夕霧(20・21・22・23) 源氏と夕霧 女二の宮につき探り合い

p175 – 184
20.夕霧の文への返事に小少将、宮の歌を入れる
 〈p204 夜も明け方近くまで、〉

 ①夜明け方近く、かたみにうち出でたまふことなくて、背き背きに嘆き明かして、朝霧の晴れ間も待たず、例の、文をぞ急ぎ書きたまふ。
  →その夜は同室で寝ながら実事もなく背中合わせで、、、これはまあ仕方ないか。
  →夕霧は起きてすぐ雲居雁の前で女二の宮に手紙を書く、これはないでしょう!

 ②小野から返書が来る。小少将が宮の直筆のすさび書きを盗みだしてきた。
  女二の宮 朝夕になく音をたつる小野山は絶えぬ涙や音なしの滝  
  →とにもかくにも自分の歌を見ての宮からの歌、夕霧は喜ぶ

21.源氏、夕霧と宮との噂を聞き、心痛する
 〈p207 六条の源氏の院も噂をお耳になさって、〉

 ①源氏がやっと登場する。
  いとおとなしうよろづを思ひしづめ、人の謗りどころなく、めやすくて過ぐしたまふを、面だたしう、わがいにしへ、すこしあざればみ、あだなる名をとりたまうし面起こしに、うれしう思しわたる、、
  →源氏の述懐。自分は浮き名を流したが息子は真面目で面目を施した、嬉しいことだ。
  →本心からそう思ったのだろうか。そうだとすると源氏も年を取ったものである。

 ②次いで紫の上が久々に登場 
  女の身の処し方についての思いが述べられる。
  女ばかり、身をもてなすさまもところせう、あはれなるべきものはなし。もののあはれ、をりをかしきことをも見知らぬさまにひき入り沈みなどすれば、何につけてか、世に経るはえばえしさも、常なき世のつれづれをも慰むべきぞは、
  →源氏の言うがままに生きてきた自分の生き方に疑問をはさんでいる。
  →これは紫式部の女性論であろう。  

22.源氏、夕霧と対面の際、宮のことを探る
 〈p209 夕霧の大将が六条の院に参上されたついでに、〉

 ①源氏と夕霧の親子の対話 源氏は夕霧と宮の噂を知っていて探りを入れる。
  かの皇女こそは、ここにものしたまふ入道の宮よりさしつぎには、らうたうしたまひけれ。人ざまもよくおぼすべし。
  →巧みな誘導尋問である。

 ②夕霧はその手に乗らない。さしさわりなく答えて宮のことには触れない。
  →さすが秀才夕霧。まだ宮とは何もなく答えようがないのが実情だろうが。

 ③源氏 かばかりのすくよけ心に思ひそめてむこと、諌めむにかなはじ、用ゐざらむものから、我さかしに言出でむもあいなし 
  →恋の病は治せない、忠告しても無駄。さすが源氏、よく分かっている。

23.夕霧、法事を主宰する 大臣不快に思う
 〈p211 こうして御息所の四十九日の御法事は、〉

 ①御息所の四十九日を夕霧が行う。大臣(頭中)は不快に思う。
  →大臣も勿論夕霧と女二の宮の噂は耳に入っていたのだろう。
  →御息所は嫁である女二の宮の母親。自分こそ主宰すべき立場。
  →娘の雲居雁を放ったらかして息子の未亡人に言い寄るべくその母の法事をやるなんて許せない!と思って当然でしょう。

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夕霧(17・18・19) 夕霧、小野を訪れるも相手にされず

p164 – 174
17.雲居雁の不安 夕霧と和歌を詠み交す
 〈p194 雲居の雁の君は、やはりこのおふたりの間柄を気にして、〉

 ①雲居雁 あはれをもいかに知りてかなぐさめむあるや恋しき亡きや悲しき
  雲居雁は夕霧が恋しがってるのは亡くなった御息所か女二の宮か訝しがっている。
  →確かに紫式部はぼかした書き方をしているが夕霧にそんな気持ちある訳なかろう。
  →御息所の年令は分からないが相当な年だろうし何せ朱雀院の更衣ですぞ。

