でした。〉

 ①かやうの帰さは、なほ二条にぞおはします
  →宇治から帰った匂宮。表の世界(母中宮のいる宮中、夕霧・六の君いる六条院)へは行けない。心安い二条院に帰り閉じこもる。中の君の所へも行かない。

 ②日を経て青み痩せたまひ、御気色も変る
  →宇治の二日間で精力を使い切った。房事過多と解説書にある。
  →匂宮が病気になるほど憔悴するのはちょっと不思議な感じ。若いのだしもう少ししっかりしてもらいたい所。

 ③かのさかしき乳母、むすめの子産むところに出でたりける、帰り来にければ、、
  →実家に帰っていて匂宮とのことを知らなかった乳母が宇治に帰ってきている。

 ④悩む浮舟
  あながちなる人の御事を思ひ出づるに、、、、、、いささかまどろめば、夢に見えたまひつつ、、、
  まどろむと匂宮が夢に出てくる。
  →匂宮の魂が浮舟の所にくる、、、当時はそういう解釈だったのだろうが、現代の夢解釈では浮舟の深層心理のなせるわざではなかろうか。

20.匂宮と薫の双方より文あり 浮舟の悩み深し
 〈p78 雨の降り止まない日が長くつづく頃、〉

 ①雨降りやまで、日ごろ多くなるころ、
  →3月、晩春に入る。

 ②匂宮、薫から浮舟に相次いで歌が贈られてくる。
  匂宮 ながめやるそなたの雲も見えぬまで空さへくるるころのわびしさ
  薫 水まさるをちの里人いかならむ晴れぬながめにかきくらすころ

 ③二人からの文を読み浮舟はあれこれ思い悩む。
  さすがにかれはなほいともの深う人柄のめでたきなども、世の中を知りにしはじめなればにや。
  →浮舟にとって薫は初めて契りを交した男。後見を約束してくれている男である。

  かかるうきこと聞きつけて思ひ疎みたまひなむ世には、いかでかあらむ、、、、、、まして、わがありさまのともかくもあらむを、聞きたまはぬやうはありなんや 
  →長々と心内が語られる。薫に匂宮とのことがばれたらどうしよう、、、。結局浮舟の心は既に匂宮に傾いているということであろうか。

 ④侍従、右近見あはせて、「なほ移りにけり」など、言はぬやうにて言ふ
  →この時点では侍従は匂宮派、右近は薫派であろうか。

 ⑤二人して語らふ。心ひとつに思ひしよりは、そらごともたより出で来にけり。
  →右近も侍従が嘘固めの共犯に加わってくれたので心強くなっている。

 ⑥宮の描きたまへりし絵を、時々見て泣かれけり。
  →匂宮が描いた男女同衾図を取り出して匂宮との日々を思い出す。浮舟の心は決定的である。

 ⑦浮舟の返歌
  対匂宮 かきくらし晴れせぬ峰の雨雲に浮きて世をふる身をもなさばや
  対薫 つれづれと身を知る雨のをやまねば袖さへいとどみかさまさりて

  →二人に恋を仕掛けられている浮舟、本帖では十三首もの歌を詠んでいる。
  
 ⑧この時点での浮舟の心内を分析してみると、
  ・薫は男女のことを初めて教えてくれた男。律儀に将来を約束してくれており、薫に付いて行けば安泰である。母や乳母もそれを願っている。

  ・匂宮は一方的に踏み込んで来て薫との関係を踏みにじった。京に匿うと言ってくれているが浮気っぽい性格で将来はあてにできない。中の君を裏切ることにもなる。母は怒り狂うだろう。でもあれだけ激しく愛してくれた情熱とあの時のめくるめく快楽は忘れられない。

 といったところであろうか。難しいところですねえ。。

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浮舟(18) 匂宮、浮舟 川向うでの二日間

p218-224
18.匂宮、隠れ家で浮舟を耽溺の二日を過す
 〈p70 日がさし昇って軒のつららに陽の光が当たりきらめきますと、〉

 この段は源氏物語中でも一番のエロチックな場面ではないでしょうか。読んでいて「いいなあ」と顔が火照ってくる感じがします。

 ①宮も、ところせき道のほどに、軽らかなるべきほどの御衣どもなり、女も、脱ぎすべさせたまひてしかば、細やかなる姿つきいとをかしげなり。
  →紫式部にしては珍しい官能的叙述である。浮舟の身体の線が浮かび上がる。

