浮舟(5) 匂宮、浮舟のことを聞きだす

p160-164
5.匂宮、大内記から薫の隠し女のことを聞く
 〈p20 匂宮は、御自分の部屋にお帰りになりますと、〉

 ①匂宮「あやしうもあるかな、、、かやうの人隠しおきたまへるなるべし」
  →匂宮はさっき見た手紙で全てを察したのであろう。
  ・あの時の女は中の君に連なる女性であろう。
  ・中の君は薫にあの女を斡旋し薫は隠し女として宇治に匿っているのであろう。

  →この瞬間匂宮は「それは捨ておけない。何としても我が物にしよう!」と決心したのではないか。薫への対抗心が大きいか。

 ②匂宮は部下の大内記を召し寄せ宇治の女のことを聞きだす。
  大内記(式部少輔道定)= 匂宮の部下。漢籍の専門家で匂宮のアドバイザー。昇進を望み匂宮命と考えている。嫁さんの父親(仲信)が三条宮(薫邸)の家司、従って薫邸のこと・薫の動静はこのルートで全て匂宮に入って来る。
  →匂宮は世間知らずの皇子ではない。なかなか大した男である。
  →大内記のような人物を登場させるのが何とも上手である。

 ③匂宮が大内記に色々しゃべらせて核心を聞きだしていく手順が素晴らしい。読者も大内記の言葉(宇治の現場にいる下人たちの言葉として)で薫の浮舟の扱いの様子を知らされる仕組みになっている。

  女をなむ隠し据ゑさせたまへる、けしうはあらず思す人なるべし
  京よりもいと忍びて、さるべきことなど問はせたまふ

  →いとうれしくも聞きつるかな 匂宮はしてやったりと思ったことだろう。

 ④匂宮の心中
  「いかにしてこの人を見し人かとも見定めむ、かの君の、さばかりにて据ゑたるは、なべてのよろし人にはあらじ、このわたりには、いかで疎からぬにかはあらむ、心をかはして隠したまへりける」も、いとねたうおぼゆ。

  →脚注14は重要
   「薫め、中の君と計らってあの女を宇治に隠しおったな。仏道修行に忙しいなどと紳士面しおって。中の君もオレが目をつけた女と知りながら薫の肩を持つとは何たることだ。ひょっとして薫と通じているのではないか、あの子も本当にオレの子かわからんぞ。ええい、忌々しい、このままではすまされまいぞ!」

  →妬み、羨みよりも怒りが一番大きかったのではなかろうか。

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浮舟(3・4) 浮舟からの手紙、匂宮の目にとまる

p152-160
3.薫なお中の君に心寄せる 中の君の境涯
 〈p13 女二の宮をお迎えしたり、今また宇治の女君の世話もあり、〉

 ①すこし暇なきやうにもなりたまひにたれど、宮の御方には、なほたゆみなく心寄せ仕うまつりたまふこと同じやうなり。
  薫は正妻女二の宮を三条宮に迎え浮舟を宇治に匿っている。お忙しい身である。でも薫の中の君への態度(後見振り)は変わらない。
  →この辺が薫の薫たるところ。一度決めたことは簡単に変えられない。
  →中の君へのスケベ心も変っていないのであろう。

 ②世の中をやうやう思し知り、人のありさまを見聞きたまふままに、これこそはまことに、昔を忘れぬ心長さのなごりさへ浅からぬためしなれとあはれも少なからず。
  →中の君も薫の態度を評価し、ありがたく思っている。二人の関係は相変わらず微妙である。

 ③若君のいとうつくしうおよすけたまふままに、外にはかかる人も出で来まじきにやと、やむごとなきものに思して、。
  →中の君には若君がいる。匂宮も大切にしている。中の君は幸せをつかんでいる。