 ②夕霧 いづれとか分きてながめん消えかへる露も草葉の上と見ぬ世を
  →はぐらかしている。うっかり娘の方ですなどと答えてはならないところ。
  →夫婦の間で歌の贈答とは王朝的。今どきはメールなんてことかも。

18.夕霧、小野に宮を訪れ、むなしく帰る
 〈p196 夕霧の大将は、こんなふうに女二の宮の〉

 ①夕霧 「今はこの御なき名の、何かはあながちにもつつまむ、ただ世づきて、つひの思ひかなふべきにこそは」と思したちにけり。
  →よし、もうやるしかない!と夕霧は決心する。
 「一夜ばかりの」歌で迫れば女二の宮も拒み切れまい
  →それは独断、女心が分かっていない。

 ②九月十余日、野山のけしきは、深く見知らぬ人だにただにやはおぼゆる。、、、
  →鹿の声、滝の音、草むらの虫、竜胆、、、、小野山荘の秋の情景

 ③今は、さらに、忍ぶべき方なし、、、 もう辛抱できない。。
  百人一首No.40 平兼盛
  忍ぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで

 ④夕霧と小少将の対話&歌の贈答 (将を射んとすれば先ず馬から)
  夕霧 里遠み小野の篠原わけて来てわれもしかこそ声も惜しまね
  →こんなに遠いところまではるばる通っているのに、、何とかしてくれよ!

  百人一首No.39 源等
  浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき

 ⑤女二の宮は心を開こうとしない。
  →夕霧の誠意が伝わらずむしろ鬱陶しく思うのだろうか。。女心は難しい。  

19.夕霧、一条宮を過ぎて帰邸 雲居雁の嘆き
 〈p202 道すがらも心にしみる夜空の景色を眺めますと、〉

 ①夕霧は空しく小野から引き上げる。寂れた一条邸を通って三条の雲居雁邸へ。

 ②上の空でぼおっとして月を眺める夕霧
  雲居雁の述懐
  もとよりさる方にならひたまへる六条院の人々を、ともすればめでたき例にひき出でつつ、心よからずあいだちなきものに思ひたまへる、わりなしや、我も、、、
  →この雲居雁の述懐はあたっている。
   あなたは六条院で妻妾同居の源氏さまと違うでしょう。私はずっとまめ男の貴方の妻でやって来たのに今さら浮気を認めろって言われても無理でしょうよ、、、。

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夕霧(14・15・16) 一条御息所の葬儀 & その後

p152 – 164
14.諸方より弔問、朱雀院より御消息あり
 〈p186 方々からの御弔問は、〉

 ①一条御息所死去と聞いて弔問
 ・夕霧 どんなにか驚いたことだろう。「しまった!そんなバカな!」
 ・源氏 単なる義理としての弔問だろうか。
 ・頭中 息子柏木に続いて。残された女二の宮を気遣ったことであろう。
 
 ・朱雀院 「出家していてお見舞いもできず、、、」
  →そりゃそうだろうけど自分の妃(更衣)で子をなした女性ですよ!冷たいのでは。 

15.御息所の葬儀、夕霧弔問し何かと手伝う
 〈p186 生前から、そうしてほしいと〉

 ①御甥の大和守にてありけるぞ、よろづに扱ひきこえける。
  →脚注4 一条御息所の出自の程度が示される。
   大和は大国だけれど従五位上相当(播磨=明石入道も)。即ち国司の官位は低い。

 ②夕霧が駆けつける。
  →汚名挽回、必死に宮に尽さねば!