 ②なつかしきほどなる白きかぎりを五つばかり、袖口、裾のほどまでなまめかしく、色々にあまた重ねたらんよりもをかしう着なしたり。
  →コメントは不要でしょう。

 ③この場に居合わせる随身は侍従と時方のみ。
  時方「いと恐ろしく占ひたる物忌により、京の内をさへ避りてつつしむなり。外の人寄すな」
  →とにかく匂宮と浮舟に愛の語らいの場所を確保しなければならない。時方の働きどころである。

 ④人目も絶えて、心やすく語らひ暮らしたまふ。
  →もう水入らず二人は思いのままに愛を交し合う。

 ⑤匂宮→時方「いみじくかしづかるめる客人の主、さてな見えそや」
  →外向きにはこの一行の主は匂宮でなく時方。匂宮が冷かして軽口をたたく。

 ⑥侍従、色めかしき若人の心地に、いとをかしと思ひて、この大夫とぞ物語して暮らしける
  →脚注20 侍従と時方は主人の面倒を見るかたわらちゃっかりお楽しみに及ぶ。
  →夕顔が取り殺された大事な時に惟光は屋敷から離れどこかにしけ込んでいた。

 ⑦匂宮 峰の雪みぎはの氷踏みわけて君にぞまどふ道はまどはず
  浮舟 降りみだれみぎはにこほる雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき
  →先の薫と浮舟の歌は白々しかったがこの歌の贈答は深刻である。

 ⑧「中空」をとがめたまふ
  →確かに浮舟の心は宙に舞っている。
   (身も心も匂宮に傾いているがそれでは薫に義理が立たない)

 ⑨その裳をとりたまひて、君に着せたまひて、御手水まゐらせたまふ。姫宮にこれを奉りたらば、いみじきものにしたまひてむかし、いとやむごとなき際の人多かれど、かばかりのさましたるは難くやと見たまふ。
  →匂宮の浮舟の扱い。やはり召人でしかないのであろうか。

 ⑩かたはなるまで遊び戯れつつ暮らしたまふ。
  匂宮の行動過程
  2月某日 夜さりに宇治来訪浮舟と夜を明かす
   翌日  朝、舟で川向うの隠れ家へ移り終日情痴にふける
   翌日  昼を隠れ家で過し深更になって宇治へ連れ帰る
       そのまま匂宮は京へと帰る。
  →誠に強行軍である。さぞお疲れのことでしょう。

 ⑪そのほど、かの人に見えたらばと、いみじきことどもを誓はせたまへば、、、
  「いみじく思すめる人はかうはよもあらじよ。見知りたまひたりや」

  →匂宮の薫への対抗心は凄まじい。浮舟は窮するしかない。   

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浮舟(16・17) このうき舟ぞゆくへ知られぬ

p210-218
16.薫の浮舟をしのぶ吟誦に、匂宮焦燥する
 〈p63 二月の十日頃、宮中で詩を作る会が催されて、〉

 ①2月10日 宮中での漢詩作文会 薫と匂宮の探り合いの場である。
  匂宮は催馬楽「梅が枝」を朗誦する。

 ②薫は浮舟を思い出してか「衣かたしき今宵もや」と口遊む。
  さ筵に衣片敷きこよひもや我を待つらむ宇治の橋姫(古今集 読人しらず)
  →インパクトある引歌である。宮は寝たるやうにて御心騒ぐ。
  →匂宮が聞き逃す筈がない。匂宮の行動に火を付ける結果となる。

 ③かの君も同じほどにて、いま二つ三つまさるけぢめにや、すこしねびまさる気色、
  →付録p300参照 本来匂宮が薫より一つ年長。当年匂宮28才、薫27才の筈である。

