若菜下(1・2・3・4) 柏木、あの唐猫を可愛がる

若菜下 二ごころたれ先づもちてさびしくも悲しき世をば作り初めけん(与謝野晶子)

若菜下、物語中でも一番重い巻ではないでしょうか。読むのにエネルギーを使います。気合いを入れて立ち向かいましょう。前巻の唐猫事件を受けて柏木物語から話が始まります。

p14 – 22
1.柏木、小侍従の返書を見て惑乱する
 〈寂聴訳巻六 p160 柏木の衛門の督は小侍従の返事を、〉

 ①G41年3月(晩春)、蹴鞠・唐猫事件に続いている。

 ②柏木は源氏に なまゆがむ心 を抱く。
  →小侍従からも相手にされず。柏木は「源氏が女三の宮を大事にしないのが悪いのだ」と義憤を感じる。

2.六条院の競射 柏木、 物思いに沈む
 〈p160 三月の晦日の日には、〉

 ①六条院で競射の催し(宮中行事を模して六条院でも行う)、殿上人挙って参列。
  左大将 髭黒 = 養女玉鬘の婿 & 右大将 夕霧
  柏木(衛門督)も参加する。
  →柏木、源氏に義憤を感じつつ源氏を見ると恐れをなしてしまう。

 ②柏木、あの時の唐猫が欲しいと思いたつ。
  →毎日毎晩猫が御簾を引き上げる場面を頭に浮かべていたのであろう。 

3.柏木、弘徽殿女御を訪ね、女三の宮を想う
 〈p163 そこで妹君の弘徽殿の女御のところに参上して、〉

 ①弘徽殿女御は妹、女三の宮の兄東宮に嫁いでいる。
  →自分も女三の宮と夫婦になってもおかしくない、、と勇気が湧いたのかもしれない。
 
4.柏木、東宮を促し、女三の宮の猫を預る
 〈p163 その帰り、ついでに東宮の御殿へお立ち寄りになりました。〉

 ①柏木25才、東宮15才。柏木は東宮の幼い時から近くに仕えている。今も東宮に琴を教えている。

 ②猫好きの東宮をけしかけて女三の宮の所から例の唐猫を取り寄せようとする。
  →東宮から明石の女御へ、そして女三の宮へ(頼むルートが理にかなっている)

 ③いといたくながめて、端近く寄り臥したまへるに、来てねうねうといとらうたげになけば、かき撫でて、うたてもすすむかな、とほほ笑まる。
  恋ひわぶる人のかたみと手ならせばなれよ何とてなく音なるらん

  →猫を女三の宮の形代に。異常としかいいようがない。
  →猫は愛玩用動物。猫の持つエロティックさをうまく使っている。

 [猫について]
  猫は奈良時代に中国から。寺の経本を齧るネズミ対策として飼われた。平安朝では愛玩動物に。「ねうねう」となく子ということから「ねこ」。「ねうねう」は「寝よう寝よう」に通じる。

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若菜上 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

若菜上のまとめです。

和歌

68.小松原末のよはひに引かれてや野辺の若菜も年をつむべき
    (源氏)  源氏四十の賀宴(玉鬘主催)

69.身にちかく秋や来ぬらん見るままに青葉の山もうつろひにけり
    (紫の上) 紫の上の絶望的絶唱

名場面

63.正月二十三日、子の日なるに、左大将殿の北の方、若菜まゐりたまふ
     (p70  源氏四十の賀宴(玉鬘主催)

64.御車寄せたる所に、院渡りたまひて、おろしたてまつりたまふなども
     (p81  女三の宮降嫁)

65.今はじめたらむよりもめずらしくあはれにて、明けゆくもいと口惜しくて、出でたまはむ空もなし
     (p111  ああ、忘れられない、朧月夜)

66.若君は春宮に参りたまひて、男宮うまれたまへるよしをなん、深くよろこび申しはべる
     (p158  明石入道の長文遺書)

67.唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大きなる猫追ひつづきて、、
     (p200  柏木物語の始まり(唐猫事件)

[若菜上を終えてのブログ作成者の感想]

