竹河(15・16・17) 大君、女宮を出産 玉鬘の悩み

p130-146
15.帝の不満に中将ら母を責める 大君懐妊
 〈p56 帝は、亡き髭黒の太政大臣が、〉

 ①今上帝は不満、玉鬘の長男左近中将に疑問を呈す。
  御気色よろしからず。
  →「天気宜しからず」、天皇のご機嫌は絶対である。

 ②左近中将&右中弁、二人の息子から責められる玉鬘。
  →源氏も頭中もそして夫髭黒も居ない。玉鬘には相談相手がいない。

 ③K15年7月 大君懐妊 4月に冷泉院に参り7月懐妊
  →冷泉院は44才。やるもんですな。

16.薫・蔵人少将男踏歌に加わり、院に参上
 〈p59 その年が改まって、宮中では男踏歌が行われました。〉

 ①明けてK16年正月十四日 男踏歌
  →「男踏歌」で検索するとG36年「初音」とG38年「真木柱」に出てきている。

 ②冷泉院での男踏歌
  薫 流れてのたのめむなしき竹河に世はうきものと思ひ知りにき 代表歌
  筝の琴 御息所(大君)
  琵琶  侍従(薫)
  和琴  冷泉院

  冷泉院は六条院での男踏歌・女楽(@初音)を思い出してご満悦

17.大君、女宮を出産 中の君尚侍となる
 〈p65 四月には御息所に女宮がお生れになりました。〉

 ①G16年4月 御息所(大君)に女宮誕生
  冷泉院には女一の宮(弘徽殿女御腹)に次いで二人目
  (女一の宮、いつ生まれたのか不詳、「匂兵部卿4.」に初出)

 ②冷泉帝は生まれた女宮を寵愛。後宮に波風が立つ。

 ③大君にご執心だった今上帝に中の君を尚侍として参内させる。
  玉鬘はずっと尚侍の職位を保っていた。これを中の君に譲るということ。

 ④熱狂的に大君に恋焦がれていた蔵人少将は空振りに終わる。父である夕霧(&雲居雁)にも不義理したことになり、玉鬘は心苦しい。

 ⑤冷泉院は玉鬘が孫の顔を見に来ないことに不満。御息所も何故母は来てくれないのかと恨む。
  →冷泉院に行けば未だにご執心の冷泉院。危険である。
  →ちょっと不自然な妖しい話であります。

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竹河(11・12・13・14) 大君、冷泉院に参院

p115-130
11.少将、薫の文を見、中将のおもとに訴える
 〈p41 それでもまだ甲斐のない愚痴でも聞いてもらおうと思い、〉

 ①蔵人少将、大君をあきらめきれず再度玉鬘邸を訪れ、薫が大君に宛てた文(歌)を見て益々焦る。
  薫 つれなくて過ぐる月日をかぞへつつもの恨めしき暮の春かな
  →薫は何が何でも大君をとは思っていない。余裕である。

 ②なすすべのない蔵人少将は 例語らふ中将のおもとの曹司の方に行く
  →かねてから手なずけている(肉体関係のある)女房の所へ。いやはや。

 ③中将うち笑ひて、 わりなしやつよきによらむ勝負を心ひとつにいかがまかする
  →女房にも軽くいなされている。情けないぞ、少将!

12.四月一日少将惜春の歌を贈る 女房の返し
 〈p46 その翌日は、四月になりました。〉

 ①K15年4月 蔵人少将、懲りずに歌を贈り続ける。

 ②玉鬘「ただ人にはかけてあるまじきものに故殿の思しおきてたりしものを、、」
  →大君は髭黒(右大臣)と玉鬘の娘。王統でもなんでもない。臣下の者には嫁がせないとは傲慢ではなかろうか。
  →蔵人少将が何故大君に左程に思い入れるのかも不審である。現右大臣で世をときめく夕霧の子息である自分の方が格から言って上だと思うのだが、、、。

13.大君参院 蔵人少将と歌を贈答する
 〈p48 四月九日に、大君は冷泉院にお興入れになりました。〉

 ①4月9日 大君、冷泉院にお輿入れ。夕霧、雲居雁嘆きつつも盛大な祝いをする。

 ②蔵人少将「、、あはれと思ふ、とばかりだに一言のたまはせば、、」
  柏木が女三の宮に訴えるのに酷似
  →柏木の狂気とはレベルが違うでしょうに。この語り口も不審です。

