蜻蛉(11) 薫、女一の宮を垣間見る

p83-90
11.中宮の御八講 薫、女一の宮をかいま見る
 〈p189 蓮の花の盛りの頃に、〉

 ①蓮の花の盛りに、御八講せらる。
  →夏、暑い盛り。中宮主催の大供養。
  (既出の御八講)
  ・藤壷中宮が桐壷帝の一周忌後に主催(賢木p180)
  ・源氏が桐壷院の追善八講をして政界に復帰(澪標p192)
  ・女三の宮は年に二回御八講を行っている(匂宮p20)

 ②みな入り立ちてつくろふほど、西の渡殿に姫宮おはしましけり。
  →御八講が終り片づけてる所、女一の宮がいる渡殿に薫が近づいてくる。

 ③なかなか、几帳どもの立ちちがへたるあはひより見通されて、あらはなり。
  →普段は厳重に目隠しがされて見えないようになっている。こういう時がチャンス。

 ④氷(ひ)を物の蓋に置きて割るとて、もて騒ぐ人々、大人三人ばかり、童とゐたり。
  →氷は貴重品。
   源氏、釣殿での納涼(常夏p134)
   大御酒まゐり、氷水召して、水飯などとりどりにさうどきつつ食ふ。

 ⑤白き薄物の御衣着たまへる人の、手に氷を持ちながら、かくあらそふをすこし笑みたまへる御顔、言はむ方なくうつくしげなり。
  →薫にとって女一の宮は雲の上の人、偶像視されている。

 ⑥「いな、持たらじ。雫むつかし」とのたまふ、御声いとほのかに聞くも、限りなくうれし
  →いかにも皇女らしい言い草。
  →この垣間見の場面、柏木が女三の宮を垣間見た唐猫のシーンを思い出させる。

 ⑦女一の宮をほのかに見た薫
  やうやう聖になりし心を、ひとふし違へそめて、さまざまなるもの思ふ人ともなるかな、その昔世を背きなましかば、今は深き山に住みはてて、かく心乱らましや。
  などて、年ごろ、見たてまつらばやと思ひつらん、なかなか苦しうかひなかるべきわざにこそ、と思ふ。
  →全く薫は得体の知れない男である。逆に言えば定見など持たずあれもこれもと右往左往するのが人間であるとすれば薫こそ人間なのかも知れない。 

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蜻蛉(10) 薫、小宰相の君の所へ

浮舟の四十九日が過ぎ物語は浮舟から離れて行きます。「えっ、なんで、、」という感じです。

p80-82
10.薫、小宰相の君と思いをかわす
 〈p186 明石の中宮は、叔父宮の式部卿の宮の御服喪の間は、〉

 ①式部卿の宮(源氏の異母弟)死去で服喪期間(3カ月)中宮は六条院春の町に里下がりしていた。

 ②二の宮なむ式部卿になりたまひにける。
  →匂宮(三の宮)は既に兵部卿であったが、兄は今まで無官であったのだろうか。

 ③この宮は、さうざうしくものあはれなるままに、一品の宮の御方を慰め所にしたまふ
  →宮中に女一の宮の御所があったのであろう。

 ④大将殿の、からうじていと忍びて語らひたまふ小宰相の君といふ人の、容貌などもきよげなり、心ばせある方の人と思されたり、、、
  →薫が小宰相の君の所へ通っているのはいいが、何故こっそりなんだろう。堂々と行けばいいのに。

 ⑤小宰相の君 、、、同じ琴を掻き鳴らす爪音、撥音も人にはまさり、文を書き、ものうち言ひたるも、よしあるふしをなむ添へたりける。
  →何ごとも秀逸な小宰相の君。いい女は浮舟だけではない!