若菜上を終えました。物語のトーンが長調から短調にがらりと変わったと思うのですがいかがだったでしょうか。

ポイントも沢山あり、
 ①朱雀院 vs 源氏 女三の宮の登場
 ②玉鬘による源氏四十の賀宴
 ③女三の宮降嫁
 ④朧月夜との再会
 ⑤明石の姫君誕生 明石物語の謎解き
 ⑥唐猫事件 柏木物語の始まり
でしょうか。

一部からの続きあり、一部で敷かれた伏線の具現化あり、新規物語の始まりあり。それらがブレンドされ濃厚なストーリーが展開されようとしている感じです。

それにしても女三の宮を登場させ「紫のゆかり」の物語を更に進展させていく構想はすごいと思います。母(藤壷女御)が藤壷中宮の異母妹、従って女三の宮からみれば藤壷中宮は叔母、紫の上は従姉。母藤壷女御は既に他界、父朱雀院は重病。そんな薄幸の女三の宮を源氏が放っておけるわけがない、、、そして天より六条院に降下(降嫁)する。オセロゲームで幸せだった白石がたちまち不幸な黒石に変った瞬間と言えるのかもしれません。

そして若菜下、益々面白くなりますよ。

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若菜上(38・39・40) 柏木の妄動

p204 – 214
38.柏木、女三の宮への恋慕の情に思い悩む
 〈p149 柏木の衛門の督は、すっかり沈みこんで、〉

 ①垣間見てしまった柏木、垣間見たのを見てしまった夕霧。
  夕霧は女三の宮の幼さ無防備さに何たる様と軽侮する(思ひおとさる)。
  柏木は垣間見れたのも自分の願いが通じたものと都合よく解釈する。

 ②源氏が上機嫌で柏木の蹴鞠上手をほめたたえる。
  →蹴鞠では源氏も頭中に適わなかった(蹴鞠はマイナーなもので別に構わない)。
  →この日何が起こったのか気づかなかった源氏。正にピエロである。

39.柏木、夕霧と同車して、宮への同情を語る
 〈p152 夕霧の大将は、柏木の衛門の督と一つ車に同乗して、〉

 ①夕霧と柏木、帰路同乗して源氏と女三の宮の関係につき討論する。  
  →夕霧・柏木の会話は源氏・頭中の女性談義を思わせる。

 ②柏木 「院には、なほこの対にのみものせたまふなめりな。かの御おぼえのことなるなめりかし。この宮いかに思すらん」
  「いで、あなかま、たまへ。みな聞きてはべり。いといとほしげなるをりをりあなるをや」

  →女三の宮を大事にしてない源氏を許せない。
  →出過ぎた言い方であるが我を忘れている柏木は自制がきかない。

 ③柏木 いかなれば花に木づたふ鶯の桜をわきてねぐらとはせぬ
  夕霧 みやま木にねぐらさだむるはこ鳥もいかでか花の色にあくべき
  →こういう緊張した場面(口論の場面)でも歌でやりとりをする。すごいなぁ。

 ④異事に言ひ紛らはして、おのおの別れぬ
  →夕霧「これはマズイことになったぞ」
   柏木「女三の宮さまを大事にしないヤツは源氏と言えど許さない!」

40.柏木、慕情つのって小侍従に文をおくる
 〈p154 柏木の衛門の督は、今でもまだ太政大臣の〉

 ①督の君は、なほ大殿の東の対に、独り住みにてぞものしたまひける。思ふ心ありて、年ごろかかる住まひをするに、
  →皇女であらずんば結婚しない!今で言えば偏執狂だが当時なら理解できたのだろうか。

 ②いかならむをりに、またさばかりにてもほのかなる御ありさまをだに見む
  →柏木25-6才。女三の宮15-6才。年を言っても仕方がないか。

 ③柏木は小侍従を介して女三の宮に恋文を届ける。
  よそに見て折らぬなげきはしげれどもなごり恋しき花の夕かげ
  →すごい行動力。危なっかしくて見てはおれない。見境がなくなっている。

 ④女三の宮は柏木の文を見て垣間見られたことを知る。咄嗟に思ったのは源氏に叱られるということ。見られた結果柏木がどんな思いに駆られているのかまで思いが至らない。
  →女三の宮の幼さだがこれが皇女というものではなかろうか。

