蜻蛉(1) 浮舟失踪 人々戸惑い騒ぐ

蜻蛉 ひと時は目に見しものをかげろふのあるかなきかを知らぬはかなき 与謝野晶子

さて残すところ後二月、蜻蛉に入ります。浮舟の失踪~四十九日の法要までの前半とそれ以降の後半ではまるでトーンが変り、「こりゃあなんじゃいな」という感じになります。源氏物語としての出来具合についても薫・匂宮の行動についても色々取沙汰されている巻です。分量的には軽目です。力を抜いて読み進めましょう。

p14-16
1.浮舟失踪 右近ら、その入水を直感する
 〈寂聴訳巻十 p132 あの宇治の山荘では、翌朝、〉

 ①K27年3月末 前帖浮舟が死を決意した段末から続いている。
  浮舟巻末 萎えたる衣に顔を押し当てて、臥したまへりとなむ。

 ②かしこには、人々、おはせぬを求め騒げどかひなし。物語の姫君の人に盗まれたらむ朝のやうなれば、くはしくも言ひつづけず。
  →さすがにうまい語り出しである。浮舟が消えてしまったことが一気に分かる。
  →姫君が消える、物語だけでなく実際にもよくあったのだろう。略奪結婚やら人さらいやら。物騒な世の中である。

 ③かの心知れるどちなん、いみじくものを思ひたまへりしさまを思ひ出づるに、身を投げたまへるかとは思ひ寄る
  →事情を知る右近・侍従は浮舟が入水したとピンと来る。
  →「しまった!取り返しのつかないことになった!」青ざめたことだろう。

 ④京の母は浮舟が何かおかしいと感づいている。使者は帰って来ないし改めて使者をよこす。母の手紙が愛する娘を気遣って何とも哀しい。
  いとおぼつかなさにまどろまれはべらぬけにや、今宵は夢にだにうちとけても見えず、、
  ものへ渡らせたまはんことは近かなれど、そのほど、ここに迎へたてまつりてむ。
  →以前不安を感じた浮舟が母にしばらくいっしょにいてくれと頼んだことがあった(浮舟p245)。その時は断った母、今回は介の屋敷に引き取ろうと誘いかける。

  今日は雨降りはべりぬべければ。
  →雨とともに浮舟はいなくなり雨とともに発見される。雨がキーワードである。

 ⑤右近「我に、などかいささかのたまふことのなかりけむ、」
  →右近と浮舟は乳姉妹。何故言ってくれなかったのか、、右近はほぞをかむ思いだったことだろう。
 
 ⑥「いかさまにせむ、いかさまにせむ」
  →事情を知らない乳母はただただオロオロするしかない。

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浮舟 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

浮舟のまとめです。

和歌

101. 橘の小島の色はかはらじをこの浮舟ぞゆくへ知られぬ
     (浮舟)   物語中随一の歌では!!

102. 鐘の音の絶ゆるひびきに音をそへてわが世つきぬと君に伝へよ
     (浮舟)   可哀そうな浮舟

名場面

104. 女君は、あらぬ人なりけりと思ふに、あさましういみじけれど、声をだに
     (p178   匂宮、薫をよそおい浮舟の寝所へ)

105. いとはかなげなるものと、明け暮れ見出だす小さき舟に乗りたまひて
     (p216 このうき舟ぞゆくへ知られぬ)

[浮舟を終えてのブログ作成者の感想]

浮舟、楽しく読んでいただけたでしょうか。宇治に薫が匿った浮舟を匂宮が見つけ出し、契りを結び恋に酔いしれる。その秘密を薫がかぎつけ厳重警戒網を張る。東屋に続き描写が具体的で登場人物も多彩で読者に息もつかせず読ませる絶品小説だと思いました。

1.脇役としての右近・侍従&時方。いいですねぇ。しっかり者の右近と色っぽくちょっとくずれたイメージの侍従。匂宮を笠に着つつ機智とユーモアに富んだイケメン時方。紫式部も楽しんで書いてるように思います。