 ④この段は薫が口遊んだ「衣かたしき今宵もや」を匂宮が聞き咎めた。それが全てである。

17.匂宮再び浮舟に忍び、対岸の家にこもる
 〈p65 昨夜の薫の君の、臆面もない態度に〉

 ①かの人の御気色にも、いとど驚かれたまひければ、あさましうたばかりておはしましたり。
  →匂宮はすぐさま行動を起す。すさまじい情熱である。

 ②匂宮、またしても雪をついての宇治行き。
  →K24年11月大君死去の際、雪の中弔問に訪れた。あの時も情熱的だった。

 ③同じやうに睦ましく思いたる若き人の、心ざまも奥なからぬを語らひて、、、
  →匂宮がやってくると聞いて右近は自分だけでは対応しきれないとして同僚侍従に事情(匂宮と浮舟のこと)を明かし協力を求める(嘘つきの共犯者に誘い込む)。

 ④時方が川向う(平等院側)の叔父の別荘を匂宮・浮舟の愛の住処として手配する。
  →時方の甲斐甲斐しさ惟光に似ている。

 ⑤かき抱きて出でたまひぬ。右近はここの後見にとどまりて、侍従をぞ奉る
  →匂宮はお姫さま抱っこで浮舟を舟に乗せる。右近は留まり侍従がお供する。

 ⑥明け暮れ見出す小さき舟に乗りたまひて、さし渡りたまふほど、遥かならむ岸にしも漕ぎ離れたらむやうに心細くおぼえて、つとつきて抱かれたるもいとらうたしと思す。
  →対岸への情事行。漂う小舟に揺られ匂宮にひしと抱かれる浮舟。名場面です。

 ⑦匂宮「かれ見たまへ。いとはかなけれど、千年も経べき緑の深さを」とのたまひて、
   年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は

  女も、めづらしからむ道のやうにおぼえて、
   橘の小島の色はかはらじをこの浮舟ぞゆくへ知られぬ

  →浮舟、巻名になり。女君の名前にもなった源氏物語を代表する歌である。

 この段息もつかせぬ緊迫場面で匂宮の男っぽさ、浮舟の女っぽさが鮮やかに描かれていると思います。

(百人一首談話室に絵を投稿いただいている松風有情さんより。2015.12.11)
http://100.kuri3.net/wp-content/uploads/2015/10/KIMG0237.jpg

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浮舟(15) 薫、宇治へ(数ヶ月ぶりである)

p202-210
15.薫、浮舟を訪れ、その大人びたことを喜ぶ
 〈p56 こうしてその月も過ぎました。〉

 ①K27年2月 大将殿、すこしのどやかになりぬるころ、例の、忍びておはしたり。
  →正月は忙しい。やっと2月になって宇治へ。その間浮舟に大変なことがあったとは知る由もない。薫は昨年11月浮舟を宇治に連れて来て以来訪れていない。

 ②女、いかで見えたてまつらむとすらむと、空さへ恥づかしく恐ろしきに、あながちなりし人の御ありさまうち思ひ出でらるるに、、、、
  →浮舟は匂宮との先夜のことを思い出すにつけても薫に合わせる顔がない。

 ③先夜匂宮が浮舟に言った言葉を浮舟は思い出す。
  我は、年ごろ見る人をもみな思ひかはりぬべき心地なむする。
  →貴女といると中の君も六の君も忘れてしまいそうだ、、、強烈な言葉である。

 ④浮舟は薫の顔を見ながら薫とのこと匂宮とのことに思い悩む
  この辺り文脈が複雑で分かりにくい。浮舟の苦悩をそのまま表している感じがする。

  脚注17も言っているが薫を評するには客観的に(冷静に)匂宮を評するには主観的に(情熱的に)語られている。浮舟の心は既に匂宮にあって薫にはない。

   薫評 いとあはれと人の思ひぬべきさまをしめたまへる人柄なり
   匂宮評 あやしう、うつし心もなう思し焦らるる人をあはれと思ふ

 ⑤薫 「造らする所、やうやうよろしうしなしてけり。、、、この春のほどに、さりぬべくは渡してむ」
  →薫は浮舟をほったらかしにして呑気すぎると作者も読者も批難口調であるが、普通に考えればこんなペースではなかろうか。文は出しているし新居も着々と用意している。真面目で堅実な後見ぶりだと思うのだが、、、。
  →浮舟と匂宮がこんなことになっているとは、、、。ちょっと薫が可哀そう。