 ⑤小侍従 いまさらに色にな出でそ山桜およばぬ枝に心かけきと
  →この小侍従が今後大きな役割を果たしていく。
  →柏木と小侍従はデキている。「およばぬ枝(女三の宮)はあきらめておよぶ枝(私)にしておきなさいよ!」すごいキャラクターですね。

 さあ事件が起こった。さてどうなりますやら。若菜下へと続きます。

(本日より一週間ほど姫路に行ってきます。投稿は予約してあります。パソコン持って行きますが机に座る時間あまりないかと思います。返信遅れはご容赦ください)
  

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若菜(36・37) 唐猫事件 柏木、女三の宮を垣間見

p194 – 204
さて源氏物語中最もインパクトのある場面にかかります。

36.六条院の蹴鞠の遊び 夕霧柏木加わる
 〈p142 三月頃の空がうららかな日、〉

 ①G41年3月末。明石の女御がお産を終え宮中に帰り六条院は長閑な春に戻っている。
  空は晴れて源氏も人々も暇を持て余している。

 ②六条院源氏の所に例によって兵部卿宮や柏木らが遊びに来ている。
  夕霧が夏の町で若者を集め蹴鞠をしている。源氏が春の町に呼びつける。

 ③蹴鞠 鹿革の鞠を足の甲で蹴り上げて長く続けるのを競う。
  脚注14 蹴鞠は官位が低い若者の遊び→スポーツ総じてそうだったのだろう。

  をさをさ、さまよく静かならぬ乱れ事なめれど、所がら人がらなりけり
  →蹴鞠論。一般的には程度の低い遊びだが場所とやる人次第である。

 ④柏木 衛門督のかりそめに立ちまじりたまへる足もとに、並ぶ人なかりけり。
  →柏木は蹴鞠の名手。女性たちにモテモテであったことだろう。

 ⑤皆段々と夢中になってきて服装も乱れてくる。やる方も見物する方も緊張感が薄れ無礼講的感じになってくる。

 ⑦「花乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」などのたまひつつ、宮の御前の方を後目に見れば、例の、ことにをさまらぬけはひどもして、色々こぼれ出でたる御簾のつまづま透影など、春の手向の幣袋にやとおぼゆ。
  →柏木は胸がドキドキ、殆どボオーっとしていたのではなかろうか。
 
 六条院春の町での位置関係をつかんでおくといいと思います。
 蹴鞠は寝殿東側の桜の木のあたりで
 女三の宮は寝殿の西半分にいる(東半分は明石の女御の居室で不在)
 源氏・兵部卿宮が寝殿の東南隅の高欄で見物
 柏木は寝殿中央の上り口の階段に腰かけて休んでいる

  →http://www.geocities.jp/kakitutei_pickup/genji/6jyoin1-haru.html
   (源氏物語「六条院」春の町)

37.猫、御簾を引き開け、柏木、女三の宮を見る 
 〈p146 御几帳などもだらしなく隅のほうに片寄せてあり、〉

 ①さて日本文学史上最も有名な猫二匹の内一匹の登場です(もう一匹は漱石の猫)。
  →唐猫なので中国から持ち込まれた猫だろうか。宮中でも貴重だったのだろう。

 ②猫は、まだよく人にもなつかぬにや、綱いと長くつきたりけるを、物にひきかけまつはれにけるを、逃げむとひこじろふほどに、御簾のそばいとあらはに引き上げられたる
  →脚注6 どうして簾が上がったのかよく分からないが、まあ何となくでいいのでしょう。

 ③紛れどころもなくあらはに見入れらる
  蹴鞠をやる方も見る女たちも夢中で簾が上がったことに気づかない。
  →すぐに気づいたのは夕霧と柏木
  →見たかったけど見るべきでなかったものを見てしまった柏木

 ④柏木は咄嗟に猫を抱き上げる。
  わりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いとかうばしくてらうたげにうちなくもなつかしく思ひよそへらるるぞ、すきずきしきや。
  →もう無意識の行動ではなかろうか。自分が何をしているのか分からない。

