浮舟(13・14) 二条院に戻った匂宮

p196-202
13.匂宮二条院に戻り、中の君に恨み言を言う
 〈p51 二条の院に御到着になられましたが、〉

 ①二条院に帰った匂宮、独りでは寝られず中の君の所へ行く。
  御帳に入りて大殿籠る。女君をも率て入りきこえたまひて、「心地こそいとあしけれ。いかならむとするにかと心細くなむある、、、」
  →二人でベッドに入ったもののさすがの匂宮もお疲れで実事には及べなかったのであろう。

 ②匂宮「まろは、いみじくあはれと見おいたてまつるとも、御ありさまはいととく変りなむかし。人の本意はかならずかなふなれば
  →匂宮にしては何とも気弱な言葉である。浮舟との儚い恋で少しは人間的になったということか。
 
 ③匂宮「、、、まろは、御ためにおろかなる人かは。人も、ありがたしなど咎むるまでこそあれ、人にはこよなう思ひおとしたまふべかめり。、、、」
  →この辺り愚痴っぽくてとても匂宮の言葉とは思えない。薫じゃあるまいし、もっとスカッと行かなくては。

 ④いかやうなることを聞きたまへるならむとおどろかるるに、答へきこえたまはむこともなし。ものはかなきさまにて見そめたまひしに、、、
  →薫とのことを持ち出し恨み言を言われては中の君はかなわない。

 ⑤かの人見つけたることは、しばし知らせたてまつらじと思せば、異ざまに思はせて恨みたまふを、、、
  →匂宮と中の君 それぞれ心の中で思っていることがすれ違っている。そこが面白い。
   ・匂宮は中の君と薫とに何かあったと疑っている。中の君も疑われていることは知っている。
   ・匂宮は浮舟の素性(中の君の異腹妹であること)を知らない。薫の愛人で中の君ゆかりの人、、、というくらいは分かっている。
   ・中の君は匂宮が浮舟と契ってきたことは知らない。

  →匂宮=中の君 & 薫=浮舟 が夫婦・愛人関係であるが下手すると
    匂宮=浮舟 & 薫=中の君 になってしまいかねない。
    チェンジパートナーの様相である。

 ⑥内裏より大宮の御文あるに驚きたまひて、なほ心とけぬ御気色にて、あなたに渡りたまひぬ。
  →表の世界がちょこちょこと挿入される。

14.匂宮、病気見舞に来訪の薫と対面する
 〈p54 夕方、薫の大将がいらっしゃいました。〉

 ①夕つ方、右大将参りたまへり
  →薫は匂宮が浮舟と激しい夜を過ごしてきたなど知る由もない。
  →知らぬが仏。これまでの悩む薫・能天気な匂宮とは逆の構図である。

 ②匂宮「聖だつといひながら、こよなかりける山伏心かな、さばかりあはれなる人をさておきて、心のどかに月日を待ちわびさすらむよ
  →この辺りから二人の腹の探り合い浮舟を廻る出し抜き合いが始まっていく。
  →宇治十帖の醍醐味である。

 ③段末 友だちには言ひ聞かせたり。よろづ右近ぞ、そらごとしならひける。
  →「友だち」なんて言葉もあったのだ。
  →嘘に嘘を重ねていかねばならない。嘘つき右近である。

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4 Responses to 浮舟(13・14) 二条院に戻った匂宮

  1. 青玉 のコメント:

    なんとなく心のやましさをごまかしつつ中の君とのやり取りはお互い疑心暗鬼で同衾しても心の内は探り合いでちぐはぐですね。
    中の君にあれこれ難癖をつけるのもわが身の浅はかさと甘えの裏返しではないでしょうか?
    それに対する中の君は人が良く姉さん女房的存在にみえます。

    そんな事とはつゆ知らず薫の見舞い
    これはただの病気ではなく恋患いですよね。
    匂宮は薫に対して劣等感を持っているのでしょうか?
    宮も宮ですが薫も劣等感を抱くほどの男ではないように思えるのですが恋のライバルということでしょうか。
    浮舟を奪ったことを薫の夜離のせいに正当化しているのも幼稚ですね。
    薫が宇治での秘密を知らないことに内心の咎め、焦燥と優越感が入り混じって複雑です。
    匂宮にしては珍しい心の動きです。
    つくづくどうしようもない男たちですがこの先の対決、嵐の前の静けさでしょうか?