 ⑥この宮も、年ごろ、いといたきものにしたまひて、例の。言ひやぶりたまへど、、
  →匂宮が片っぱしから言い寄るのは普通。それに靡かない小宰相の君が異常。

 ⑦小宰相の君 あはれ知る心は人におくれねど数ならぬ身にきえつつぞふる
  薫 つねなしとここら世を見るうき身だに人の知るまで嘆きやはする
  →気持ちを伝えあう典型的な歌の贈答なのだろう。女からの贈歌はやや異例か。

 ⑧薫 「、、、このよろこび、あはれなりしをりからも、いとどなむ」など言ひに立ち寄りたまへり。
  →何だ、秘密かと思ったのに、堂々と訪ねて行くとは!

 ⑨薫「見し人よりも、これは心にくき気添ひてもあるかな、などてかく出で立ちけん、さるものにて、我も置いたらましものを
  →去る者は日々に疎し、、、浮舟があわれである。

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蜻蛉(9) 浮舟の四十九日の法事

p77-80
9.四十九日の法事を営む 匂宮・薫の心々
 〈p183 薫の君は、四十九日の法事などをおさせになりましても、〉

 ①四十九日のわざなどせさせたまふにも、、、
  →浮舟の葬送は3月末、従って四十九日は5月中旬か。
  →真夏である。珍しく季節の描写は割愛されている。
  →四十九日までに死者は次の生を得る。現代でもこの法事は欠かせない。
  →源氏物語で四十九日が出てくるのは、
   ・夕顔の四十九日(夕顔p276)
   ・桐壷帝の四十九日(賢木p136)

 ②場所は宇治の山寺。薫が主宰。自分は行かず随身を派遣。
  実際に居るのは実母中将の君と継父常陸介

 ③宮よりは、右近がもとに、白銀の壺に黄金入れて賜へり。
  →黄金、貨幣ではなかろう。どんな物だったのだろう。

 ④殿の人ども、睦ましきかぎりあまた賜へり。「あやしく。音もせざりつる人のはてを、かくあつかはせたまふ、誰ならむ」と、今おどろく人のみ多かるに、、
  →脚注7 薫は浮舟のことを家中にも隠していた。扱いに躊躇していたのかも知れぬがこの辺が薫の自信のなさ、劣等感のなせるところであろう。堂々と「オレの女だ」と振る舞っておればよかったのに。

 ⑤常陸介来て、主がりをるなん、あやしと人々見ける。
  →介は田舎者の象徴。でもこの男、憎めませんねぇ。

 ⑥宮の上も誦経したまひ、七僧の前のこともせさせたまひけり。
  →中の君の想いはその後書かれていない。結果的に匂宮へのきっかけは中の君が作ったことになり「気の毒なことをした、、」との想いだったろう。

 ⑦帝まで聞こしめして、おろかにもあらざりける人を、宮にかしこまりきこえて隠しおきたまへりけるを、いとほしと思しける
  →帝&女二の宮は盛大な法事のことを快く思わなかったのではなかろうか。

 ⑧さて、四十九日を終えての匂宮・薫の様子と言えば、、、
  匂宮 あやにくなりし御思ひの盛りにかき絶えては、いといみじけれど、あだなる御心は、慰むやなど試みたまふことも、やうやうありけり。
  →色好みの宮のこと、当然と言えば当然だが、、、。

  薫 かの殿は、かくとりもちて何やかやと思して、残りの人をはぐくませたまひても、なほ、言ふかひなきことを忘れがたく思す
  →元々薫の女性への情熱は左程深いものではない。気持の切り替えも結構冷静に行えたのではなかろうか。

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蜻蛉(8) 薫、中将の君に手紙

p70-77
8.薫、中将の君を弔問、遺族の後援を約束す
 〈p178 あの母君は、京の家で出産する予定になっている娘のために、〉

 ①かの母君は、京に子産むべきむすめのことによりつつしみ騒げば、例の家にもえ行かず、すずろなる旅居のみして、思ひ慰むをりもなきに、
  →中将の君は常陸介邸には戻れず三条の隠れ家(薫が浮舟を尋ねてきた家)にいる。