 以上、ブログ作成者も大分興奮して書いています。

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若菜上(34・35) 柏木の登場

p188 – 194
34.夕霧、女三の宮と紫の上とを比較する
 〈p139 夕霧の大将は、女三の宮との結婚を〉

 ①女三の宮の物語へと戻り先ず夕霧の目を通して女三の宮の様子が語られる。
  夕霧は朱雀院からモーションをかけられたことあり、今や源氏の妻であるが好奇心は絶えない。
  いと若くおほどきたまへる一筋にて、
  をさをさけざやかにもの深くは見えず
  →幼くおっとりしているのみ。奥床しくは見えない。
  →今後の事件への伏線である。

 ②女房なども、おとなおとなしきは少なく、若やかなる容貌人のひたぶるにうちはなやぎさればめるはいと多く
  →バックアップすべき女房集団の質が悪い。

 ③かかる方をもまかせて、さこそはあらまほしからめと御覧じゆるしつつ、いましめととのへさせたまはず
  →源氏もややさじを投げたかやるがままにさせている。教育者源氏はどうした!

 ④夕霧の女方評
  ・紫の上 静かで心美しく、、、垣間見た面影が忘れられない。
  ・雲居雁 可愛いけど人に優れたところもない(馴れてしまったということだろう)。
  ・女三の宮 源氏に可愛がられていないし単に皇女というだけか。ちょっと見てみたいけど。
  →この夕霧評に添って物語が進行していく。

35.柏木女三の宮をあきらめず源氏出家を待つ
 〈p141 柏木の衛門の督も、朱雀院にいつも参上して、〉

 ①さて柏木の登場。
  柏木 太政大臣(頭中)の長男、藤原摂関家の長になるべき人
     玉鬘に執心だった(後異母姉と分かるが)
     女三の宮にご執心。朱雀院に母の妹(朧月夜)を介して求婚した経緯あり。
     現在25才 皇女願望で未だ独身
  →プロフィールをしっかり頭に入れておきましょう。

 ②女三の宮の乳母の娘に小侍従というのがいて女三の宮の女房になっている。
  柏木はこの小侍従と「いい仲」で女三の宮の情報を得ている。

 ③世人の女三の宮に関するうわさ
  「対の上の御けはひには、なほ圧されたまひてなむ」
  →紫の上は盤石の地位を占めている。結婚までの経緯や源氏・女三の宮の年令差を考えると世間がそう思うのも無理はなかろう。
  →女三の宮命の柏木にとってはトンデモナイ!それは許せない!ってことになる。

 何か起りそうな感じです、、、、、。

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若菜上(32・33) 源氏、入道入山を知る。明石物語一段落

p175 – 188
32.源氏、入山を知り、奇しき宿世を思う
 〈p129 源氏の院は、それまで女三の宮のところに〉

 ①明石の君と女御が入道の手紙を読み愁嘆に暮れている所に源氏が表れる。
  先ず若宮のことで軽口を交す。
  あなたにこの宮を領じたてまつりて、懐をさらに放たずもてあつかひつつ、人やりならず衣もみな濡らして脱ぎかへがちなめる
  →脚注9通りここは紫式部日記の有名場面に照応
   脚注9引用の前の部分:
   殿の夜中にも暁にもまゐりたまひつつ、御乳母のふところをひきさがさせたまふに、うちとけて寝たるときなどは、何心もなくおぼほれておどろくも、いといとほしく見ゆ。心もとなき御ほどを、わが心をやりてささげうつくしみたまふも、ことわりにめでたし。
  →道長の有頂天ぶり。源氏はここまではしゃいではおらずむしろ女方の可愛がりようを窘めている。道長は源氏物語のこの件をどう読んだのだろう。

 ②明石の君「いとうたて、思ひ隅なき御言かな」
  →明石の君は源氏にピシャリと物を言う(p178脚注1)

 ③明石の君、入道入山のことを源氏に伝える。
  →源氏には明石で入道の世話になったことがまざまざと蘇ったことだろう。
  →嵐の日入道が須磨に源氏を迎えに来なければこの話は成り立っていない。
  →人柄と言い特異な世渡りといいインパクトある人物。源氏には恩人と映ったことだろう。