2.匂宮が宇治の浮舟を見つける件、薫が秘密を知る件、何れもミステリー小説タッチで読ませてくれました。宇治からの手紙を持って走り込んできた女童、宇治からの「赤い手紙」。手紙が謎解きの小道具としてうまく用いられていました。

3.匂宮と浮舟との二度に亘る官能シーン。いかがでしたか。ウブな私?にはいささか刺激が強すぎる所もありました。都に帰ることをほっぽり出して居続ける匂宮にはびっくり。そして小舟に揺られて川を渡るシーン、、。
  
   橘の小島の色はかはらじをこの浮舟ぞゆくへ知られぬ

4.浮舟の女としての位置づけが微妙ですね。匂宮にも薫にも妻にはなれない、でも時々情けを交す(共寝する)だけの召人でもない。心を通わし風流を共に語り合う愛人、、、そんな存在だろうと思うのですがそんなのってあるのでしょうか。

5.浮舟、匂宮、薫。三人が三人とも皆悪ざまな思いでなくそれぞれ真面目によかれと思ってやっている。でも事態は三人ともに不幸になるように進んでいく、オールルーズ。悲しい物語ですね。

ということで浮舟を終わり蜻蛉に入ります。浮舟はどうなったのでしょうか。。

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浮舟(32・33) 浮舟の終章 遠寺の鐘の音

いよいよ浮舟の巻の最後です。

p280-286
32.浮舟死を前に、匂宮と薫を思い肉親を恋う
 〈p124 右近から、匂宮にはっきりとお断わりしたことを〉

 ①いよいよ思ひ乱るること多くて臥したまへるに、入り来てありつるさま語る
  →匂宮が来て何とか逢おうとしたが果たせず、無為に帰ったと聞いた浮舟、「万事が休した」と思ったのではないか。

 ②親に先立ちなむ罪失ひたまへとのみ思ふ
  →親を残して死ぬのは親の極楽往生の妨げである。これが一番辛い。

 ③ありし絵を取り出でて見て、描きたまひし手つき、顔のにほひなどの向かひきこえたらむやうにおぼゆれば、
  →匂宮とのこと(閨のことも含め)がまざまざと甦る。

 ④行く末遠かるべきことをのたまひわたる人もいかが思さむといとほし。
  →薫のことはただそれだけ。恋しいという気持ちは入っていない。

 ⑤浮舟 なげきわび身をば棄つとも亡き影にうき名流さむことをこそ思へ
  →死を決意した浮舟。絶唱である。

 ⑥羊の歩みよりもほどなき心地す
  →「羊の歩み」一条朝には、人生のはかなさを言う常套語となっていたのであろう(付録p302)

33.浮舟、匂宮と中将の君に告別の歌を詠む
 〈p126 匂宮からは、切ないお気持ちを綿々と書いて〉

 ①浮舟→匂宮 からをだにうき世の中にとどめずはいづこをはかと君もうらみむ
  →すごくストレートな歌である。
 
  浮舟→薫の歌はない。
  →これは強烈。薫がいささか可哀そうである。

 ②京の母から手紙
  「寝ぬる夜の夢に、いと騒がしくて見えたまひつれば、、、」
  →母の勘は鋭い。でも忙しくて来てやれない。これも人の世の「あや」であろう。

 ③浮舟→母
  のちにまたあひ見むことを思はなむこの世の夢に心まどはで
  鐘の音の絶ゆるひびきに音をそへてわが世つきぬと君に伝へよ
  →何とも切ない。これを読んだ母の思いはいかなるものであったろう。

 ④乳母「あやしく心ばしりのするかな。夢も騒がしとのたまはせたりつ
  →さすが乳母も勘がいい。

 ⑤右近「もの思ふ人の魂はあくがるなるものなれば、夢も騒がしきならむかし。いづ方と思しさだまりて、いかにもいかにもおはしまさなむ
  →どちらかにお決めなさい。右近の率直な意見である。
  →「あくがる」
    物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る(和泉式部)

 ⑥萎えたる衣を顔に押し当てて、臥したまへりとなむ。
  →浮舟、最後の姿である。「あはれ、浮舟!」

ゴ~ン、、鐘の音とともに浮舟の巻が閉じられます(段末脚注)
  

