御法(8・9・10・11) 紫の上の葬儀 & その後

p259 – 267
8.夕霧・源氏とともに紫の上の死顔に見入る
 〈p271 「これまでの長い年月、紫の上に対して、〉

 ①野分の朝垣間見ただけで見ずじまい、聞けずじまいになってしまった夕霧、紫の上の死に顔を覗きこむ。
  →夕霧が垣間見たのはG36年9月。15年間も憧れ心を胸に秘めていた。
  →よほど見たかったのであろう。これも覗き見というべきか。

 ②御髪のただうちやられたまへるほど、こちたくけうらにて
  →源氏は形だけでも出家(剃髪)させたかったのに、結局しなかったということか。

 ③死に入る魂のやがてこの御骸にとまらなむと思ほゆるも、わりなきことなりや。
  →脚注1「一説には、正気を失った夕霧の魂が紫の上の亡骸に、とするがとらない」
   円地訳&リンボウ訳は夕霧説 寂聴訳はテキストと同じ
   よく分からないが「死に入る魂」は紫の上のものと考えるのが素直ではないか。

 ④いにしへも、悲しと思すこともあまた見たまひし御身なれど、
  源氏の身近な人の死(脚注6)
   桐壷更衣・祖母・夕顔・葵の上・桐壷帝・藤壷・六条御息所そして紫の上
   →このうち 桐壷更衣・祖母そして紫の上がこの二条院で亡くなっている
   →二条院は源氏の原点であり後宇治十帖では匂宮の御所となる。  

9.即日葬儀を行う 源氏、出家を決意する
 〈p273 お亡くなりになったその日のうちに、〉

 ①亡くなったのは8月14日、即日埋葬地の愛宕まで亡骸を移動する。
  15日暁方に火葬
  →8月15日に昇天。かぐや姫が月に還るイメージ(脚注)
   
 ②いとはかなき煙にてはかなくのぼりたまひぬるも、例のことなれどあへなくいみじ。空を歩む心地して、人にかかりてぞおはしましけるを、
  →源氏の心境やいかばかり。茫然自失も無理なからぬところであろう。
  →もう出家するしかないと決心する。

10.夕霧野分の日を回想し、秘めた慕情に泣く
 〈p275 夕霧の大将も、紫の上の御忌みのためそのまま〉

 ①夕霧、源氏ともども二条院にて四十九日間の服喪
   風野分だちて吹く夕暮に、昔のこと思し出でて、ほのかに見たてまつりしものをと恋しくおぼえたまふに、
  →「野分」がキーワード。夕霧の回想を通して紫の上の死が惜しまれる。

 ②いにしへの秋の夕の恋しきにいまはと見えしあけぐれの夢
  →夕霧の絶唱。手出しはできぬが憧れの人の死、ほんとうに悲しかったことだろう。

11.源氏、出家もままならぬほど悲嘆にくれる
 〈p277 寝ても覚めても涙の乾く暇もなく、〉

 ①臥しても起きても、涙の干る世なく、霧ふたがりて明かし暮らしたまふ。
  →源氏の悲しみ。源氏は歌を詠むことさえできない。

 ②いとかくをさめん方なき心まどひにては、願はん道にも入りがたくや、
  悲しみ惑い過ぎてて出家もままならない。

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御法(4・5・6・7) 秋、紫の上死去

p246 – 258
4.紫の上、見舞のため退出の中宮と対面
 〈p260 夏になりますと、〉

 ①暑い夏になる。宮中から明石の中宮が二条院に見舞に訪れる。明石の君も加わり三人で懐かしく語り合う。
  →実子のいなかった紫の上には中宮が一番可愛かったのであろう。
  →明石の君は中宮に付き添っている。宮中と六条院を行ったり来たりだったのだろうか。

 ②紫の上 「おのおのの御行く末をゆかしく思ひきこえけるこそ、かくはかなかりける身を惜しむ心のまじりけるにや」
  →中宮とその皇子・皇女たちの行く末、もっと見たかったであろう。実感がこもっている。