4.宇治の便りで匂宮、浮舟の行方を知る
 〈p15 正月を過ぎた頃、〉

 ①K27年正月 二条院は若君が初めての新年を迎えおめでたムードでいっぱいである。
  ここから浮舟物語が急展開していきます。

 ②昼つ方、小さき童、緑の薄様なる包文のおほきやかなるに、、奥なく走り参る。
  →小さな女の子が手紙を持って走り込んで来る。鮮やかな場面です。

 ③匂宮にバレテはいけない手紙が女童の無邪気な行動で匂宮にバレてしまう。
  疑う匂宮、マズイ!と動揺が顔に出てしまう中の君。  
  →話の運び方が絶妙である。
 
 ④右近(浮舟の女房)から大輔(中の君の女房)にあてた手紙、これは本来中の君も直接読むべき手紙ではない。それが匂宮にも読まれてしまう。

  、、、時々は渡り参らせたまひて、御心も慰めさせたまへと思ひはべるに、つつましく恐ろしきものに思しとりてなん、、、
  →匂宮は怪しんで繰り返し読むうちにあの時の女のことだと気付く。

 ⑤浮舟 まだ古りぬものにはあれど君がためふかき心にまつと知らなん
  →この歌に匂宮はピンと来る。さすが鋭い勘である。

 ⑥うち返しうち返しあやしと御覧じて、「今はのたまへかし。誰がぞ」
  →匂宮にこう聞かれたとき「実は私の妹です。ご無体はおやめください」と言えなかったものだろうか。

 ⑦女童を責める女房たち、中の君は「あなかま。幼き人な腹立てそ」
  →さすが中の君大人である。
  →この女童は匂宮に目をかけられている。女童としては匂宮にますます気に入られようと張り切って走り込んで来たのであろう。目に見えるようです。

さあ、探しあぐねていた女性が浮かび上がってきた、、、匂宮の心は躍ったことでありましょう。

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浮舟(1・2) 匂宮、浮舟を忘れがたく想い続ける

浮舟 何よりも危ふきものとかねて見し小舟の中にみづからを置く(与謝野晶子)

いよいよ源氏物語のハイライト「浮舟」です。「源氏物語の中でもこの巻は指折りの巻。浮舟を読まなくては源氏物語を読んだことにならない」(大野晋)、「若菜と並んで浮舟、大変素晴らしい」(丸谷才一)と絶賛されている巻です。

「浮舟」という巻名がいい。それが浮舟という女性の名前にもなっている。上の与謝野晶子の歌にもありますが「危うい」「危なっかしい」「覚束ない」「儚い」、、こういう語感が伝わります。私はネイミングとしては一に「浮舟」二に「玉鬘」三に「朧月夜」だと思っています。

重要な脇役が多数登場します。浮舟の女房(右近・侍従)、匂宮の随身(大内記・時方)、薫の随身(舎人・内舎人)などなど。人の動きをよくフォローすることが読み解きに重要だと思っています。

(今月は分量的に左程でもありません。ゆっくり楽しむことにしましょう)

p148-152
1.匂宮、浮舟の素性を問い、中の君を恨む
 〈寂聴訳巻十 p10 匂宮は、今もやはり、〉

 ①東屋は薫が浮舟を宇治に匿ったK26年9月で終っている。浮舟1~3はその後の匂宮、薫および中の君の浮舟への思いが語られる(本格的に話が動き出すのは浮舟4のK27年正月から)。

 ②宮、なほかのほのかなりし夕を思し忘るる世なし。
  →この冒頭の一文が素晴らしい。
  →匂宮の浮舟へのただならぬ思い入れがよく表れている。
  →「ほのかなりし」もっと知りたい、このままではすまされない、、という気持ち

 ③匂宮は浮舟のことをただの女とは思っていない。中の君とも何らかのゆかりがある、どうも薫と企んで隠したみたいだ、この自分だけがつんぼ桟敷に置かれているようだ、、、。鋭い勘で疑っている。
  →然も人柄のまめやかにをかしうもありしかなであった。放っておけない。

 ④はかなうものをものたまひ触れんと思したちぬるかぎりは、あるまじき里まで尋ねさせたまふ御さまよからぬ御本性なるに、
  →目をつけたら実家まで押しかけてでも手に入れる。。。いやはや。

 ⑤中の君は匂宮に問い質されてありのまま言ってしまおうかとも考えたが自重する。
  とてもかくても、わが怠りにてはもてそこなはじ、と思ひ返したまひつつ、いとほしながらえ聞こえ出でたまはず。
  →殊更自分から騒ぎ立てることはない。まあ妥当な考えであろう。

