浮舟(32・33) 浮舟の終章 遠寺の鐘の音

いよいよ浮舟の巻の最後です。

p280-286
32.浮舟死を前に、匂宮と薫を思い肉親を恋う
 〈p124 右近から、匂宮にはっきりとお断わりしたことを〉

 ①いよいよ思ひ乱るること多くて臥したまへるに、入り来てありつるさま語る
  →匂宮が来て何とか逢おうとしたが果たせず、無為に帰ったと聞いた浮舟、「万事が休した」と思ったのではないか。

 ②親に先立ちなむ罪失ひたまへとのみ思ふ
  →親を残して死ぬのは親の極楽往生の妨げである。これが一番辛い。

 ③ありし絵を取り出でて見て、描きたまひし手つき、顔のにほひなどの向かひきこえたらむやうにおぼゆれば、
  →匂宮とのこと(閨のことも含め)がまざまざと甦る。

 ④行く末遠かるべきことをのたまひわたる人もいかが思さむといとほし。
  →薫のことはただそれだけ。恋しいという気持ちは入っていない。

 ⑤浮舟 なげきわび身をば棄つとも亡き影にうき名流さむことをこそ思へ
  →死を決意した浮舟。絶唱である。

 ⑥羊の歩みよりもほどなき心地す
  →「羊の歩み」一条朝には、人生のはかなさを言う常套語となっていたのであろう(付録p302)

33.浮舟、匂宮と中将の君に告別の歌を詠む
 〈p126 匂宮からは、切ないお気持ちを綿々と書いて〉

 ①浮舟→匂宮 からをだにうき世の中にとどめずはいづこをはかと君もうらみむ
  →すごくストレートな歌である。
 
  浮舟→薫の歌はない。
  →これは強烈。薫がいささか可哀そうである。

 ②京の母から手紙
  「寝ぬる夜の夢に、いと騒がしくて見えたまひつれば、、、」
  →母の勘は鋭い。でも忙しくて来てやれない。これも人の世の「あや」であろう。

 ③浮舟→母
  のちにまたあひ見むことを思はなむこの世の夢に心まどはで
  鐘の音の絶ゆるひびきに音をそへてわが世つきぬと君に伝へよ
  →何とも切ない。これを読んだ母の思いはいかなるものであったろう。

 ④乳母「あやしく心ばしりのするかな。夢も騒がしとのたまはせたりつ
  →さすが乳母も勘がいい。

 ⑤右近「もの思ふ人の魂はあくがるなるものなれば、夢も騒がしきならむかし。いづ方と思しさだまりて、いかにもいかにもおはしまさなむ
  →どちらかにお決めなさい。右近の率直な意見である。
  →「あくがる」
    物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る(和泉式部)

 ⑥萎えたる衣を顔に押し当てて、臥したまへりとなむ。
  →浮舟、最後の姿である。「あはれ、浮舟!」

ゴ~ン、、鐘の音とともに浮舟の巻が閉じられます(段末脚注)
  

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6 Responses to 浮舟(32・33) 浮舟の終章 遠寺の鐘の音

  1. 青玉 のコメント:

    死を覚悟した浮舟の悲壮な決意。
    浮かぶのは親のこと、匂の宮、薫へと次々と心乱れる浮舟・・・
    特に母への思慕、異父妹や中の君への思いが交錯し眠れぬままに夜は明けてゆく。
    最期の圧巻です。
      からをだにうき世の中にとどめずはいづこをはかと君もうらみむ
    匂宮への遺書ともとれる歌。
    やはり最期の正直な匂の宮への思いでしょうね。
    薫には残さない、二股を掛けたと思われたくない。
    浮舟は決して二股をかけたのではないと思います。
    結果的に三角関係になりはしたものの自ら望んでのことではなし・・・
    罪の意識に耐えられず死を選ぶしかなかった浮舟が哀れでなりません。
    このあたりの浮舟の心情、涙なしに読めません

    母からの文、虫の知らせとも言えましょうか。
    母への歌
      のちにまたあひ見むことを思はなむこの世の夢に心まどはで
      鐘の音の絶ゆるひびきに音をそへてわが世つきぬと君に伝へよ

    読ませます、そして泣かせます。
    誦経の鐘の風につけて聞こえ来るを、つくづく聞き臥したまふ
    まるで絵のような場面です。
    前途を暗示しつつ悲しくも見事な幕切れです。
    言葉も見つからず余韻に浸るばかりの朝です。

      むせび泣く宇治の流れに身をゆだねあはれ浮舟病葉のごと

    • 清々爺 のコメント:

      圧巻の巻に相応しい熱いコメントありがとうございます。

      1.浮舟、可哀そうですねぇ。想像ですが浮舟はすごく頭がいい理知的な女性だったのではないでしょうか。和歌や書も能くするし後で囲碁も強かったと出て来ます。この点秀才薫とも波長は合ってたのかも知れません。それだけに事態を分析しどうすればいいのか、何とかしなきゃと考え込んでしまう。そして結局八方塞がりとなり自分を追い詰め死を選んでしまう、、、。哀れです。最後の歌を匂宮、母親に残し、薫には無言のメッセージを送って宇治川に向かう。つくづく理知的な女性だと思います。