5.紫の上、二条院を匂宮に譲り、遺言する
 〈p263 三の宮は、大勢の親王たちのなかでとりわけお可愛らしく、〉

 この段はまるまる名場面です。
 ①三の宮(匂宮)との対話、涙が出てきます。
  紫の上「まろがはべらざらむに、思し出でなんや」
  三の宮「いと恋しかりなむ。まろは内裏の上よりも宮よりも、母をこそまさりて思ひきこゆれば、おはせずは心地むつかしかりなむ」
  紫の上「大人になりたまひなば、ここに住みたまひて、この対の前なる紅梅と桜とは、花のをりをりに心とどめてもて遊びたまへ。さるべからむをりは、仏にも奉りたまへ」
  →宇治十帖に繋がる重要場面です。

6.紫の上、源氏・中宮と決別ののち死去する
 〈p264 ようやく待っていた秋が訪れ、〉

 ①秋になる。
  さるは身にしむばかり思さるべき秋風ならねど
  →和泉式部の歌が引用されている。
   秋吹くはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ

 ②中宮は夏以来二条院に留まっていたのだろうか。紫の上の居室に見まいに出向く。

 ③こよなう痩せ細りたまへれど、かくてこそ、あてになまめかしきことの限りなさもまさりてめでたかりけれと、、、
  →死の直前まで美しい紫の上の様子

 ④源氏も見舞に訪れる。三人での唱和、紫の上最後の歌である。
  紫の上 おくと見るほどぞはかなきともすれば風にみだるる萩のうは露 代表歌
  源氏 ややもせば消えをあらそふ露の世におくれ先だつほど経ずもがな
  明石の中宮 秋風にしばしとまらめつゆの世をたれか草葉のうへとのみ見ん

  →はかなく消える露
  →国宝源氏物語絵巻 御法 の名場面です。

 ⑤宮は御手をとらへたてまつりて泣く泣く見たてまつりたまふに、まことに消えゆく露の心地して限りに見えたまへば、御誦経の使ども数知らずたち騒ぎたり。さきざきもかくて生き出でたまふをりにならひたまひて、御物の怪と疑ひたまひて夜一夜さまざまのことをし尽くさえたまへど、かひもなく、明けはつるほどに消えはてたまひぬ。
  →中宮に手を握られ源氏に見守られて紫の上は静かに息を引き取る
  →紫の上も一番可愛かった中宮に最後を看取られて嬉しかったことだろう。  

7.源氏、夕霧に、紫の上落飾の事をはかる
 〈p269 中宮も、宮中にお帰りにならない前に、〉

 ①二条院は皆騒ぎ惑い悲しみに包まれる。

 ②この世にはむなしき心地するを、仏の御しるし、今はかの冥き途のとぶらひにだに頼み申すべきを、頭おろすべきよしものしたまへ。
  源氏は生前叶えてやれなかった落飾を夕霧に手配させる。

 ③夕霧は源氏に比べ冷静。4年前一旦死にかけて生き返った経験からまだあきらめず残った僧たちに誦経をさせる。
  →結局剃髪はされたのかされなかったのか。
  →脚注はされてないとしているが、、、。作者は明確に書かず読者の判断に委ねたか。

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御法(1・2・3) 春、二条院で紫の上主催の大法会

御法 なほ春のましろき花とみゆれどもともに死ぬまで悲しかりけり(与謝野晶子)

源氏の一の人紫の上の死を語る源氏物語中一番悲しい巻だと思います。女三の宮も朱雀院も出てきません。若菜上下・柏木・夕霧と異なり会話や心内語は少なく淡々と事実が叙述されます。

p236 – 246
1.紫の上病重く、出家の志も遂げえず
 〈寂聴訳 巻七 p252 紫の上は、あの御大病の後は、〉

 ①G51年春 紫の上が大病を患ったのは4年前 現在紫の上は43才
  その後小康状態ではあったが年とともに弱ってきている。

 ②紫の上は予てから出家したいと願望しているが源氏が許さない。
  出家のあり方
   出家するのは仏道修行に精を出し死後成仏して極楽へ行きたいからなのか。

  出家したらしてはならないこと
  出家してもしていいこと

  →この辺りがよく分からないので出家願望だのそれは許さないだの言われてもピンと来ないのが正直なところです。

 ③ただうちあさへたる思ひのままの道心起こす人々
  →こういう人もいたようですが、出家した後どうしてたんでしょうね。
 
2.紫の上、法華経千部供養を二条院で行う
 〈p254 紫の上は長年にわたって、〉

 ①紫の上の里は二条院。10才で連れて来られてから27才で六条院に移るまで17年間過ごしたことになる。

 ②女の御おきてにてはいたり深く、仏の道にさへ通ひたまひける御心のほどなどを、、、
  →紫の上は仏道に精進して法会のことにも通じている。

 ③三月の十日なれば、花盛りにて、空のけしきなどもうららかにものおもしろく、
  →春が好きな紫の上、桜が満開の春に華やかに供養を行う。
  →これが最後の春なんだとの自覚があったのだろう。

