蜻蛉(4) 薫、浮舟の死を知る

p34-37
4.薫、浮舟の死を知りわが宿世の拙さを嘆く
 〈p147 その頃薫の大将は、母尼宮が御病気になられましたので、〉

 ①大将殿は、入道の宮のなやみたまひければ、石山に籠りたまひて、騒ぎたまふことなりけり。
  →浮舟の失踪(死)に対して先ず匂宮の反応が書かれ、次が母中将の君。薫は三番目にやっと登場。薫が浮舟から如何に遠かったかを伺わせる書き方であろう。

 ②さなむと言ふ人はなかりければ、かかるいみじきことにも、まづ御使のなきを、人目も心憂しと思ふに、、
  →宇治から薫へは急使も立てられていない。それなのに宇治では薫から弔問もないとて情けなく思う。。。何ともちぐはぐである。

 ③御庄の人なん参りて、しかじかと申させければ、あさましき心地したまひて、
  →薫はびっくりしたろうが、その様子はあっさりとしか書かれていない。拍子抜けである。

 ④薫は家司仲信(重臣である)を使いに立てる。
  「、、昨夜のことは、などか、ここに消息して、日を延べてもさることはするものを、いと軽らかなるさまにて急ぎせられにける。、、」
  →ここは薫はもっと怒るべきところだろう。「何故このオレにもっと早く伝えなかった。何故オレの指示を仰がなかった!浮舟はオレの女なんだぞ!」
  →そうできないところが薫。万事コソコソやってきた報いであろう。

 ⑤使いの報告を聞いた薫
  「思はずなる筋の紛れあるやうなりしも、かく放ちおきたるに心やすくて、人も言ひ犯したまふにりけむかし
  →匂宮が浮舟に手をつけていた!薫はこのことをいつ気づいたのだろう。
  →前々からひょっとしたら匂宮が目をつけるかも、、との疑念はあったのだろうがはっきり確信したのはこの時が初めてではなかろうか。

 ⑥京へ帰った薫、浮舟のことを偲ぶ
  ありしさま容貌、いと愛敬づき、をかしかりしけはひなどのいみじく恋しく悲しければ、
  →かわいらしかった浮舟の様子が思い浮かぶ。Too late! である。

 ⑦薫は自分の心の内を整理する。
  「かかることの筋につけて、いみじうもの思ふべき宿世なりけり、、、、仏なども憎しと見たまふにや、人の心を起させむとて、仏のしたまふ方便は、慈悲をも隠して、かやうにこそはあなれ、」
  →浮舟を失ってしまった。所詮私には女性との恋は縁がなかった。仏道を疎かにした罰があたったのだ。仏道こそ私の進むべき道なのだ、、、。
  →ここにおいて薫は女性を心から愛するということを断念したのかもしれない。

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6 Responses to 蜻蛉(4) 薫、浮舟の死を知る

  1. 青玉 のコメント:

    何をさておいても宇治へ使いを出すべきなのに何と薫の悠長なことでしょう。
    当然宇治では情けなくも思うでしょう。匂の宮とは対照的ですね。

    このような時にでも対面を重んじて冷めた対応しかできない薫には呆れて物も言えません。
    所詮薫とはこのような人物だったのです。
    今回の結末はなるべくしてなったような気がしてその犠牲になった浮舟が一層哀れでなりません。
    たとえ薫が道心を選んだとしてもこのような男はどっちみち中途半端にしかならないでしょう。
    まして愛する女性を幸せにするなんて無理な話です。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。薫にいたくご立腹のご様子、弁解の余地もありません。

      浮舟がいなくなった(身を投げた)翌日、薫は石山寺に居た。取り込み中で宇治の浮舟どころではなかった。宇治の方でも大事件を即刻薫に報告する使者を出す訳でもない。薫が事件を知ったのは宇治山荘を警固していた内舎人たちから。