2.薫、悠長にかまえて、浮舟を放置する
 〈p12 あの薫の君のほうは、〉

 ①かの人は、たとしへなくのどかに思しおきてて、、、
  →物語の語り口は薫が悠長にかまえて浮舟をほったらかしにしていると非難口調だがそうだろうか。
  →薫は匂宮が目をつけている(浮舟が危ない目に合った)ことは知らないと思うのだがどうか。知らなければ宇治に匿って時々は通ってやろうと思うのは自然ではないか。

 ②浮舟を宇治に匿って時々訪ねて大君を偲ぶよすが(人形)にする。勿論経済的にもキチンと面倒をみて然るべく処遇する(悪いようにはしない)。しばらくは愛人として扱って成り行きによってはタイミングをみて「第二夫人」にしてもいい、、、、。
  →薫はそんな風に考えていたのではなかろうか。真っ当な考えだと思うのですが。

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東屋 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

東屋のまとめです。

和歌

99.ひたぶるにうれしからまし世の中にあらぬところと思はましかば
    (浮舟)  最後のヒロイン浮舟の初歌

100.さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそぎかな
    (薫)   大君代、中の君代、浮舟を

名場面

102. 扇を持たせながらとらへためひて、「誰ぞ。名のりこそゆかしけれ」とのたまふに
    (p80   匂宮、浮舟をとらえる)

103. 「佐野のわかりに家もあらなくに」など口ずさびて、里びたる簾子の端つ方にゐたまへり
    (p126   薫、三条隠れ家で浮舟と契る)

[東屋を終えてのブログ作成者の感想]

東屋を終えました。いかがでしたか。八の宮・大君・中の君との何だか重っ苦しい話からガラッと変り軽めで小気味いい浮舟物語が始まりました。

東国育ちの中の品の女性、浮舟。八の宮に認知はされなかったもののれっきとした落し胤で大君に生き写しの美女。この美女が薫と匂宮に絡んでいく、面白くない筈がありません。

新しい主役(浮舟)の登場もさることながら脇役として登場する面々が実に面白く活き活きと書かれているのに感心してしまいます。浮舟の母=中将の君、その夫=常陸介、浮舟の婿候補=左近少将、口達者な仲人、ガマの様相の浮舟の乳母。物語の筋立てもさることながらこれら登場人物の思いざまと会話がリアルに語られ作者のアイロニカルタッチの描写と相俟って人々の喜怒哀楽がヒシヒシと伝わってくる感じです。

浮舟、、、いい女性ですねぇ。私は夕顔、玉鬘に繋がる男好きのする儚げの女性をイメージしています。読者(男性でも女性でも)は自由に自分のイメージに合った浮舟を作りだせばいいのだと思います。まだ浮舟の心内は詳しく語られていませんが薫の隠し女となった今不安が八分、期待が二分といったところでしょうか。

これまでは「すぐ行動に移す匂宮」と「石橋をたたいても渡らない薫」で終始してきましたが本帖ではちょっと違うんですね。匂宮はすぐ行動に移したものの思いは成し遂げられず(浮舟に迫ったが未遂)、一方薫は雨のそぼ降る三条の隠れ家でやっと石橋を渡りました。コメンテーター各位からも賞賛の拍手が送られています。

さて、浮舟を廻る薫と匂宮のバトル、どう展開するのでしょう。薫の逃げ切りか匂宮の巻き返しか。次帖「浮舟」は源氏物語中一番面白い巻とも言われています。どうぞご期待ください。

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東屋(44・45) 宇治での浮舟

p139-143
44.薫、琴を調べ、浮舟に教え語らう
 〈p291 ここに以前からあった琴や筝の琴を取り出させて、〉

 ①ここにありける琴、筝の琴召し出でて、かかること、はた、ましてえせじかしと口惜しければ、、
  →田舎育ちの浮舟、風流事はできないのだろうか、、。源氏が玉鬘を試した時に似ている。

 ②薫「昔、誰も誰もおはせし世に、ここに生ひ出でたまへらましかば、いますこしあはれはまさりなまし」
  →そんなこと言われても浮舟としては慰められようがない。

 ③薫「あはれ、わがつまといふ琴は、さりとも手ならしたまひけん」
  浮舟「その大和言葉だに、つきなくならひにければ、ましてこれは」
  →源氏が玉鬘を試した時、紫の上に和歌や楽器を教えようとした時が思い出される。
  →田舎にあっても最低の風流事は心得ておらねばならない。その点明石の君は勿論、玉鬘も合格であった。さて、浮舟は?