 ⑥朔日ごろの夕月夜に、すこし端近く臥してながめ出だしたまへり。男は、過ぎにし方のあはれをも思し出で、女は、今より添ひたる身のうさを嘆き加へて、かたみにもの思はし
  →脚注3 並んで月を眺める二人。普通ならお互いのことを想い合う所だが二人の想いは違っている。
  →薫は浮舟を通して大君のことを、浮舟は薫よりも匂宮のことに想いを馳せている。
  →匂宮が来たのは1週間くらい前だろうか。事態は恐ろしく変わったものである。

 ⑦薫 宇治橋の長きちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心さわぐな
  浮舟 絶え間のみ世にはあやふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや
  →何とも空しい感じの歌の応酬である。

 ⑧薫 いとようも大人びたりつるかなと、心苦しく思し出づることありしにまさりけり。
  →浮舟は以前に増して色っぽくなっている。薫はしてやったりとほくそ笑む。知らぬが仏である。  

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浮舟(13・14) 二条院に戻った匂宮

p196-202
13.匂宮二条院に戻り、中の君に恨み言を言う
 〈p51 二条の院に御到着になられましたが、〉

 ①二条院に帰った匂宮、独りでは寝られず中の君の所へ行く。
  御帳に入りて大殿籠る。女君をも率て入りきこえたまひて、「心地こそいとあしけれ。いかならむとするにかと心細くなむある、、、」
  →二人でベッドに入ったもののさすがの匂宮もお疲れで実事には及べなかったのであろう。

 ②匂宮「まろは、いみじくあはれと見おいたてまつるとも、御ありさまはいととく変りなむかし。人の本意はかならずかなふなれば
  →匂宮にしては何とも気弱な言葉である。浮舟との儚い恋で少しは人間的になったということか。
 
 ③匂宮「、、、まろは、御ためにおろかなる人かは。人も、ありがたしなど咎むるまでこそあれ、人にはこよなう思ひおとしたまふべかめり。、、、」
  →この辺り愚痴っぽくてとても匂宮の言葉とは思えない。薫じゃあるまいし、もっとスカッと行かなくては。

 ④いかやうなることを聞きたまへるならむとおどろかるるに、答へきこえたまはむこともなし。ものはかなきさまにて見そめたまひしに、、、
  →薫とのことを持ち出し恨み言を言われては中の君はかなわない。

 ⑤かの人見つけたることは、しばし知らせたてまつらじと思せば、異ざまに思はせて恨みたまふを、、、
  →匂宮と中の君 それぞれ心の中で思っていることがすれ違っている。そこが面白い。
   ・匂宮は中の君と薫とに何かあったと疑っている。中の君も疑われていることは知っている。
   ・匂宮は浮舟の素性(中の君の異腹妹であること)を知らない。薫の愛人で中の君ゆかりの人、、、というくらいは分かっている。
   ・中の君は匂宮が浮舟と契ってきたことは知らない。

  →匂宮=中の君 & 薫=浮舟 が夫婦・愛人関係であるが下手すると
    匂宮=浮舟 & 薫=中の君 になってしまいかねない。
    チェンジパートナーの様相である。

 ⑥内裏より大宮の御文あるに驚きたまひて、なほ心とけぬ御気色にて、あなたに渡りたまひぬ。
  →表の世界がちょこちょこと挿入される。

14.匂宮、病気見舞に来訪の薫と対面する
 〈p54 夕方、薫の大将がいらっしゃいました。〉

 ①夕つ方、右大将参りたまへり
  →薫は匂宮が浮舟と激しい夜を過ごしてきたなど知る由もない。
  →知らぬが仏。これまでの悩む薫・能天気な匂宮とは逆の構図である。

 ②匂宮「聖だつといひながら、こよなかりける山伏心かな、さばかりあはれなる人をさておきて、心のどかに月日を待ちわびさすらむよ
  →この辺りから二人の腹の探り合い浮舟を廻る出し抜き合いが始まっていく。
  →宇治十帖の醍醐味である。

 ③段末 友だちには言ひ聞かせたり。よろづ右近ぞ、そらごとしならひける。
  →「友だち」なんて言葉もあったのだ。
  →嘘に嘘を重ねていかねばならない。嘘つき右近である。