 ④六条院から明石の君、花散里が参列し紫の上と歌を詠み交す。
  紫の上 惜しからぬこの身ながらもかぎりとて薪尽きなんことの悲しさ
  明石の君 薪こる思ひは今日をはじめにてこの世にねがふ法ぞはるけき
  →色々あった二人、恩讐を超えての贈答

 ⑤高僧たちの誦経の大合唱。楽人・舞人の華やかな楽宴。
  ほのぼのと明けゆく朝ぼらけ、霞の間より見えたる花のいろいろ、なほ春に心とまりぬべくにほひわたりて、
  →華麗を極める大法会、でも紫の上の死期は刻一刻と迫っている。
  →紫の上 春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す (野分2.p196)
   
3.紫の上死期の近きを感じ、名残を惜しむ
 〈p258 昨日はいつになく起きておいでになったのがひびいたのか、〉

 ①さすがに情けをかはしたまふ方々は、誰も久しくとまるべき世にはあらざなれど、まづ我独り行く方知らずなりなむを思しつづくる、いみじうあはれなり。
  →源氏の一の人と自負してきた自分だが先に死んでしまう、、、残念で悔しい気持ちだろうか。

 ②紫の上 絶えぬべきみのりながらぞ頼まるる世々にと結ぶ中の契りを 代表歌
  花散里 結びおく契りは絶えじおほかたの残りすくなきみのりなりとも
  →源氏物語における花散里の存在感は大したもの、派手ではないがずっしりしたものがある。

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夕霧 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

夕霧のまとめです。

和歌

78.山里のあはれをそふる夕霧にたち出でん空もなき心地して
     (夕霧)  今日はもう帰れない!

79.女郎花しをるる野辺をいづことてひと夜ばかりの宿をかりけむ
     (一条御息所)  雲居雁に奪われたいわくつきの手紙

名場面

78.「、、、世の中をむげに思し知らぬにしもあらじを」とよろづに、、、
     (p107 夕霧、泊る・迫る・拒まれる)

79.いととく見つけたまふて這い寄りて、御背後より取りたまうつ
     (p136   雲居雁、文を奪う)

80.埋もれたる御衣ひきやり、いとうたて乱れたる御髪かきやりなどして
     (p216   塗籠の中、夕霧ついに女二の宮と契る)

[夕霧を終えてのブログ作成者の感想]

夕霧を終えました。けっこう長かったですね。夕霧の恋物語いかがでしたか。柏木の異常とも言える度を越した強烈な恋に比べると如何にもまめ男夕霧のやや優柔不断な恋物語だったでしょうか。秀才で公務では抜群の仕事ぶり、プライベートでは幼馴染の恋女房と子だくさんの家庭を営む中年男(と言っても29才だが)。そんな真面目男が一度恋に目覚めてしまうと見境がきかなくなる。現代にも通じるお話のようです(私にはそんな勇気はありませんが)。

柏木物語では妻(女二の宮)のことは殆ど出てきませんでしたが夕霧物語では雲居雁が何度も登場し子どもを挟んで痴話喧嘩を繰りかえす。挙句は妻は実家に帰り夫が迎えにいくが妻の機嫌は治らない。通俗小説タッチで読者も自分の家庭を重ねて楽しんで読んだのではないでしょうか。

ストーリーとしては夕霧・一条御息所・女二の宮の意思伝達がうまくいかないため誤解が誤解を生んで思わぬことになってしまう。コミュニケーションって一つ間違うと恐ろしいなあと感じました。小野の律師に余計なことを言わせる場面と雲居雁に大事な手紙を奪わせる場面、すごい仕掛けだと感心しました。

 女郎花しをるる野辺をいづことてひと夜ばかりの宿をかりけむ(一条御息所)