 ③女二の宮 これには多くは御心も乱れにしぞかしと思すに、さるべきとはいひながらも、いとつらき人の御契りなれば、答へをだにしたまはず。
  →女二の宮は実のところ夕霧のことをどう思っていたのだろう?
   一夜無体なことをしかけたが何もせず帰った夕霧。夕霧との今後のことについて宮は諾否決めかねていたのではないか。しかし誤解が昂じ母は悲嘆にくれて絶命。これは夕霧が翌日キチンと対応しなかったため。そう思うとこの時点では夕霧の顔など見たくないと思ったことだろう。

 ④女二の宮 「ただ推しはかりて。我は言ふべきこともおぼえず」
  →いかにも皇女らしい言い方である。

 ⑤即日火葬する。夕霧が色々と(簡略だが上流貴族としての格式の葬儀にすべく)取り決める。
  →まめ人夕霧の面目躍如たるところ。でも宮には空しくこそ映らなかったであろう。

16.夕霧慰問を重ね、宮の態度に焦燥する
 〈p192 山から吹きおろすたいそう激しい風に、〉

 ①その後(御息所死去は8月20日ごろ、今は9月秋もたけなわ)夕霧小野山荘に足繁く訪う。
  夕霧のせいで母が死んだと思いこんでいる女二の宮は心を開かない。
  →当然であろう。顔を見るのも嫌だったのでは。

 ②夕霧の長い心内
  大宮死去の時自分がいかに心の底から嘆き悲しんだか、、、こんなに情の深い私の心持を分かってくれないのか、、、。
  →これも自分こそ正当だとする秀才の論理だろうか。自分が疎まれていることに気づかない。
  →これでは女二の宮の心を開かせることは無理であろう。

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夕霧(11・12・13) 一条御息所、悲嘆のあまり死去

p142 – 152
11.夕方文を発見、狼狽して返事をしたためる
 〈p177 蜩の声に目を覚まされて、〉

 ①手紙が見つからないまま日が暮れて行く、、マズイ!

 ②御座の奥のすこし上がりたる所を、試みに引き上げたまへれば、これにさし挟みたまへるなりけりと、うれしうもをこがましうもおぼゆるに、うち笑みて見たまふ
  →やっと見つかった。具体的叙述に読者もホッとする。

 ③ところがその内容たるや、
  かう心苦しきことなむありける。胸つぶれて、一夜のことを、心ありて聞きたまうけると思すにいとほしう心苦し。
  →夕霧は驚き、「しまった!」とゾッとしたことだろう。

 ④ここからの夕霧の状況判断に問題あり。
  夕霧「坎日にもありけるを、もしたまさかに思ひゆるしたまはば、あしからむ、なほよからむことをこそ」
  →これは甘い!すぐにも飛んで行って直に説明を尽さないと!
  →こんな言い訳が通用すると思ったのか。秀才、頭でっかちの悪いところである。

12.悲嘆のあまり、御息所の病勢急変する
 〈p180 小野の山荘では、〉
  
 ①夕霧から何の返事もない。
  女二の宮=「何もなかったのだから」として母に申し開きもしない。
  →これがいけない。母がどんな思いでいるのか理解していない。

  御息所=病をおして女二の宮に長々と一方的に思いを伝える。
   ただ人だに、すこしよろしくなりぬる女の、人二人と見る例は心憂くあはつけきわざなるを、ましてかかる御身には、さばかりおぼろけにて、人の近づききこゆべきにもあらぬを。
  →娘を大事にしたい一心だろうが考え過ぎだろう。病が昂じるのも無理はない。

 ②物の怪なども、かかる弱目にところ得るものなりければ、にはかに消え入りて、ただ冷えに冷え入りたまふ。
  →そんなに重態だったのだろうか。怒り・屈辱・絶望、、、メンタルに起因するものだろう。

