椎本(15・16) 新年、匂宮と中の君、歌の贈答

p78-82
15.新年、阿闍梨、姫君たちに芹・蕨を贈る
 〈p193 新しい年になりますと、〉

 ①K24年正月 年かはりぬれば、空のけしきうららかなるに、、
  →正月は必ず「空のけしきはうららか」である。

 ②阿闍梨から正月のお祝いに芹、蕨が届けられる。
  大宮 君がをる峰の蕨と見ましかば知られやせまし春のしるしも
  中の君 雪ふかき汀の小芹誰がために摘みかはやさん親なしにして
  →思い出づるは亡き父のこと。

16.匂宮、中の君と贈答する 匂宮、薫を恨む
 〈p195 桜の花盛りの頃、匂宮は去年の春、〉

 ①2月桜の花盛り。匂宮よりの文
  匂宮 つてに見し宿の桜をこの春はかすみへだてず折りてかざさむ
  →「折りてかざす」女を我がものにする。露骨である。
  →皇子故のゴーマンさ。源氏にもそんな所があった。

 ②中の君 いづくとかたづねて折らむ墨染にかすみこめたる宿の桜を
  →中の君はまさか匂宮がわざわざ宇治までやって来ようとは思っていない。

 ③匂宮 vs 薫
  早く何とかしてくれと迫る匂宮
  落ち着きなさいといなす薫
  →相変わらずの問答である。

 ④夕霧が六の君との結婚を匂宮に迫っている。
  匂宮「ゆかしげなき仲らひなる中にも、大臣のことごとしくわづらわしくて、何ごとの紛れをも見とがめられんがむつかしき」

  →匂宮は明石の中宮の三の宮、六の君は夕霧の六女(藤典侍腹)。即ち従兄妹同士。
  →夕霧が若い世代には鬱陶しい存在になっていることが分かる。

  匂宮「心にかなふあたりを、まだ見つけぬほどぞや」
  →まだ心に適う女性が見つかってないから、、、
  →匂宮はもう25才。源氏は色々あって須磨に蟄居しようかという年令である。

 [今日は短すぎましたね]

  

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椎本(13・14) 薫、大君と対面・対談(匂宮のこと自分のこと)

p68-78
13.薫、匂宮の意を伝え、わが恋情をも訴える
 〈p185 薫の君は、新年になってからでは、〉

 ①新年になると多忙になるとて薫はK23年末また宇治を訪れる。
  大君も薫の誠意に応えて几帳越しに対面する。

 ②薫の大君に対する印象
  さきざきよりはすこし言の葉つづけてものなどのたまへるさま、いとめやすく、心恥づかしげなり。かやうにてのみは、え過ぐしはつまじと思ひなりたまふも、いとうちつけなる心かな、なほ移りぬべき世なりけりと思ひゐたまへり
  →はっきりと大君に対する恋心を自覚する。

 ③薫→大君 
  匂宮から取り持ちが悪いと恨まれている
  匂宮は決して好色なだけの男ではない
  私が仲介の労をとって宇治と京を走り回りますから、、、
  →大君にとっては回りくどい分かりにくい話ではなかろうか。

 ④薫→大君
  それは、雪を踏みわけて参り来たる心ざしばかりを御覧じわかむ御このかみ心にても過ぐさせたまひてよかし。
  →匂宮の恋心と自分の恋心がごっちゃになっていて大君も混乱したのではないか。

 ⑤大君 雪ふかき山のかけ橋君ならでまたふみかよふあとを見ぬかな
  薫 つららとぢ駒ふみしだく山川をしるべがてらまづやわたらむ

  →大君の言い訳の歌を逆手に取って薫は自分の大君への恋心をストレートに訴える。

 ⑥大君 思はずに、ものしうなりて、ことに答へたまはず。
  →匂宮と中の君の話だと思っていたのにいきなり訴えられては大君も困る。

 ⑦けざやかにいともの遠くすくみたるさまには見えたまはねど、今様の若人たちのやうに、艶げにももてなさで、いとめやすくのどやかなる心ばへならむとぞ、推しはかられたまふ人の御けはひなる。
  →薫の目に映った(心に刻まれた)大君の様子。もう恋する心は固まった。

