蜻蛉 ひと時は目に見しものをかげろふのあるかなきかを知らぬはかなき 与謝野晶子
さて残すところ後二月、蜻蛉に入ります。浮舟の失踪~四十九日の法要までの前半とそれ以降の後半ではまるでトーンが変り、「こりゃあなんじゃいな」という感じになります。源氏物語としての出来具合についても薫・匂宮の行動についても色々取沙汰されている巻です。分量的には軽目です。力を抜いて読み進めましょう。
p14-16
1.浮舟失踪 右近ら、その入水を直感する
〈寂聴訳巻十 p132 あの宇治の山荘では、翌朝、〉
①K27年3月末 前帖浮舟が死を決意した段末から続いている。
浮舟巻末 萎えたる衣に顔を押し当てて、臥したまへりとなむ。
②かしこには、人々、おはせぬを求め騒げどかひなし。物語の姫君の人に盗まれたらむ朝のやうなれば、くはしくも言ひつづけず。
→さすがにうまい語り出しである。浮舟が消えてしまったことが一気に分かる。
→姫君が消える、物語だけでなく実際にもよくあったのだろう。略奪結婚やら人さらいやら。物騒な世の中である。
③かの心知れるどちなん、いみじくものを思ひたまへりしさまを思ひ出づるに、身を投げたまへるかとは思ひ寄る。
→事情を知る右近・侍従は浮舟が入水したとピンと来る。
→「しまった!取り返しのつかないことになった!」青ざめたことだろう。
④京の母は浮舟が何かおかしいと感づいている。使者は帰って来ないし改めて使者をよこす。母の手紙が愛する娘を気遣って何とも哀しい。
いとおぼつかなさにまどろまれはべらぬけにや、今宵は夢にだにうちとけても見えず、、
ものへ渡らせたまはんことは近かなれど、そのほど、ここに迎へたてまつりてむ。
→以前不安を感じた浮舟が母にしばらくいっしょにいてくれと頼んだことがあった(浮舟p245)。その時は断った母、今回は介の屋敷に引き取ろうと誘いかける。
今日は雨降りはべりぬべければ。
→雨とともに浮舟はいなくなり雨とともに発見される。雨がキーワードである。
⑤右近「我に、などかいささかのたまふことのなかりけむ、」
→右近と浮舟は乳姉妹。何故言ってくれなかったのか、、右近はほぞをかむ思いだったことだろう。
⑥「いかさまにせむ、いかさまにせむ」
→事情を知らない乳母はただただオロオロするしかない。
いよいよテキストも最後の一冊、何だか愛しいですね。
浮舟の失踪に周囲はさぞや動転したことでしょう。
母の危惧も時遅し・・・
思い当たる節のある右近や侍従にとっては悔やんでも悔やみきれない思いだったでしょう。
特に乳姉妹でもある右近の嘆きは察してあまりあります。
その嘆きぶり(足摺といふことをして泣くさま若き子どものやうなり)
身も世もなく泣き崩れたと言うことでしょうか。
まさか入水するまで思い詰めているとは考えもしなかったのでしょうね。
一夜明け周囲のオロオロ動転した様子がうかがえます。
浮舟は一体何処へ?
ありがとうございます。そう、後一冊となりました。もうひと踏ん張りです。よろしくお願いいたします。
そうですか、「足摺」に鋭く反応されましたね。さすが平家物語通の青玉さんです。
1.源氏物語での足摺
①ひきとどむべき方なく、足摺もしつべく、人のかたくなしと見むこともおぼえず。(大君死亡を嘆く薫 総角p254)
②足摺といふことをして泣くさま、若き子どものやうなり。(本段 蜻蛉p16)
2.平家物語「足摺」(これも涙涙の物語、感動ものですね)
僧都せん方なさに、渚にあがり倒れふし、をさな者の、めのとや母などをしたふやうに、足ずりをして、「是乗せてゆけ、具してゆけ」と、をめきさけべども、漕ぎ行く舟の習にて、跡は白浪ばかりなり。
(蜻蛉は22段までなので1~18段までは1日1段づつとし最後の2日だけ2段づつ(19・20&21・22)としました。ご参考まで)