浮舟(19・20) 二人から贈歌 悩む浮舟

p224-232
19.匂宮帰京後病臥 宇治では上京の準備進む
 〈p76 こういう時のお帰り先は、やはり二条院でした。〉

 ①かやうの帰さは、なほ二条にぞおはします
  →宇治から帰った匂宮。表の世界(母中宮のいる宮中、夕霧・六の君いる六条院)へは行けない。心安い二条院に帰り閉じこもる。中の君の所へも行かない。

 ②日を経て青み痩せたまひ、御気色も変る
  →宇治の二日間で精力を使い切った。房事過多と解説書にある。
  →匂宮が病気になるほど憔悴するのはちょっと不思議な感じ。若いのだしもう少ししっかりしてもらいたい所。

 ③かのさかしき乳母、むすめの子産むところに出でたりける、帰り来にければ、、
  →実家に帰っていて匂宮とのことを知らなかった乳母が宇治に帰ってきている。

 ④悩む浮舟
  あながちなる人の御事を思ひ出づるに、、、、、、いささかまどろめば、夢に見えたまひつつ、、、
  まどろむと匂宮が夢に出てくる。
  →匂宮の魂が浮舟の所にくる、、、当時はそういう解釈だったのだろうが、現代の夢解釈では浮舟の深層心理のなせるわざではなかろうか。

20.匂宮と薫の双方より文あり 浮舟の悩み深し
 〈p78 雨の降り止まない日が長くつづく頃、〉

 ①雨降りやまで、日ごろ多くなるころ、
  →3月、晩春に入る。

 ②匂宮、薫から浮舟に相次いで歌が贈られてくる。
  匂宮 ながめやるそなたの雲も見えぬまで空さへくるるころのわびしさ
  薫 水まさるをちの里人いかならむ晴れぬながめにかきくらすころ

 ③二人からの文を読み浮舟はあれこれ思い悩む。
  さすがにかれはなほいともの深う人柄のめでたきなども、世の中を知りにしはじめなればにや。
  →浮舟にとって薫は初めて契りを交した男。後見を約束してくれている男である。

  かかるうきこと聞きつけて思ひ疎みたまひなむ世には、いかでかあらむ、、、、、、まして、わがありさまのともかくもあらむを、聞きたまはぬやうはありなんや 
  →長々と心内が語られる。薫に匂宮とのことがばれたらどうしよう、、、。結局浮舟の心は既に匂宮に傾いているということであろうか。

 ④侍従、右近見あはせて、「なほ移りにけり」など、言はぬやうにて言ふ
  →この時点では侍従は匂宮派、右近は薫派であろうか。

 ⑤二人して語らふ。心ひとつに思ひしよりは、そらごともたより出で来にけり。
  →右近も侍従が嘘固めの共犯に加わってくれたので心強くなっている。

 ⑥宮の描きたまへりし絵を、時々見て泣かれけり。
  →匂宮が描いた男女同衾図を取り出して匂宮との日々を思い出す。浮舟の心は決定的である。

 ⑦浮舟の返歌
  対匂宮 かきくらし晴れせぬ峰の雨雲に浮きて世をふる身をもなさばや
  対薫 つれづれと身を知る雨のをやまねば袖さへいとどみかさまさりて

  →二人に恋を仕掛けられている浮舟、本帖では十三首もの歌を詠んでいる。
  
 ⑧この時点での浮舟の心内を分析してみると、
  ・薫は男女のことを初めて教えてくれた男。律儀に将来を約束してくれており、薫に付いて行けば安泰である。母や乳母もそれを願っている。

  ・匂宮は一方的に踏み込んで来て薫との関係を踏みにじった。京に匿うと言ってくれているが浮気っぽい性格で将来はあてにできない。中の君を裏切ることにもなる。母は怒り狂うだろう。でもあれだけ激しく愛してくれた情熱とあの時のめくるめく快楽は忘れられない。

 といったところであろうか。難しいところですねえ。。

カテゴリー: 浮舟 パーマリンク

6 Responses to 浮舟(19・20) 二人から贈歌 悩む浮舟

  1. 青玉 のコメント:

