浮舟(1・2) 匂宮、浮舟を忘れがたく想い続ける

浮舟 何よりも危ふきものとかねて見し小舟の中にみづからを置く(与謝野晶子)

いよいよ源氏物語のハイライト「浮舟」です。「源氏物語の中でもこの巻は指折りの巻。浮舟を読まなくては源氏物語を読んだことにならない」(大野晋)、「若菜と並んで浮舟、大変素晴らしい」(丸谷才一)と絶賛されている巻です。

「浮舟」という巻名がいい。それが浮舟という女性の名前にもなっている。上の与謝野晶子の歌にもありますが「危うい」「危なっかしい」「覚束ない」「儚い」、、こういう語感が伝わります。私はネイミングとしては一に「浮舟」二に「玉鬘」三に「朧月夜」だと思っています。

重要な脇役が多数登場します。浮舟の女房(右近・侍従)、匂宮の随身(大内記・時方)、薫の随身(舎人・内舎人)などなど。人の動きをよくフォローすることが読み解きに重要だと思っています。

(今月は分量的に左程でもありません。ゆっくり楽しむことにしましょう)

p148-152
1.匂宮、浮舟の素性を問い、中の君を恨む
 〈寂聴訳巻十 p10 匂宮は、今もやはり、〉

 ①東屋は薫が浮舟を宇治に匿ったK26年9月で終っている。浮舟1~3はその後の匂宮、薫および中の君の浮舟への思いが語られる(本格的に話が動き出すのは浮舟4のK27年正月から)。

 ②宮、なほかのほのかなりし夕を思し忘るる世なし。
  →この冒頭の一文が素晴らしい。
  →匂宮の浮舟へのただならぬ思い入れがよく表れている。
  →「ほのかなりし」もっと知りたい、このままではすまされない、、という気持ち

 ③匂宮は浮舟のことをただの女とは思っていない。中の君とも何らかのゆかりがある、どうも薫と企んで隠したみたいだ、この自分だけがつんぼ桟敷に置かれているようだ、、、。鋭い勘で疑っている。
  →然も人柄のまめやかにをかしうもありしかなであった。放っておけない。

 ④はかなうものをものたまひ触れんと思したちぬるかぎりは、あるまじき里まで尋ねさせたまふ御さまよからぬ御本性なるに、
  →目をつけたら実家まで押しかけてでも手に入れる。。。いやはや。

 ⑤中の君は匂宮に問い質されてありのまま言ってしまおうかとも考えたが自重する。
  とてもかくても、わが怠りにてはもてそこなはじ、と思ひ返したまひつつ、いとほしながらえ聞こえ出でたまはず。
  →殊更自分から騒ぎ立てることはない。まあ妥当な考えであろう。

2.薫、悠長にかまえて、浮舟を放置する
 〈p12 あの薫の君のほうは、〉

 ①かの人は、たとしへなくのどかに思しおきてて、、、
  →物語の語り口は薫が悠長にかまえて浮舟をほったらかしにしていると非難口調だがそうだろうか。
  →薫は匂宮が目をつけている(浮舟が危ない目に合った)ことは知らないと思うのだがどうか。知らなければ宇治に匿って時々は通ってやろうと思うのは自然ではないか。

 ②浮舟を宇治に匿って時々訪ねて大君を偲ぶよすが(人形)にする。勿論経済的にもキチンと面倒をみて然るべく処遇する(悪いようにはしない)。しばらくは愛人として扱って成り行きによってはタイミングをみて「第二夫人」にしてもいい、、、、。
  →薫はそんな風に考えていたのではなかろうか。真っ当な考えだと思うのですが。

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2 Responses to 浮舟(1・2) 匂宮、浮舟を忘れがたく想い続ける

  1. 青玉 のコメント:

    さあ、7月。
    「浮舟」の始まりですね。
    おっしゃるとおり素晴らしい巻名です。
    イメージとしては川、水、揺らめき、儚げ等が浮かびます。

    冒頭の出だしの文いいですね。
    いつも思うのは「これこれしかじかでその後こうなりました」風の説明はなく、いきなりこのように始まるのが紫式部の文才だと思います。洒落ていますね。

    疑い深い匂宮、これは怪しいきっと何かあるぞ?
    このような勘の働きは鋭く気がかりなことはとことん追求したい、これも匂宮らしいです。
    それに対する中の君、さすが大人の対応です。
    取りあえず胸の内に収める冷静さは何でも知りたい興味津々の幼稚な匂宮とは対照的です。
    匂宮の性格を知り尽くしていますね。

    そして薫の悠長さは相変わらずです。
    薫よ、どうして貴方はは何時もそうなの?
    ここは世間体など考えている場合ではありませんぞ!!
    匂宮の性格は幼いころから百も承知のはず、何が起きるか解らない・・・
    ここにも匂宮とは対照的な薫、疑うことを知らないのでしょうか?
    なりふり構わぬ一途さに欠けますね。
    それともあくまでも浮舟は大君の形代にすぎなく時々の慰み程度の類いなのでしょうか?
    軽くあしらっておいた方が世間体からも良策と考える薫は解せません。
    こんな風だから本当に大事なものを逃してしまうのではないかしら?

    薫には彼なりの慎重な考えがあるのでしょうが冒頭から私は批判的です。
    時には猪突猛進でなくっちゃ!!
    あの三条隠れ家での一夜の積極性は何処へ?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.おっしゃる通り紫式部は各巻、冒頭の一文に相当神経を使っていると思います。「浮舟」の冒頭もいいですねぇ。

       宮、なほかのほのかなりし夕を思し忘るる世なし

      「浮舟」の巻は匂宮が主人公なんですよ!との宣言でしょう。薫が隠した浮舟、読者は匂宮がどのようにして浮舟を見つけ出していくのか興味は盛り上がったことでしょう。

      あるまじき里まで尋ねさせたまふ御さまよからぬ御本性

      そうか、匂宮はどこまでも押しかけていくんだ、、、後の伏線になっていますね。

      2.薫の悠長さに批判的なご様子、そうかもしれません。折角行動する薫になったのにどうもその後宇治に頻繁に通っている形跡はありません(9月に宇治へ匿ってから一度も行ってないのかもしれません)。いくら文は通わせていたとしても実際に逢って愛を交し合っていないとお互いの愛情は高まりません。浮舟の心は述べられていませんが「私は一体何なの?」、薫への不信感が芽生え始めていたのではないでしょうか。

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