 ④願文のこと夢のこと、源氏も知るところとなり明石一族の想いを共有できた。
  →読者もホッとしたのではないか。

33.源氏紫の上を称揚 明石の君わが身を思う
 〈p135 明石の女御には、「これには、ほかにも一緒に添えて

 ①若宮誕生・入道入山を踏まえ源氏は明石の女御&明石の君に紫の上のことを語る。
  あなたに御心ばへをおろかに思しなすな。
  ただまことに心の癖なくよきことは、この対をのみなむ、これぞおいらかなる人と言ふべかりける。

  →明石の女御へ。女御も元より異論はなかろう。

 ②源氏→明石の君 そこにこそ、すこしものの心得てものしたまふめるを、
  →明石の君は少しどころか全部分かっているでしょうよ。
  
 ③紫の上が女御を明石の君に託したことについての源氏の明石の君への言葉(脚注7)
  女御を任せたのは単なる手伝いのため。女御の後見者はあくまで養母の紫の上。
  →さすが源氏はしたたかである。二人の関係を緊張的持続関係に誘導している。
  →明石の君が即座に源氏の意図を見抜くところもすごい。こんな話を書ける紫式部はもっとすごい。

 ④かくて明石物語は若宮誕生と入道入山で一段落をつげ重っ苦しい女三の宮物語へと戻ります。

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若菜上(29・30・31) 入道の願文に対する明石一族の反応

p166 – 175
29.明石の君と尼君、悲喜交々の運命に泣く
 〈p122 明石の君は、明石の女御のいらっしゃる〉

 ①入道からの手紙を見ての明石の君と尼君
  →二人は入道の行動を予想はしてたのであろうがやはりショックだったろう。
  →二人して涙にくれる。姫君の入内・懐妊・出産と忙しく入道のことを思い出す暇もなかったであろうに、鬼気に迫る長文の最後の手紙を見ては冷静ではおれない。

 ②明石の君 「ひが心にてわが身をさしもあるまじきさまにあくがらしたまふ、と中ごろ思ひただよはれしことは、かくはかなき夢に頼みをかけて、心高くものしたまふなりけり」 
  →明石の君も入道の願文の経緯詳細までは知らなかったのか。ここで初めて全てを知る。

 ③尼君、久しくためらひて、
  →すぐには言葉が出て来ない。尤もであろう。
  
  明石の尼君の述懐。
  →非常にまともで切々と心の内を吐露している。
  →入道という偏屈者を夫に持った妻
  →入道共々出家して世を捨てた自分がまた京に上り今や国母の母君になろうとしている。

   尼になって京に戻るはめになった歌が思い出される。
   身をかへてひとりかへれる山里に聞きしに似たる松風ぞ吹く(松風)
  →この尼君の一生も波乱万丈である。
     
 ④明石の女御&若宮は春の町に居て尼君は会えない。
  →この期に及んでは源氏も年老いた尼君に配慮してあげればいいのに。。

30.東宮、明石の女御と若宮の参入を促す
 〈p126 東宮からは明石の女御に〉

 ①東宮15才 明石の女御が里下がりして若宮を産んだ。
  →母子ともに早く内裏に帰って来てほしいと思うのは当然であろう。

 ②明石の女御(今や御息所である!)は帰りたくない。
  →紫の上も明石の君も居る六条院は気楽。緊張を強いられる内裏になど帰りたくない。
  →里帰り出産は今でも同じだろう(ウチもそうです)。

 ③源氏「かやうに面痩せて見えたてまつりたまはむも、なかなかあはれなるべきわざなり」
  →面やつれした顔も魅力がある!?朧月夜の時もそんな表現あったがいかがなものだろう。

31.明石の君、入道の願文を女御に託する
 〈p127 紫の上がお帰りになられた夕暮、〉

 ①明石の君が女御に入道の願文を渡して今までのこと、今後のことにつき諭す。
  むつかしくあやしき跡なれど、これも御覧ぜよ。この御願文は、近き御厨子などに置かせたまひて、かならずさるべきをりに御覧じて、この中のことどもはせさせたまへ。
  