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浮舟(11・12) 匂宮、浮舟から離れられず春の日を過す

p188-196
11.匂宮、浮舟と春の日を恋に酔い痴れる
 〈p44 女君は、いつもはあたりの霞んだ山際を見つめながら、〉
 
 ①紛るることなくのどけき春の日に、見れども見れども飽かず、、、
  →まだ一月末なのにのどかな春の日が強調されている。
   春ののどかさ、けだるさ。快楽から一夜明けた昼間のエロチックな描写。

   春霞たなびく山の桜花見れども飽かぬ君にもあるかな(紀友則)

 ②さるは、かの対の御方には劣りたり、大殿の君の盛りにほひたまへるあたりにては、こよなかるべきほどの人を、たぐひなう思さるるほどなれば、、
  →中の君には劣るし六の君の女盛りにも比較にならない。それなのに匂宮は浮舟に耽溺している。

 ③女は、また、大将殿を、いときよげに、またかかる人あらむやと見しかど、こまやかににほひ、きよらなることはこよなくおはしけりと見る
  →浮舟から見た二人。薫は「きよげ」匂宮は「きよら」
  →勝負あり。浮舟が匂宮の方を上と見た瞬間である。

 ④いとをかしげなる男女もろともに添ひ臥したる絵を描きたまひて「常にかくてあらばや」などのたまふも、涙落ちぬ。
  →男女同衾の絵。春画ではなかろうが昨夜の二人を思い出させるに十分な絵であったのだろう。

 ⑤匂宮 長き世を頼めてもなほかなしきはただ明日知らぬ命なりけり
  浮舟 心をばなげかざらまし命のみさだめなき世と思はましかば
  →二人とも将来を見通せない破滅的な恋を自覚している。

 ⑥女、濡らしたまへる筆をとりて、、、
  →匂宮が筆に墨をつけて浮舟に手渡し歌を書かせる。何とも官能的である。

 ⑦薫に匿われた経緯を問い質す匂宮
  浮舟「え言はぬことを、かうのたまふこそ
  →浮舟は素性を知られたくない。そんなこと聞かれても答えようがない。
  →脚注12 夕顔も源氏に素性を聞かれて返答に窮した。それが男には媚態と映る。

12.翌朝、匂宮名残を惜しみつつ京へ帰る
 〈p47 夜になって、京へ使いにやった大夫の時方が帰ってきて、〉

 ①京へ遣いに行った時方が帰って右近に報告する(匂宮は浮舟にべったりで近づけない)
  時方「女こそ罪深うおはするものはあれ、、、、」
  右近「聖の名をさへつけさせたまひてければ、いとよし。私の罪も、それにて滅ぼしたまふらむ、、」
  →共犯者の若い二人。会話は楽しそうである。
  →「私」が二人称「あなた」の意味であるのも面白い。

 ②別れ際に匂宮は薫との関係を踏まえつつ浮舟をどこかに隠すと告げる
  匂宮「夢にも人に知られたまふまじきさまにて、ここならぬ所に率て離れたてまつらむ
  →う~ん、トンデモナイことになって来ましたね。

 ③匂宮 世に知らずまどふべきかなさきに立つ涙も道をかきくらしつつ
  浮舟 涙をもほどなき袖にせきかねていかに別れをとどむべき身ぞ
  →これは二人の絶望的な恋の行方を暗示するような歌である。

 ④段末脚注参照
  (夕顔の巻)源氏とその忠実な部下惟光 夕顔とその女房右近
  (本段)  匂宮と部下の若き時方 浮舟とその女房右近
   構図がそっくりである。

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浮舟(10) 匂宮居残る

p180-188
10.翌朝、匂宮逗留を決意、右近週日苦慮する
 〈p36 こうしている間にも、夜はひたすら明けてゆきます。〉

 ①夜はただ明けに明く。
  →一月下旬、まだ夜は長い。匀宮にとっては短く感じたことだろう。

 ②右近聞きて参れり。
  →匂宮と知った時の右近の驚きは記されていない。胸がつぶれる思いだったろう。

 ③京には求め騒がるとも、今日ばかりはかくてあらん、何ごとも生ける限りのためこそあれ、
  →もう今日は京へは帰らない。匂宮の決意である。

 ④匂宮からうまく取りなすよう命令を受けた右近
  いとあさましくあきれて、心もなかりける夜の過ちを思ふに、、、、
  →右近は匂宮を寝所に入れたことを自分の責任だと感じている。
  →ここから右近の大活躍が始まる。