14.薫、大君の迎え入れを申し出る 薫の威徳
 〈p190 「日がすっかり暮れてしまいましたら、〉

 ①薫、大君に京へ来いと誘いかける。
  ただ山里のやうにいと静かなる所の、人も行きまじらぬはべるを、さも思しかけば、いかにうれしくはべらむ
  →女房は「やった!」と喜ぶ。大君には答えようもない。
  →父から宇治を離れるなと訓戒されている大君には「あり得ない話」と聞こえたのではないか。

 ②かの御移り香もて騒がれし宿直人ぞ、鬘髭とかいふ頬つき心づきなくてある、、、
  →この滑稽な名脇役が登場すると場面がホッとする。
  →さし絵(伴大納言絵詞)がすばらしい。

 ③薫 立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本むなしき床になりにけるかな 代表歌
  →この八の宮を偲ぶ薫の歌は心底からのものであろう。
  →自分の仏道修行のためにも、大君との恋のためにも八の宮には生きていた欲しかった。

 ④近き所どころに御庄など仕うまつる人々に、御秣とりにやりける、、
  →薫はこの付近の荘園にも顔がきく。将来の話の展開への布石でもある。

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椎本(11・12) 父を亡くした姫たちの悲哀

p58-67
11.薫、弁と対面して、尽きせぬ感慨に沈む
 〈p176 それを引き留めるような折でもありませんので、〉

 ①大君に代り相手をする弁に対し薫は今の心境を述べる。
  →無常観を持って生きてきた中出生の秘密を知り、法の友八の宮を失くし、姫たちの後見役を仰せつかった。薫、どう生きていくべきか考えどころである。

 ②弁の出自と経歴(重複の部分もあるが)
  母は柏木の乳母(柏木とは乳母きょうだい)
  父は八の宮の北の方の叔父(即ち弁と八の宮の北の方とはいとこ)左中弁であった。
  この父の伝手で八の宮家の乳母格として入り姫たちの面倒を見て来た。
  →知識教養的にも人格的にも一流ではないがそこそこの女性との評価。絶妙である。

 ③薫 古人の問はず語り、みな、例のことなれば、おしなべてあはあはしうなどは言ひひろげずとも、いと恥づかしげなめる御心どもには聞きおきたまへらむかし、、、
  →弁は秘密を守っていると言ってるが薫は信用できない。
  →今はいいがボケてきたら喋りだすかも。宇治(弁)から目を離すことはできない。
  →うまい設定である

 ④薫 秋霧のはれぬ雲居にいとどしくこの世をかりと言ひ知らすらむ
  →すっきり晴れない薫の心境

 ⑤薫は帰京するとすぐ匂宮を訪れ宇治の姫たちのことを話題にする。
  →主従、ライバル、恋敵、友だち、、色々入り混じった関係である。
  
12.姫君たち、山籠りの寂寥の日々を過す
 〈p181 「それにしても、月日というものは、〉

 ①姫たちの心中
  「さても、あさましうて明け暮らさるるは月日なりけり。かく頼みがたかりける御世を、昨日今日とは思はで、、、、」
  →落ちぶれてはいたものの宮として君臨していた父が儚く亡くなった。世間も何もしらない姫たちは途方に暮れるしかなかっただろう。風の音にも人影にも怯える姿は哀れである。

 ②雪、霰の降る年末になると益々寂しい。
  女房たちは薫・匂宮が救世主となり経済的に豊かになることを切望
  阿闍梨たち出入りの人も少なくなり歳暮の贈答もおざなりになってくる。
  山寺→檀家 薪・炭・木の実  檀家→山寺 冬衣(お布施)