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浮舟(31) 匂宮、宇治へ 浮舟に逢えず

p274-280
31.匂宮、厳戒下の宇治に赴くが浮舟に逢えず
 〈p118 匂宮は、「こんなふうに、いつまでも承知する様子もなく、〉

 匂宮が宇治へ!緊迫の場面です。
 ①匂宮の所へ浮舟からの返書が来ない、、、どうしたのだろう?匂宮は不安になる。
  、、、あひ見ぬとだえに、人々の言ひ知らする方に寄るならむかし、、
  →思い続ける内によからぬ方へと考えてしまう。自然である。

 ②むなしき空に満ちぬる心地したまへば、例の、いみじく思したちておはしましぬ。
  →宇治へ行く!いつもながら匂宮のすごい行動力。皇子の身ですぞ!

 ③心知りの男を入れたれば、それをさへ問ふ。
  →厳重警戒下の宇治山荘。(近頃の官庁・会社のセキュリテイチェックも困ったものだが)

 ④匂宮「まづ時方入りて、侍従にあひて、さるべきさまにたばかれ
  →時方と侍従とはデキている。役得のお返しをするところである。

 ⑤薫の手の者で警固されており今宵はダメと言う侍従
  時方「さらば、いざたまへ。ともにくはしく聞こえさせたまへ
  侍従「いとわりなからむ
  →「お前もいっしょに行こう」「そんなの無理よ」緊迫感ある会話である。

 ⑥里びたる声したる犬どもの出で来てののしるもいと恐ろしく
  →犬の声も田舎じみている。さぞ京の犬はおしとやかなんでしょう。
  →源氏物語で犬が出てくるのはこの場面だけ(猫は重大場面に登場しますけどね)。

 ⑦この侍従を率て参る。髪、脇より掻い越して、様体いとをかしき人なり。
  →長い髪を身体の前に回して抱える。大変なことです。

 ⑧山がつの垣根のおどろ葎の蔭に、障泥といふものを敷きて下ろしたてまつる。
  →源氏も結構ひどい所に行っているが(末摘花の荒れた屋敷とか)匂宮にとっては初めての体験だったろう。

 ⑨匂宮「いかなれば、今さらにかかるぞ。なほ人々の言ひなしたるやうにあるべし
  →浮舟は心変りしたのではないか。匂宮にとってはその一点がポイントである。

 ⑩「火危し」など言ふも、いと心あわたたしければ、帰りたまふほど言へばさらなり。
  →弓を引き鳴らし火の用心を唱えて夜回りする。武士の世界である。

 ⑪匂宮 いづくにか身をば棄てむと白雲のかからぬ山もなくなくぞ行く
  →さすがの匂宮もなす術もない。悔しい気持ちでいっぱいだったろう。

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浮舟(29・30) 追いつめられる浮舟

p268-274
29.浮舟死を決意し、匂宮の文殻を処分する
 〈p114 浮舟の君は、右近の言う通り、〉

 ①宮よりは、「いかにいかに」と、苔の乱るるわりなさをのたまふ。
  →浮舟は匂宮にも返事を出していない。匂宮は心配で連日督促の文を送る。

 ②とてもかくても、一方一方につけて、いとうたてあることは出で来なん、わが身ひとつの亡くなりなんのみこそめやすからめ、
  匂宮、薫どちらに決めても大混乱になる。死んでしまうのが一番穏当。
  →あまりにも悲しい浮舟の心中である。

 ③昔は、懸想ずる人のありさまのいづれとなきに思ひわづらひてだにこそ、身を投ぐるためしもありけれ、
  →二人の男の板挟みになって自ら命を絶つ。古来から悲話が伝わっている。

  (万葉の旅・中p220 真間の井 総武線市川駅北)
   葛飾の真間の井を見れば立ち平し水汲ましけむ手児奈し重ほゆ 高橋虫麻呂

 ④親もしばしこそ嘆きまどひたまはめ、あまたの子どもあつかひに、おのづから忘れ草摘みてん、
  →忘れ草(ヤブカンゾウ)が出てくるのは
   須磨p58 やうやう忘れ草も生ひやすらん、、(脚注1参照)
   宿木p92 なかなかみな荒らしはて、忘れ草生ほして後なん、、