 ⑤「今日のところは帰って」と懇願する右近に、匂宮
  「我は月ごろもの思ひつるにほれはてにければ、人のもどかむも言はむも知られず、ひたぶるに思ひなりにたり。、、、、、他事はかひなし」
  →すごいですねぇ。普通男の私なんぞには思いもつきません。
  →何とかなるさ、楽観主義と言おうか。どうなってもいい、破滅主義と言おうか。

 ④右近→大内記
  あなた方お供がしっかりしなくっちゃ。宮は子どもなんだから、、、
  →大内記も返す言葉がない。

 ⑤時方「勘へたまふことどもの恐ろしければ、さらずとも逃げてまかでぬべし」
  「、、、誰も誰も身を棄ててなむ。、、、」
  →若い時方は頼もしい。匂宮命と仕えている若き公達の心意気である。

 ⑥右近、人に知らすまじうはいかがたばかるべきとわりなうおぼゆ。
  →匂宮の侵入を他の人(ひいては薫に)知られてはならない。
  →右近がこれからウソにウソを重ねていく。嘘つき右近の始まりである。

 ⑦石山に今日詣でさせむとて、母君の迎ふるなりけり。
  →乳母の発案で母といっしょに石山寺に参詣しようという計画で今日、京の母から迎えの車が来ることになっていた。

 ⑧御手水などまゐりたるさまは、例のやうなれど、まかなひめざましう思されて、「そこに洗はせたまはば」とのたまふ。
  →「貴女からどうぞ」優しい匂宮ではないか。
  →脚注27に「すべて女を喜ばせるための演技と手管」とあるがそうだろうか。後で召人扱いが出て来るがこの場面では心から愛おしく思ったのではなかろうか。

 ⑨時の間も見ざらむに死ぬべしと思し焦がるる人を、心ざし深しとはかかるを言ふにやあらむと思ひ知らるるにも、、
  →これだけ情熱的に接しられては浮舟の心も匂宮に傾くというものだろう。

 ⑩匂宮「知らぬを、かへすがへすいと心憂し、なほあらむままにのたまへ」
  →脚注8 源氏も夕顔に耽溺したとき誰なのか分からなかった。死後右近から聞かされた。

 ⑪中将の君から迎えの車が来る。右近は物忌みとウソをついて取り繕う。
  →「物忌み」便利ですねぇ。巧みなストーリーの進め方だと思います。 

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浮舟(8・9) 匂宮、浮舟と契る

p170-179
8.匂宮、浮舟と女房たちをのぞき見る
 〈p27 匂宮は足音をしのばせて縁側へ上がり、〉

 ①浮舟が匿われている宇治山荘(新築なったばかり)
  新しうきよげに造りたれど、さすがに荒々しくて隙ありけるを、誰かは来て見むともうちとけて、穴も塞がず、几帳の帷子うち懸けて押しやりたり。
  →薫が新築した山荘。無防備で丸見え。京の豪邸とは異なる。

 ②匂宮は浮舟をバッチリ覗き見る。
  君は腕を枕にて、灯をながめるまみ、髪のこぼれかかりたる額つきいとあてやかになまめきて、対の御方にいとようおぼえたり。
  →上品で優美、中の君にも似ている。匂宮の胸はときめく(palpitationかな)。

 ③右近登場。この右近は東屋で出てくる中の君付きの女房(匂宮が浮舟を押さえつけた時に居合わせた)とは別人。この右近が今後大活躍する、
  →夕顔の右近(玉鬘を捜し出す)も重要人物であった。右近右近でややこしい。
  →この右近はガマの様相の乳母の娘である。

 ④右近と侍従(向かひたる人)、他の女房たちとの会話を盗み聞き匂宮は今浮舟が何をしようとしているのかを察知する。
  ・どこかに物詣に行こうとしている。
  ・乳母は浮舟の母の所へ行ったらしい(あのガマ女は不在である!)
  ・薫は来月の初めには来るようである。
  →これだけ聞けば匂宮には十分だったろう。