 ③@冷泉院  后、女御などみな年ごろ経てねびたまへるに、、
  冷泉院44才 秋好中宮53才 弘徽殿女御45才 & 大君18-9才
  →これはない、冷泉院ってこんな男だったのだろうか、不審です。

14.薫の未練と蔵人少将の落胆のさま
 〈p54 源侍従薫の君を、冷泉院は明け暮れ御前に〉

 ①冷泉院は薫を可愛がっており薫は冷泉院に常時出入りしている。
  薫 手にかくるものにしあらば藤の花松よりまさる色を見ましや
  →大君に未練はあったものの真剣ではなかった筈。まあ冷静である。

 ②蔵人少将 かの少将の君はしも、まめやかに、いかにせましと、過ちもしつべくしづめがたくなんおぼえける。
  →冷泉院におしかけて奪い取る?馬鹿なことを言いなさんな!

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竹河(9・10) 蔵人少将、姫君たちの囲碁を覗き見

p102-114
9.桜の下、少将、姫君たちの囲碁を隙見する
 〈p30 三月になって、咲く桜があれば、〉

 ①K15年3月 桜の盛りの頃 玉鬘邸 大君と中の君が碁を打っている。
  姫君たちのあでやかな服装&容貌の描写
  →やはり大君の方が何かと勝っている。

 ②三人の兄たちが面白がって見物。三男藤侍従が審判役をおおせつかっている。
  見事な桜の木があり、昔から誰のものにするか家族の間で楽しい会話があった。

 ③玉鬘は大君を冷泉院にと考えているが息子たちは盛りを過ぎた冷泉院より東宮がいいでしょうとの意見
  →玉鬘には冷泉院に負い目がある。普通なら息子たちの方が道理であろう。

 ④兄たちが去って姫君は桜を賭けて三番勝負をする。
  大君を狙っている蔵人少将が来合せて御簾ごしに中庭を隔てて二人を覗き見る。
  この場面国宝源氏物語絵巻 竹河(二)
  →碁打ち覗き見は空蝉2.p166が有名 
   (空蝉と軒端荻が碁を打ってるところを源氏が覗き見する)

 ⑤勝負は右方中の君の勝ち
  大君、中の君&女房たちが歌を詠み合う
  →春の日ののどやかな一幕 
  →脚注「左右に分かれた集団の歌のかけ合いは、古代の歌垣に発する趣向であろう」  

10.大君の参院決定、蔵人少将なおあきらめず
 〈p39 そうこうしているうちにも、〉

 ①大君をめぐり冷泉院と蔵人少将は玉鬘に攻勢をかける。
  冷泉院は弘徽殿女御(玉鬘の異母妹)を通して
  蔵人少将は母雲居雁(玉鬘の異母妹)を通して
  →やはりコネが大切。
  →弘徽殿女御の言葉は本心ではないだろう(脚注参照)。

 ②玉鬘は弘徽殿女御からの勧めもあり(本心ではないにせよ)大君を冷泉院に入れる決意をする。そして蔵人少将には中の君をと考える。
  →大君や中の君の心には全く触れられていない。そんなものであろう。
  

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竹河(6・7・8) 薫、玉鬘邸に年賀に訪れる

p91-102
6.薫、夕刻に玉鬘邸を訪問し優雅にふるまう
 〈p19 夕暮になって四位の侍従薫の君が、〉

 ①舞台は再び玉鬘邸、夕方に薫が年賀に訪れる。
  玉鬘邸の女房たちも薫がお目当て、「いらしたわよ!」と色めきたつ。

 ②玉鬘邸、御念誦堂の御簾の前 庭には梅と鶯の初声
  国宝源氏物語絵巻 竹河一
  →女房たちが六人も描かれている。薫との歌の唱和

  宰相の君 折りて見ばいとどにほひもまさるやとすこし色めけ梅の初花
  薫 よそにてはもぎ木なりとやさだむらんしたに匂へる梅の初花
  →薫もなかなか気をもたせることを言う。

 ③薫 まめ人、とこそつけられたりけれ、いと屈じたる名かな 
  →まめ人と言われたのは夕霧。年が経ち夕霧は尊大になっている。今のまめ人は薫。
  →夕霧のまめ人は父源氏が反面教師か。薫のまめ人は出生への疑惑によるものか。 