 ⑤気高う世のありさまをも知る方少なくて生ほしたてたる人にしあれば、すこしおずかるべきことを思ひ寄るなりけむかし
  →浮舟は貴族社会に生きてきた訳ではないので自殺など恐ろしいことを想いつく。
  →貴族は血を見ることなどなかったのであろう。
 
 ⑥むつかしき反故など破りて、おどろおどろしく一たびにもしたためず、、、
  →薫・匂宮からの手紙を処分する。
  (幻p318 源氏が出家にあたり紫の上からの文を女房に焼かせる場面があった)

 ⑦心細きことを思ひもてゆくには、またえ思ひたつまじきわざなりけり。親をおきて亡くなる人は、いと罪深かなるものをなど、さすがに、ほの聞きたることをも思ふ。
  →親に先立って死ぬことは親不孝。ましてや自殺など親不孝の極致であろう。浮舟は死ぬしかないと悩んでいるがこの時点ではまだ自殺を決意はしていない。
 
30.上京の日迫る 浮舟、匂宮の文にも答えず
 〈p116 二十日過ぎにもなりました。〉

 ①二十日あまりにもなりぬ。かの家主、二十八日に下るべし。
  →3月20日過ぎになった。匂宮は28日に迎えに来ると言っている。

 ②いかでかここには寄せたてまつらむとする、かひなく恨みて帰りたまはん、、
  →薫の手勢による警固は厳しい。匂宮が来ても近寄れないだろう。

 ③例の面影離れず、たへず悲しくて、この御文を顔に押し当てて、しばしはつつめども、いみじく鳴きたまふ。
  →匂宮の手紙に顔を押し当てて号泣する。これはすごい!

  ありし御さまの面影におぼゆれば、(p206)
  面影につとそひて、いささかまどろめば、(p226)
  →匂宮と契ってからずっとその面影が浮舟の心から離れたことはない。

 ④「右近、はべらば、おほけなきこともたばかり出だしはべらば、かばかり小さき御身ひとつは空より率てたてまつらせたまひなむ」
  →頼もしい右近。浮舟に力を与えようとの精一杯の言葉であろう。

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浮舟(27・28) 薫 宇治山荘の警備を固める

p262-268
27.警固の厳重なるを聞き、浮舟の苦悩ます
 〈p109 「いえそれは。右近はどちらにお決めになっても〉

 ①右近が宇治山荘の周りの状況を浮舟に説明する。
  右近は必ずしも匂宮派ではないがさりとて薫に随いなさいと言う訳でもない。
  →薫からの手紙を盗み見した右近。見ましたよと告げて侍従ともども対処法を相談できなかったものだろうか(そんなことできれば世話ないですけどね)。

 ②この大将殿の御庄の人々といふ者はいみじき不道の者どもにて、一類この里に満ちてはべるなり。
  →薫は各地に荘園を所有しており、武力で警備・治安維持にあたらせている。宇治の一帯も薫の勢力範囲である。
  →一方の匂宮は何も持たない皇子。ひ弱いこと限りない。

 ③この内舎人といふ者のゆかりかけつつはべるなる。それが婿の右近大夫といふ者を本として、よろづのことを掟て仰せられたるななり。
  →内舎人、細かい描写でいかにも恐ろしそう。

 ④右近の恐ろしい話に浮舟はますます苦悩する。
  浮舟「心地にはいづれとも思はず、ただ夢のやうにあきれて、、、かくいみじとものも思ひ乱るれ、げによからぬことも出で来たらむ時
   「まろは、いかで死なばや、世づかず心憂かりける身かな、、、」
  →浮舟は匂宮に傾倒しているものの義理ある薫を裏切ることもできない。
  →思い窮し段々と死への思いに駆られていく。

