夕霧(30・31) 夕霧・雲居雁の痴話喧嘩

p202 -211
30.夕霧、雲居雁の嫉妬をなだめすかす
 〈p227 日が高くなってから三条のお邸に〉

 この段は夫婦の会話(口喧嘩)がすばらしい。とても殿上人の家庭とは思えない。現代にも通じる会話で橋田壽賀子の脚本さながらである。

 ①夕霧帰宅、雲居雁はふて寝をしている。
  入りたまへれど目も見あはせたまはず。。。御衣を引きやりたまへれば、、
  →いきなり迫ろうとする夕霧、、そりゃあ無理でしょうよ。

 ②雲居雁・夕霧、ああ言えばこう言う。
  これだけ読めばからかいとけなし合いのたわいもない痴話喧嘩で深刻とは思えないが。
  →痴話喧嘩は一夫一婦制でお互いが愛し合っていればこそ。
  →喧嘩の後夫が他の女性の所へ行くのでは対等な言い合いにならない。
  →一夫多妻妾制の限界であろう。

 ③会話の間の地の文で雲居雁の世間ずれしてないかわいらしい様子が描かれる。
  ・いみじう愛敬づきて、にほひやかにうち赤みたまへる顔いとをかしげなり。
  ・いとをかしきさまのみまされば、、、
  ・いと若やかに心うつくしうらうたき心、はた、おはする人なれば、なほざり言とは見たまひながら、おのづから和みつつものしたまふを、、

  →こう言う女性といっしょになれて幸せ者だよ、夕霧大将!

 ④痴話喧嘩の最中にも 心は空にて 夕霧は女二の宮に思いを馳せる
  →やっぱりそんなものなのだろうか。夕霧の心情をしばらく慮ってみましたが私にはよく分かりませんでした。

 ⑤雲居雁 なるる身をうらむるよりは松島のあまの衣にたちやかへまし
  夕霧 松島のあまの濡れ衣なれぬとてぬぎかへつてふ名を立ためやは
  →この辺の切り返しは世知に長けてる夕霧が一枚上である。

31.夕霧、塗籠の宮をくどくが、宮頑なに拒む
 〈p232 一条の宮では、まだ女二の宮が塗籠に〉

 ①舞台は一条邸に戻って、
  かしこには、なほさし籠りたまへるを、
  女二の宮はあれからずっと塗籠に籠っている。何時間たったのだろう。
   夕霧が迫ってきて塗籠に逃れたのは一条邸に着いた夜遅くか。
   朝夕霧は六条院へ(花散里・源氏と対面)
   昼三条邸へ 雲居雁と痴話喧嘩
   夕方、一条邸へ

  →時間的には一昼夜は経っていない。それにしても長い。
  →牛車で移動したのであろうが夕霧もお忙しいことである。

 ②女二の宮
  今より後のよその聞こえをもわが御心の過ぎにし方をも、心づきなく恨めしかりける人のゆかりと思し知りて、その夜も対面したまはず。
  →今までのことこれからのこと、母が絶望のうちに亡くなったこと、みな夕霧のせいだとの恨みは消しようもない。

 ③女二の宮
  なほかかる乱れに添へて、わりなき御心なむいみじうつらき
  →夕霧の直情的な行動は宮の心を閉ざすばかりであろう。
  →女心が分かっていない感じ(私に言えることではないかもしれないが)  

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4 Responses to 夕霧(30・31) 夕霧・雲居雁の痴話喧嘩

  1. 式部 のコメント:

      雲居雁の性格を一言でいうと、可愛い気があるということでしょうか。 現代でもこういうタイプが主婦には向いていると思います。
     女二の宮は父朱雀院からも亡夫柏木からもそんなに愛されなかったことで、自分に自信がもてないのかもしれません。 けれど夕霧は女二の宮のなんらかの魅力、美点に気付いて言い寄っているのですから、閉じこもらないで新しい世界を見てほしいです。
     夕霧は、ないものねだりをしているのでしょう。雲居雁を可愛く大切に思っているのですが、少し物足りない思いがある、その不足を補ってくれそうなのが女二の宮なんでしょうね。
     男の勝手な理屈だとはおもいますけれど・・・

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。三者三様の心の内を、男の勝手な理屈も含め、読み解いていただきました。

      1.雲居雁、この女性いいですねえ。可愛くて愛敬があってオープンでお高くとまっていない。おっしゃる通りキャリアウーマンにはなれないが結婚したい(妻としたい)女性ランキングならトップクラスだと思います(その反対が葵の上・六条御息所タイプでしょうか)。夕霧には幼い頃から愛を育んできた2才年上の恋女房。早く結婚したかったが義父に反対され苦労の末やっと結婚に漕ぎつけ子どもも7人もできた。言うことないじゃないですかねぇ。私なら大満足、他の女性になど目もくれないところですがねぇ。。

      2.夕霧の想いもさることながら未だこの時点では一条御息所が亡くなってから2ヶ月も経っていません(四十九日の法要が終わったばかり)。異常とも思えるほど仲のよかった母を失くし女二の宮は茫然としていたでしょう。いくら何でも早すぎませんか。ここは塗籠になぞ追いつめず経済的・精神的支援だけにとどめ宮の心の回復を待ってあげるべきじゃないでしょうか(急がば回れという戦術もあることだし、、)。

  2. 青玉 のコメント:

    この場面何だかどこの家庭にもよくある感じです。
    我が家でもあったようななかったような・・・
    おっしゃるように殿上人の夫婦とは思えない、そこらへんの長屋住まいの夫婦みたい。

    雲居雁、やはりおっとり深窓のお嬢様なのですね。
    この夫婦、確か姉さん女房ではなかったかしら?
    本人は深刻なのでしょう夕霧に軽くあしらわれてむきになる所が何とも可愛くこうして文章で読むと読者は痴話喧嘩さえも楽しめます。

    一方、女二の宮、相も変わらず籠城状態・・・
    かたくなな性格なのですね。
    雲居雁とは正反対、式部さんもおっしゃるように妻には無いものを求めたがる・・・男の身勝手にほかなりません。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.本当にこの場面はどこの家庭にもある夫婦喧嘩だと思います。
       夕霧 「さまは憎げもなければ、え疎みはつまじ」
       雲居雁 「、、見棄てて死なむはうしろめたし」
        →心の底ではお互い愛し合っている。犬も食わない類で深刻さは感じられません。

      2.お二人に男の身勝手と断じられて夕霧大将も立つ瀬がありませんね。確かに夕霧は妻にはないものを女二の宮に強烈に感じたのでしょう。それは煎じ詰めれば皇女(天皇の娘)という身分そのものだと思います。親友柏木の遺言でよろしく頼むと言われ、よく考えてみれば柏木は女二の宮を妻としていたばかりでなく女三の宮とも通じ子どもまでなした。それにひきかえ自分は所帯じみた古女房と身分の低い愛人(藤典侍)がいるだけ。世人が羨む光源氏の長男たる自分はこれでいいのだろうか。等々自問自答しブレーキがきかなくなったのじゃないでしょうか。
        →これも一方的な身勝手な論理には変わりませんが。。。

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