若菜下 二ごころたれ先づもちてさびしくも悲しき世をば作り初めけん(与謝野晶子)
若菜下、物語中でも一番重い巻ではないでしょうか。読むのにエネルギーを使います。気合いを入れて立ち向かいましょう。前巻の唐猫事件を受けて柏木物語から話が始まります。
p14 – 22
1.柏木、小侍従の返書を見て惑乱する
〈寂聴訳巻六 p160 柏木の衛門の督は小侍従の返事を、〉
①G41年3月(晩春)、蹴鞠・唐猫事件に続いている。
②柏木は源氏に なまゆがむ心 を抱く。
→小侍従からも相手にされず。柏木は「源氏が女三の宮を大事にしないのが悪いのだ」と義憤を感じる。
2.六条院の競射 柏木、 物思いに沈む
〈p160 三月の晦日の日には、〉
①六条院で競射の催し(宮中行事を模して六条院でも行う)、殿上人挙って参列。
左大将 髭黒 = 養女玉鬘の婿 & 右大将 夕霧
柏木(衛門督)も参加する。
→柏木、源氏に義憤を感じつつ源氏を見ると恐れをなしてしまう。
②柏木、あの時の唐猫が欲しいと思いたつ。
→毎日毎晩猫が御簾を引き上げる場面を頭に浮かべていたのであろう。
3.柏木、弘徽殿女御を訪ね、女三の宮を想う
〈p163 そこで妹君の弘徽殿の女御のところに参上して、〉
①弘徽殿女御は妹、女三の宮の兄東宮に嫁いでいる。
→自分も女三の宮と夫婦になってもおかしくない、、と勇気が湧いたのかもしれない。
4.柏木、東宮を促し、女三の宮の猫を預る
〈p163 その帰り、ついでに東宮の御殿へお立ち寄りになりました。〉
①柏木25才、東宮15才。柏木は東宮の幼い時から近くに仕えている。今も東宮に琴を教えている。
②猫好きの東宮をけしかけて女三の宮の所から例の唐猫を取り寄せようとする。
→東宮から明石の女御へ、そして女三の宮へ(頼むルートが理にかなっている)
③いといたくながめて、端近く寄り臥したまへるに、来てねうねうといとらうたげになけば、かき撫でて、うたてもすすむかな、とほほ笑まる。
恋ひわぶる人のかたみと手ならせばなれよ何とてなく音なるらん
→猫を女三の宮の形代に。異常としかいいようがない。
→猫は愛玩用動物。猫の持つエロティックさをうまく使っている。
[猫について]
猫は奈良時代に中国から。寺の経本を齧るネズミ対策として飼われた。平安朝では愛玩動物に。「ねうねう」となく子ということから「ねこ」。「ねうねう」は「寝よう寝よう」に通じる。
理性を失った柏木は寝ても覚めても女三の宮の事しか頭にない。
そうなると女三の宮を蔑ろにしている源氏にさえ理不尽な憤りを感じる。
さりとて源氏を目にすれば萎縮する。
何とも複雑で異常な心理状態です。
そして柏木の異常な行動に猫がより物語を効果的にしています。
何やら不気味さを感じる場面です。
ありがとうございます。今月はたっぷりと若菜下です。よろしくお願いします。
「理性を失った柏木は寝ても覚めても女三の宮の事しか頭にない」
男というものはそんなものなんでしょうか。これまでの物語では、
①源氏が藤壷に恋こがれて夢遊病者状態にあったところ「若紫」
②源氏が夕顔に耽溺し夜な夜な夕顔の宿に通いつめたところ「夕顔」
それと物語には書かれていませんが、
③髭黒が玉鬘に思いつめ弁のおもとに責めよったところ
などが思い浮かびます。恋の病は治すすべがない、、、罹ったことないので分かりませんが。。。
映画「紫」
今日限りだと聞きあわてて観てまいりました。
染色史家 吉岡幸男さんのドキュメンタリーです。
冒頭、聞き手が吉岡さんは何色が一番お好きですか?
「紫です」に始まりました。
日本古来の植物染料にこだわる男の日常とよしおか工房の職人たちの闘いを描いたものでした。
映画では主に東大寺二月堂修二会の仏前に供える花として椿の造花の工程に絞られていました。
その数、椿400個分の和紙の染めを紅花と梔子の植物染料だけで染める。
日本独自の色、植物から生まれる自然の深みある美しさにこだわる男の意地と美意識が伝わって来ました。
植物を栽培することから始まる気の遠くなるような闘いがそこにありました。
化学染料、自然破壊からは得られない植物の奥深い所から生まれる色、不思議な神秘の世界でした。
残念ながら紫については触れられず最後も好きな色は「紫」で終わりました。
源氏物語の色にも触れられるかと期待したのですが含みをもったENDでした。
ドキュメント映画ですか、吉岡さんの活動範囲の広さにも驚きますが、青玉さんのアンテナの高さと行動力にも脱帽です。染色の世界も神秘で奥深いものでしょうね。レポートありがとうございました。
「紫」というのは染色の象徴ということで使われているのですかね。私もこのところ「紫」に敏感になっており「紫」の字を見るとすぐ反応してしまいます。
言い過ぎかなとは思いますが、柏木は今でいうところのストーカー気質があるように思います。思い込みが激しくて、まわりが見えていないようです。
恋は盲目といいますが、やはり相手のことを一番に考えないと単なる独りよがりに終わってしまいます。
哀れだとは思いますが、困った人ですよね。
この種の人物の描き方も作者は上手いですね。
日頃からの人間観察が鋭い人だったのでしょう。
ありがとうございます。
恋にたいする「あやにくな癖」、源氏にもありますが柏木のはちょっと困ったものですね。世間知らずで向こう見ずな青春時代にはめをはずすのはいいとして、柏木は今や25-6才。皇女でなければ妻とはしないってことで独身を通している。やはりどこか変ですね。ストーカー気質もあるのかもしれません。