7.正月下旬、薫玉鬘邸を訪ね少将らと小宴
 〈p23 薫の君は堅物という名をつけられたことが、〉

 ①正月二十日過ぎ薫は再び玉鬘邸を訪れる。
  中門入りたまふほどに、同じ直衣姿なる人立てりけり。隠れなむと思ひけるをひきとどめたれば、この常に立ちわづらふ少将なりけり。
  →蔵人少将も来て覗き見ている。末摘花で源氏と頭中が出くわしたに同じ(末摘花p120)
  →表現もそっくりでパクリであろう。
  
 ②玉鬘は薫に柏木の面影を感じる。
  「おほかた、この君は、あやしう故大納言の御ありさまにいとようおぼえ、琴の音など、ただそれとこそおぼえつれ」

 ③楽宴、琵琶・筝の琴・和琴・あづま琴 & 催馬楽のオンパレード
  「梅が枝」「東屋」「この殿は」「竹河」「何ぞもぞ
  →今なら生演奏による大カラオケ大会という趣向だろうか。
  →けっこう下ネタ的な歌意が多かったのではなかろうか。

 ④薫「水駅にて夜更けにけり」とて逃げにけり。
  →まめ人薫は酒もあまり飲まず逃げ帰る。これが薫、好色ぶってもできはしない。

8.蔵人少将薫を羨む 玉鬘薫の筆跡をほめる
 〈p27 蔵人の少将は、この薫の君がこうして〉

 ①翌朝、薫から歌が届く。
  薫 竹河のはしうち出でしひとふしに深き心のそこは知りきや 代表歌

 ②玉鬘は薫を絶賛、
  「幼くて院にも後れたてまつり、母宮のしどけなう生ほしたてたまへれど、なほ人にまさるべきにこそはあめれ」 
  (やはり源氏の子、あんな女三の宮に育てられたけどこんなに立派に成長した)
  →玉鬘の源氏礼讃の一節であろう。  

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竹河(1・2・3・4・5) 玉鬘のその後

竹河 姫たちは常少女にて春ごとに花あらそひをくり返せかし(与謝野晶子)

この帖は光源氏の物語→宇治十帖へと続く本筋とは切り離し、謂わば外伝(髭黒に嫁いだ玉鬘のその後)として読むのがいいでしょう。登場人物もここだけの人が多いので憶えておかなくても大丈夫です。スッと行きましょう。

p78-90
1.前口上――髭黒邸の悪御達の話であること
 〈寂聴訳巻八 p10 このお話は、光源氏の御一族とは少し縁が離れて〉

 ①これまでの語り手とは違い髭黒・玉鬘についてた古女房たちの話ですよ。
  →逆に今までの話は紫の上づきの女房たちですよと指摘している。
  →まあそうも言えようか。何れにせよ源氏物語は紫式部が作家として語っているのだが。

2.髭黒死後、訪客もなく近親も疎遠になる
 〈p10 玉鬘の尚侍と、故髭黒の太政大臣との間には、〉

 ①玉鬘十帖「真木柱」の後玉鬘はどうなったのか。
  まもなく夫髭黒死亡
  子どもは男3人(左近中将・右中弁・藤侍従)女2人(大君・中の君)
  玉鬘はずっと尚侍の職にある。
  髭黒は死んだが経済的には源氏からの相続も受けて裕福
  髭黒の人望が今一つだったので人の出入りは余りない。

3.大君、帝・冷泉院・蔵人少将に求婚される
 〈p12 男君たちは、御元服などなさり、〉

 ①姫君二人 結婚年齢にさしかかっている。玉鬘の思案。
  大君、普通なら今上帝に参内させるところだが明石の中宮には蹴落とされよう。
     それなら、欲しいと言ってきている冷泉院がよいか。

 ②冷泉院は昔玉鬘にご執心であった。一時尚侍として参上しお手がつく直前まで行ったが髭黒が自邸に取り戻した。即ち、冷泉院は玉鬘に貸しがあり、玉鬘は冷泉院に借りがある。

 ③夕霧の息子(五男or六男)蔵人少将が大君を狙っている。
  母(雲居雁)を使って玉鬘に大君が欲しいと訴える。

4.薫、玉鬘から源氏の形見として親しまれる
 〈p15 源氏の院の御晩年に、〉

 ①薫登場、四位侍従で14-5才 玉鬘は蔵人少将より薫の方がいいと考えている。
  →薫は源氏の子。蔵人少将は源氏の孫。やはり身分が違う。

 ②薫の年令が出てきたので他の人たちの年令も分かる限り整理しておきましょう(薫14才とします)。K14年時点で。
  冷泉院43才 玉鬘47才 夕霧40才 今上帝35才 明石の中宮33才