 ②薫は中将の君に仲信を使いとして遣わす。
  →この辺、相変わらず薫は小まめである。

 ③薫「されど、今より後、何ごとにつけても、かならず忘れきこえじ。また、さやうにを人知れず思ひおきたまへ。幼き人どももあなるを、朝廷に仕うまつらむにも、かならず後見思ふべくなむ
  →浮舟を幸せにしてやれなかった。薫は罪滅ぼしの意味合いもあってか援助を約束する。

 ④母は薫に丁重な返事を書く。
  →母は薫に恨み言の一つも言いたかったのではないか。
  →何故もっと親身に浮舟を面倒みてくれなかったのか。浮舟が死んだのは貴方のせいですよ、、、、。まあ言っても仕方ないことですが。

 ⑤母は使者(仲信)に贈物を贈る。薫は「無用のものを、、」と切り捨てる。
  
 ⑥改めて浮舟に対する薫の心内
  、、ただ人、はた、あやしき女、世に古りにたるなどを持ちゐるたぐひ多かり、かの守のむすめなりけりと、人の言ひなさんにも、わがもてなしの、それに穢るべくありそめたらばこそあらめ、、
  →「受領階級の娘であってもいいではないか」初めからそう思ってたならこんなことにはならなかったろうに。今さら思っても遅い。薫の歯切れの悪いところである。

 ⑦中将の君から薫の手紙を見せられた常陸介
  「いとめでたき御幸ひを棄てて亡せたまひにける人かな。おのれも殿人にて参り仕うまつれども、近く召し使ひたまふこともなく、いと気高くおはする殿なり。若き者どものこと仰せられたるは頼もしきことになん
  →純朴な常陸介。受領階級と上流貴族の違いがまざまざと語られている。

 ⑧さるは、おはせし世には、なかなか、かかるたぐひの人しも、尋ねたまふべきにしもあらずかし。わが過ちにて失ひつるもいとほし、、、
  →語り手の評言。薫の罪の意識のなせるわざ。身分社会は人の心を翻弄する。

本段はさらりと通過していいところでしょう。

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蜻蛉(7) 薫、宇治を訪れる

p57-69
7.薫、右近から事情を聞き、嘆きつつ帰京す
 〈p168 薫の大将もやはり、浮舟の君の死が気がかりなので、〉

 ①大将殿も、なほ、いとおぼつかなきに、思しあまりておはしたり
  →何やかやと躊躇していた薫もさすがに居ても立ってもいられなくなったか宇治を訪れる。
  →自分の情人ではないか。すぐにも訪れるのが普通と思うのだが。

 ②薫が問い質すのに右近はありのまま真相を話す(匂宮とのことは伏せて)
  かねてと言はむかく言はむとまうけし言葉をも忘れ、わづらはしうおぼえければ、ありしさまのことどもを聞こえつ。
  →右近は薫の情人浮舟の女房。浮舟を守りお世話する立場にある。右近は薫の顔をまともに見れなかったのではないか。

 ③薫 あさましう、思しかけぬ筋なるに、ものもとばかりのたまはず
  →入水したなど、薫は何が何かさっぱり分からず困惑したことだろう。

 ④薫 いかなるさまに、この人々、もてなして言ふにかあらむ、、
  →薫は匂宮がどこかに隠していると心底から思っていたのだろう。無理もない。

 ⑤右近 「、、、心得ぬ御消息はべりけるに、、」
  薫が出し、浮舟が人違いとして返してきた手紙
  波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな
  人に笑はせたまふな

  →やはりこれは浮舟をぐさりと突き刺すに十分な手紙であった。

 ⑥右近は薫が中々来てくれなかったこと、薫に不信を持たれているようで浮舟が精神的にまいってしまってた様子などを語るが匂宮とのことには触れることができない。

 ⑦薫は右近に匂宮のことを詰問する。
  また人の聞かばこそあらめ、宮の御事よ、いつよりありそめけん。
  、、なほ言へ。我には、さらにな隠しそ

  →今頃になって躍起になっても「事遅し」ですぞ、薫の大将!