13.御息所死去 落葉の宮これを嘆いて死を願う
 〈p184 こうして大騒ぎをしている最中に、〉

 ①かく騒ぐほどに、大将殿より御文取り入れたる、ほのかに聞きたまひて、今宵もおはすまじきなめりとうち聞きたまふ。
  一旦蘇った(意識回復した)御息所、夕霧が来ないと知って絶命する。
  →こんな思いで死ぬ御息所はあまりにも気の毒である。
  →コミュニケーション不足・誤解・思い込みが生んだ悲劇であろう。
   (もし夕霧が駆けつけてくるとの一報だったら生き返っていたかも、、、)

 ②「今は言ふかひなし。、、、」
  無神経な女房の言葉
  →現実は厳しい。他人は慰めにならない。女二の宮も自身が強くなるしかあるまい。
   

    

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夕霧(9・10) 夕霧、御息所からの文を雲居雁に奪われる

p134 – 142

静寂の小野の山荘から舞台は移り喧騒の三条邸へ(雲居雁と7人の子ども)。通俗小説風として絶賛されている場面です。

9.夕霧、御息所の文を雲居雁に奪われる
 〈p171 夕霧の大将は、その日の昼頃、〉

 ①御息所からの文が届く。雲居雁が背後から奪い取る。名場面
  国宝源氏物語絵巻 「夕霧」の場面
  女君、もの隔てたるやうなれど、いととく見つけたまうて、這ひ寄りて、御背後より取りたまうつ。
  →どこの家庭にもある通俗的な場面、雅な王朝物語とは思えない。

 ②ああ言えばこう言う。夕霧と雲居雁との馴れ親しんだ夫婦の会話が誠に面白い。
  →そのままホームドラマの脚本になりそうである。

 ③ところで御息所からの文
  かく例にもあらぬ鳥の跡のやうなれば、とみにも見解きたまはで、、、、
  病をおしてたどたどしく書いたものですぐには判読できなかった!
  →これが不幸を産む。もし歌意をすぐ読み解ければ夕霧は何をおいても小野に馳せ参じたのではないか。
  →雲居雁にも読めたとなると掴み合いになっていたかも、、、、。
  →何れにせよ「鳥の跡」が産んだ「絶妙の綾」と言うべきではなかろうか。

 ④君達のあわて遊びあひて、雛つくり給ひ据ゑて遊びたまふ、文読み手習など、さまざまにいとあわたたし、小さき児這ひかかり引きしろへば、取りし文のこともえ思ひ出でたまはず。
  →子沢山の家庭が活き活きと描かれている。いつの時代でも同じである。  

10.終日、御息所の文を捜すが見いだしえず
 〈p176 どなたも皆お食事をすませて、〉

 ①まだ文は見つからない。焦る夕霧。
  時間の経過を整理しておくと、

  (例えば)1日 夕霧、小野山荘へ。女二の宮の部屋で夜を明かす
   2日朝 出るところを律師に見られる。律師、御息所に告げ口
       夕霧、花散里の所で着替えして宮に後朝の文を書く
       御息所、小少将の君・女二の宮に真相を質す
       夕霧の文を見て御息所返事を書く
     昼 夕霧、三条邸へ帰る
     夕 御息所からの文届く、雲居雁に取り上げられる

   3日  夕霧必死に文を捜すが見つからない。焦る焦る、、、日が暮れかかる。

  →ここで明日に続きます。

 ②雲居雁 「一夜の深山風に、あやまりたまへるなやましさななりと、をかしきやうにかこちきこえたまへかし」
  →「お山に行って風邪を引いてしまいましてって言っときなさいよ」
   このユーモア、いいですねぇ。私はこんなのが大好きです。

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夕霧(7・8) 夕霧より文、御息所返書

p122 – 134
7.御息所、小少将に事情を聞き、宮に対面
 〈p161 律師が立ち去った後で、〉

 ①前段の続き。律師から思わぬことを聞いた御息所は真相を確かめようと先ず女二の宮の侍女小少将の君に問い質す。小少将の君は自分の見聞きしたことを正直に述べる。
  →この辺ミステリー小説みたいな進め方である。