  大君・中の君、蔵人少将の年令は不詳ですがまあ結婚適齢期ということで。
 
5.夕霧、年賀に玉鬘訪問 大君について懇談
 〈p16 正月の初めの頃、あの玉鬘の君の御兄弟で、〉

 ①明けてK15年正月 夕霧や紅梅大臣続々と玉鬘邸に年賀に訪れる。
  →適齢期の大君・中の君が狙いなのだろう。現金なものである。

 ②夕霧と玉鬘のやりとり。玉鬘十帖の時お互い意識し合う初々しい仲であったが当時から20数年たちお互い一家を構え子どもたちの結婚で牽制し合う間柄となっている。
  夕霧は長女を今上帝に入れている。大君が今上帝に入るとかち合うことになる。
  冷泉院には秋好中宮(源氏の養女)・弘徽殿女御(玉鬘の異母妹)がいる。
  →やっぱり私のところの蔵人少将がいいのじゃないですか、、、
 
 ③女三の宮(入道の宮)のことが触れられる。
  何と言っても薫の実母。これからの薫物語(宇治十帖)にはかかせない脇役です。

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紅梅 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

紅梅のまとめです。

和歌

85.心ありて風のにほはす園の梅にまづ鶯のとはずやあるべき
    (紅梅大臣)  中君を匂宮に

86.花の香にさそはれぬべき身なりせば風のたよりを過ぐさましやは
    (匂宮)    宮の御方がいいんだ!

名場面

86.兵部卿宮内裏におはすなり。一枝折りてまゐれ。知る人ぞ知る」とて
    (p58  紅梅大臣、匂宮に紅梅を)

[紅梅を終えてのブログ作成者の感想]

紅梅を2日間で終えました。テキストだとわずか27頁ですが新たにいっぱい人が出て来て「どれがどれやらさっぱりわからず、、、それがゴッチャになりましてわてほんまによう云わんわ」(買い物ブギ・笠置シズ子)と言うのが正直な感想でした。

とは言うものの二つ感じたところを記しておきます。
1.この帖は藤原の頭領紅梅大臣の存在にスポットライトを当てた帖と言えましょうか。桐壷帝の時代には左大臣・右大臣を藤原家で占め外戚としての権威を競いあったのですが朱雀帝・冷泉帝・今上帝では源氏の一族に押されて影が薄くなりつつある。そんな中紅梅大臣は頑張っており娘大君を東宮に入れ巻き返しを図っているのですよ、、、と作者は言いたかったのかと思います。夕霧と並び政治の重鎮ですが宇治十帖では殆どチョイ役としてしか登場しません。恐らく夕霧の力に抗しえず第二番手に甘んじていったのでしょう。

 [藤原の頭領は
  左大臣 - 頭中 - (柏木が亡くなったため弟の)紅梅大臣
   となっていますが、実は、
  左大臣 - 頭中 - 柏木 - 薫
   なんです。考えると深いものがありますね]

2.読者の心に残る歌を詠み巻名にもなっている真木柱の君、この人の過去を振り返ってみました。
  父髭黒と引き離され祖父式部卿宮に引き取られる 13才(真木柱)
  祖父、柏木との縁談を望む。柏木、猫の方がいいとして拒絶 16才(若菜下5)
   (この時柏木がOKしていれば、、、、あり得ない話ですが)
  蛍兵部卿宮と結婚するがすぐ飽きられる 16才(若菜下6)
   (不幸な結婚生活とあったがその後宮の御方が生まれている)
  蛍兵部卿死亡、紅梅大臣の北の方になり男君が生まれ現在に至っている 46才(紅梅)
   (30年も飛んでおり歩んだ人生が幸せだったのか不明ですが、波乱万丈ですね)
  
  →若菜下5・6では真木柱の君への想いでコメント欄が賑わいました。

[2014年東京に二十数年ぶりに大雪の降った2月梅の季節に「紅梅」を読んでました、、、と記憶しておきましょう]