 ⑧右近は自分の失態の負い目も感じつつ薫に浮舟と匂宮のことを語る。
  但し、それよりほかのことは見たまへず。
  →密通があったこと、その有様などは言い出すことができない。当然であろう。

 ⑨右近の話を聞いての薫の心内
  、、、わがここにさし放ち据ゑざらましかば、いみじくうき世に経とも、いかがかかならず深き谷をも求め出でまし、といみじううき水の契りかなと、この川の疎ましう思さるることいと深し。
  →色々あった宇治の里、結局宇治川は恐ろしかった!

 ⑩薫 われもまたうきふる里を荒れはてばたれやどり木のかげをしのばむ
  →もうこれで宇治との縁も切れるのか。薫の感慨。

 ⑪骸をだに尋ねず、あさましくてもやみぬるかな、いかなるさまにて、いづれの底のうつせにまじりにけむなど、やる方なく思す。
  →浮舟は亡くなってしまった。やはり私には心を通わす女人との恋は似合わなかったのか、、、薫は仏道への思いを新たにしたのだろうか。

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蜻蛉(6) 匂宮、侍従から実情を聞く

p48-57
6.匂宮、時方をやり、侍従を呼び実情を聞く
 〈p159 中の君は、今度の宇治での出来事については〉

 ①女君、このことのけしきは、みな見知りたまひてけり。
  →中の君は匂宮と浮舟の一部始終について全て承知していた。
  →匂宮が目をつけた最初の経緯、探し回っていて正月の手紙で宇治に居ると知ったこと。その後、宇治に通い深い仲になったこと、そしてその浮舟が突如亡くなってしまったことまで。
  →これぞ女の鋭い勘であろう。匂宮の様子を見てれば全てが分かったのであろう。

 ②匂宮「隠したまひしがつらかりし
  →匂宮も中の君には心を許すことができる。
  →「何で浮舟の素性を言ってくれなかったのか、貴女同様然るべくお世話したのに、、」
   匂宮の本音であろう。

 ③時方と道定、匂宮の使いとして宇治へ 
  ここに来ては、おはしましし夜な夜なのありさま、抱かれたてまつりたまひて舟に乗りたまひしけはひのあてにうつくしかりしことなどを思ひ出づるに、
  →匂宮と浮舟のラブシーンを思い出す。読者にも改めて小舟で宇治川を渡る場面が甦る。

 ④右近「、、参りても、はかばかしく聞こしめしあきらむばかりもの聞こえさすべき心地もしはべらず、、」
  →右近は匂宮のためにも隠し通してきたのだし、今さらお話しすることもないと断る。

 ⑤時方「右近さんがダメなら侍従さん、来て下さい」
  侍従ぞ、ありし御さまもいと恋しう思ひきこゆるに、いかならむ世にかは見たてまつらむ、かかるをりにと思ひなして、参りける。
  →侍従は匂宮見たさに参上する。若い侍従の正直な気持ちであろう。

 ⑥侍従は匂宮に全てを包み隠さず報告する。
  、、夢にも、かく心強きさまに思しかくらむとは思ひたまへずなむはべりし、、
  御文を焼き失ひたまひしなどに、などて目を立てはべらざりけん

  →匂宮の前で浮舟の様子を語る侍従、さぞ胸がつまったことだろう。

 ⑦匂宮「わがもとにあれかし。あなたももて離るべくやは
  →浮舟の様子を正直に話す侍従に匂宮はいじらしさを感じたのであろう。色好みの匂宮である。

 ⑧暁に帰るに、かの御料にとてまうけさせたまひける櫛の箱一具、衣箱一具贈物にせさせたまふ。
  →とにかく使いの者には褒美(お土産)を持たせる。大変な習慣があったもの。さぞ物入りだったことだろう。