 ③大君 君なくて岩のかけ道絶えしより松の雪をもなにとかは見る
  中の君 奥山の松葉につもる雪とだに消えにし人を思はましかば
  →亡き父を偲んでの姉妹の絶唱である。

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椎本(9・10) 姫たちに対する匂宮と薫

p47-58
9.匂宮の心寄せ 姫君たち心を閉ざす
 〈p167 匂宮からも、度々御弔問のお手紙が届きます。〉

 ①匂宮も八の宮の死を聞き薫に対抗して姫たちに想いを寄せる。
  匂宮 牡鹿鳴く秋の山里いかならむ小萩がつゆのかかる夕暮
  →想いを綿々と書き綴り歌で訴える。匂宮らしいストレートなアプローチである。
  →薫は姫たちの心を察し経済的支援はするものの歌はまだ贈っていない。

 ②返事を躊躇する中の君に代って大君が返歌を書く
  大君 涙のみ霧りふたがれる山里はまがきにしかぞもろ声になく
  →返事を出さないのも失礼だし、下手にも出せない。難しいところである。

 ③御使は、木幡の山のほども、雨もよにいと恐ろしげなれど、さやうのもの怖ぢすまじきをや選り出でたまひけむ、、、
  →京から宇治への途中の木幡山、恐ろしげだったことを強調。
  →奥の細道の山刀伐峠越えのくだりを思い出しました。

 ④使い 駒ひきとどむるほどもなくうち早めて、片時に参り着きぬ、
  →選ばれた屈強の若者、意気に感じて必死に駆けた。でも1時間は無理でしょう。
  →この辺の細かい描写がリアルで素晴らしい。返事を待つ匂宮の物欲しげな顔、忠義を尽くし恩賞に与ろうとする若者。

 ⑤御前なる人々ささめききこえて、憎みきこゆ。ねぶたければなめり。
  →匂宮が起きて待ってるので女房たちも寝られない。すまじきものは宮仕えです。
 
 ⑥返歌をもらった匂宮、チャンスとばかりさらにたたみかける。
  匂宮 朝霧に友まどはせる鹿の音をおほかたにやはあはれとも聞く
  →この情熱が匂宮の信条
  
 ⑦匂宮から攻勢をかけられた姫たちの苦悩
  思はずなることの紛れつゆにてもあらば、うしろめたげにのみ思しおくめりし亡き御魂にさへ瑕やつけたてまつらん、、、
  →父の訓戒(遺言)が呪縛になっている。打ち破るには莫大なエネルギーが要る。

10.薫、宇治を訪問し、大君と歌を詠み交す
 〈p173 薫の君へのお返事だけは、〉

 ①忌中も終わり薫、宇治を訪れる。
  実直に亡き父の言葉に従って後見しますと訴える薫
  大君 昔ざまにても、かうまで遥けき野辺をわけ入りたまへる心ざしなども思ひ知りたまふべし、すこしゐざり寄りたまへり。
  →大君も薫の誠実さは感じていたことであろう。

 ②け疎くすずろはしくなどはあらねど、知らぬ人にかく声を聞かせたてまつり、すずろに頼み顔なることなどもありつる日ごろを思ひつづくるもさすがに苦しうて、
  →深窓で純粋培養された姫たち、世間のこと男のこと分かる由もない。親の責任ではないか。

 ③薫 色かはる浅茅を見ても墨染にやつるる袖を思ひこそやれ
  大君 色かはる袖をばつゆのやどりにてわが身ぞさらにおきどころなき
  →薫と大君、几帳越しとは言え初めての対談。
  →脚注 、、、こうして互いの気持がしだいに近寄っていくのである。

