p38-48
5.薫、匂宮を見舞う 浮舟の密通を思い煩悶
〈p150 あの匂宮は、また、薫の大将のお嘆きにもまして、〉
①かの宮、はた、まして、二三日はものもおぼえたまはず、現し心もなきさまにて、、
ありしさまは恋しういみじく思ひ出でられたまひける。
→ショックで茫然自失の匂宮。冷静な薫とは対照的である。
②そんな匂宮の様子を聞くにつけての薫の心内
「、、見たまひてはかならずさ思しぬべかりし人ぞかし、ながらへましかば、ただなるよりは、わがためにをこなることも出で来なまし」
→薫は匂宮と浮舟ができていることを確信する。同時に浮舟ごときを匂宮と自分が取り合ったと知れたら二人にとって外聞が悪かろうと考える。そりゃあそうでしょう。
③薫 、、、焦がるる胸もすこしさむる心地したまひける。
→薫は徹底的に白けてしまったのだろう。浮舟への思いは何だったのだろう。
④薫が匂宮を見舞い二人の対面となる。二人の心理描写が鋭い。
匂宮「私の涙も浮舟のことと気づかれないかもしれないし、、」
薫「やっぱり浮舟とあったのだ。馬鹿にされてたんだろうなあ」
匂宮「なんで薫は冷静なんだ。でも結局浮舟は薫の女だったのだ」
→探り合い、にらみ合いが続く。
⑤しばらく仕切りを繰り返した末、薫が匂宮に口を開く。
昔、御覧ぜし山里に、はかなくて亡せはべりにし人の、同じゆかりなる人、おぼえぬ所にはべりと聞きつけはべりて、、、
また、かれも、なにがし一人をあひ頼む心もことになくてやありけむとは見たまへつれど、、、
聞こしめすやうもはべるらむかし。
→薫の長ゼリフ。皮肉と当てこすりだらけ、陰湿で男らしくない。
→どうせなら、「貴方が目をかけられたと聞きましたが、、、」と切り出せなかったものか。。。。無理でしょうね。
⑥薫「さる方にても御覧ぜさせばやと思ひたまへし人になん。おのづからさもやはべりけむ、宮にも参り通ふべきゆゑはべりしかば」
→何れ譲ろうと思ってましたのに、、、これはない!
→浮舟を冒涜する言い方ではなかろうか。やはり薫の劣等感のなせるわざか。
⑦薫と匂宮の歌の贈答
薫 忍び音や君もなくらむかひもなき死出の田長に心かよはば
匂宮 橘のかをるあたりはほととぎす心してこそなくべかりけれ 代表歌
→結局薫と匂宮は浮舟のことを本音で語り合うことはなかった。
→段末脚注 王朝皇族貴族にあっては胸中は忖度し合うものであったということか。
本段、何ともすっきりしない後味の悪い感じでした。
男同士の恋のライバルがお互いに静かな火花を散らし心の探り合い。
特に薫のあてこすり、皮肉はその性格が顕著ですね。
二人とも心を割ってはっきりしてしまえばいいのに、その上で浮舟を偲びその死を悼むなんて無理な話かしら?
ここでも匂宮と薫は対照的ですがすべては薫のすさまじい劣等感の裏返しでしょうか?
薫と匂宮、この段の象徴的な和歌、何やら嫌味たっぷりで意味ありげですね。
この二人、今の心境はお互い憎み合っているのでしょうか?
上流階級はこのような形でしか本音を語りあえなかったのかしら。
庶民にとっては何とも廻りくどく感じられます。
ありがとうございます。
この段、匂宮と薫との応酬(言葉での応酬と心内での応酬)は難しいですね。よく分かりません。
薫は妻(愛人)を寝取られた男、匂宮は間男。本来なら「よくもオレの女に手を出してくれたな!」って凄んでもいいところでしょう。勿論身分上そんなことはできないでしょうが、二人の関係としてはそういうことだと思います。
妻を寝取られた男が寝取った男に皮肉、あてこすりをする。源氏が柏木を酒宴に呼んで凄むところがありました(若菜下p206)。源氏は柏木を睨みつけることで柏木を殺してしまった。正に凶器なき殺人でしょう。寝取られた男のリアクションとしてはこれくらいの迫力があってよかったと思うのですが。寝取った男(柏木)の息子(薫)が今度は寝取られる。。。因果はめぐるということでしょうか。