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蜻蛉(5) 薫と匂宮 互いの胸中を忖度

p38-48
5.薫、匂宮を見舞う 浮舟の密通を思い煩悶
〈p150 あの匂宮は、また、薫の大将のお嘆きにもまして、〉

 ①かの宮、はた、まして、二三日はものもおぼえたまはず、現し心もなきさまにて、、
  ありしさまは恋しういみじく思ひ出でられたまひける。

  →ショックで茫然自失の匂宮。冷静な薫とは対照的である。

 ②そんな匂宮の様子を聞くにつけての薫の心内
  「、、見たまひてはかならずさ思しぬべかりし人ぞかし、ながらへましかば、ただなるよりは、わがためにをこなることも出で来なまし
  →薫は匂宮と浮舟ができていることを確信する。同時に浮舟ごときを匂宮と自分が取り合ったと知れたら二人にとって外聞が悪かろうと考える。そりゃあそうでしょう。

 ③薫 、、、焦がるる胸もすこしさむる心地したまひける。
  →薫は徹底的に白けてしまったのだろう。浮舟への思いは何だったのだろう。

 ④薫が匂宮を見舞い二人の対面となる。二人の心理描写が鋭い。
  匂宮「私の涙も浮舟のことと気づかれないかもしれないし、、」
  薫「やっぱり浮舟とあったのだ。馬鹿にされてたんだろうなあ」
  匂宮「なんで薫は冷静なんだ。でも結局浮舟は薫の女だったのだ」
  →探り合い、にらみ合いが続く。

 ⑤しばらく仕切りを繰り返した末、薫が匂宮に口を開く。
  昔、御覧ぜし山里に、はかなくて亡せはべりにし人の、同じゆかりなる人、おぼえぬ所にはべりと聞きつけはべりて、、、
  また、かれも、なにがし一人をあひ頼む心もことになくてやありけむとは見たまへつれど、、、
  聞こしめすやうもはべるらむかし。

  
  →薫の長ゼリフ。皮肉と当てこすりだらけ、陰湿で男らしくない。
  →どうせなら、「貴方が目をかけられたと聞きましたが、、、」と切り出せなかったものか。。。。無理でしょうね。

 ⑥薫「さる方にても御覧ぜさせばやと思ひたまへし人になん。おのづからさもやはべりけむ、宮にも参り通ふべきゆゑはべりしかば」
  →何れ譲ろうと思ってましたのに、、、これはない!
  →浮舟を冒涜する言い方ではなかろうか。やはり薫の劣等感のなせるわざか。

 ⑦薫と匂宮の歌の贈答
  薫 忍び音や君もなくらむかひもなき死出の田長に心かよはば
  匂宮 橘のかをるあたりはほととぎす心してこそなくべかりけれ 代表歌
  →結局薫と匂宮は浮舟のことを本音で語り合うことはなかった。
  →段末脚注 王朝皇族貴族にあっては胸中は忖度し合うものであったということか。

本段、何ともすっきりしない後味の悪い感じでした。

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蜻蛉(4) 薫、浮舟の死を知る

p34-37
4.薫、浮舟の死を知りわが宿世の拙さを嘆く
 〈p147 その頃薫の大将は、母尼宮が御病気になられましたので、〉

 ①大将殿は、入道の宮のなやみたまひければ、石山に籠りたまひて、騒ぎたまふことなりけり。
  →浮舟の失踪(死)に対して先ず匂宮の反応が書かれ、次が母中将の君。薫は三番目にやっと登場。薫が浮舟から如何に遠かったかを伺わせる書き方であろう。

 ②さなむと言ふ人はなかりければ、かかるいみじきことにも、まづ御使のなきを、人目も心憂しと思ふに、、
  →宇治から薫へは急使も立てられていない。それなのに宇治では薫から弔問もないとて情けなく思う。。。何ともちぐはぐである。

