蜻蛉(3) 母、宇治に来訪 浮舟葬送のこと

p25-34
3.中将の君到着 右近ら遺骸なき葬送を行う
 〈p141 雨がひどく降りしきるのに紛れて、〉

 ①雨のいみじかりつる紛れに、母君も渡りたまへり。
  →三月末、ずっと雨が降り続いている。浮舟の涙雨である。

 ②母は浮舟と匂宮のことを知らない。
  母「鬼や食ひつらん、狐めくものやとりもて去ぬらん、いと昔物語のあやしきものの事のたとひにか、さやうなることも言ふなりし
  →まさか入水自殺したとは思いつかない。どこかに居るに違いない、、、母は戸惑いつつも望みは捨てておらず、何としてでも探し出そうと思ったことだろう。
  →その意味では先ずは後見人である薫に連絡をとって助力を求めるのが最上策ではなかろうか。

 ③秘密を知る右近・侍従。更に浮舟の書き残した辞世とも言える独唱歌を見つける。
  なげきわび身をば棄つとも亡き影にうき名流さむことをこそ思へ
  →浮舟の自殺は決定的である。さあどうするか悩む右近・侍従

 ④結局悩んだ末侍従は母にありのまま(匂宮と浮舟との秘事)を語る。
  忍びてありしさまを聞こゆるに、言ふ人も消え入り、え言ひやらず、聞く心地もまどひつつ、さば、このいと荒ましと思ふ川に流れ亡せたまひにけりと思ふに、いとど我も落ち入りぬべき心地して、

  →母は驚き、悲しみ、冷たい川に身を投げずにおれなかった浮舟を助けてやれなかったことに深い自責の念に駆られたことだろう。
  →思えば浮舟からSOSのサインもないではなかった。母の心情察して余りあるところ。

 ⑤薫の配下の者ども(大夫・内舎人)
  「御葬送のことは、殿に事のよしも申させたまひて、日定められ、いかめしうこそ仕うまつらめ
  →浮舟の後見人は薫である(浮舟は薫の愛人である)。何はともあれ薫に事態を報告し指示を仰ぐのが常套である。

 ⑥右近「ことさらに、今宵過ぐすまじ。いと忍びて、と思ふやうあればなん
  →強引にその日の内に火葬に付してしまおうとする右近
  →浮舟失踪の真実を薫に説明することができない以上黙って葬り去るしか方法がない。

 ⑦いとはかなくて、煙ははてぬ
  →死体なき火葬、牛車に積んだ浮舟の身の廻りの遺品などがあっと言う間に燃えつきてしまう。人々が怪しむのも当然である。

 ⑧今後薫にどう説明していくのか悩む右近・侍従、
  「ながらへては、誰にも、静やかに、ありしさまをも聞こえてん、ただ今は、悲しささめぬべきこと、ふと人づてに聞こしめさむは、なほいといとほしかるべきことなるべし
  →二人は秘密を背負い続ける。なかなかできないアッパレな対応ではないでしょうか。

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2 Responses to 蜻蛉(3) 母、宇治に来訪 浮舟葬送のこと

  1. 青玉 のコメント:

    雨の中、心配のあまり中将が宇治へ。
    侍従から事の真相を聞かされた母の驚きはいかばかりか・・・
    なぜ一言相談してくれなかったのか、またなぜ察してやれなかったかと後悔もしたでしょう。

    その日のうちに遺骸のない火葬をしてしまう。
    秘密を共有する右近と侍従は漏洩を防ぐために必死ですね。
    これは浮舟の醜聞を防ぐのと自分たちの不始末を隠したい両者の思いが入り乱れてのことでしょう。
    薫への説明にも苦慮する。
    かえってこのことが余計に不信感を招くのではないでしょうか?

    人の亡くなりたるけはひにまねびて、出だし立つるを、乳母、母君は、いとゆゆしくいみじと臥しまろぶ
    母、中将はそれで良かったのでしょうか?
    それとも最早正気を失って判断できる状態ではなかったのでしょうか?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      匂宮が時方を遣わして様子を聞きだしたのは失踪の翌日(先ず使いの者が早朝に行った。それで埒があかなかったので午後にまた時方が行った)。そして時方が帰るのと前後して中将の君が来た。折しもひどい雨。

      母は驚いたでしょう。おっしゃる通り正気を失って判断できる状態ではなかったのでしょう。母も何かあるなとは気づいていたもののまさか匂宮とのことで浮舟が追い詰められていたとまでは思いつかなかった。

      追い詰められた女はどうするか、どこか山中にでも身を隠し彷徨っているのではないか、まだ生きている筈、早く探し出さなくっちゃ、、、そう思って大捜索をかけるのが普通でしょう。それをぴしゃりと否定して宇治川に身を投げたと断言する右近・侍従。

      そして宇治川の描写

        ・川の方を見やりつつ、響きののしる水の音を聞くにも疎ましく悲しと思ひつつ、
        ・このいと荒ましと思ふ川に流れ亡せたまひにけり、、、

      目の前に音を立てて流れる宇治川。雨で水かさも増していたのでしょう。「失踪ならまだ手立てもあろうにこの川に身を投げたのなら、、、、」母も観念せざるを得なかったのでしょう。

      思えば母は宇治川の水音が恐ろしいとして心配していた。
       この水の音の恐ろしげに響きて行くを、「かからぬ流れもありかし。、、、」(浮舟p242)

      恐ろしい川としての宇治川が大道具として効果を発揮しています。

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