 ④薫「楚王の台の上の夜の琴の声~」と誦じたまへるも、
  →ここでこんな難しい漢詩を持ち出すのはいかがなものか。教養をひけらかしているとしか思えないが、、、。(薫もそうだが紫式部も)

45.弁の尼の贈歌 薫、和して感慨を託す
 〈p293 弁の尼のところから、〉

 ①弁 やどり木は色かはりぬる秋なれどむかしおぼえて澄める月かな
  薫 里の名もむかしながらに見し人のおもがはりせるねやの月かげ
  →八の宮山荘は建て替わりそこに住む女君も変ってしまったが九月十三日の月の光は変わらない。弁と薫は二人して亡き八の宮、大君に想いをはせる。

 これで「東屋」は終わり次「浮舟」に移ります。けっこうテンポも早いし読み易いのではと思います。浮舟の運命やいかに。お楽しみに。

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東屋(42・43) 浮舟、宇治に到着 薫の思案

p135-138
42.宇治に到着する 浮舟不安な身の上を思う
 〈p288 宇治にお着きになって、〉

 ①薫「あはれ亡き魂や宿りて見たまふらん、誰によりてかくすずろにまどひ歩くものにもあらなくに」
  →大君の魂が宿る宇治。そこへ浮舟を連れてきたということは大君から離れられないということか。いやはや厄介なことである。

 ②薫「わざと思ふべき住まひにもあらぬを、用意こそあまりなれ」
  浮舟を玄関から迎えようとする弁に薫はそんな礼儀は不要だとする。
  →浮舟の扱い(表向き&薫の心情として)をどうするのか、考え所ですぞ!

 ③川のけしきも山の色も、もてはやしたるつくりざまを見出だして、日ごろのいぶせさ慰みぬる心地すれど、いかにもてないたまはんとするにかと、浮きてあやしうおぼゆ。
  →母から離れ宇治に連れて来られた浮舟。薫は一体自分をどうするつもりなのか、、、計り知れない不安に襲われたことだろう。
  →「浮舟」、、正にこれ以上ないネイミングです。

 ④殿は京に御文書きたまふ。
  →母女三の宮と正室女二の宮に。相変わらず小まめなことである。

43.薫、今後の浮舟のあつかいを思案する
 〈p289 薫の君の常より少し打ちくつろいだ御様子が〉

 ①浮舟の様子
  恥づかしけれど、もて隠すべくもあらでゐたまへり。
  すこし田舎びたることもうちまじりてぞ、、
  髪の裾のをかしげさなどは、こまごまとあてなり。宮の御髪のいみじくめでたきにも劣るまじかりけり、と見たまふ。

  →恥ずかしげな様子。取分け髪がみごとである。薫も気に入ったのであろう。
  →比較されるのは大君と女二の宮。もう薫の心から中の君は消えているのか。

 ②浮舟をどうするのか、薫の思案
 「この人をいかにもてなしてあらせむとすらん、ただ今、ものものしげにてかの宮に迎へ据ゑんも音聞き便なかるべし、さりとて、これかれある列にて、おほぞうにまじらはせんは本意なからむ、しばし、ここに隠してあらん」

  →源氏のように堂々と正面突破で二条院の一隅に妻妾同居で住まわせればいいのに。
  →思えば源氏も明石の君の扱いに悩んだのだろうが、結局なしくずし的に紫の上とともに六条院に住まわせている。
  →まあ、一旦宇治に隠しておこうというのは仕方ないところであろうか。

 ③万事に恥ずかしげで頼りなげな浮舟。
  ただいとつつましげにて、ひたみちに恥ぢたるを、さうざうしう思す。
  →でもそこが浮舟のいいところです。

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東屋(40・41) 薫、浮舟を宇治へ連れ出す

p128-134
40.翌朝、薫、浮舟を伴って隠れ家を出る
 〈p283 秋の夜は間もなく明けたらしく、〉

 ①ほどもなう明けぬる心地するに、、
  →秋の夜長、薫には短く浮舟には長い夜だったのだろうか。

 ②大路近き所に、おぼとれたる声して、いかんとか聞きも知らぬ名のりをして、、
  かやうの朝ぼらけに見れば、物戴きたる者の鬼のやうなるぞかし、、

  →三条隠れ家、庶民的な街の朝の様子。夕顔の宿の朝の様子とそっくりである(夕顔10p220)
  →夕顔の宿は五条で下町というのは分かるがここは三条、二条院にも近いし三条大路を挟んで左大臣三条邸も近い。公家屋敷街だと思うのだが。

