p188-196
11.匂宮、浮舟と春の日を恋に酔い痴れる
〈p44 女君は、いつもはあたりの霞んだ山際を見つめながら、〉
①紛るることなくのどけき春の日に、見れども見れども飽かず、、、
→まだ一月末なのにのどかな春の日が強調されている。
春ののどかさ、けだるさ。快楽から一夜明けた昼間のエロチックな描写。
春霞たなびく山の桜花見れども飽かぬ君にもあるかな(紀友則)
②さるは、かの対の御方には劣りたり、大殿の君の盛りにほひたまへるあたりにては、こよなかるべきほどの人を、たぐひなう思さるるほどなれば、、
→中の君には劣るし六の君の女盛りにも比較にならない。それなのに匂宮は浮舟に耽溺している。
③女は、また、大将殿を、いときよげに、またかかる人あらむやと見しかど、こまやかににほひ、きよらなることはこよなくおはしけりと見る
→浮舟から見た二人。薫は「きよげ」匂宮は「きよら」
→勝負あり。浮舟が匂宮の方を上と見た瞬間である。
④いとをかしげなる男女もろともに添ひ臥したる絵を描きたまひて「常にかくてあらばや」などのたまふも、涙落ちぬ。
→男女同衾の絵。春画ではなかろうが昨夜の二人を思い出させるに十分な絵であったのだろう。
⑤匂宮 長き世を頼めてもなほかなしきはただ明日知らぬ命なりけり
浮舟 心をばなげかざらまし命のみさだめなき世と思はましかば
→二人とも将来を見通せない破滅的な恋を自覚している。
⑥女、濡らしたまへる筆をとりて、、、
→匂宮が筆に墨をつけて浮舟に手渡し歌を書かせる。何とも官能的である。
⑦薫に匿われた経緯を問い質す匂宮
浮舟「え言はぬことを、かうのたまふこそ」
→浮舟は素性を知られたくない。そんなこと聞かれても答えようがない。
→脚注12 夕顔も源氏に素性を聞かれて返答に窮した。それが男には媚態と映る。
12.翌朝、匂宮名残を惜しみつつ京へ帰る
〈p47 夜になって、京へ使いにやった大夫の時方が帰ってきて、〉
①京へ遣いに行った時方が帰って右近に報告する(匂宮は浮舟にべったりで近づけない)
時方「女こそ罪深うおはするものはあれ、、、、」
右近「聖の名をさへつけさせたまひてければ、いとよし。私の罪も、それにて滅ぼしたまふらむ、、」
→共犯者の若い二人。会話は楽しそうである。
→「私」が二人称「あなた」の意味であるのも面白い。
②別れ際に匂宮は薫との関係を踏まえつつ浮舟をどこかに隠すと告げる
匂宮「夢にも人に知られたまふまじきさまにて、ここならぬ所に率て離れたてまつらむ」
→う~ん、トンデモナイことになって来ましたね。
③匂宮 世に知らずまどふべきかなさきに立つ涙も道をかきくらしつつ
浮舟 涙をもほどなき袖にせきかねていかに別れをとどむべき身ぞ
→これは二人の絶望的な恋の行方を暗示するような歌である。
④段末脚注参照
(夕顔の巻)源氏とその忠実な部下惟光 夕顔とその女房右近
(本段) 匂宮と部下の若き時方 浮舟とその女房右近
構図がそっくりである。
冷静に観察してみれば中の君や六の君には劣る浮舟、けれども薫との関係一点で欲情をそそられるのではないでしょうか?
そんな中で束の間の逢瀬は容赦なく過ぎてゆく・・・
「きよげ」と「きよら」
薫と匂宮を比較した浮舟の心中、正直な気持ちでしょうね。
この段、昨夜の情事をしのばせる官能的場面ですね。
時方と右近がお互い仕えるものの愚痴を冗談めかしてのやり取りが面白いです。
現在でいえば勝手気ままな上司には苦労しますね~と言ったところでしょうか?
別れの朝の和歌は先の見えない悲嘆的、絶望な歌ですね。
道ならぬ宇治の恋路の行方に光は見出せるのでしょうか?
ありがとうございます。
1.何故匂宮はかくも浮舟に耽溺したのか。色々議論できそうですね。
「冷静に観察してみれば中の君や六の君には劣る浮舟、けれども薫との関係一点で欲情をそそられるのではないでしょうか」
→おっしゃる通り薫との競争心もあったと思います。
段末脚注に「匂宮の情熱もあばたもえくぼの類である」とありますがどうなんでしょう。身分が容貌や品格まで決定づける社会にあって浮舟の様子は中の君や六の君には劣ったのでしょうが、逆に中の品の女性にある「可愛さ」「いじらしさ」「儚げさ」に匂宮はコロっといったのかも知れません。
更なるご意見をいただきたいところです(もっと後でもいいですが)。
2.右近と時方の会話、互いの上司への愚痴ですか。成程、面白い。この二人もお互いを意識しはじめたのかも知れません。
→まあ、ここではまだそんな余裕はなかったでしょうね。