 ⑤匂宮とのことを知らない乳母だけが能天気に薫が迎えてくれる日々を待ちつつ無邪気に振舞っている(浮舟の体調不良を心配しているものの)。

28.内舎人、薫の命により警備の強化を伝達す
 〈p112 薫の君からは、あのお手紙のお返事さえ〉

 ①殿よりは、かのありし返り事をだにのたまはで、日ごろ経ぬ。
  →薫としたことがこれはマズイ。手紙が戻されて来たことで浮舟の苦悩を思い計るべきではないか。本当に浮舟のことを想ってるなら飛んで行って「何があろうと君を手放すことはしない!」と熱く訴えるところでしょうに。

 ②このおどしし内舎人といふ者ぞ来たる。げに、いと荒々しくふつつかなるさましたる翁の、声嗄れ、さすがにけしきある、、、、
  恐ろしい土豪のボス(内舎人)が登場。薫から厳重警固するよう厳命を受けて来たと右近に伝える。
  →暴力沙汰など縁のない源氏物語で一番恐ろしい場面だろうか。「玉鬘」の大夫監も出て来たが本段の方が具体的で恐ろしい感じがする。

 ③梟の鳴かんよりも、いともの恐ろし。
  →梟は不吉な鳥。気味が悪い、ぞっとする感じである。

 ④乳母は、ほのうち聞きて、「いとうれしく仰せられたり。、、、」
  →薫が守ってくれていると聞いて安心し喜ぶ乳母。知らぬが仏であります。

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浮舟(26) 右近、侍従 浮舟に匂宮を勧める

p258-262
26.右近、東国の悲話を語る 侍従匂宮を勧む
 〈p106 直接ではないけれども、匂宮のことを〉

 ①右近「殿の御文は、などて返したてまつらせたまひつるぞ。ゆゆしく忌みはべるなるものを
  あやしと見ければ、道にて開けて見けるなりけり。よからずの右近がさまやな。
  →右近は薫よりの文を盗み見。さすが右近ではないか。

 ②右近の言葉で浮舟は匂宮とのことが薫のみならず周りの者も皆知っているのではないかと考える。
  →右近・侍従だけの秘密ならまだしも周囲に知れては身の処し所がない。

 ③右近が東国(常陸)で姉が二夫にまみえとんでもない事態に陥ったことを話す。
  →後で侍従も言っているがこんな恐ろしい話を浮舟に聞かせるのはいかがなものか。

 そして、「一方に思し定めてよ」(どちらかにお決めあそばせ)
  →これは正論であろう。

 ④右近「宮も御心ざしまさりて、まめやかにだに聞こえさせたまはば、そなたざまにもなびかせたまひて、ものないたく嘆かせたまひそ
  →浮舟の心が匂宮にあることを感じている右近。匂宮の移り気を心配しつつ、それなら匂宮にしたらと勧める。

 ⑤侍従 「御心の中に、すこし思しなびかむ方を、さるべきに思しならせたまへ。、、、
  しばし隠ろへても、御思ひのまさらせたまはむに寄らせたまひね

  →侍従は浮舟と匂宮の川向うでの情痴のさまを見知っている。浮舟の心が匂宮にあることを確信している。また自分も匂宮のフアンである。匂宮につくべしと熱心に浮舟を説得する。

 ⑥右近・侍従の言葉は尤もであるが所詮女房の意見である。母は介の元へ帰ってしまい今や信頼できる後見人のいない浮舟。切羽詰まった状況であります。

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浮舟(25) 薫、浮舟に詰問状

p252-258
25.薫、匂宮の裏切りを怒り、浮舟を詰問する
 〈p101 お帰りになる道すがらも、〉

 ①薫は帰り道、匂宮と浮舟との関係につきあれこれ思いをめぐらす。
  なほいと恐ろしく隈なくおはする宮なりや、、、
  昔より隔てなくて、あやしきまでしるべして率て歩きたてまつりし身にしも、うしろめたく思しよるべしや、、

  →宇治への道は自分がつけた。中の君を仲介したのも自分だ。薫は匂宮がつくづく恨めしかったことだろう。

 ②対の御方の御事を、いみじく思ひつつ年ごろ過ぐすは、わが心の重さこよなかりけり、さるは、それは、今はじめてさまあしかるべきほどにもあらず、、、
  →匂宮との関係においては中の君を譲ったことが未だにひっかかっている。

 ③あやしくて、おはし所尋ねられたまふ日もありと聞こえきかし、さやうのことに思し乱れてそこはかとなくなやみたまふなるべし、
  →匂宮の居所が分からないと大騒ぎしてたことがあった。あの時宇治に行っていたのだ!