 ③御庄の人なん参りて、しかじかと申させければ、あさましき心地したまひて、
  →薫はびっくりしたろうが、その様子はあっさりとしか書かれていない。拍子抜けである。

 ④薫は家司仲信(重臣である)を使いに立てる。
  「、、昨夜のことは、などか、ここに消息して、日を延べてもさることはするものを、いと軽らかなるさまにて急ぎせられにける。、、」
  →ここは薫はもっと怒るべきところだろう。「何故このオレにもっと早く伝えなかった。何故オレの指示を仰がなかった!浮舟はオレの女なんだぞ!」
  →そうできないところが薫。万事コソコソやってきた報いであろう。

 ⑤使いの報告を聞いた薫
  「思はずなる筋の紛れあるやうなりしも、かく放ちおきたるに心やすくて、人も言ひ犯したまふにりけむかし
  →匂宮が浮舟に手をつけていた!薫はこのことをいつ気づいたのだろう。
  →前々からひょっとしたら匂宮が目をつけるかも、、との疑念はあったのだろうがはっきり確信したのはこの時が初めてではなかろうか。

 ⑥京へ帰った薫、浮舟のことを偲ぶ
  ありしさま容貌、いと愛敬づき、をかしかりしけはひなどのいみじく恋しく悲しければ、
  →かわいらしかった浮舟の様子が思い浮かぶ。Too late! である。

 ⑦薫は自分の心の内を整理する。
  「かかることの筋につけて、いみじうもの思ふべき宿世なりけり、、、、仏なども憎しと見たまふにや、人の心を起させむとて、仏のしたまふ方便は、慈悲をも隠して、かやうにこそはあなれ、」
  →浮舟を失ってしまった。所詮私には女性との恋は縁がなかった。仏道を疎かにした罰があたったのだ。仏道こそ私の進むべき道なのだ、、、。
  →ここにおいて薫は女性を心から愛するということを断念したのかもしれない。

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蜻蛉(3) 母、宇治に来訪 浮舟葬送のこと

p25-34
3.中将の君到着 右近ら遺骸なき葬送を行う
 〈p141 雨がひどく降りしきるのに紛れて、〉

 ①雨のいみじかりつる紛れに、母君も渡りたまへり。
  →三月末、ずっと雨が降り続いている。浮舟の涙雨である。

 ②母は浮舟と匂宮のことを知らない。
  母「鬼や食ひつらん、狐めくものやとりもて去ぬらん、いと昔物語のあやしきものの事のたとひにか、さやうなることも言ふなりし
  →まさか入水自殺したとは思いつかない。どこかに居るに違いない、、、母は戸惑いつつも望みは捨てておらず、何としてでも探し出そうと思ったことだろう。
  →その意味では先ずは後見人である薫に連絡をとって助力を求めるのが最上策ではなかろうか。

 ③秘密を知る右近・侍従。更に浮舟の書き残した辞世とも言える独唱歌を見つける。
  なげきわび身をば棄つとも亡き影にうき名流さむことをこそ思へ
  →浮舟の自殺は決定的である。さあどうするか悩む右近・侍従

 ④結局悩んだ末侍従は母にありのまま(匂宮と浮舟との秘事)を語る。
  忍びてありしさまを聞こゆるに、言ふ人も消え入り、え言ひやらず、聞く心地もまどひつつ、さば、このいと荒ましと思ふ川に流れ亡せたまひにけりと思ふに、いとど我も落ち入りぬべき心地して、

  →母は驚き、悲しみ、冷たい川に身を投げずにおれなかった浮舟を助けてやれなかったことに深い自責の念に駆られたことだろう。
  →思えば浮舟からSOSのサインもないではなかった。母の心情察して余りあるところ。