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椎本(7・8) 八の宮、山寺で薨去

p40-46
7.八の宮、山寺にて病み、薨去する
 〈p162 八の宮の念仏三昧の勤行も、〉

 ①八の宮、山で勤行中に発病、使者が姉妹に伝言を持参(手紙も書けない)
  「、、、さるは、例よりも対面心もとなきを」
  →二人に逢いたい、、切実なSOSです。すぐ飛んで行かなくっちゃ。

 ②ここで出てくる阿闍梨の考え・言葉が何とも納得できない。
  「君たちの御事、何か思し嘆くべき。人はみな御宿世といふもの異々なれば、御心にかかるべきにもおはしまさず」「いまさらにな出でたまひそ」
  →冷酷非情、仏心のかけらもない。仏道とはこんなものだろうか。

 ③八月二十日のほど、、人々来て「この夜半ばかりになむ亡せたまひぬる」と泣く泣く申す。
  →あっけない。寝もやらず心配していた姫たちは愕然としたことだろう。

 ④また阿闍梨登場
  姫君「亡き人になりたまへらむ御さま容貌をだに、いま一たび見たてまつらん」
  阿闍梨「いまさらに、なでふさることかはべるべき」
  、、、、(姫たちは)阿闍梨のあまりさかしき聖心を憎くつらしとなむ思しける。
  →宗教は人の心を救うものではなかろうか。傷つけてどうする!
  →仏教の「全ての執着を捨てなさい」という教えかもしれないが、未だ八の宮は出家していない。出家できなかったのは姫たちへの執着を捨てきれなかったから。八の宮の生き方は中途半端と言わざるを得ないのではないか。
  →寂聴さんに伺ってみたいところです。

8.薫、哀傷し弔問する 姫君たちの深い悲嘆
 〈p165 薫の君は、八の宮の訃報をお聞きになって、〉

 ①八の宮の死を聞いて薫、世の無常を思う。
  昨日今日と思はざりけるを、、
  →つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを 在原業平
  →薫にとっては重大事。法の友を失くした。残された姫たちをどうすればいいのか、、。

 ②後の御わざなど、あるべきことども推しはかりて、阿闍梨にもとぶらひたまふ。
  →先ずはしっかりと経済的面倒をみる。薫の得意とするところである。

 ③九月にもなりぬ。野山のけしき、まして袖の時雨をもよほしがちに、、、、
  →秋が深まる。時雨の季節。八の宮を失った宇治山荘の晩秋の悲しげな景色、名文です。

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椎本(5・6) 八の宮、姫たちに訓戒

p32-39
5.薫、姫君たちと語り内省する 匂宮の懸想
 〈p156 薫の君はこちらに、〉

 ①八の宮が仏間に去って薫は弁と残った話をする。姫たちも奥にいて言葉を交わす。

 ②薫の心内  外ざまにもなりたまはむは、さすがに口惜しかるべう領じたる心地しけり
  匂宮はご執心だな。自分はどうもすぐ結婚とも思わない。他人に取られるのは嫌だけど八の宮が許してくれているのだからもう自分のものと思っていいだろうし、、。
  →薫の姫たち(大君)への思いも今一つあいまいである。

 ③そんな薫を後目に匂宮は中の君にせっせと文を送りつづけている。

6.八の宮、訓戒を遺して山寺に参籠する
 〈p158 秋が深まっていくにつれ、〉

 ①秋、山寺に勤行に行く前に八の宮は姫たちに訓戒(死期の近いのを自覚した遺言)をする。
  「世のこととして、つひに別れをのがれぬわざなめれど、、、、まして、女はさる方に絶え籠りて、いちじるくいとほしげなるよそのもどきを負はざらむなんよかるべき」
  訓戒1 父母の面目をつぶすな
  訓戒2 軽薄な結婚をするな 
  訓戒3 宇治から離れるな