 ③かき抱きて乗せたまひつ。、、、、
  「人一人やはべるべき」とのたまへば、この君に添ひたる侍従と乗りぬ。乳母、尼君の供なりし童などもおくれて、いとあやしき心地してゐたり。

  →女君を連れ出す場面
   ・夕顔をなにがしの院に連れ出す場面(夕顔p227)
   ・紫の上を二条院へ拉致していく場面(若紫p94)

  →乳母でなく若い侍従がついていく。身分が乳母より上だったということだろうか。

 ④誰も誰も、あやしう、あへなきことを思ひ騒ぎて、、、
  →一夜のことは省筆されているが乳母はどうしてたのだろうか。性急にも薫と契ったと聞いてどう思ったのだろうか。(ここはスンナリ流しましょう)

 ⑤弁「宮の上聞こしめさむこともあるに、、、」
  中の君にはどう言えばいいのか、、そんなこと後でいい。
  →薫も大分はっきりしてきましたね。  

41.宇治への道中、薫、弁の尼共に大君を思う
 〈p284 近所へ行くのかと思ったら、〉

 ①近きほどにやと思へば、宇治へおはするなりけり。牛などひきかふべき心まうけしたまへりけり。
  →宇治に連れて行く。勿論薫の計画通りである。

 ②若き人はいとほのかに見たてまつりて、めできこえて、すずろに恋ひたてまつるに、
  →侍従は薫に恋こがれてボォ~っとしている。さもありなん。

 ③君ぞ、いとあさましきにものもおぼえで、うつぶし臥したるを、「石高きわたりは苦しきものを」とて、抱きたまへり。
  →浮舟にとっては初夜。ショックで震えていたことだろう。道はガタガタの石ころ道。薫がヒシと抱きしめる。

 ④山深く入るままにも、霧たちわたる心地したまふ、、
  川霧に濡れて、御衣の紅なるに、、、

  →山霧と川霧。道行きの描写であります。

 ⑤長い道中、浮舟を労わる薫
  をかしきほどにさし隠して、つつましげに見出だしたるまみなどは、いとよく思ひ出でらるれど、おいらかにあまりおほどき過ぎたるぞ、心もとなかめる。
  →浮舟の様子は控えめで大人しくて薫も気に入ったのでは。勝気じゃ困りますもんね。

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東屋(38・39) 薫、浮舟と契る

p122-128
38.弁の尼、京に出て浮舟の隠れ家を訪れる
 〈p277 薫の君は、弁の尼君とお約束された日の、〉

 ①薫は弁の尼に車を遣わし浮舟の三条隠れ家へと連れ出す。
  薫「庄の者どもの田舎びたる召し出でつつ、つけよ」
  →あくまで田舎者風を装い仮にも正体がばれないよう注意する。用意周到。

 ②弁もそこまで言われては仕方なし、
  いとつつましく苦しけれど、うちけさうじつくろひて乗りぬ。
  →久しぶりの京、まあまんざらでもなかったのでは。

 ③浮舟と乳母、弁に応対。薫のことで来たことが分かる。
  にはかにかく思したばかるらんとは思ひもよらず。
  →薫がコトを遂げようとやって来ようとは想像だにしていない。
  
39.薫、隠れ家を訪問、浮舟と一夜を語らう
 〈p279 その宵が過ぎた頃に、「宇治から人が参りました」〉
 
 国宝源氏物語絵巻 東屋(二)の場面です。
 ①宵うち過ぐるほどに、宇治より人参れりとて、門忍びやかにうちたたく。
  →何故薫が来たと堂々と入って来れないのだろう。世間体を憚ってか。

 ②雨と風
  言ひ知らずかをり来れば、かうなりけりと、誰も誰も心ときめきしぬべき御けはひをかしければ、
  →薫が来た。女房たちは色めき立つ。

 ③乳母が心配して母の所へご注進しようとする。それを制する弁。
  →この乳母、さながら浮舟を守るゴールキーパーである。
  →弁がうまく言い繕う。弁を連れてきてよかった。