 ⑤薫の配下の者ども(大夫・内舎人)
  「御葬送のことは、殿に事のよしも申させたまひて、日定められ、いかめしうこそ仕うまつらめ
  →浮舟の後見人は薫である(浮舟は薫の愛人である)。何はともあれ薫に事態を報告し指示を仰ぐのが常套である。

 ⑥右近「ことさらに、今宵過ぐすまじ。いと忍びて、と思ふやうあればなん
  →強引にその日の内に火葬に付してしまおうとする右近
  →浮舟失踪の真実を薫に説明することができない以上黙って葬り去るしか方法がない。

 ⑦いとはかなくて、煙ははてぬ
  →死体なき火葬、牛車に積んだ浮舟の身の廻りの遺品などがあっと言う間に燃えつきてしまう。人々が怪しむのも当然である。

 ⑧今後薫にどう説明していくのか悩む右近・侍従、
  「ながらへては、誰にも、静やかに、ありしさまをも聞こえてん、ただ今は、悲しささめぬべきこと、ふと人づてに聞こしめさむは、なほいといとほしかるべきことなるべし
  →二人は秘密を背負い続ける。なかなかできないアッパレな対応ではないでしょうか。

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蜻蛉(2) 匂宮、即刻時方を宇治に遣わす

[右欄の源氏百首・名場面集・青玉和歌集、「浮舟」まで更新しました。万葉さん、ありがとうございました]

p16-24
2.匂宮、浮舟の死を知り、時方を宇治に派遣
 〈p134 匂宮のほうでも、いつもとはひどく様子の違った〉

 ①浮舟から匂宮への返歌(浮舟p282)
  からをだにうき世の中にとどめずはいづこをはかと君もうらみむ
  →この返歌をもらった匂宮は驚いたことだろう。正に辞世の歌である。

 ②匂宮 「ほかへ行き隠れんとにやあらむ」
  →匂宮は自殺など思いつかないので誰かが隠した、或いは自ら隠れたかと考える。
  →おそらく薫がやったのだろうとピンと来たのではなかろうか。

 ③使いをやると浮舟は急死したとの返事、匂宮はそんなバカなとて時方を遣わす。
   ややこしいので渋る時方、行ってまいれと鼓舞する匂宮

  例の、心知れる侍従などにあひて、いかなることをかく言ふぞと案内せよ
  →「侍従はお前といい仲なんだろう、聞きだしてまいれ!」

 ④「今宵、やがて、をさめたてまつるなり」
  →即刻火葬する。貴族は時間をおいて行う。時方は不審に思う。

 ⑤侍従は浮舟が匂宮といっしょになればと思っていた。その想いから時方に言いよどみながらも無下に隠しおおすことはできない。そこへ乳母の声が聞こえる。

  「あが君や、いづ方にかおはしましぬる。帰りたまへ。むなしき骸をだに見たてまつらぬが、かひなく悲しくもあるかな。、、、」
  →亡くなったのではない、いなくなったのだ、、時方は真相に気づく。
  →「わが君を返して下さい!」乳母の必死の叫びが痛々しい。

 ⑥侍従「、、、、かの殿の、わづらはしげに、ほのめかし聞こえたまふことなどもありき。、、、、この御事をば、人知れぬさまにのみ、かたじけなくあはれと思ひきこえさせたまへりしに、御心乱れけるなるべし。あさましう、心と身を亡くなしたまへるやうなれば、、」
  
 →薫からプレッシャーがかかり浮舟は悩みついには自ら死を選んだ。
 →侍従は匂宮サイドに立って事の経緯をそれとなく語る。

 ⑦侍従「忍びたまひしことなれば、また漏らさせたまはでやませたまはむなん、御心ざしにはべるべき」
 →匂宮とのことは誰も知らないこととして葬り去りたい。侍従(右近も)の気持ちであろう。 
  
誰よりも先に動いたのは匂宮。浮舟への想いの順番を作者が明示しているのであろう。

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