    帰京後の匂宮、情事のあと腑抜けた状態ですね。
    浮舟は夢枕に立つほど匂宮が忘れられなく悩ましい日々。

    そうこうする内に双方からの文に苦悩する浮舟。
    ここからは千々に乱れるの浮舟の心内が痛々しい。
    匂宮(結び文)と薫の文(立文)は書きぶりも、また浮舟からの文にも対照的ですね。

    初めて契った男性と性の目覚めを開花させてくれた男性との間で悩む浮舟。
    その心は複雑微妙、理性ではどうしようもない感情の動き、苦渋に満ちた堂々巡りの女心。
    おっしゃる通り難しい選択です。
    悩みぬく浮舟に未来はあるのでしょうか?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      浮舟への手紙、薫からは立文、匂宮からは結び文ですか。成程、浮舟の受け取り方は違ったことでしょうね。夫ある身(薫に囲われている身)でありながら他の男(匂宮)からの強引な愛を仕掛けられ受け入れてしまった浮舟。

      源氏物語正編も宇治十帖の今までも専ら「男が複数の女を持ち、女が悩む」という構図でしたがここで初めて「女が二人の男から愛され、どうすればいいのか女が悩む」という構図になってきました。

      尤もこの時点ではまだ薫は二人ができているのを知りません。本当の修羅場は薫が秘密を知ってから。ちょっと恐ろしいですねぇ。。

  2. ハッチー のコメント:

    1)以前書きましたとおり、今春から、三田誠広先生の”古代ロマンの愉しみ  神話から源平合戦まで”という講座を毎週聞いていますが、6月30日に ”紫式部と藤原道長”のお話だったので、書き留めておきます。
    ちゃんとメモを取らなかったので、間違いがあると思いますが、お気づきの点は教えてください。

    *講座のテーマは、天皇家とそれを取り巻く権力者の話に女性を絡ませ登場させる展開が基本で、平安時代は、主に天皇家と摂関家の話です。従い、今回も天皇家と藤原一門の話が中心でした。

    *三田先生曰く、源氏物語は千年前に書かれており、世界文学史上でも特筆すべき秀作である。
    光源氏も、自我を持った現代人のようで、スケールも大きくおおらかな人物(ブスの女でも愛し、捨てない)に描かれている。

    *構造(先生の持論)とよぶべき神話的要素もふくまれている。源氏は藤壺との間に子をもうけ、桐壺帝は知りながらその子を天皇にする。今度は薫が女三の宮と柏木の子として生まれ、源氏はそれをしりつつ子供として認知する。同じようなことが歴史上も展開されてきた ーーーイエスキリストと聖徳太子の馬やで生まれた話もーーー
    これが構造。暗夜行路も同じ。

    *道長の時代、太政官は藤原摂関家が占めていたが、対抗馬として親王が降下した源グループが台頭しつつあった。
    道長の支援のもと、その源の話を書いたのもすごいと。

    *紫式部の家は、道長の土御門殿の前、道長は全盛時この家にいた。この間二人は関係があったはず。このため、式部の娘は、女性で三位にまで出世した。(このあたりあやふやにしかきけておらず、過ちあれば教えてください。)

    *荘園制度を利用し、税のかからぬ荘園(開墾地)の名義貸しで巨額の富を集めた藤原家、この荘園制度を整理し天皇家の財政再建を図った最初の人物が菅原道真、よって左遷。道長は、荘園を再度集め、富も絶頂期。道長は摂政関白にはならず、内覧として権力の中枢にいた。天皇家は疲弊。この後、藤原氏と血縁関係にない後三条天皇が荘園再整理に乗り出し、摂関家も富を失い武家の時代へと移行する。道長は、時代の節目に生きたと。

    2)7月12日 武蔵野大学 教養講座 ”源氏物語の面白さを味わう”by林 望が開かれ、聞いてきました。

    *源氏物語は光源氏の物語ではあるが、関係した女性の物語として読んでみると、やはり 紫の上の物語といえる。

    *紫の上は、幸と不幸を常に併せ持っている。

    *若紫で、光源氏に連れ去られるのは、不幸、しかし相手が大金持ち・権力者・教養文化人で幸運。

    *葵で、源氏と結ばれ、乙女ゆえ戸惑い不運のようだが、第一女性に確定し幸運。

    *紫の上は、子供ができないことと、最後女三の宮が現れ正室となり、側室の立場に落ちる不幸を味わう。
    しかし、御法で、子供として育てた明石の中宮が、御所からの帰還の催促も無視し(天皇、中宮は死に立ち会うことを大変忌み嫌った)、死期を迎えた紫の上の手をとり最後を見取ってもらえた幸せ、また幻で、源氏が愛したのは紫の上と述懐する幸せ、これらが物語のテーマとなっていると。