 ②入道の願文の序でに紫の上に感謝するよう改めて言い聞かす。
  対の上の御心、おろかに思ひきこえさせたまふな。
  →実母明石の君の心底からの言葉であろう。

 ③明石の女御は育ちがよく純情可憐。実母にも養母にも素直に応じる。
  →教育の賜物であろう。明石一家のDNAはすごい。

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若菜上(28) 明石の入道 世を捨て山に入る

p156 – 166
28.明石の入道入山、最後の消息を都におくる
 〈p117 あの明石の入道も、〉

 ①明石の女御が若宮を無事出産したとの報が明石の入道に届く。それを聞き遂げての明石の入道のリアクションが語られる。名場面だと思います。

 ②入道の願いは娘明石の君が貴人と結婚しその娘が入内して男子(後の天皇)を産むこと。正しく今このウルトラ願望が成し遂げられた! もう思い残すことはない、、、とて深山に入る(二度と里に戻らない)。

 ③入道の長文が紹介される。源氏物語中一番長い手紙ではなかろうか。
  入道の願いの経緯が語られる。
   明石の君が生まれる年の二月に見た夢、、、これが実現したことになる。
   わがおもと生まれたまはむとせしその年の二月のその夜の夢に見しやう、みづから須弥の山を右の手に捧げたり、山の左右より、月日の光さやかにさし出でて、世を照らす、、、、、、、、
  →明石物語の原点の謎解きとも言えようか。入道の種明かしである。

 ④入道の辞世の歌
  ひかり出でん暁ちかくなりにけり今ぞ見し世の夢がたりする

  かの社に立て集めたる願文どもを、大きなる沈の文箱に封じ籠めて奉りたまへり
  →住吉神社への願文。これを残しておき執念深く願いを追及するところがすごい。

 ⑤入道より愛する尼君への短い手紙が切ない。
  かひなき身をば、熊、狼にも施しはべりなむ。そこにはなほ思ひしやうなる御世を待ち出でたまへ。明らかなる所にて、また対面はありなむ。

 ⑥入道、世を捨てるにあたって重要物(琴の御琴・琵琶など)は寺に施入し他は関係者に分け与え財産をきれいさっぱり処分する。
  →入道の清廉潔白さ(尤も財をなすには多少の荒っぽいことはあったであろうが)

 ⑦明石の入道について(G41年のこの時年令は75才)
  ・父は大臣(桐壷更衣の父按察大納言の兄弟)。従って明石の入道と桐壷更衣は「いとこ」
  ・即ち源氏と明石の方は「はとこ」or「またいとこ」
  ・近衛中将まで昇ったが何やらあって播磨守になり明石の地で出家
  ・G9年明石の君生まれるとき(32年前)夢を見て住吉神社へ願いを掛ける。
  ・G27年源氏明石へ。明石の君と契る。
  ・G29年明石の姫君誕生
  ・G31年明石の尼君・明石の方・明石の姫君大堰に移る(入道にとっては永久の別れ)。
  ・G31年明石の姫君、六条院へ移る。
  ・G39年明石の姫君入内
  ・G41年明石の姫君、若宮を出産

  →実に波乱万丈の一生ではないでしょうか。

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若菜上(26・27) 明石の女御 男御子を出産

p152 – 156
26.明石の女御 男御子を出産 人々の喜び
 〈p113 三月の十日過ぎに、〉

 ①三月の十余日のほどに、たひらかに生まれたまひぬ。、、、、男御子にさへおはすれば、限りなく思すさまにて、大殿も御心落ちゐたまひぬ。
  →出産の様子は省筆されていきなり無事の出産が語られる。
  →全く同じ描写が明石の姫君(女御)誕生の時にある。
   「(三月)十六日になむ。女にてたひらかにものしたまふ」(澪標p202)

 ②出産は冬の町でなされたが産湯の儀式は正式な居所春の町で行う。
  紫の上が白装束で新生児を抱いて(本当の祖母のように)産湯の儀式を行う。
  産湯を使わすのは春宮の宣旨、明石の君はその介添え役をつとめる。
  →紫の上も嬉しかったことだろう。明石の君はあくまで裏方に回る。

 ③産養の儀、産後3・5・7・9日目。7日目は冷泉帝・秋好中宮・朱雀院からも祝いが寄せられる。
  →3・5・7・9日それぞれ紫式部日記に詳しく書かれている(それが目的であった)。
  