 ④女のいたくもの思ひたるさまなりしも、片はし心得そめたまひては、よろづ思しあはするに、いとうし。
  →この前逢った時の浮舟の物思いに沈んだ様子にも思い当たる節がある。

 ⑤ありがたきものは、人の心にもあるかな、らうたげにおほどかなりとは見えながら、色めきたる方は添ひたる人ぞかし、この宮の御具にてはいとよきあはひなり、と思ひも譲りつべく、退く心地したまへど、、、
  →いっそ浮舟を匂宮に譲ろうか、、、やはり薫は勝負弱いと言うべきか。
  →匂宮は何が何でも浮舟を手に入れるとの情熱を燃やしているのに。

 ⑥さやうに思す人こそ、一品の宮の御方に二三人参らせたまひたなれ、、 
  →飽きたら女一の宮の女房にしてしまう。確かにひどい話であるが薫の心境とて所詮は召人扱いにしようということではないのか。

 ⑦薫は浮舟に詰問の文を送りつける。
  薫 波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな
    人に笑はせたまふな

  →薫の憤懣やるかたない気持ちは分かるがこの歌と捨てゼリフは最低である。
  →所詮薫には女性を思いやろうとする気持ちが薄いのではないか。

  百人一首No.42 清原元輔(清少納言の父)
   契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは

  奥の細道 @象潟 波こえぬ契ありてやみさごの巣 (曽良)

 ⑧浮舟「所違へのやうに見えはべればなむ。あやしくなやましくて何ごとも
  →薫の文を見て浮舟は万事休すと思ったのだろうか。
  →宛先違いではございませんか。浮舟のせめてもの機転である。薫も察してやらなくっちゃ。

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浮舟(24) 薫、匂宮と浮舟の関係を探りあてる

p246-252
24.薫、随身の探索によりはじめて秘密を知る
 〈p95 薫の君からのお手紙は今日もありました。〉

 ここからはミステリータッチの叙述が続きます。
 ①浮舟の元へ薫からと匂宮から連日のように文が届けられる。
  薫の文 匂宮のことを知らないので淡々と行けなくて申し訳ないが待ってて欲しいと事務的な内容だったのだろう。
  匀宮の文 風のなびかむ方もうしろめたくなむ
      くどくどと浮舟への恋情が書きつづられていたのであろう。

 ②雨降りし日、来あひたりし御使どもぞ、今日も来たりける。
  →毎日のように来てれば鉢合せすることもある。

 ③薫の使い=随身  匂宮の使い=大内記の家の下使い
  →薫の使いの方が身分も才覚も匂宮の使いより勝っている。

  随身「まうとは、何しにここにはたびたび参るぞ
  使「私にとぶらふべき人のもとに参で来るなり
  →以下二人の会話が簡潔で小気味よくストーリーが進んでいく。

 ④随身の機転で使いは匂宮邸の大内記からだとつきとめ薫にご注進に及ぶ。
  殿もしか見知りたまひて出でたまひぬ。
  →薫は何かあるなとピンと来て詳しくは後で聞こうと一旦立ち去る。

  このあたり久しぶりに舞台は六条院春の町(明石中宮の里邸)である。

 ⑤この御文も奉るを、宮、台盤所におはしまして、戸口に召し寄せて取りたまふを、大将、御前の方より立ち出でたまふ側目に見通したまひて、切にも思すべかめる文のけしきかなと、をかしさに立ちとまりたまへり。
  →浮舟からの返書を読む匂宮。それを眺める薫。絵になる場面ではなかろうか。