       →やはり宇治の人たち(勿論浮舟が第一だが乳母とか女房たちとか)と薫との間には距離があり過ぎですね。
       →薫は宇治で何が起こり浮舟や人たちが何を悩んでいるのか知らなかったし知ろうともしてなかった。
       →情味に欠ける男と言わざるを得ませんね。

      • 青玉 のコメント:

        考えてみれば浮舟は匂宮にはそれとなく辞世の歌を贈っているのに対して薫には何もしていないのでしたね。
        取り込中だったこと、宇治からの文もなかった等々を差し引いても薫の態度は理解に苦しみます。

        実務家で優秀な薫にしては宇治を軽く見すぎましたね。
        もっと強力で親身な味方を作るべきでした。
        そう言えばも弁の尼はどうしたのでしょう?
        もうかなり歳を取ったのでしょうね。

        薫について考えられることはやはり自身の深層の闇として出生の秘密が大きく横たわっているとしか考えられません。
        薫の人間形成にはこのような誰にも打ち明けられない大きな宿業を抱えていることが大きく影響しているのではないでしょうか?

        それを考慮した時に薫を責めるばかりでは酷のような気もし又彼自身生まれながらにして親の大きな宿命を背負った可哀想な人物だとも思います。
        ましてや出生のことは薫の罪でも責任でもないしこれは運命としか言いようがないのでしょうか・・・。
        実の父、柏木のように一途に思い詰いつめ恐れ多くも源氏の妻を奪うという大胆なところは全く似ていないですね。
        源氏と柏木の欠点ばかりを引き継いでしまったのでしょうか?
        柏木も最初は好きになれませんでしたが最後の方は同情も含めて好きになれた気がします。
        何とか私も最後に「天晴れ薫」と思えるべく期待しているのですが。

        • 清々爺 のコメント:

          1.そう言えば弁の尼、ここでは出てきませんね。この後蜻蛉7でちょっと登場しますが薫が会って出生の秘密を聞いてから5年経ってますのでもう呆けてしまってるんでしょう。それに弁の尼は八の宮北の方(大君・中の君の母)の縁続きなので浮舟には余り関心なかったのかも知れません。

          2.薫の性格と行動様式には出生の秘密が原因しているのだと思います。やはり不幸にして亡くなった「あはれ衛門督!」実父柏木のことが頭から離れることがなかったのでしょう。同じ不義の子ですが冷泉帝はもう少し楽だったのではと思います。実父源氏が生きていて隆盛を誇っている。そして源氏と内々ながらも心を通わすことができていたのですから。

          薫には何とかご期待にそうような薫になって欲しいものです。。

  2. 式部 のコメント:

      源氏の君も薫も絆し(ほだし)があって出家できないと幾度も幾度も言っていますが、これは自身の現世への未練が絶ちがたいことへの言い訳だと思います。
     仏教が尊ばれていた時代ゆえ、仏道修行、出家は尊い、素晴らしいものだという建前と、やっぱりこの世は捨てがたいという本音がせめぎ合っているようです。
     薫の自身への評である「世つかぬ」(女性関係に不慣れ)も、何度も出てきますが、本当にそう思うなら道心を身上としたはずの元の自分に戻って、きっぱりとそれらしい生き方をすればよいのです。
     薫の聖なるものを目指しながら、どうしても俗っぽい感じが拭えないのは、すっきりしなくて残念です。
     所詮、人間とはそんなものかもしれませんがね・・
     薫が本当に出家でもすれば、評価はぐっと上がるかも・・

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      ウジウジ薫をまたしてもバッサリ切り捨てましたね。痛快です。
      薫は今や女二の宮の婿であり出家することなどできっこない。それなのに仏の道がいいだのよく言いますよね。出家できない男、出家するつもりのない男が出家願望を持った時の矛盾・悲劇、これこそ薫の物語じゃないでしょうか。

      それにつけても明石の入道の潔さが光りますねぇ。尤も出家しても大望を果たすべく奔走してたことを考えると、「出家って何?」と思いますけどね。

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