 ②女二の宮 「心地のいみじうなやましきかな、、、、脚の気の上りたる心地す」と圧し下させたまふ。ものをいと苦しうさまざまに思すには、気ぞあがりける。
  →病気のリアルな表現。やはり病は気からである。

 ③御息所の催促でいやいやながら御息所の所へ行く女二の宮

  宮も、もののみ悲しうとり集め思さるれば、聞こえたまふこともなくて見たてまつりたまふ。ものづつみをいたうしたまふ本性に、際々しうのたまひさはやぐべきにもあらねば、恥づかしとのみ思すに、いといとほしうて、いかなりしなども問ひきこえたまはず。

  →事が事だけに母も娘も遠回しの言い方に終始して会話は空回りするだけ。
  →「やってしまったの?」「やってません!」 現代の親子でもできないでしょう。

8.夕霧より文来たり、御息所返事を書く
 〈p167 夕霧の大将からまたお手紙が届きました。〉

 ①小野の山荘で大変なことになっているとも知らず夕霧より文が届く。
  夕霧 せくからにあささぞ見えん山川のながれての名をつつみはてずは
  
  →夕霧にしてはまだ恋の駆け引きを楽しんでいる感じ。
  →あいまいで熱烈さが足りない。これでは御息所が不審に思うのも無理はない。

 ②御息所はいたたまれず病気をおして「あやしき鳥の跡のやうに」代筆で返事を書く。
  御息所 女郎花しをるる野辺をいづことてひと夜ばかりの宿をかりけむ 代表歌
  
  →これはいい歌ではないでしょうか。「あなたは一晩だけ泊った訳ではないでしょう、ずっと来続けてくれるんですね」という意味か。
  →夕霧は何をおいても飛んで来なければならない。

  脚注にある通り「劇的な行き違いが、そのまま無残な結果を招来する仕組み」、、恐ろしいものです。

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夕霧(5・6) 律師、御息所に夕霧朝帰りを報告

p114 – 122
5.夕霧、落葉の宮に文をおくる 宮、これを拒む
 〈p154 こうしたお忍び歩きは、〉

 ①小野から朝帰りした夕霧、雲居雁の三条邸には直接帰らない(バツが悪い)。
  六条院の花散里の所へ帰り着替えをする。
  →いい隠れ場所、言い逃れできる場所である。花散里も頼られて悪い気はしないだろう。

 ②親子の御仲と聞こゆる中にも、つゆ隔てずぞ思ひかはしたまへる。
  →女二の宮と御息所の親子関係は頗るいい。親離れ・子離れできてないのでは。

 ③夕霧からの後朝の文を見ようともしない女二の宮
  女房たちはどうなってるのかといぶかしむ。
  「いかなる御事にかはあらむ、何ごとにつけてもありがたうあはれなる御心ざまはほど経ぬれど、かかる方に頼みきこえては見劣りやしたまはむと思ふもあやふく」
  →女房の目はするどい。「昨晩あったみたいだわね。うまく通い続けてくれればいいけどまた前の柏木みたいにすぐお見限りになられてはお可哀そうだし、、、」

6.律師、昨夜夕霧滞在と御息所に語る
 〈p158 御息所は、物の怪に悩まされていらっしゃる人の常として、〉

 ①ここで阿闍梨(律師)が登場する。この律師、「薄雲」で藤壷の死後冷泉帝に源氏と藤壷の密通を密告した夜居の僧都と同じで、余計なことを言う。

  律師→御息所 「そよや。この大将は、いつよりここには参り通ひたまふぞ」
  そんなことはない筈と言いよどむ御息所に更に長口舌
   「いで、あなかたは。なにがしに隠さるべきにもあらず、、、、」
  →律師は御息所の健康を気遣って然るべき(その為に召し出された筈)。
  →御息所の病が重くなり遂に死に至るのはこの律師のせいではなかろうか!!
  →物語の展開としては誠に見事、作者は僧侶を使うのが上手である。
   脚注にもあるが律師の言葉は憶測と独断。これに物語が引きずられて行く。