 ④薫 佐野のわたりに家もあらなくに
  苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに(万葉集)
  →狭野は和歌山県新宮市

  薫 さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそきかな 代表歌
  →催馬楽 東屋 雨の日に人妻の家を。(浮舟は人妻ではないが、、)
  →紫式部はこの催馬楽を頭に浮かべてストーリーを作っていったのではなかろうか。 

 ⑤こう押し入られては部屋に入れない訳にはいかない。
  薫は珍しくストレートに浮舟に訴えかける。
  「おぼえなきもののはさまより見しより、すずろに恋しきこと。さるべきにやあらむ、あやしきまでぞ思ひきこゆる」
  →これまでの優柔不断な薫とはうって異なる。何が彼をそうさせたのか。

 ⑥人のさまいとらうたげにおほどきたれば、見劣りもせず、いとあはれと思しけり。
  →浮舟の様子は薫の期待を裏切らなかった。

 ⑦そして例によってその夜のことは省筆。
  39段 見出しに「薫、隠れ家を訪問、浮舟と一夜を語らう」とあるが一晩中何もせず語り合っただけなんてあり得ない。ここはあっさり実事ありの場面である。そのことが大事なのに脚注にも書いてない。脚注まで省筆することもなかろうに。
  
  →大君、中の君にはあれだけ迫りながらついに手出ししなかった(できなかった)薫が何故ここでは浮舟とあっさりコトに及んだのか。
  →浮舟を大君、中の君と同列の姫とは思わなかったからであろう。
   この辺薫の心内をじっくり議論したいと思っています。

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東屋(35・36・37) 薫、宇治へ 浮舟の消息を聞く

p112-122
35.浮舟隠れ家で思い沈む 中将の君と贈答
 〈p269 三条の仮の住まいの暮しは所在なくて、〉

 ①三条の隠れ家にて思い沈む浮舟
  旅の宿はつれづれにて、庭の草もいぶせき心地するに、賤しき東国声したる者どもばかりのみ出入り、慰めに見るべき前栽の花もなし
  →隠れ家の様子が簡潔に語られる。二条院とはうって変ったワイルドな世界である。

 ②あやにくだちたまへりし人の御けはひも、さすがに思ひ出でられて、何ごとにかありけむ、いと多くあはれげにのたまひしかな、、、、
  →匂宮のことを思い出す浮舟。ここでは恐ろしい思いが甦ったということか。

 ③中将の君との歌の贈答
  浮舟 ひたぶるにうれしからまし世の中にあらぬところと思はましかば 代表歌
  →浮舟の最初の歌。「ひたぶるに」が浮舟らしくていい。
 
  中将の君 うき世にはあらぬところをもとめても君がさかりを見るよしもがな
  →この母の浮舟を想う心も「ひたぶる」である。 

36.薫、宇治を訪れ、新造の御堂を見る
 〈p271 あの薫の大将は、例によって、〉

 ①かの大将殿は、例の、秋深くなりゆくころ、ならひにしことなれば、、、
  →秋深まると薫は必ず宇治へ出向く。こういうリピート性がいい。

 ②宇治の御堂作りはてつ
  こぼちし寝殿、こたみはいとはればれしう造りなしたり
  →八の宮山荘は取り壊しその木材で阿闍梨の山寺に御堂を作り、取り壊した寝殿の後に新しく建物を建てた。薫が指図して造ったもの故さぞ豪華なものだったのではないか。

37.薫、弁の尼に浮舟への仲介を頼んで帰京
 〈p272 薫の君は遣水のほとりの岩に腰をかけられて、〉

 ①薫 絶えはてぬ清水になどかなき人のおもかげをだにとどめざりけん
  →湧き流れる清水につけて八の宮を偲ぶ。

  脚注14 大宮を偲ぶ夕霧と雲居雁の歌も同様の発想(藤裏葉p266)
  夕霧 なれこそは岩もるあるじ見し人のゆくへは知るや宿の真清水
  雲居雁 なき人のかげだに見えずつれなくて心をやれるいさらゐの水

 ②薫「かの人は、先つころ宮にと聞きいしを、さすがにうひうひしくおぼえてこそ、訪れ寄らね。なほこれより伝へはてたまへ
  →浮舟が二条院よりいなくなった、、、薫が宇治に来たのは弁にそれを尋ねるためでもあったのか。