    *印象として、何かナヨナヨとした先生に思えました。

    以上、稚拙な文章ですが、報告方々備忘録に。

    • 清々爺 のコメント:

      レポートありがとうございます。いい勉強してますねぇ。羨ましいです。武蔵野大学って立派ですね。

      1.三田先生の部分
       ①桐壷帝が源氏と藤壷の不倫の子と知りながら東宮に立てたと断定するのはどうなんでしょう。そこが断定的に書いてないことこそ源氏物語の醍醐味なんですがねぇ。まあ読んでない人に分かり易く説明するにはいいのでしょうが。

       ②紫式部の生家とされているのは貴君が先日行かれた廬山寺の辺りです(墓もある)。道長が全盛時代に住んでいたのは土御門殿で廬山寺に隣接しています(地図で確かめてください)。土御門殿は彰子の里邸でここで子どもを出産してますから紫式部も土御門殿で彰子に仕えていた。そこに道長が忍んできて関係があったと言われています。

       ③紫式部の一人娘が大弐三位(wiki見てください)で彰子に仕え色々男関係も豊富、才もあり三位に上った(母より出世した)と言われています。

       百人一首では紫式部の後No.58に採られています。
        有馬山ゐなのささ原風吹けばいでそよ人を忘れやはする

      2.林望先生の部分
       ①源氏物語は紫の上の物語と言える。成程、賛成です。源氏の生涯を通じずっと付き添った一本筋が通った主人公ですもんね。

       ②御法で紫の上の手をとり最後を看取るのは明石の中宮です。例の国宝源氏物語絵巻の名場面です。

       ③何と言っても源氏に一番愛された女性は紫の上だし、愛されてたことを実感を持って死んでいったのも紫の上だと思います。
        →そんな紫の上の生涯を幸せと見るか不幸と見るかは色んな論点があると思いますが。

       それにしても林望先生から源氏物語の話を聞けるとは幸せですよ。全訳を終わり今一番源氏物語に詳しい作家先生じゃないでしょうか。
       (「謹訳源氏物語私抄」というのが出ました。まだ読みかけですが面白そうですよ)

      • ハッチー のコメント:

        清々爺、青玉さん

        十分な知識がないまま、確認作業もせず、コメントを掲載し恐縮です。
        にもかかわらず、コメントを返してもらい、清々爺には修正までも加えていただき、感謝しています。

        桐壺帝が不倫の子か、このブログで皆さんと議論したことを記憶しています。 
        三田先生は、歴史上の小説も多く手がけているせいか、不確定なことも、小説風に、わりと決め付けて話されるように見受けます。
        小生も、匂わせて語らぬ紫式部の書き方を尊重すべしと思います。

  3. 青玉 のコメント:

    ハッチーさん身近に良い講座があっていいですね~
    リンボウ先生から直接聞けるなんて羨ましい!!

    源氏物語りを読むにあたりその時代背景をしっかり頭に入れておくことは重要ですね。
    平安時代の天皇家と貴族階級の世界観をたえず意識しないととんでもないことになります。
    私などすぐ現代感覚が頭をもたげてしまいややこしくなるんです。

    桐壺帝が源氏と藤壺の不倫を知っていたかどうかは気になる所で私も清々爺さんに質問したことがありました。
    でも今はやはり謎、「永遠の謎」のままで良いと思う様になりました。
    断定してしまうと面白味がなくなってしまいます。

    リンボウ先生の謹訳源氏物語は余裕がなくなり結局「幻」まで読んで中断してしまいました。
    全巻完訳後に「謹訳源氏物語私抄」が出たのですか。
    道しるべが完了したら「幻」の続きと合わせて読むのを楽しみにしています。

コメントを残す