 ②律師 、、、、」と、頭ふりて、ただ言ひに言ひ放てば、、、
  →熱弁を振るってる様、面白い言い方。

 ③律師の言葉を聞いた御息所の心内
  「さることもやありけむ、ただならぬ御気色はをりをり見ゆれど、人の御さまのいとかどかどしう、、、、、人少なにておはする気色を見て、這ひ入りもやしたまひけむ」
  →御息所は夕霧の女二の宮への恋心をある程度は感じていたのではないか。従って律師の言葉を聞いて「それもあるだろう」と思った。許す、許さないはこれから事の真相と女二の宮・夕霧それぞれの気持ちを確かめてから、、、そう思ったのではないか。

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夕霧(4) 夕霧、女二の宮の元で一夜を過ごす

さて、霧を口実に居残った夕霧、宮にどう迫るのか。

p102 -114
4.夕霧の訴えに、落葉の宮かたく心を閉ざす
 〈p143 さて、夕霧の大将は、「深い霧で道もおぼつかないので、〉

 ①とかく聞こえ寄りて、御消息聞こえ伝へにゐざり入る人の影につきて入りたまひぬ。
  →すっと御簾の内に入る。なかなかやるもんです。

 ②夕霧→女二の宮 いと心憂く若々しき御さまかな。人知れぬ心にあまりぬるすきずきしき罪ばかりこそはべらめ、これより馴れ過ぎたることは、さらに御心ゆるされでは御覧ぜられじ、、、、
  →皇女のプライドで拒む宮、度胸を決めて行動にかかった夕霧

 ③女二の宮の様子
  人の御ありさまのなつかしうあてになまめいたまへること、さはいへどことに見ゆ。世とともにものを思ひたまふけにや、痩せ痩せにあえかなる心地して、、、、、
  →夕霧は宮の気配からよさげに想像する。何せ皇女であり未亡人である。

 ④風いと心細う更けゆく夜のけしき、虫の音も、鹿のなく音も、滝の音も、ひとつに乱れて艶なるほどなれば、、、
  →小野の情景 物淋しくも情趣豊かで男が女を求めるにピッタリである。

 ⑤ここで夕霧、女性を口説く時言ってはならないNGを連発する。
  かう世づかぬまでしれじれしきうしろやすさなども、たぐひあらじとおぼえはべるを、
  世の中をむげに思し知らぬにしもあらじを
  世を知りたる方の心やすきやうにをりをりほのめかす

  →「生娘でもあるまいし、、、、」これはない。  
  →脚注15父源氏も空蝉に同じように迫っている(@帚木1p142)
   むげに世を思ひ知らぬやうにおぼほれたまふなむいとつらき

 ⑥女二の宮 われのみやうき世を知れるためしにて濡れそふ袖の名をくたすべき
  夕霧 おほかたはわれ濡れ衣をきせずともくちにし袖の名やはかくるる
  →ともかくに女二の宮から夕霧に歌が詠みかけられる。夕霧は嬉しかったろう。

 ⑦夕霧 「あさましや。事あり顔に分けはべらん朝露の思はむところよ。なほさらば思し知れよ。、、、、、知らぬ事々けしからぬこころづかひもならひはじむべう思ひたまへらるれ」
  →強引な言葉と振舞いに終始する夕霧。でも一線は踏み越えない(踏み越えられない)。
  →このような脅迫じみた言い方は源氏はしてないと思うのだが、、、。

 ⑧夕霧 荻原や軒端の露にそぼちつつ八重たつ霧を分けぞゆくべき
  女二の宮 分けゆかむ草葉の露をかごとにてなほ濡れ衣をかけんとや思ふ
  
  →結局実事までは行けずに帰る夕霧。二人の濡れ衣論争はいいけど夜を明かしたとなると世間は「何もなかった」などとは思わない。
  →有名男優が朝有名女優のマンションから出て来て「何もありません」と言ったって信じる人はいない。 