 この歌一つで色んなことが議論できるのではないでしょうか。

女二の宮の心の内は今一つ分かりませんが皇女の身の処し方の難しさを感じます。まじめ男が皇女(皇族)に恋を仕掛ける、それに対して女宮はどう対応するのがいいのか、、、宇治十帖にそのまま繋がっていくテーマであります。

さて夕霧物語は終わり、紫のゆかりのお話の終盤、来週から御法に入ります。

(付記) 1月18日行われたセンター試験国語に「夕霧 34」雲居雁が実家に帰る場面がそっくり出題されて余りのタイミングにびっくりしました。いい思い出になります。

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夕霧(35・36) 女二の宮への想いを強引に遂げた夕霧、実は12人の父だった!

p224 – 230
35.蔵人少将、父の使者として一条宮を訪問
 〈p243 舅の大臣は、こうした経緯をお聞きになられて、〉
 
 ①致仕の大臣は女二の宮に文を送る
  契りあれや君を心にとどめおきてあはれと思ふうらめしと聞く
  →致仕の大臣の立場(女二の宮の舅、雲居雁の父)は分かるが、この歌はない。
  →悪いのは夕霧であって女二の宮ではない。一方的な性格がよく表れている。

 ②使者の蔵人少将(柏木の弟)の無礼ぶり。
  ただ入りに入りたまふ (一条邸の門内に車を乗り入れる)
  →ものごとが分かっていない男だということを一言で述べている

  少将 今よりはよすがある心地して、常に参るべし。内外などもゆるされぬべき。
  →兄の未亡人に対する態度とは思えない。致仕の大臣の気性を反映したものであろうか。
   二流の人物(ごく普通のレベル)である。

36.藤典侍、雲居雁と贈答 夕霧の子息子女
 〈p246 こうしたことでますます御機嫌のお悪くなられた女二の宮の御様子に、〉

 ①夕霧の愛人 藤典侍登場。
  藤典侍 数ならば身に知られまし世のうさを人のためにも濡らす袖かな
  雲居雁 人の世のうきをあはれと見しかども身にかへんとは思はざりしを

  正妻(雲居雁)と愛人(藤典侍)の二人で男(夕霧)を秩序立って分かち合って来たところへ新たな女性(女二の宮)登場。然も苟も皇女の身分である。
  →二人にとって共通の敵が現れたということだろうか。
  →二人の歌の贈答はお互いに認め合った感じがして好感が持てる。
  →藤典侍 「大変ですねぇ、同情しますわ」
   雲居雁 「あなたも大変でしたわね」

 ②夕霧の子どもたち
  雲居雁に 四男三女(太郎・三郎・五郎・六郎・中の君・四の君・五の君)
  藤典侍に 二男三女(二郎・四郎・大君・三の君・六の君)
  →合計12人、名前の付け方から二人ともお互いの家庭が分かっていたのであろう。
  
  皆優秀だが藤典侍の子どもたちの方がまさっている。
  →そりゃあ、惟光の孫ですもんね。

 ③源氏の孫はこの12人の他に明石の女御の所に三男一女。
  この内六条院に居るのは
   明石女御の三の宮(匂宮) 紫の上が養育
   藤典侍腹の三の君と二郎君 花散里が養育

 源氏の子孫も賑やかになったものである。

これで夕霧は終わり光源氏の物語の終章前である御法へと続きます。 
  

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夕霧(32・33・34) 夕霧、女二の宮と契りを交す

p212 – 224
32.小少将、夕霧を塗籠の中に導き入れる
 〈p234 夕霧の大将はそうは言っても、〉

 ①小少将、夕霧に責め立てられてついに塗籠に導き入れる
  人通はしたまふ塗籠の北の口より入れたてまつりてけり。
  →籠城と言えどもろいもの。小少将も新主人には抗えないということだろう。

 ②男は、よろづに思し知るべきことわりを聞こえ知らせ、言の葉多う、あはれにもをかしうも聞こえ尽くしたまへど、つらく心づきなしとのみ思いたり。
  →真面目男夕霧、この期に及んでも無体には及べない。諄々と説得する。
  