  →誠に明快、それだけに残酷な言い方である。
  →薫に後見(結婚)を頼んだこととも矛盾するし父として無責任極まりない。

 ②かく心細きさまの御あらましごとに、言ふ方なき御心まどひどもになむ。
  →父の訓戒を聞いた姫たち、絶望を感じたのではなかろうか。  

 ③更に女房たちにも訓戒する。
  「うしろやすく仕うまつれ。、、、にぎははしく人数めかむと思ふとも、その心にもかなふまじき世とならば、ゆめゆめ軽々しくよからぬ方にもてなしきこゆな」
  →この言い方も無責任だし心がこもっていない。誰も聞く耳を持たないであろう。
  
 ④脚注はこの段での八の宮の訓戒・遺言は零落せるも皇族の誇りと品格をからくも持ち続けてきたの宮の苦渋がこもったものだとするが、私には理解できません。

  俗聖だの崇められているがとんでもない、八の宮こそ親(桐壷帝)の面目をつぶしたとんでもない男に感じます(大君も中の君もそして浮舟もこんな父の下に生まれて可哀そう)。
  →どうもこの段読むと怒りがこみ上げてきて困ります。

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椎本(3・4) 薫、宇治を訪問 八の宮との最後の対面

p22-32
3.匂宮の執心 八の宮、姫君の将来を案ずる
 〈p149 何かと落ち着かなくて、〉

 ①宇治で近づいたがそれ以上の進展はなかった匂宮、帰京して文を送り続ける。
  いとすきたまへる親王なれば、、、
  →匂宮は好色の親王として知られている。悪い意味ではない。

 ②姫たちの年令が語られる。
  大君 25才 中の君 23才 結婚適齢期を過ぎている。
  八の宮(大厄)61才 (薫は中の君と同じ23才、匂宮24才)

 ③死期が近いのを自覚している八の宮は姫たちの将来をあれこれ思い悩む。
  見ゆるされぬべき際の人の、真心に後見きこえんなど思ひよりきこゆるあらば、知らず顔にてゆるしてむ、
  →相応の男で頼りがいある男なら結婚を許してもいい。
   薫を念頭においての言葉だろうが結婚させてもいいという気持ちは持っていた。

4.薫、八の宮から姫君たちの後見を託される
 〈p151 薫の君はその秋、〉

 ①K23年 秋の司召で薫は宰相中将に昇進
  心苦しうて過ぎたまひにけむいにしへざまの思ひやらるるに、罪軽くなりたまふばかり行ひもせまほしくなむ。
  →出生の秘密を知った薫、父柏木の生きざま・死にざまを考え続けたことであろう。

 ②薫、久しぶりに宇治を訪れる(2月に匂宮を迎えに行った時以来)

 ③待ち受けた八の宮、薫にあれこれ話をする。
  「亡からむ後、この君たちをさるべきもののたよりにもとぶらひ、思ひ棄てぬものに数まへたまへ」
  →娘たちの後見を依頼しているがはっきりと結婚してくれとは言ってない。

 ④薫の返答も「お約束したこと心変わりはいたしません」ということで「結婚します」とは言ってない。
  →これもあいまいだが「姫たちを薫に託する」「託されます」ということで両者は暗黙の了解に達していたと考えてよかろう。勿論結婚するとの意味である。

 ⑤「、、、、男はいとしも親の心を乱さずやあらむ。女は限りありて、いふかひなき方に思ひ棄つべきにも、なほいと心くるしかるべき
  →当時の一般的考え方であったのだろうか。朱雀院も女三の宮のことで言っていた気がする。

 ⑥薫は昨年8月月下で姫たちを垣間見たことを思い出し姫たちに琴を所望。
  恥ずかしがり一節で止めてしまう姫たち。
  →薫もそれ以上は食い下がらない。八の宮・姫たち・薫が一同に会し心を通わせるチャンスだったのに。

