p268-274
29.浮舟死を決意し、匂宮の文殻を処分する
〈p114 浮舟の君は、右近の言う通り、〉
①宮よりは、「いかにいかに」と、苔の乱るるわりなさをのたまふ。
→浮舟は匂宮にも返事を出していない。匂宮は心配で連日督促の文を送る。
②とてもかくても、一方一方につけて、いとうたてあることは出で来なん、わが身ひとつの亡くなりなんのみこそめやすからめ、
匂宮、薫どちらに決めても大混乱になる。死んでしまうのが一番穏当。
→あまりにも悲しい浮舟の心中である。
③昔は、懸想ずる人のありさまのいづれとなきに思ひわづらひてだにこそ、身を投ぐるためしもありけれ、
→二人の男の板挟みになって自ら命を絶つ。古来から悲話が伝わっている。
(万葉の旅・中p220 真間の井 総武線市川駅北)
葛飾の真間の井を見れば立ち平し水汲ましけむ手児奈し重ほゆ 高橋虫麻呂
④親もしばしこそ嘆きまどひたまはめ、あまたの子どもあつかひに、おのづから忘れ草摘みてん、
→忘れ草(ヤブカンゾウ)が出てくるのは
須磨p58 やうやう忘れ草も生ひやすらん、、(脚注1参照)
宿木p92 なかなかみな荒らしはて、忘れ草生ほして後なん、、
⑤気高う世のありさまをも知る方少なくて生ほしたてたる人にしあれば、すこしおずかるべきことを思ひ寄るなりけむかし。
→浮舟は貴族社会に生きてきた訳ではないので自殺など恐ろしいことを想いつく。
→貴族は血を見ることなどなかったのであろう。
⑥むつかしき反故など破りて、おどろおどろしく一たびにもしたためず、、、
→薫・匂宮からの手紙を処分する。
(幻p318 源氏が出家にあたり紫の上からの文を女房に焼かせる場面があった)
⑦心細きことを思ひもてゆくには、またえ思ひたつまじきわざなりけり。親をおきて亡くなる人は、いと罪深かなるものをなど、さすがに、ほの聞きたることをも思ふ。
→親に先立って死ぬことは親不孝。ましてや自殺など親不孝の極致であろう。浮舟は死ぬしかないと悩んでいるがこの時点ではまだ自殺を決意はしていない。
30.上京の日迫る 浮舟、匂宮の文にも答えず
〈p116 二十日過ぎにもなりました。〉
①二十日あまりにもなりぬ。かの家主、二十八日に下るべし。
→3月20日過ぎになった。匂宮は28日に迎えに来ると言っている。
②いかでかここには寄せたてまつらむとする、かひなく恨みて帰りたまはん、、
→薫の手勢による警固は厳しい。匂宮が来ても近寄れないだろう。
③例の面影離れず、たへず悲しくて、この御文を顔に押し当てて、しばしはつつめども、いみじく鳴きたまふ。
→匂宮の手紙に顔を押し当てて号泣する。これはすごい!
ありし御さまの面影におぼゆれば、(p206)
面影につとそひて、いささかまどろめば、(p226)
→匂宮と契ってからずっとその面影が浮舟の心から離れたことはない。
④「右近、はべらば、おほけなきこともたばかり出だしはべらば、かばかり小さき御身ひとつは空より率てたてまつらせたまひなむ」
→頼もしい右近。浮舟に力を与えようとの精一杯の言葉であろう。
追い詰められた浮舟の悲壮な決意、他に道はなかったのでしょうか?
思い出の手紙など処分するも、かといっていざとなると心細く恐ろしい。
心迷う浮舟の心中が読者にも痛ましく悲しく伝わります。
匂の宮の手紙に泣き伏す浮舟、励ます右近。
わが身の宿命を嘆く浮舟、事態は虚しく刻々と過ぎていく。
この先の運命や如何に・・・
ありがとうございます。
追いつめられた浮舟の心内、察するに余りありますねぇ。二人の男に思われ、自分も二心を持ってしまった、これは人の倫に反すると思い悩み死への決意に至ったのでしょう。
薫が迎えに来るのが4月上旬、匂宮が連れに来るというのが3月28日と期日が決められていたのが却ってよくなかったのかも知れません。期日が近づくにつれて錯乱状態に陥っていったように思います。いっそ何の前触れもなく匂宮が(或いはその手勢が)現れて浮舟を略奪していった方がよかったのじゃないでしょうか。
→この厳重警戒体制下ではそれも難しかったのでしょうが。