      2.浮舟の歌、どちらもいいですよ。宇治川を危なっかしく漂う浮舟、、、病葉というのもいいですね(「病葉」は夏の季語なんですね)。

       折角二つ詠んでいただいたので越権ながら合体としましたがいかがでしょう。

        むせび泣く宇治の流れに身をゆだねあはれ浮舟病葉のごと 

      • 青玉 のコメント:

        ありがとうございます。
        なるほどね~ これでいきましょう。
         むせび泣く宇治の流れに身をゆだねあはれ浮舟病葉のごと
        一番最初はこれだったのです。
        ところがどこかで「涙の川」というフレーズの歌を聴いて使ってみたくなり切り離し合体しつつ思考錯誤。
        「むせび泣く」と「涙の川」の両方を一首にに入れるのはくどすぎる。
        結果二首になった次第です。
        病葉は夏の季語なんですか。知らなかったです。

        仲宗根美樹の「川は流れる」という歌がありましたね。
            ♫病葉を今日も浮かべて~♫
        病葉はあのイメージからきています。

        一首に合体してコメントを締めて下さい。
        よろしくお願いします。

        • 清々爺 のコメント:

          了解です。ではこれで入れておきます。「宇治の流れに」が入った方がいいかなと思ったものですから。

          「病葉」と言えば私も「川は流れる」を思い浮かべます。いい歌ですよね。

           ~~ある人は心冷たく ある人は好きで別れて~~

          なんて、浮舟じゃないですかね。

  2. 青黄の宮 のコメント:

    パソコン修理中のため、最近はスマホでブログを読むのみでしたが、浮舟の終章というので、急遽家内のiPad を借りてコメントを送ることにしました。

    浮舟は自分には何らの過失がないのに、運命の悪戯で三角関係に巻き込まれ、薫と匂宮との間に挟まって悶え苦しみ、死を選ぶ破目に陥りました。本当に哀れでなりません。

    浮舟には三角関係から逃れる何か良い途があったでしょうか。例えば、薫に対して、匂宮に欺かれて関係を持ったことを早く知らせるべきだったのではないか。或いは逆に、匂宮に薫は帝の臣下に過ぎないのだから、浮舟を諦めるように命令してもらえば良かったのではないか。現代流の考え方では、いろいろと浮舟にアドバイスできそうですが、全てに受け身で生きるように躾けられている当時の女性には、そうしたことはできなかったのでしょうね。でも、せめて母親である中将の君に打ち明ければ、何とかもつれをほどいて、解決してくれたであろうと思うと残念です。

    浮舟の入水間際の言動をみると、薫よりも匂宮に惹かれていたことは歴然としています。匂宮 はその情熱と行動力によって、浮舟争奪戦では薫に圧勝したわけで、匂宮役の小生としては溜飲が下がる思いです。浮舟の生活の面倒を見ることに関して、薫の配慮は細かくて万全でしょうが、性に目覚めつつあった若い浮舟にはそんなことは二の次。匂宮の積極的な行動によって、精神的にも肉体的にも女性としての歓びを知ることができたのでしょう。

    仮に匂宮の横槍が入ることなく、すっきりと薫の愛人となった場合、薫が浮舟に女性としての歓びを与えられたかはどうかは疑問です。多分、薫のような冷めた男はセックスも自分が満足すれば終わりという気がします。そうであれば、儚い命で終わるかもしれないものの、当時第一の男性であった匂宮とともに女性としての歓びを味わうことができた浮舟は幸せだったと言えるかもしれません。

    • 清々爺 のコメント:

      全くパソコントラブルって機械に従属しているようで不愉快ですよねぇ。そんな中気風のいいコメントありがとうございます。

      1.浮舟に解決策はなかったのか、、、。おっしゃるように色んなことが考えられますができなかったのでしょうね。でも死ぬことはなかった。もう悩むことは一切止めてお気軽にそのまま待てばどうなってたのでしょう。なるようになってそれが結局浮舟の運命だった。。。普通はそう進むのじゃないでしょうか。

       このまま行くと3月28日夜匂宮が連れ出しに来る。薫側は警固を固めていてトラブルになるのは必至。匂宮が警固を破り(或いは策を弄して)浮舟連れ出しに成功するか、失敗して薫の造っている屋敷に匿われるようになるのか。。。

        →どちらになってもいいと浮舟が思ったのなら成り行きを待ったのかも知れません。でもどう考えても匂宮が成功するとは思えない。このままだと薫に囲われることになる。それは嫌だ。それならいっそ死んだ方がましだ。。。もしそんな風に考えたのなら浮舟は強い女と言えるかもしれません。
        →以上単なる想像の翼です。

      2.「薫のような冷めた男はセックスも自分が満足すれば終わり」ですか、成程その辺でしょうね。セックスは燃える男と燃える女がやってこそお互いに満足感が得られるもので情熱に欠けた男(女性に燃えるような愛情を持って接しない男)には女性の心にも身体にも火がつかないということでしょうか。

       匂宮との官能場面はあれだけ書かれているのに薫との場面は一切語られていない。歌の贈答にしてもこの巻で匂宮は情熱的な歌を浮舟に六首贈っているのに対し薫は事務的なもの(立て文で)を三首。然も最後のは例の「笑い者にしてくれるな」の詰問文。これじゃあ、浮舟の心に火はつきませんね(ましてや身体に火のつく訳がない)。この点に関しては勝負ありでしょうね。

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