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夕霧(1・2・3) 夕霧、小野の山荘へ

夕霧1 つま戸より清き男の出づるころ後夜の律師のまう上るころ(与謝野晶子)
夕霧2 帰りこし都の家に音無しの滝はおちねど涙流るる(与謝野晶子)
 →与謝野晶子の源氏物語礼讃歌、夕霧だけ二首あり(訳本が二つに分かれて出版されたせいらしい)

さて新年です。今年も張り切ってごいっしょに源氏物語を楽しみましょう。
短い「鈴虫」を経て長い「夕霧」に入ります。文字通り夕霧が主人公のお話で光源氏も紫の上も脇役としてしか登場してきません。

一方致仕の大臣(頭中)にとっては深い縁の人ばかりの物語になります。
 故柏木 = 長男
 女二の宮 = 柏木(長男)の嫁
 夕霧 = 妹(葵の上)の息子 & 娘(雲居雁)の夫
 雲居雁 = 娘

p88 – 102
1.夕霧、小野の山荘の落葉の宮を思慕する
 〈寂聴訳 巻七 p132 世間には堅物という評判をとって、〉

 ①「まめ人」=夕霧を表す言葉 今まで色恋沙汰にあまり縁のなかった男
  柏木死後一条邸を見舞って以来(G48年)しばしば訪れて面倒をみている。

 ②母一条御息所の病気昂じて女二の宮ともども小野の山荘に移り住む。
  小野の山荘=現在の修学院離宮の辺り 嵯峨野と並び皇族・貴族の別邸が多かった。
  
  →百人一首No.39 源等
   浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき
   
   小野と聞いただけで山里の寂しいイメージが広がったことだろう。

2.夕霧、小野を訪れ、御息所の病を見舞う
 〈p135 八月の二十日ごろですから、〉

 ①G50年8月10日ばかり = 仲秋の名月に近い 秋たけなわである。

 ②「なにがし律師のめづらしう下りたなるに、切に語らふべきことあり。御息所のわづらひたまふなるもとぶらひがてら、参でん」
  →まめ男夕霧は雲居雁に頭が上がらない。何かと遠慮し言い訳しながら出かけて行く。
  →世俗的な夫婦関係を述べて後の家庭ドラマの序奏となっている。

 ③先ず御息所に文を遣わし見舞を述べる。御息所も定型的なお礼を返す。

3.夕霧、落葉の宮と贈答、胸中を訴える
 〈p137 女二の宮は、奥のほうにひっそりと隠れていらっしゃいます。〉

 ①女二の宮に消息するに返事が返って来た!
  「こは宮の御消息か」
  →これまで夕霧は女二の宮に何度も文を送るが返事をもらったことなどなかった。
  →皇女たる身分の女性から初めてもらった返事。夕霧は舞い上がったことだろう。

 ②夕霧→宮 ただあなたざまに思し譲りて、積りはべりぬる心ざしをも知ろしめされぬは、本意なき心地なむ
  →私が心配しているのは母上もさることながらあなたなんですよ!

 ③日入り方になりゆくに、空のけしきもあはれに霧りわたりて、、、、、
  →この辺、山荘の秋の風情の描写 「霧」がキイワード

 ④夕霧 山里のあはれをそふる夕霧にたち出でん空もなき心地して 代表歌
  →この歌から巻名は「夕霧」とつけられ人物も「夕霧」と呼ばれることになる。
  女二の宮 山がつのまがきをこめて立つ霧も心そらなる人はとどめず

  →霧がうまい小道具に使われている。夕霧にとっては絶好の口実
  →小野の山霧・宇治の川霧

 ③「よし、泊るぞ!」 随身にあれこれ指示する夕霧、ランラン気分です。

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新年おめでとうございます。

謹賀新年!