 ③女二の宮 単衣の御衣を御髪籠めひきくくみて、たけきこととは音を泣きたまふ
  →着物を頭から被って声を上げて泣く、これでは夕霧もあきらめるしかなかろう。

 ④そんな最中夕霧は雲居雁のことを想う。
  →つくづくと自分がやっていることに愛想がつきたのではないか。  

33.夜明け方、夕霧ついに宮と契りを交す
 〈p236 いつもこんなふうに不首尾のまま、〉

 ①内は暗き心地すれど、朝日さし出でたるけはひ漏り来たるに、埋もれたる御衣ひきやり、いとうたて乱れたる御髪かきやりなどして、ほの見たてまつりたまふ。
  →情交の場面。それにしても女性とは弱きものである。

 ②情交後の女二の宮の心内 
  故君のことなることなかりしだに、心の限り思ひ上がり、御容貌まほにおはせずと、、、
  柏木と夕霧との比較。柏木にはそんなに愛されてなかった。夕霧の方が立派だがそんな人に私は愛してもらえるのだろうか。
  →脚注14「実事を境にした女の心境の微妙な変化である」
  →女もそうだろうが男の心境にも変化があるはず。さて夕霧は?

 ③新主人との結婚の儀がやっと整い、邸内は活気づく。
  →女二の宮の去就は随身、女房たちにとっては死活問題。夕霧大将が通われることになったとあれば勢いづくのは当然である。

34.雲居雁、父の邸に帰る 夕霧迎えに訪れる
 〈p239 こうして夕霧の大将が無理強いに住み馴れた顔をして、〉

 (この段がそのまま2014年センター試験国語の第三問として出題されました(14.1.18))

 ①女二の宮との事を果たし亭主然と振る舞う夕霧にさすがの雲居雁も愛想をつかし方違えを口実に致仕大臣邸(二条)に帰ってしまう。
  →雲居雁と致仕大臣(頭中)はそんなに仲のいい父娘ではなかった筈。二条邸も夕霧と引き裂かれ連れていかれた恨みの場所。居心地はよくなかったの筈だが、、。

 ②舅の手前それは拙いと夕霧は二条邸に雲居雁を迎えにいく。
  →この辺、髭黒が北の方を迎えに式部卿邸に行く場面とよく似ている(真木柱14.)

 ③母親と二条邸に移った子ども&三条邸に残った子ども 無邪気な様子
  →親が離れ離れになる。子どもたちには罪はない、可哀そう。

 ④夕霧 「はかなき一ふしに、かうはもてなしたまふべきや」
  雲居雁 「何事も、今はと見飽きたまひにける身なれば、今、はた、なほるべきにもあらぬを、何かはとて」
  →夕霧は「こんな些細なことで」と言うが雲居雁にとっては「とんでもないこと」であろう。
  →10年仲良くしてきた夫婦でも我慢できないことはある。
  →でも二人の会話は何となく痴話喧嘩みたいな感じ。やはりお互い愛し合ってるのであろう。

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夕霧(30・31) 夕霧・雲居雁の痴話喧嘩

p202 -211
30.夕霧、雲居雁の嫉妬をなだめすかす
 〈p227 日が高くなってから三条のお邸に〉

 この段は夫婦の会話(口喧嘩)がすばらしい。とても殿上人の家庭とは思えない。現代にも通じる会話で橋田壽賀子の脚本さながらである。

 ①夕霧帰宅、雲居雁はふて寝をしている。
  入りたまへれど目も見あはせたまはず。。。御衣を引きやりたまへれば、、
  →いきなり迫ろうとする夕霧、、そりゃあ無理でしょうよ。

 ②雲居雁・夕霧、ああ言えばこう言う。
  これだけ読めばからかいとけなし合いのたわいもない痴話喧嘩で深刻とは思えないが。
  →痴話喧嘩は一夫一婦制でお互いが愛し合っていればこそ。
  →喧嘩の後夫が他の女性の所へ行くのでは対等な言い合いにならない。
  →一夫多妻妾制の限界であろう。

 ③会話の間の地の文で雲居雁の世間ずれしてないかわいらしい様子が描かれる。
  ・いみじう愛敬づきて、にほひやかにうち赤みたまへる顔いとをかしげなり。
  ・いとをかしきさまのみまされば、、、
  ・いと若やかに心うつくしうらうたき心、はた、おはする人なれば、なほざり言とは見たまひながら、おのづから和みつつものしたまふを、、

  →こう言う女性といっしょになれて幸せ者だよ、夕霧大将!