 ⑥紅の薄様にこまやかに書きたるべしと見ゆ。
  →紅色の手紙、これがキーワードである。

 ⑦随身が薫に一部始終を報告。
  どんな手紙だったか? 随身「赤き色紙のいときよらなる、、」
  →匂宮は浮舟からの返書を読んでいる。即ち匂宮は浮舟と何か怪しい関係にある。
  →薫は鋭い勘でそう確信したことであろう。

  →正月には宇治からの手紙を見て匂宮が勘を働かせた。今度は薫。
  →二人の貴公子の勘ぐり合戦が続く。

 ⑧この段久しぶりに六条院で明石の中宮、夕霧が登場。
  明石の中宮 46才  夕霧 55才
  (明石の君は生きていれば65才になる。既に亡くなっていたのであろうか) 
   

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浮舟(23) 浮舟、中将の君に真相を語れず

p236-246
23.中将の君来訪、弁の尼と語る 浮舟苦悩
 〈p86 薫の君は四月の十日を、京へ移す日とお決めになりました。〉

 ①大将殿は、四月の十日となん定めたまひりける。
  →薫の新邸への移住は4月10日と決まる。薫から連絡があったのだろう。

 ②母中将の君が宇治を訪ねてくる。乳母とともに浮舟が薫の新邸に迎え入れられることを喜ぶ。
  →やっと念願がかなう。中将の君もほっとした気分であったろう。

 ③浮舟「けしからぬことどもの出で来て、人笑へならば、誰も誰もいかに思はん、」
  →匂宮からは3月末に迎えに来ると連絡が来ている。浮舟は生きた心地がしない。

 ④母「などか、かく例ならず、いたく青み痩せたまへる」
  →母には何故浮舟が喜んでないのか。痩せ細っているのか訳が分からない。
  →「青み痩せる」匂宮もそうであった。

 ⑤有明の空を思ひ出づる涙のいとどとめがたきは、いとけしからぬ心かなと思ふ。
  →匂宮に抱かれて川を渡った時の興奮が甦る。
  →身の破滅かも知れぬが薫の所へは行きたくない。。。

 ⑥中将の君と弁の尼の会話
  中将の君は尼の好意で薫との縁ができたことに感謝はするが、尼が大君・中の君に比べ浮舟を見下げていることに反発心を覚える。

 ⑦弁の尼「、、、世に知らず重々しくおはしますべかめる殿の御ありさまにて、かく尋ねきこえさせたまひしも、おぼろけならじと聞こえおきはべりにし、浮きたることにやははべりける」
  →弁は薫の出生の秘密を知る唯一の人物。自分の斡旋で浮舟が薫と縁づいたのを誇らしく思ったのではないか。

 ⑧尼と母君、二条院で浮舟が危ない目にあったことを知っている。
  浮舟が匂宮と変なことになってしまったら心配する。
  →読者としては「もう変なことになってるよ!」と叫びたいところ。

 ⑨母君「よからぬことを引き出でたまへらましかば、すべて、身には悲しくいみじと思ひきこゆとも、また見たてまつらざらまし」
  もし匂宮と変なことになったら浮舟とは母娘の縁を切る。
  →この母の言葉は浮舟には辛すぎる。こんな時にこそ味方になって欲しいのにプレッシャーがかかるだけである。

 ⑩浮舟 なほ、わが身を失ひてばや、つひに聞きにくきことは出で来なむ
  →もう死ぬしか方法がない。浮舟の悲壮な決意が語られる。

 ⑪先つころ、渡守が孫の童、棹さしはづして落ち入りはべりにける。すべていたづらになる人多かる水にはべり
  →宇治川の急流、恐ろしさが強調される。

 ⑫母は浮舟を心配しつつ京へ戻る。
  浮舟「心地のあしくはべるにも、見たてまつらぬがいとおぼつかなくおぼえはべるを、しばしも参り来まほしくこそ」
  →もうこれで母には逢えないかもしれない。もう少しいっしょにいたい。浮舟の痛切な訴えである。
  →浮舟の出している切実なサインに母は何故気付かなかったのか。一番の頼りである母に頼れない、、、、。浮舟が可哀そうである。

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