p194 – 204
さて源氏物語中最もインパクトのある場面にかかります。
36.六条院の蹴鞠の遊び 夕霧柏木加わる
〈p142 三月頃の空がうららかな日、〉
①G41年3月末。明石の女御がお産を終え宮中に帰り六条院は長閑な春に戻っている。
空は晴れて源氏も人々も暇を持て余している。
②六条院源氏の所に例によって兵部卿宮や柏木らが遊びに来ている。
夕霧が夏の町で若者を集め蹴鞠をしている。源氏が春の町に呼びつける。
③蹴鞠 鹿革の鞠を足の甲で蹴り上げて長く続けるのを競う。
脚注14 蹴鞠は官位が低い若者の遊び→スポーツ総じてそうだったのだろう。
をさをさ、さまよく静かならぬ乱れ事なめれど、所がら人がらなりけり
→蹴鞠論。一般的には程度の低い遊びだが場所とやる人次第である。
④柏木 衛門督のかりそめに立ちまじりたまへる足もとに、並ぶ人なかりけり。
→柏木は蹴鞠の名手。女性たちにモテモテであったことだろう。
⑤皆段々と夢中になってきて服装も乱れてくる。やる方も見物する方も緊張感が薄れ無礼講的感じになってくる。
⑦「花乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」などのたまひつつ、宮の御前の方を後目に見れば、例の、ことにをさまらぬけはひどもして、色々こぼれ出でたる御簾のつまづま透影など、春の手向の幣袋にやとおぼゆ。
→柏木は胸がドキドキ、殆どボオーっとしていたのではなかろうか。
六条院春の町での位置関係をつかんでおくといいと思います。
蹴鞠は寝殿東側の桜の木のあたりで
女三の宮は寝殿の西半分にいる(東半分は明石の女御の居室で不在)
源氏・兵部卿宮が寝殿の東南隅の高欄で見物
柏木は寝殿中央の上り口の階段に腰かけて休んでいる
→http://www.geocities.jp/kakitutei_pickup/genji/6jyoin1-haru.html
(源氏物語「六条院」春の町)
37.猫、御簾を引き開け、柏木、女三の宮を見る
〈p146 御几帳などもだらしなく隅のほうに片寄せてあり、〉
①さて日本文学史上最も有名な猫二匹の内一匹の登場です(もう一匹は漱石の猫)。
→唐猫なので中国から持ち込まれた猫だろうか。宮中でも貴重だったのだろう。
②猫は、まだよく人にもなつかぬにや、綱いと長くつきたりけるを、物にひきかけまつはれにけるを、逃げむとひこじろふほどに、御簾のそばいとあらはに引き上げられたる
→脚注6 どうして簾が上がったのかよく分からないが、まあ何となくでいいのでしょう。
③紛れどころもなくあらはに見入れらる。
蹴鞠をやる方も見る女たちも夢中で簾が上がったことに気づかない。
→すぐに気づいたのは夕霧と柏木
→見たかったけど見るべきでなかったものを見てしまった柏木
④柏木は咄嗟に猫を抱き上げる。
わりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いとかうばしくてらうたげにうちなくもなつかしく思ひよそへらるるぞ、すきずきしきや。
→もう無意識の行動ではなかろうか。自分が何をしているのか分からない。
以上、ブログ作成者も大分興奮して書いています。
六条院での蹴鞠の様子、何だかけだるく退廃的な雰囲気を感じます。
お公家さんたちの蹴鞠の映像、見たことありますが、独特の木靴かなんか履いていましたよね。
そこへ唐猫の登場。
紫式部はどうしてここで猫を登場させたのでしょうね。
猫のいたずらで柏木が女三の宮を垣間見る場面が必然だったのでしょうか?
上手く考えるものですね。
通常なかなか浮かばない発想に思えます。
柏木、何だか怪しげで異常な動きですね。
恋は盲目ということでしょうか?
ありがとうございます。
蹴鞠の様子、コメントいただいた「退廃的な雰囲気」というのがピッタリだと思います。長閑な春の昼下がり、何となくけだるいムードが漂う。そんな中若いトップスターたちがスポーツに興じる。華やいだ掛け声なども聞こえたのでしょう。御簾の中の若い女房たちもじっとしておられない。競い合ってお目当ての公達を一目でも見ようと必死になる。一種異様なムード、女三の宮がつられて立ち上がり身を乗り出したのも無理ないかもしれません。
そこへ猫、本当にうまいですねぇ。ここは犬では絵にならない。猫の持つ「淫なる気配」がピッタリだと思います。