夕霧(1・2・3) 夕霧、小野の山荘へ

夕霧1 つま戸より清き男の出づるころ後夜の律師のまう上るころ(与謝野晶子)
夕霧2 帰りこし都の家に音無しの滝はおちねど涙流るる(与謝野晶子)
 →与謝野晶子の源氏物語礼讃歌、夕霧だけ二首あり(訳本が二つに分かれて出版されたせいらしい)

さて新年です。今年も張り切ってごいっしょに源氏物語を楽しみましょう。
短い「鈴虫」を経て長い「夕霧」に入ります。文字通り夕霧が主人公のお話で光源氏も紫の上も脇役としてしか登場してきません。

一方致仕の大臣(頭中)にとっては深い縁の人ばかりの物語になります。
 故柏木 = 長男
 女二の宮 = 柏木(長男)の嫁
 夕霧 = 妹(葵の上)の息子 & 娘(雲居雁)の夫
 雲居雁 = 娘

p88 – 102
1.夕霧、小野の山荘の落葉の宮を思慕する
 〈寂聴訳 巻七 p132 世間には堅物という評判をとって、〉

 ①「まめ人」=夕霧を表す言葉 今まで色恋沙汰にあまり縁のなかった男
  柏木死後一条邸を見舞って以来(G48年)しばしば訪れて面倒をみている。

 ②母一条御息所の病気昂じて女二の宮ともども小野の山荘に移り住む。
  小野の山荘=現在の修学院離宮の辺り 嵯峨野と並び皇族・貴族の別邸が多かった。
  
  →百人一首No.39 源等
   浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき
   
   小野と聞いただけで山里の寂しいイメージが広がったことだろう。

2.夕霧、小野を訪れ、御息所の病を見舞う
 〈p135 八月の二十日ごろですから、〉

 ①G50年8月10日ばかり = 仲秋の名月に近い 秋たけなわである。

 ②「なにがし律師のめづらしう下りたなるに、切に語らふべきことあり。御息所のわづらひたまふなるもとぶらひがてら、参でん」
  →まめ男夕霧は雲居雁に頭が上がらない。何かと遠慮し言い訳しながら出かけて行く。
  →世俗的な夫婦関係を述べて後の家庭ドラマの序奏となっている。

 ③先ず御息所に文を遣わし見舞を述べる。御息所も定型的なお礼を返す。

3.夕霧、落葉の宮と贈答、胸中を訴える
 〈p137 女二の宮は、奥のほうにひっそりと隠れていらっしゃいます。〉

 ①女二の宮に消息するに返事が返って来た!
  「こは宮の御消息か」
  →これまで夕霧は女二の宮に何度も文を送るが返事をもらったことなどなかった。
  →皇女たる身分の女性から初めてもらった返事。夕霧は舞い上がったことだろう。

 ②夕霧→宮 ただあなたざまに思し譲りて、積りはべりぬる心ざしをも知ろしめされぬは、本意なき心地なむ
  →私が心配しているのは母上もさることながらあなたなんですよ!

 ③日入り方になりゆくに、空のけしきもあはれに霧りわたりて、、、、、
  →この辺、山荘の秋の風情の描写 「霧」がキイワード

 ④夕霧 山里のあはれをそふる夕霧にたち出でん空もなき心地して 代表歌
  →この歌から巻名は「夕霧」とつけられ人物も「夕霧」と呼ばれることになる。
  女二の宮 山がつのまがきをこめて立つ霧も心そらなる人はとどめず

  →霧がうまい小道具に使われている。夕霧にとっては絶好の口実
  →小野の山霧・宇治の川霧

 ③「よし、泊るぞ!」 随身にあれこれ指示する夕霧、ランラン気分です。

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2 Responses to 夕霧(1・2・3) 夕霧、小野の山荘へ

  1. 青玉 のコメント:

    晶子の和歌、二首あるのですね。
    私は2の帰りこし・・・のほうが好きですが。

    いよいよ源氏の長男、夕霧の恋物語が佳境に入るところで場所は一転、一条邸から中秋の小野の山荘へ。
    秘められた恋の場所としてはうってつけではないでしょうか?

    妻、雲居雁には何かと言い訳をし口実を作る夕霧、何となく可愛いですね。
    「まめ人」が現在とは逆の意味で使われているのがおもしろいです。
    言葉の繋がりがあるのでしょうか?
    まめ人・・・真面目一方が現在ではよく気が利いて面倒見がいい人を指しますよね。
    今やせっせと小野に通う夕霧は今時のまめ男になっているようです。

    御息所にとって夕霧は柏木亡き後の女所帯で頼りになる存在なのでしょうね。
    まさか女二の宮に懸想しているとはゆめゆめ思っていないのではないでしょうか?

    夕霧と女二の宮の和歌の贈答
    夕霧の気持ちはよく解りますが女二の宮の本心はどうなのでしょうね。
    柏木との夫婦関係はよくなかった、その後三年を経た今夕霧の思いを受けて心動かされたのでしょうか?

    霧と言えば百人一首87が思い浮かびます。
    むら雨の露もまだひぬ槇の葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ (寂蓮法師)

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.晶子の歌、私は1の方が何となく滑稽味が感じられて好きなんです。夕霧と律師二人がすれ違うところ、舞台やら映画になりそうです。

      2.夕霧が女二の宮に気があることは御息所は気づいていたと思います。何せ想夫恋なぞ弾き交しているのですから(横笛5)。それをよしとしていたかトンデモナイと思っていたかは別ですが。。。まあ事の成り行き次第では、即ち夕霧が本当に女二の宮を愛してくれるならそれもありかなぐらいの気持ちだったのではないでしょうか。

      3.舞台は山霧の深い小野に移った訳ですがその理由は御息所の病が重くなったからですよね。それも相当重病だった筈で病人をさしおいて宮に恋を語りかける夕霧はちょっとどうかと思います。それともこの時点では御息所の病状はさほどでもなかったのでしょうか。

      4.霧→87番 早速に来年企画用のご指摘ありがとうございます。
        もうひとつ 64番 宇治の川霧です。
        朝ぼらけ宇治の川霧絶えだえにあらはれ渡る瀬々の網代木(藤原定頼)
           

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