 ④痴話喧嘩の最中にも 心は空にて 夕霧は女二の宮に思いを馳せる
  →やっぱりそんなものなのだろうか。夕霧の心情をしばらく慮ってみましたが私にはよく分かりませんでした。

 ⑤雲居雁 なるる身をうらむるよりは松島のあまの衣にたちやかへまし
  夕霧 松島のあまの濡れ衣なれぬとてぬぎかへつてふ名を立ためやは
  →この辺の切り返しは世知に長けてる夕霧が一枚上である。

31.夕霧、塗籠の宮をくどくが、宮頑なに拒む
 〈p232 一条の宮では、まだ女二の宮が塗籠に〉

 ①舞台は一条邸に戻って、
  かしこには、なほさし籠りたまへるを、
  女二の宮はあれからずっと塗籠に籠っている。何時間たったのだろう。
   夕霧が迫ってきて塗籠に逃れたのは一条邸に着いた夜遅くか。
   朝夕霧は六条院へ(花散里・源氏と対面)
   昼三条邸へ 雲居雁と痴話喧嘩
   夕方、一条邸へ

  →時間的には一昼夜は経っていない。それにしても長い。
  →牛車で移動したのであろうが夕霧もお忙しいことである。

 ②女二の宮
  今より後のよその聞こえをもわが御心の過ぎにし方をも、心づきなく恨めしかりける人のゆかりと思し知りて、その夜も対面したまはず。
  →今までのことこれからのこと、母が絶望のうちに亡くなったこと、みな夕霧のせいだとの恨みは消しようもない。

 ③女二の宮
  なほかかる乱れに添へて、わりなき御心なむいみじうつらき
  →夕霧の直情的な行動は宮の心を閉ざすばかりであろう。
  →女心が分かっていない感じ(私に言えることではないかもしれないが)  

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夕霧(27・28・29) 夕霧迫る、女二の宮塗籠にこもる

p192 – 202
27.宮、夕霧の待ち構えている一条宮に帰る
 〈p218  一条の宮邸に御到着になりますと、〉

 ①おはしまし着きたれば、殿の内悲しげもなく、人気多くてあらぬさまなり。
  →一条邸では従者・女房たちが引越しの興奮で色めきたっている。
  →柏木に替る新しい主人(夕霧)を迎えてまた華やかな生活が始まる。女房たちには喜ばしい。

 ②殿は東の対の南面をわが御方に仮にしつらひて、住みつき顔におはす。
  →夕霧もなかなかやるもんです。段々と度胸が据わってきている感じ。

 ③年経にけることを、音なく気色も漏らさで過ぐしたまうけるなりとのみ思ひなして、かく女の御心ゆるいたまはぬと思ひよる人もなし。
  →女房たちも従者たちも周りは誰もが二人は既にできている、宮も承知していると思っている。
  →皆が思っていることが事実となってしまう。宮が抗っても誰も同情しない。

 ④外堀内堀すべて埋め準備万端、夕霧は小少将に宮との逢瀬を整えろと迫る。
  小少将 「こしらへきこゆるをもつらしとのみ思されたれば、何ごとも身のためこそはべれ、いとわづらはしう聞こえさせにくくなむ」
  →ご主人(宮)を怒らせてお払い箱になっては困りますので、、何とも正直である。

28.夕霧、落葉の宮に迫る 宮塗籠にこもる
 〈p221 小少将の君はこんなに強情に言い張りますけれど、〉

 ①夕霧→小少将 うるさい、だまれ!とっとと宮の所へ案内しろ!

 ②女二の宮、塗籠に逃げる。
  →塗籠、紫式部は好きですねぇ。藤壷・女二の宮、そして今後も塗籠は出て来ます。

 ③よろづに思ひ明かしたまふ。山鳥の心地ぞしたまうける。
  百人一首 No.3 柿本人麻呂
  あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜とひとりかもねむ
  →夕霧も辛抱強い。普通の男なら焦って壁を蹴破るところかもしれない。

29.夕霧六条院にいたり、花散里・源氏と対面
 〈p223 夕霧の大将は、六条の院にいらっしゃって、〉

 ①夕霧、一条邸から六条院へ
  →一条邸、六条院、三条邸と京の町を行き来。夕霧も忙しい。
   (愛人藤典侍がどこに居たのか不明だが)

 ②先ず花散里と対面
  さすが母親がわりの花散里、夕霧の話をじっくり聞いて理解を示す。
  三条の姫君の思さむことこそいとほしけれ。のどやかにならひたまうて。
  →ただ北の方雲居雁について釘をさすことは忘れない。