 ⑦八の宮 われ亡くて草の庵は荒れぬともこのひとことはかれじとぞ思ふ 代表歌
  薫 いかならむ世にかかれせむ長きよのちぎり結べる草の庵は

  →八の宮と薫の歌の贈答 
   「頼みましたよ」「任せてください」これではっきりしたと思うのだが、、、。

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椎本(1・2) 匂宮、宇治に中宿り

椎本 朝の月涙のごとくましろけれ御寺の鐘の水渡る時(与謝野晶子)

さて椎本です。「しゐがもと」、宇治十帖には読みにくいが読めれば雅を感じる巻名が多い。

p12-22
1.匂宮、初瀬詣での帰途、宇治に中宿りする
 〈寂聴訳巻八 p140 二月二十日の頃に、兵部卿の匂宮は、〉

 ①K23年 二月二十日のほどに、兵部卿宮初瀬に詣でたまふ
  桜のシーズン、匂宮は初瀬の長谷観音詣での帰りに夕霧の宇治山荘に中宿りする。
  →八の宮の山荘の対岸、平等院の所(橋姫5の解説部分参照)
  
  京から長谷寺へのルートについては玉鬘7参照
  (長谷寺参詣、当時第一の観音霊場
    京-宇治-木津-奈良-椿市-長谷寺 約72KM)

 ②薫から宇治の姫たちのことを聞かされた匂宮、初瀬詣でにかこつけて宇治に泊り機会をうかがう。匂宮は将来の東宮候補、身分柄大行列になる。

  夕霧右大臣、迎えに来られず薫がかけつける。
  (夕霧は竹河で左大臣に昇格したとあるが宇治十帖では右大臣となっている)

2.八の宮、薫たちを歓待 匂宮歌を贈答する
 〈p141 山荘にふさわしく、〉

 ①夕霧宇治山荘では夕方になり楽宴が始まる。
  薫の吹く笛の音が対岸の八の宮に聞こえてくる。
  「これは澄みのぼりて、ことごとしき気のそひたるは、致仕の大臣の御族の笛の音にこそ似たなれ
  →八の宮は薫の出生は知らないが左大臣家の笛の音に聞こえる。
   左大臣-頭中-柏木-薫、、、これが左大臣直系である。

 ②八の宮は対岸の賑やかな様子を羨ましく思い、姫たちの行く末を悩ましく思う。
  姫君たちの御ありさまあたらしく、かかる山ふところにひきこめてはやまずもがなと思しつづけらる。
  →宇治で隠遁生活に甘んじてきた八の宮だが若い姫たちを思うと心が揺らぐ。

 ③はるばると霞みわたれる空に、散る桜あれば今ひらけそむるなどいろいろ見わたさるるに、
  →春爛漫、宇治川の桜と柳

 ④八の宮からの歌に匂宮が歌を返す。
  →積極的な匂宮。そりゃあそのために宇治に泊っているのですから。

 ⑤匂宮は身分が重くて動けない(対岸に渡れない)。薫が使いに行く。
  八の宮山荘では若公達も多数来て久しぶりの大宴会。普段は顔を見せないゆかりの人々も集まってくる。
  →何と言っても八の宮は皇族。

 ⑥対岸に渡れない匂宮はもどかしく歌を持たせるしかない。
  匂宮 山桜にほふあたりにたづねきておなじかざしを折りてけるかな
  中の君 かざしをる花のたよりに山がつの垣根を過ぎぬ春の旅人
  →積極的に訴える匂宮、軽妙に切り返す中の君

 ⑦紅梅大臣が迎えに来て匂宮は心残りながら京に帰らざるをえない。宇治の姫たちへの第一ラウンドはこれにて終了。

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橋姫 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

橋姫のまとめです。

1.和歌

89.橋姫の心を汲みて高瀬さす棹のしづくに袖ぞ濡れぬる
    (薫)    大君に想いを

90.命あらばそれとも見まし人知れぬ岩根にとめし松の生ひすゑ
    (柏木)   紙魚・黴、、衝撃の22年前

2.名場面

88.そのころ、世に数まへられたまはぬ古宮おはしけり。
    (p164   宇治十帖の始まり)