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紅梅(5・6・7・8) 紅梅大臣と匂宮、思惑のすれ違い

p60-70
5.匂宮、大夫の君と語らう 大納言に返歌
 〈p365 匂宮は、明石の中宮の清涼殿のお部屋から、〉

 ①匂宮、大夫の君をみつけて宮中の自室に誘う。
  →匂宮も東宮も大夫の君と男色関係にある。即ち三角関係
  →男色といっても可愛がる程度のものだと思うがどうか。

 ②匂宮、紅梅大臣に返歌
  花の香にさそわれぬべき身なりせば風のたよりを過ぐさましやは 代表歌
  →中の君に逢いに来て欲しいと望む紅梅大臣への断りの歌
  →やはり宮の御方の方がいい(これも皇族=桐壷帝の孫だからであろうか)

 ③段の最後の部分に「見たてまつらばやと思ひ歩くに」が反復されている。
  →「紫式部の筆とはとても思えない」と言われている。

6.大納言、匂宮に再び消息 匂宮なお応ぜず
 〈p369 さて、匂宮からのお歌は、〉

 ①拒否の返歌をもらっても紅梅大臣はあきらめない。再度匂宮に歌で誘う。
  匂宮の返事は変わらず冷たい
  匂宮 花の香をにほはす宿にとめゆかば色にめづとや人のとがめん

7.大納言と真木柱、匂宮のことを語り合う
 〈p371 真木柱の北の方が宮中から退出なさって、〉

 ①真木柱は継娘大君が東宮に参内しているので宮中にいる。宮中から帰って紅梅に話す。
  「宮のいと思ほし寄りて、『兵部卿宮に近づききこえにけり、むべ我をばすさめたり』と、気色とり、怨じたまへりしこそをかしかりしか」
  →自分たちの若君(大夫の君)が東宮、匂宮に可愛がられている。そんなの嬉しいのだろうか。

 ②生まれつき芳香を持つ薫と常時香を焚き染めている匂宮のことを繰り返し強調
  
8.匂宮、宮の御方に執心 真木柱応諾せず
 〈p372 宮の姫君は、御自分で何事も分別がおつきになるほど〉

 ①宮の御方=父(蛍兵部卿宮)の父は桐壷帝。母(真木柱)の祖父は式部卿宮(紫の上の父)
  →匂宮がご執心になるのも分かる気がする。

 ②真木柱は夫(紅梅大臣)が中の君を娶せたいと望んでいるので、実娘宮の御方については匂宮の申し出を承諾しない。匂宮もあきらめずにいる。
  →脚注参照 宮の御方の位置づけは確かに面白い。でも結局はここだけの登場となる。

 ③匂宮 いといたう色めきたまうて、通ひたまふ忍び所多く、八の宮の姫君にも、御心ざし浅からで、いとしげう参で歩きたまふ
  →いきなり宇治十帖の前触れ的なことが述べられる。いかにも唐突である。

 色々と不審な部分が多いとされる帖である。紅梅大臣の姫君たちと匂宮のことが語られるが何もストーリーはないし、姫君の性格描写も全くない。感情移入のしようのないつまらない帖と言えようか。

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紅梅(1・2・3・4) 紅梅大臣とその姫君たち

紅梅 うぐひすも問はば問へかし紅梅の花のあるじはのどやかに待つ(与謝野晶子)

光源氏亡き後の人々の様子を紹介した「匂兵部卿」に続き「紅梅」に入ります。藤原の頭領たる按察大納言(頭中の次男、柏木の弟)とその姫君たちのお話で源氏物語本筋とはやや離れる。時系列的にもK24年の話で「匂兵部卿」とも繋がっていないしK20年から始まる宇治十帖との整合性もついていない。宇治十帖の「椎本」と「総角」の間に入れれば座りがいいのにとも言われてます。まあ、スンナリと行きましょう。

p44-60
1.按察大納言と真木柱、その子たちのこと
 〈寂聴訳巻七 p354 その頃、按察の大納言と言われていたお方は、〉

 ①登場人物の整理
  紅梅=按察大納言=頭中の次男、、、現在53-4才
  故北の方(素性不明)との間に二人の姫君
   大君(南面)
   中の君(西面)
  現北の方=真木柱の君(兵部卿宮と不幸な結婚後死に別れ紅梅と再婚)46才
   宮の御方(東面)=兵部卿宮と真木柱の娘
   大夫の君=紅梅と真木柱の息子

 ②髭黒の娘、あの真木柱の登場。
   今はとて宿離れぬとも馴れきつる真木の柱はわれを忘るな(真木柱p140)