明けましておめでとうございます。お正月いかがお過ごしでしたでしょうか。
新年が皆々さまに良き年でありますようお祈り申し上げます。

ウチは年末から一族四家族十四人が集まりさながら難民収容所か災害避難所か足の踏み場もない有様でした。やっと静かになり今日からパソコンを開き日常に復したところです。以下年頭にあたっての身辺雑記です。

1.姫路に居た長女一家が夫の転勤で正月二日中近東のバーレーンに赴任しました。私がサウジに居たのは25年前、もう中近東はいいやと思っていたのですがまた中東情勢から目が離せなくなりました。内線のシリア、治安回復未だしのイラク、サウジ・イラン・イスラエルの三角関係、浮かれるドバイ・カタール、、、。考えると恐ろしいのでやめます。無事帰ってくれるのを待つばかりです(25年前両親たちは同じ思いだったのでしょう)。

2.今年は箱根駅伝をじっくり見せてもらいました。アナウンサーや解説者のうるさいのには閉口しましたがさすが伝統のイベント、随所に感動がありました。シード校に残ること、予選会で出場権を得ること、それぞれのチームで選手に選ばれることそして晴れ舞台で結果を残すこと、、まさに競争社会の縮図みたいに思えました。それにしても20KMランナーを10人揃えるのは大変なことだろうと改めて思いました。

3.3日の昼間いつもの散歩コースで幸運にもカワセミに出会いました。川べりの電線にとまり水面まで何度も往復し狩りをするのをじっくりと見せてもらいました。双眼鏡が役立ちました。今年はいいことがありそうだなとハッピーな気分になりました。

4.さてブログですが後9ヶ月です。今月が「御法」まで、来月の「幻」(&「雲隠」)で光源氏の物語が終ります。次の竹河三帖はこれまでじっくり読んでおらずうまく解説できるか自信ありませんが今回もスッと行きたいと思っています。そのつもりでご容赦ください。そして宇治十帖。話は面白いし考え処も多いと思うのですが何せ長くて重くてくどい物語なのでどうまとめて行けるか不安です。辛抱強くやるつもりですのでどうぞバックアップ(不足の補充、間違いの修正、異見の披露、息抜きコメントなどなど)よろしくお願いいたします。

5.解説を終えた10~12月はクールダウン(ウオームアップの反対)として読後の総括を皆さんと語り合いたいと思っています。和歌・名場面・登場人物・花鳥風月・舞台となった場所など振り返ってみたいと思います。各種ランキングも面白いかもしれません。やり残している年立(年表)も作ろうと考えています。いわば源氏物語の総復習です。どうぞご協力ください。

6.アフター源氏物語、何ができるか考えましたが私には「百人一首」しかなさそうです。どうやるか、未だアイデア段階ですが今のところ考えているのは、
 
 ①毎週2回アップしていって1年間で百首(順番は勿論1番から)
 ②基本的なところは(歌意・作者・背景など)最小限にとどめる。
 ③できるだけ(こじつけでも)源氏物語に関係つけてコメントをつける。
 ④皆さんからのコメントは何でもOK。思いつくまま、気の向くままに。

 いわば百人一首サロンみたいにしてチャット式にコメントを出し合う場にできればと思っています(歌の好き嫌い、詠者のエピソード、競技カルタとの関連など)。源氏物語はちょっと億劫だけど百人一首なら参加してみようって人は多い筈です。きっと楽しい場になるのではないでしょうか。
 →ウオームアップ 「閑話 源氏物語と百人一首」(2012.8.24) ご参照ください。
 →以上今年は百人一首も読み込んでメモでも作っておかなければという自分へのプレッシャーです。

長くなりました。どうぞ本年もよろしくお願いいたします。
 (そうだ、「初音」の朗読聞かなくっちゃ、、では明日からの「夕霧」お楽しみに)

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