匂兵部卿のまとめです。
和歌
84.おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめもはても知らぬわが身ぞ
(薫) 我が出生や如何ならん
名場面
85.光隠れたまひにし後、かの御影にたちつぎたまふべき人、、ありがたかりけり
(p12 第三部の幕開き)
[匂兵部卿を終えてのブログ作成者の感想]
匂兵部卿2日間ですませました。時代も人物も変わるし何がなにやら頭に入りにくかったかもしれません。私も解説書など読んで「匂宮三帖」には「よく分からない」「ゴチャゴチャしている」「まあ大したことない」といった先入観があり整理がつけられなかったきらいがあります。今回キチンと読んでみると左程の違和感もなく作者が新しい物語を目指していたことが感じられました。
1.光源氏に替る主人公として薫と匂宮の設定。
例の、世人は、匂ふ兵部卿、薫る中将と聞きにくく言ひつづけて、
p29脚注17 「匂ふ」はあたりに映発浸透する積極性のある美
「薫る」は、ほんのりけぶるようなしぜんな美しさ
→光源氏のまぶしく輝く人物像に比べ光が去って暗くなった世界で嗅覚に訴える二人。
→その中でも匂宮は陽的で華やか、薫は陰的で控えめ、、対照的な二人です。
梅は匂い薫る花、この帖で引用されている古歌を並べると、
色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれしやどの梅ぞも(古今・読人不詳)
匂ふ香の君思ほゆる花なれば折る雫にも袖ぞ濡れぬる(伊勢)
梅の花散るてふなへに春雨のふりいでつつ鳴く鶯の声(伊勢)
梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる(古今・読人不詳)
春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる(凡河内躬恒)
降る雪に色はまがひぬ梅の花香にこそ似たるものなかりけれ(凡河内躬恒)
そして青玉さんの見事な歌を再録させていただきます。
春の夜の羽風に舞ひし梅の花いづれ紅白匂ひ薫れや(青玉源氏物語和歌集・匂兵部卿)
2.薫、匂宮の二人に続き女君二人が紹介されます。冷泉院の女一の宮と夕霧の六の君。作者はこの男女四人が織りなす恋愛模様を展開しようと考えていたのかも知れません。
冷泉院の女一の宮(えっ、あの冷泉院に子どもができたの!と思いましたが)
母は秋好中宮と張り合った弘徽殿女御(頭中の一の姫)後ろ楯は頭中一族
夕霧の六の君
母は夕霧の愛人藤典侍 箔をつけるため六条院夏の町にいる女二の宮の養女にしている
源氏が玉鬘を養女とし若公達たちを挑発したような設定か。
→それはそれで面白かったかもしれませんが、所詮は第一部の色直しに過ぎません。
ということで匂兵部卿を終え来週からは「紅梅」、またころっと違ったお話です。
薫の和歌には何かせつないものを感じます。
おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめもはても知らぬわが身ぞ
一体自分は何者なんだろう・・・
自身の存在に投げかけるしかない疑問は生涯の生き方や人格に影響を及ぼすのではないかと思います。
この巻、短く終えましたが私にとっては第二部から三部へ移る空白期間をうめるものとして結構参考になりました。
では来週の紅梅を楽しみに・・・時期的には丁度今頃でしょうか。
ありがとうございます。
この帖が第二部と第三部をつなぐ参考になったら言うことありません。源氏を忘れるには気持の切り替えが必要ですもんね。
薫の「おぼつかな、、、」は私の好きな(感動した)歌ベスト5の歌です。おっしゃるように薫の人格形成への影響を伝えている歌で第二部と宇治十帖を見事につないでいる歌だと思います。
匂宮三帖は繋ぎのお話で、筋書き&文章ともに劣っており後世の作との印象が読む前から植え付けられていたせいか、何となく気合いも入らずサーッと読みました。読後感も清々しくありませんでした。
とは言え、上で掲げている清々爺の梅に係わる和歌を読んで、春は梅、その梅は花より香りが愛でられた花であると再認識させられ、薫と匂宮が光源氏の次の主人公として登場したことは、それなりに納得しています(光から香りへ、悪くないです)。王朝期は、香りが優美さにおいて大事な要素だったと思い出しました。
ということで、青玉さんの梅と香りの歌、素晴らしいです。小生も引用させていただきます。
春の夜の羽風に舞ひし梅の花いづれ紅白匂ひ薫れや
ありがとうございます。
「匂宮三帖」のこと先入観を植え付けすぎましたね。ゴメンナサイ。
薫と匂宮の登場に納得いただけばそれでいいと思います。
梅は香りの象徴です。他に有名な歌ピックアップしてみますと、
梅が香を桜の花ににほわせて柳が枝にさかせてしがな(中原致時)
君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をもしる人ぞしる(紀友則)
東風吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな(菅原道真)
人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける(紀貫之)
(紀貫之の歌は百人一首No.35の歌でこの花は梅です。百人一首で梅が詠まれているのはこの一首のみです)
では、窓辺の梅と雪見ながらゆっくりしてください。。
清々爺さん、ハッチーさんお褒めに与りうれしいです。
和歌の良さをどこで判断するのか素人の私には全く解りませんが素直に無心に詠んだものが案外評価がよかったりするのかも知れませんね。
「源氏物語」と与謝野晶子「源氏物語礼讃」歌をめぐっての西田先生が匂宮と薫を梅の花にたとえるならば前者が紅梅で後者が白梅であろうか・・・と書いておられたのを参考にしました。
残る和歌もあと12首、心に響く歌が詠めればこんなうれしいことはありません。
この帖の、薫が我が出生に悩むシーンは 少々くどいですが
凄くリアルですね。その結晶が、薫の独詠歌;
「 おぼつかな誰れに問はましいかにして
初めも果ても知らぬわが身ぞ」
いずれにしても、作者(式部)の 薫に対する
突き放したような人物設定が上手いですね。これでは
薫が幾らカッコ良くても感情移入が出来ないように
なっています。読み手の心情をも計算に入れた物語の展開に
凄い作品だと改めて感じ入りました。
ありがとうございます。
そうか、作者は薫を突き放していますか。なるほど。
源氏物語前篇の直系嫡出子たる匂宮と不義密通による非嫡出子薫ですからねぇ。勝ち馬に乗りたい一般読者はどうしても薫には乗れないのでしょうね。
でもまあそうおっしゃらずに早く宇治十帖に来てください。宇治十帖冒頭では薫の出生のことが嫌と言うほど繰り返されますけどね、、。