2.大君東宮に参上 匂宮を中の君の夫に望む
 〈p355 姫宮たちは、似たようなお年頃で、〉

 ①大君は東宮に入内(東宮には夕霧の長女が既に入内している。後宮はにぎやか)
  中の君、紅梅右大臣は匂宮に娶せたい。匂宮は宮の御方が狙い。すれ違いである。

 ②兵部卿宮、この若君を内裏にてなど見つけたまふ時は、召しまとはし、戯れがたきにしたまふ。
  →匂宮と大夫の君は男色関係。帚木での源氏と小君と同じ。

 ③「せうとを見てのみはえやまじと大納言に申せよ」
  →紅梅右大臣も二人の男色関係は分かっていたのか。これが普通なのだろうか。

 ④春日の神の御ことわりも、わが世にやもし出で来て、故大臣の、院の女御の御事を胸いたく思してやみにし慰めのこともあらなむ
  →皇后は藤原氏から出すべし、頭中の時は源氏に敗れて成しえなかった。
  →この辺り道長はどう読んだのだろう。

3.大納言、継娘の宮の御方に関心を寄せる
 〈p358 大納言はこうして北の方や一の姫君がお留守のため、〉

 ①紅梅右大臣は真木柱の連れ子宮の御方に興味がある。
  →源氏と玉鬘になぞらえられているがどうだろうか。まあ顔くらいは見たいということか。

 ②紅梅右大臣は宮の御方に敬語を使う。
  →父が蛍兵部卿宮。即ち桐壷帝の孫、藤原とは出自が違うということか。

 ③紅梅右大臣、宮の御方に琵琶(父蛍兵部卿宮が名手だった)を弾いてくれと迫る。
  →紅梅右大臣は幼少の頃から美声の持ち主で楽宴ではボーカル担当だった。

4.大納言、紅梅に託して匂宮に意中を伝える
 〈p362 たまたまそこへ、若君が宮中へ参内しようとして、〉

 ①若宮=大夫の君、10才ばかりか。匂宮と男色関係。
  紅梅大臣、宮中の匂宮の所へ紅梅を一枝折って大夫の君に持っていかせる。

 ②紅梅大臣 心ありて風のにほはす園の梅にまづ鶯のとはずやあるべき 代表歌
  →匂宮さまどうぞうちの中の君に逢いに来てください。

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匂兵部卿 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

匂兵部卿のまとめです。

和歌

84.おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめもはても知らぬわが身ぞ
    (薫)   我が出生や如何ならん

名場面

85.光隠れたまひにし後、かの御影にたちつぎたまふべき人、、ありがたかりけり
    (p12   第三部の幕開き)

[匂兵部卿を終えてのブログ作成者の感想]

匂兵部卿2日間ですませました。時代も人物も変わるし何がなにやら頭に入りにくかったかもしれません。私も解説書など読んで「匂宮三帖」には「よく分からない」「ゴチャゴチャしている」「まあ大したことない」といった先入観があり整理がつけられなかったきらいがあります。今回キチンと読んでみると左程の違和感もなく作者が新しい物語を目指していたことが感じられました。

1.光源氏に替る主人公として薫と匂宮の設定。
  例の、世人は、匂ふ兵部卿、薫る中将と聞きにくく言ひつづけて、

  p29脚注17 「匂ふ」はあたりに映発浸透する積極性のある美
        「薫る」は、ほんのりけぶるようなしぜんな美しさ
  →光源氏のまぶしく輝く人物像に比べ光が去って暗くなった世界で嗅覚に訴える二人。
  →その中でも匂宮は陽的で華やか、薫は陰的で控えめ、、対照的な二人です。

 梅は匂い薫る花、この帖で引用されている古歌を並べると、
 
  色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれしやどの梅ぞも(古今・読人不詳)
  匂ふ香の君思ほゆる花なれば折る雫にも袖ぞ濡れぬる(伊勢)
  梅の花散るてふなへに春雨のふりいでつつ鳴く鶯の声(伊勢)
  梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる(古今・読人不詳)
  春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる(凡河内躬恒)
  降る雪に色はまがひぬ梅の花香にこそ似たるものなかりけれ(凡河内躬恒)

 そして青玉さんの見事な歌を再録させていただきます。
  春の夜の羽風に舞ひし梅の花いづれ紅白匂ひ薫れや(青玉源氏物語和歌集・匂兵部卿)