 ③夕霧は六条院での女方の心の持ち方、紫の上の心遣い・花散里の穏やかな心持をほめる。
  →女二の宮に尋常ならざる恋をして夕霧も成長したのではなかろうか。

 ④次いで源氏と対面
  源氏の心内 
   一条邸に宮を戻し妻としたようだが、さすが私の息子、男盛りのいい男だ、女ならだれでも拒みはしないだろう、、、、
  →脚注には父親の甘さとあるが、とりもなおさず自分自身の美貌・名声への驕りではなかろうか。

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センター試験に源氏物語(夕霧 34)

ゴルフから帰って朝刊見てびっくりしました。じぇじぇじぇ!です。

昨日のセンター試験国語の第三問が何と夕霧34、そのままそっくりです。夕霧に愛想をつかした雲居雁が実家(頭中の二条邸)へ戻ってしまう場面で通俗小説タッチのところです。奇しくも1月22日投稿予定の所です。

センターで源氏物語が出題されたのは初めてとかで受験業界でも話題になっているようです。文章は長く難しく五者択一の設問は相変わらずでややこしく受験テクニックがないとなかなか点がとれないのではないかと思いました。因みにやってみましたが合格点すれすれじゃないでしょうか。

「源氏が出たぞ」ということで高校や予備校が源氏をやるようになるとは思いませんが(やる必要もないでしょうが)、これを機会に改めて源氏物語の何たるかくらいは授業でしっかりやって欲しいなあと思いました。

  →問題文と設問、見ておいてください。

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夕霧(24・25・26) 女二の宮、一条邸へ

p184 – 192
24.朱雀院、落葉の宮の出家の望みを諌める
 〈p211 女二の宮は、このまま小野の山荘に籠って〉

 ①朱雀院の諌めの言葉
  出家は拙い、堂々と夕霧と結婚するのも軽々しい。
  →ではどうすればいいの!そもそも朱雀院の甲斐性のなさが原因なのに。

 ②女二の宮はどうするのが一番よかったのか。
  →これは難しい問題ですね。無難なのは結婚などせず未亡人を通す(出家もありかも)。
  →その場合後見は致仕の大臣&息子たちではなかろうか。
  →でも燃えついた夕霧の恋の炎は容易に消せない!面白いところです。

25.夕霧、宮を一条宮に移すための用意をする
 〈p213 夕霧の大将も、「これまでさんざん、〉

 ①夕霧「とかく言ひなしつるも今はあいなし。かの御心にゆるしたまはむことは難げなめり、御息所の心知りなりけりと人には知らせん、いかがはせん、、、」
  →条理を尽したが宮は靡かない。もう力づくで行くしかない。
  →そういう戦略もあるだろうが秀才夕霧だけにちょっと似合わない感じ

 ②一条邸に連れ戻す諸準備 宮のいとこにあたる大和守を巻き込んで
  →このあたりの差配は夕霧の得意とするところ。万事遺漏なくなされたのであろう。

26.大和守に説得され、宮泣き泣き帰京する
 〈p214 当日は、御自分は一条の宮邸にいらっしゃって、〉

 ①行き渋る女二の宮、大和守があれこれ説得する。
  大和守 このほどの宮仕は堪ふるに従ひて仕うまつりぬ。今は、国のこともはべり、まかり下りぬべし
  →面白い。勤務のことがありまして任国へ帰国せねばなりませんので、、。いつの時代も同じ。

 ②どうしても夕霧の待ち受ける一条邸に行く気になれない女二の宮
  御鋏などやうのものはみなとり隠して、人々のまもりきこえければ、
  →そんなこともしていたのだ。こういう具体的記述が生々しい。

 ③大和守も女房たちも誰ひとり女二の宮の気持ちを解してくれる者はいない。荷物もどんどん運び去られる。宮は泣く泣く車に乗る他ない。
  →可哀そう。母が亡くなったのをつくづくと悲しく思ったことだろう。

 ④女二の宮
  恋しさのなぐさめがたき形見にて涙にくもる玉の箱かな
  浦島の子が心地なん  
  →浦島太郎の玉手箱が出てくる。やや唐突だが玉の箱と言えば浦島伝説だったのだろう。

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