 ⑤女房「殿だに、まめやかに思ひきこえたまふこと変らずは、、、、」
  →殿は薫。女房たちも薫を浮舟の亭主(浮舟が薫のものであること)と自覚している。

 ⑥まして隈もなく見たまふに、いかでかこれをわがものにはなすべきと、心もそらになりたまひて、なほまもりたまへば、
  →浮舟をすっかり垣間見て腑抜けになった匂宮。I cannot stop loving you!!

9.匂宮、薫をよそおい浮舟の寝所に入り契る
 〈p32 眠たいと右近は言っていたので、〉 

 この段は解説不要か。匂宮になったつもりで一気に読む方が分かり易い。
 ①匂宮侵入
  右近「誰そ
  匂宮「まづ。これ開けよ
  右近「あやしう。おぼえなきほどにもはべるかな。、、」
  匂宮「ものへ渡りたまふべかなりと仲信が言ひつれば、、、まづ開けよ
  →右近は匂宮を薫と思いこむ。決めては仲信(薫の家司)の名前が出たこと。
  →匂宮は上の空になりながら機転もきく。さすが単なるスケベ男ではない。
  →匂宮は薫のふりをして中の君の寝所に侵入したことがあった(総角p156)

 ②女君は、あらぬ人なりけりと思ふに、あさましういみじけれど、声をだにせさせたまはず、、、
  いかが言ふかひもあるべきを、夢の心地するに、やうやう、そのをりのつらかりし、年月ごろ思ひわたるさまのたまふに、この宮と知りぬ。

  →夢が情交を暗示。例によってあっけない書き振りである。
  →匂宮はコトの最中も事後も浮舟に甘い言葉をかけ続けたのであろう。マメですなあ。

 ③p179脚注に「光源氏の色好みには、つねに何かの救いがあったが、匂宮には、それがない」とあるがそうだろうか。ちょっとよく分かりません。 

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浮舟(6・7) 匂宮、浮舟を求めて宇治へ

p164-169
6.匂宮、宇治行きの計画を大内記に相談
 〈p24 そう思うとひたすらそのことばかりをこの頃は〉

 ①賭弓、内宴など過ぐして心のどかなるに、
  →賭弓は正月十八日、内宴は二十日過ぎ。匂宮が浮舟のことを聞きだした正月早々から3週間ほど経っている。この間匂宮は色々と考えていたのだろう。

 ②この内記は、望むことありて、夜昼、いかで御心に入らむと思ふころ、、
  →大内記、昇進を願って匂宮に気に入られようと必死。

 ③匂宮「いと難きことなりとも、わが言はんことはたばかりてむや」
  「かの宇治に住むらむ人は、はやうほのかに見し人の行く方も知らずなりにしが、、」 
  →難しい仰せごとの方が点数を稼げる。大内記は畏まって承る。この辺巧み。

 ④かへすがへすあるまじきことにわが御心にも思せど、かうまでうち出でたまへれば、え思ひとどめたまはず。
  →やり過ぎだとの自覚はあるもののもうやめられない。これぞ色好みの衝動ならん。

7.匂宮、大内記の案内により宇治に赴く
 〈p26 お供には、以前中の君に通った時もお供をして行って、〉

 ①お供は気心の知れた陪臣のみ。大内記がリーダー。
  さては御乳母子の蔵人よりかうぶり得たる若き人
  →これがこれから活躍する時方。五位になったばかり若い張り切りボーイ。

 ②出で立ちたまふにつけても、いにしへを思し出づ。
  →「そう言えば薫と計らって中の君の所へ押しかけたなあ」2年半前になる。

 ③法性寺のほどまでは御車にて、それよりぞ御馬には奉りける
  →京の町中は牛車でそれから馬に乗り換える。

 ④急ぎて、宵過ぐるほどにおはしましぬ。
  →宵は午後10時まで。6時に出たとして4時間ほどか。それにしても遠い。

浮舟を求めて居ても立ってもおられない匂宮。この情熱には恐れ入り奉ります。。

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