    最後は右近のまたもや作り話で締め括られる所がなかなか面白いですね。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      この辺り、青玉さんが薫・匂宮を「つくづくどうしようもない男たち」と切り捨てられる気持ちよく分かります。紫式部も相当上から目線で書いている感じがします。中の君の方がよっぽど上位ですよね。

      それにしても匂宮が寝入らんばかりに気分が悪くなってしまうのもちょっと解せません。所詮は中の品(或いはそれ以下)の女性である浮舟への想いってそんなに深いものだったのでしょうか。まあ、薫の情人だからややこしくなりそうだという気持ちは分かるのですが。

  2. 青黄の宮 のコメント:

    清々爺から説明があったとおり、匂宮が初めて浮舟と契ったという大事なシーンの解説がUpされた日に中津川方面に蛍狩りに行っていたため遅くなりましたが、浮舟(8)~(13)あたりに対する小生のコメントをまとめて送ります。

    1.匂宮役の小生としては「匂宮が薫を装って浮舟の寝所に入ったやり方は汚すぎる」と批判されると懸念しましたが、右近に「妙な癖」と皮肉られる程度で、ほとんど批判がないので安心する一方で、ちょっと驚きました。これは源氏を含めた当時の男性が女性の寝所に忍び込むやり方は大同小異であり、今回の匂宮のやり方を強く批判する謂れはないからだろうと解しました。

    2.匂宮はやはり源氏の血を引く孫ですね。特に次のような点が源氏とよく似ていると感じました。
    (1)その時に相手になっている女性が最も素晴らしいと心底から思い、ひたすら情熱を傾けて愛し大切にする。
    (2)契れば終わりというのではなく、契ったからには今後も何とか相手の生活の面倒を見ようと考える。
    (3)気高くて美しくて艶やかな超美男子というだけでなく、書道や絵画にも秀でている。

    3.他方で、次のような点は源氏と違うと感じました。
    (1)女性の愛し方が源氏より激しく、女性を喜ばすテクニックも源氏より上手。
    (2)源氏ほど悩まずに、思い切ってやりたいことをやる。この辺は甘やかされた我儘な坊ちゃんがそのまま大人になったというところでしょうか。だから、契った翌日も断固として宇治に居残ったのでしょう。でもまあ、源氏の結構やりたいことをやっていたとは思いますが…。
    (3)中の君を恨んでいびるなどという嫌な面がある。これも我儘坊やの名残でしょう。

    4.いずれにせよ、匂宮が女性を愛することに賭ける情熱とエネルギーは薫などとは比べものにならないほど大きいので、相手の女性が匂宮に惹かれるは無理もないことと思います。古典セレクションの注釈担当者は性行為の重要性や女性の微妙な心理を理解していないためか、あるいは源氏崇拝論者で匂宮に偏見を持っているためか、「光源氏の色好みには、つねに何かの救いがあったが、匂宮にはそれがない」などと根拠もない注釈を付しています。真面目だけが取り柄の学者による不公平で見当違いの注釈ではないでしょうか。

    • 清々爺 のコメント:

      お疲れのところ早速のコメント、ありがとうございます。それにしても核心をズバリと簡潔明瞭に喝破いただき、さすがです。

      1.匂宮の浮舟寝所への忍び込み。そう言えば「汚い」などとの批判はどこにもありませんでしたね。私も全く違和感なしに読みました。作者の筆致のせいでしょうか。

       男君の女性寝所への忍び込み、訳知りの女房の手引によるものが多いですが、本段の匂宮の忍び込みはそれがない。一途なひたすらさのみ、すごいと思います。

       (余談 既出の忍び込み)
       ・源氏→藤壷(王命婦)
       ・髭黒→玉鬘(弁のおもと)
       ・柏木→女三の宮(小侍従)
       ・源氏→空蝉(手引き者はいないが一つ家に泊っていた)

      2.源氏と匂宮の比較論、いいですねぇ。分かりやすいです。今後人と話す時、これ使わせてもらいます。一つ感じたのは源氏物語正編と宇治十帖はやはり描き方が違うのかなあということです。女性を喜ばすテクニック、確かに匂宮の方が上のように見えますが源氏と女君との濡れ場ではその辺りが殆ど書かれていませんからねぇ。何れにせよおっしゃる通り匂宮の方が濃厚で源氏の方があっさりしている感じはします。

      3.薫について一言だけ弁護させていただくとこの時点では未だ匂宮と浮舟争奪戦をやっていた訳ではなく、普通に浮舟を匿いそれなりにマメに対応していた訳でボロクソに言うのはちょっと可哀そうな気がします。

      4.p179の脚注への論評、よくぞ言ってくれました。すっきりしました。まあこの分野の読み解きは学者さんは不得手でしょうね。やはり寂聴さんでしょう。

       (同じ脚注)
       「情交のあと、女ははげしく泣き、男もまた泣く。しかし、二人の涙の質にはまったく交わるところがない」

       →「二人の涙の質はまったく同じ」じゃないでしょうか。それこそ「もののあはれ」だと思うんですがねぇ。。 

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