p152-160
3.薫なお中の君に心寄せる 中の君の境涯
〈p13 女二の宮をお迎えしたり、今また宇治の女君の世話もあり、〉
①すこし暇なきやうにもなりたまひにたれど、宮の御方には、なほたゆみなく心寄せ仕うまつりたまふこと同じやうなり。
薫は正妻女二の宮を三条宮に迎え浮舟を宇治に匿っている。お忙しい身である。でも薫の中の君への態度(後見振り)は変わらない。
→この辺が薫の薫たるところ。一度決めたことは簡単に変えられない。
→中の君へのスケベ心も変っていないのであろう。
②世の中をやうやう思し知り、人のありさまを見聞きたまふままに、これこそはまことに、昔を忘れぬ心長さのなごりさへ浅からぬためしなれとあはれも少なからず。
→中の君も薫の態度を評価し、ありがたく思っている。二人の関係は相変わらず微妙である。
③若君のいとうつくしうおよすけたまふままに、外にはかかる人も出で来まじきにやと、やむごとなきものに思して、。
→中の君には若君がいる。匂宮も大切にしている。中の君は幸せをつかんでいる。
4.宇治の便りで匂宮、浮舟の行方を知る
〈p15 正月を過ぎた頃、〉
①K27年正月 二条院は若君が初めての新年を迎えおめでたムードでいっぱいである。
ここから浮舟物語が急展開していきます。
②昼つ方、小さき童、緑の薄様なる包文のおほきやかなるに、、奥なく走り参る。
→小さな女の子が手紙を持って走り込んで来る。鮮やかな場面です。
③匂宮にバレテはいけない手紙が女童の無邪気な行動で匂宮にバレてしまう。
疑う匂宮、マズイ!と動揺が顔に出てしまう中の君。
→話の運び方が絶妙である。
④右近(浮舟の女房)から大輔(中の君の女房)にあてた手紙、これは本来中の君も直接読むべき手紙ではない。それが匂宮にも読まれてしまう。
、、、時々は渡り参らせたまひて、御心も慰めさせたまへと思ひはべるに、つつましく恐ろしきものに思しとりてなん、、、
→匂宮は怪しんで繰り返し読むうちにあの時の女のことだと気付く。
⑤浮舟 まだ古りぬものにはあれど君がためふかき心にまつと知らなん
→この歌に匂宮はピンと来る。さすが鋭い勘である。
⑥うち返しうち返しあやしと御覧じて、「今はのたまへかし。誰がぞ」
→匂宮にこう聞かれたとき「実は私の妹です。ご無体はおやめください」と言えなかったものだろうか。
⑦女童を責める女房たち、中の君は「あなかま。幼き人な腹立てそ」
→さすが中の君大人である。
→この女童は匂宮に目をかけられている。女童としては匂宮にますます気に入られようと張り切って走り込んで来たのであろう。目に見えるようです。
さあ、探しあぐねていた女性が浮かび上がってきた、、、匂宮の心は躍ったことでありましょう。
歳月を重ね中の君も若君を得て夫婦の仲もそれなりに円満のようですね。
薫に対する思いも多少複雑ではあるもののなんとか上手く受け流しているようです。
そこへ持って新年のハプニング・・・上手い場面展開の始まりです。
女童のもたらす文を巡る騒動。
この段、本当に面白い!!
匂宮と中の君の心理描写はもちろんそれぞれ秘密の駆け引きの応酬が見事です。
お互いの思惑を隠しつつ内心の動揺・・・
さすが匂宮、こう言う勘にかけては天才、中の君の叶う相手ではない。
匂宮、内心ニヤリとほくそ笑んだことでしょうね。
宇治からの手紙がもたらす効果抜群の場面でした。
ありがとうございます。面白くなってきましたね。
通信がうまく行かずとんでもないことになる。よくある話です。特に今はメールも投稿もクリック一つ。一度やってしまったら取り返しがつかない。届けるべき所に届かず、届いてはいけない所に届いてしまう。ビジネスの世界でもけっこうあって、ヒヤリとしたこともニヤリとしたこともありました。
さて、当時の通信手段は手紙だけ。この手紙を紫式部は実に巧みに操って物語を進展させています。本段、匂宮が浮舟の居所を知ることになる件も女童のフライングによるものでした。上手いですねぇ。
他にも重要な場面で手紙が使われています。
①見られてはならない手紙を見られてしまう。
柏木から女三の宮への手紙が源氏に見られる。
→若菜下31.32
②見なければならない手紙が見られない。
一条御息所から夕霧への手紙 雲居雁に奪われてしまう。
→夕霧9.
浮舟物語、この後でも手紙が重要な役割を果たしていきます。筋をキチンと追って読み進めて行きたいと思います。