 ③弁「、、このごろもあやしき小家に隠ろへものしたまふめるも心苦しく、、、」
  →三条の小家にいた。薫は嬉しかったことだろう。

 ④薫「さらば、その心やすからん所に消息したまへ」
  →二条院、中の君の所に匿われているとなると気楽に行けないが三条の小家なら何憚ることなく浮舟に逢いに行ける。慎重な薫に持ってこいの場所である。

 ⑤「なおよきをりななるを」と例ならず強ひて、「明後日ばかり車奉らん。その旅の所尋ねおきたまへ」
  →絶好のチャンス。弁を強引に動員して三条に押しかけようとする薫。
  →弁の助けを借りようとしているところが慎重派の薫たらんところか。

 ⑥伊賀たうめ =好んで人の仲立ちをして歩く女
  →何故伊賀なんだろう?

 ⑦下草のをかしき花ども、紅葉など折らせたまひて、宮に御覧ぜさせたまふ
  →正妻女二の宮に気を遣う薫
  →夫婦間がうまくいってない感じは源氏と葵の上との関係と同じようなものか。

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東屋(33・34) 中将の君、浮舟の将来を思案

p107-112
33.中将の君、左近少将をのぞき見 歌の贈答
 〈p264 常陸の守は、婿の少将のもてなしを、〉

 ①常陸介邸には左近少将が婿として入っている。常陸介は上にも置かずもてなす。
  この人によりかかる紛れどももあるぞかし、、
  →中将の君は浮舟を振って実娘に乗り換えた少将が厭わしい。
  →少将が乗り換えたのも中将の君のお腹を痛めた娘であるのに、、、。

 ②中将の君は少将の様子を覗き見る。
  白き綾のなつかしげなるに、今様色のうち目などもきよらなるを着て、端の方に前栽見るとてゐたるは、いづこかは劣る、いときよげなめるはと見ゆ。
  →以外と結構見栄えがして中将の君はアレっと思ったことだろう。
  →作者、中将の君ともに正直な感想でしょう。
  →上には上がいる、下には下が。物事全て比較の問題である。

 ③中将の君は少将の風流心いかほどかと歌を詠みかける。
  中将の君 しめ結ひし小萩がうへもまよはぬにいかなる露にうつる下葉ぞ
  少将  宮城野の小萩がもとと知らませば露も心をわかずぞあらまし
  →一応それなりに歌は詠める。浮舟を振ったことでボロクソに言われている少将であるが功利主義者はどこにでもいる。邪悪な男とまでは言えないのでしょうね。

 ④左近少将は浮舟が八の宮の落し胤と分かったらしいがもし初めからそれを知っていたら浮舟を頂いたのだろうか。
  →常陸介が後見しない限りは成り行かない。さすれば中将の君は先ず常陸介を説得しなければならなかったということである。
  →常陸介も浮舟を自分のために利用しようとする気持ちはなかったのだろうか。  
  
34.中将の君、浮舟の将来を思って薫に及ぶ
 〈p267 宮城野の小萩を、宮さまのお種とかけたものと解釈して、〉

 ①浮舟をどうするか、中将の君思い悩む。
  宮は思ひ離れたまひて、心もとまらず。侮りて押し入りたまへりけるを思ふもねたし。
  →匂宮のことは元より念頭にない。身分が離れすぎているとの自覚であろう。

 ②この君は、さすがに、尋ね思す心ばへのありながら、うちつけにも言ひかけたまはず、つれなし顔なるしもこそいたけれ。
  薫は浮舟のことに興味がありながらガツガツしていない。
  →中将の君は薫にもらって欲しいと心に決めている。
  →思案は自らの決心を確かめるためのものであろう。

 ③世の人のありさまを見聞くに、劣りまさり、賤しうあてなる品に従ひて、容貌も心もあるべきものなりけり、
  →人柄の良し悪しも品格の程も全て生まれつきの身分で決まる。平安貴族社会を言い得ている。
  →人格も身分で決まるというのは身分が高ければ然るべく教育も受けられ人格が磨かれるということであろうがそこまでストレートに言われると違和感を禁じ得ない。

カテゴリー: 東屋 | 4件のコメント