 ④大殿の君も、若宮をほどなく抱きたてまつりたまひて、、
  →孫を抱く源氏。夕霧には孫沢山できているが夕霧は源氏に見せない。
  →源氏は天にも昇る気持ちだったろう。

 ⑤紫式部日記(史実)との対比
  源氏物語: 源氏 - 明石の女御 - 男御子 (御湯殿=春宮宣旨 介添え=明石の君)
  紫式部日記(史実): 道長 - 彰子 - 敦成親王 (御湯殿=宰相の君 介添え=大納言の君)
  →源氏と道長が相通じていることがよくわかる。
 
27.若宮成長し紫の上と明石の君の仲睦まじ
 〈p116 若宮は日ましに、ものを引き伸ばすように〉

 ①御乳母など、心知らぬはとみに召さで、さぶらふ中に品、心すぐれたるかぎりを選りて仕ふまつらせたまふ
  →乳母は重要。人品・人格がポイント。(源氏物語が教育書と謂われる所以であろう)

 ②紫の上と明石の君、姫君入内の時初対面。その後互いに認め合う好ましい関係になっている。今回女御の出産は両者にとって素直に嬉しかったであろう。
  →源氏も胸をなでおろしたことだろう。

 ③男御子は紫の上・明石の君にとって初孫。
  →孫は可愛い。実子のない紫の上は出ない乳房を含ませ慈しみ育てた養女の子ども。天児(厄払いの人形)を自分で作ったり、幸せを実感したことであろう。
  
 ④古代の尼君(明石の尼君)にとってはひ孫。
  →ひ孫となるともう孫ほどの嬉しさは湧かないのかもしれない。
  →明石の尼君には大堰で別れたあとの孫(明石の姫君)と会えないのが辛かったことだろう。

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若菜上(24・25) 明石の女御 出産迫る 尼君登場

p142 – 151
24.新年、明石の女御出産迫り加持祈祷する 
 〈p106 新しい年になりました。〉

 ①さて四十の賀の年は過ぎてG41年、明石物語へと話が移る。

 ②明石の女御が懐妊して昨年来里下がりで春の町寝殿の東側に住んでいる。
  出産が近づき加持祈祷が行われる。
  →源氏には葵の上を出産で失った痛恨事が頭から離れない。

 ③明石の女御は方違えで同じ六条院内の実母明石の君の冬の町中の対に移る。

 ④母君、この時にわが御宿世も見ゆべきわざなめれば、いみじき心を尽くしたまふ
  →実母明石の君にとっても一世一代の大勝負。無事男の子を産んで欲しい!

25.尼君、女御に昔を語る 明石の君の狼狽
 〈p107 あの女御の祖母にあたる大尼君も、〉

 ①明石の尼君登場。65-6才。呆けてはいるが元気である。

 ②母明石の君は女御が入内の時対面しているが明石の尼君はまだ会っていなかった。大堰の別れ以来10年振りに孫と対面。
  →これは嬉しかったことでしょう。生きていた甲斐があったと思ったでしょう。

 ③女御の出自については源氏も養母紫の上も実母明石の君も言葉を濁してきた。尼君が嬉しさの余り見境なく女御に昔のことを語り聞かせる。
  →そりゃあ仕方ないでしょう。尼君を責めるのは可哀そうです。

 ④これを聞いた女御(13才)の物分りの良さが素晴らしい。教育の賜物であろう。
  わが身は、げにうけばりていみじかるべき際にはあらざりけると、対の上の御もてなしに磨かれて、人の思へるさまなどもかたほにはあらぬなりけり、、、、

 ⑤明石の君も尼君が余計なことを喋ったなと気づくが苦笑するしかない。
  →いつかは知らねばならないこと。冷泉帝もそうだが出生のことは早く知る方が望ましい。

 ⑥明石三代の女性の唱和
  尼君 老の波かひある浦に立ちいでてしほたるるあまを誰かとどめむ
  明石の女御 しほたるるあまを波路のしるべにてたづねも見ばや浜のとまやを
  明石の君 世をすてて明石の浦にすむ人も心の闇ははるけしもせじ

  →尼君の歌も衰えていない。13才の女御も素直で好ましい。
  →明石一族の聡明さが表れている。

カテゴリー: 若菜上 | 4件のコメント