2.薫、匂宮の二人に続き女君二人が紹介されます。冷泉院の女一の宮と夕霧の六の君。作者はこの男女四人が織りなす恋愛模様を展開しようと考えていたのかも知れません。

 冷泉院の女一の宮(えっ、あの冷泉院に子どもができたの!と思いましたが)
  母は秋好中宮と張り合った弘徽殿女御(頭中の一の姫)後ろ楯は頭中一族

 夕霧の六の君
  母は夕霧の愛人藤典侍 箔をつけるため六条院夏の町にいる女二の宮の養女にしている
  源氏が玉鬘を養女とし若公達たちを挑発したような設定か。

 →それはそれで面白かったかもしれませんが、所詮は第一部の色直しに過ぎません。

ということで匂兵部卿を終え来週からは「紅梅」、またころっと違ったお話です。

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匂兵部卿(6・7・8・9・10) 生まれつき芳香を持つ薫&常に香を焚き染める匂宮

p24-38
6.薫の気位源氏をしのぐ 身に芳香あること
 〈p342 昔、光源氏の君とこぞってもてはやされたお方は、〉

 ①光源氏の総括
  桐壷帝のおぼえ・右大臣派の圧迫・謀反の濡れ衣・須磨蟄居・復活栄華・出家勤行

 ②薫、生まれつき体から芳香を発した
  香のかうばしさぞ、この世の匂ひならず、あやしきまで、うちふるまひたまへるあたり、遠く隔たるほどの追風も、まことに百歩の外も薫りぬべき心地しける
  →脚注参照
   宣長も玉の小櫛で不審がっている。古代の作り話でなく現実をリアルに描くのをモットーとした紫式部が何故こんなあり得ない人物設定をしたのだろう。

 ③秋の野に主なき藤袴も、もとの薫りは隠れて、なつかしき追風ことにをりしながらなむまさりける。
  →藤袴より薫の芳香の方がまさっている。う~~ん、我が敬愛する紫式部がこんな風に書きますかねぇ。  

7.匂宮、薫と競う 冷泉院の女一の宮を慕う
 〈p343 こんなふうに、中将の君には、〉

 ①匂宮は薫に負けじと常時香を焚き染めている。
  →薫vs匂宮、ライバルの設定である。

 ②庭の前栽にも香を求める匂宮
  春は梅
  秋は菊・藤袴・吾亦紅(香がある)(女郎花・萩は香がないから植えない)

 ③世人は、匂ふ兵部卿、薫る中将と聞きにくく言ひつづけて、、
  →匂宮、薫の呼称はここから来ている。

 ④匂宮は冷泉院の一の宮に心を寄せている。
  →唐突な話だが結局は進展はない。

8.薫、厭世の心深く、女性関係に消極的
 〈p345 薫中将は、この俗世を心の底から味気ないものと、〉

 ①いきなりK19年に飛ぶ。
  三位の宰相兼近衛中将に。薫中将と呼ばれる。

 ②心の中には、身を思ひ知る方ありて、ものあはれになどもありければ、心にまかせてはやりかなるすき事をさをさ好まず、よろづのこともてしづめつつ、おのづからおよすけたる心ざまを人にも知られたまへり。
  →出生への疑問から若くして道心に目覚め浮ついた所がない(薫の人格を考える上での最重要点)

 ③おのづからなほざりの通ひ所もあまたになるを、
  →性のことと道心のこととはいっしょにならない(この辺今の感覚では理解できない)。  

9.夕霧、六の君を落葉の宮の養女とする
 〈p348 「母尼宮がこの世にいらっしゃる限りは、〉

 ①夕霧、愛人藤典侍腹の六の君を女二の宮(@六条院)の養女にする。
  →行く末は薫か匂宮に娶せたい。箔をつけるため養女に。
  →脚注 六の君には玉鬘の面影がある。
  →結局女二の宮には子どもが生まれない。
  →女二の宮の心情などは一切語られないので幸せなのかどうかさっぱり分からない。

10.薫、六条院の賭弓の還饗に招かれる
 〈p349 明くる年の正月の、〉

 ①明けてK20年正月 賭弓の行事(正月十八日@宮中)
  勝ちは左方 夕霧・匂宮
  負けは右方 薫も負け組

 ②六条院で夕霧主催の還饗
  例によって飲めや歌えやの饗宴

 ②はつかにのぞく女房どもも、「闇はあやなく心もとなきほどなれど、香にこそげに似たるものなかりけれ」とめであへり。
  →来たる物語(宇治十帖)の主役薫を読者に印象づける描写

 

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