89.内なる人、一人は柱にすこしゐ隠れて、琵琶を前に置きて、、
    (p198   薫、月下に姫君をかいま見)

90.おし巻き合はせたる反故どもの、黴くさきを袋に縫ひ入れたる取りででて奉る
    (p234   弁、薫に柏木の遺書を渡す)

[橋姫を終えてのブログ作成者の感想]

宇治十帖の初帖橋姫を終えました。いかがでしたか。
新しい物語が語りおこされ、その語り口も匂宮三帖に比べるとぐっと鮮明、登場人物も舞台も新鮮にセットされ読者はたちまちに宇治の世界に引き込まれていったのではないでしょうか。

第一に宇治の舞台、これがいいですねぇ。地理的な知識、地図を是非頭に入れていただきたいと思います。

第二は草深い里に生きる薄幸の姫たち。昔からの物語の王道ですね。誇り高く嗜み深い大君と華やかでかわいらしく快活な中の君。この取り合せもいいですね。

第三は出生の秘密を独りで背負って生きる源氏物語本編の忘れ形見、薫!
(薫の血筋と出生の経緯を辿ると本編全てがカバーされると思います)

以上が三要素でしょうか。

コメント欄も青黄の宮さんの復帰を得て益々賑やかになってきました。ありがたいことです。宇治十帖はウジウジした話ではありますがそれだけに色んな読み解きができると思います。「薫よ、行け!」とか「匂宮よ、ガンバレ!」とかドンドン気持ちをぶつけてください。私とのやり取りだけでなくどうぞ相互に議論を発展させていただけばと思います。

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橋姫(17・18) 薫、弁から出生の秘密を聞く

p228-238
17.薫、弁に対面、柏木の遺書を手渡される
 〈p130 さて、その夜明け方、〉

 ①明け方になり八の宮は朝の勤行に、絶好の機会、弁を呼びつける。
  弁は60才前、老女である。柏木密通は22年前のこと。

 ②薫「なほ、かく言ひ伝ふるたぐひやまたもあらん」
  弁「小侍従と弁と放ちて、また知る人はべらじ。一言にても、また、他人にうちまねびはべらず」
  →極秘事項を他に知っている人がいては困る。薫は警戒する。
  →冷泉帝が夜居の僧都から源氏・藤壷の密通を聞きだす場面に似ている。

 ③若菜下柏木密通の場面では柏木と小侍従がやけに親しいと感じたが(おそらくデキていたのだろうが)、そこに弁が仲立ちとして入っていたとなると納得でもある。
  →柏木と弁は乳母姉弟、弁と小侍従は従姉妹。

 ④薫「仏にもこのことをさだかに知らせたまへと念じつる験にや、、」
  弁「仏は世におはしましけりとなん思うたまへ知りぬる」
  →薫は自分の出生について知りたいと仏に祈ってきた。弁も薫に伝えたいと仏に祈ってきた。
  →仏のお蔭で念願が叶った。薫は益々仏道を尊く思ったことだろう。

 ⑤弁の身の上話
  弁の母、柏木の死直後に死亡
  弁、さる男の妻となって九州へ
  九州で夫が死亡して10年ぶりに京へ帰ってきた
  柏木→弘徽殿女御を頼ってもよかったが八の宮の北の方の縁で八の宮に仕えている。
  →うまく物語を作るものである。

 ⑥弁の話を聞いた薫「かかる対面なくは、罪重き身にて過ぎぬべかりけること」
  →冷泉帝が僧都に言うことと同じ。実父に孝をつくさねば罪になるとの意識。

 ⑦ささやかにおし巻き合はせたる反故どもの、黴くさきを袋に縫ひ入れたる取り出て奉る。
  →弁が柏木から預った古文書。やっと薫の手に渡る。名場面です。

 ⑧弁から秘密を聞いた薫、弁には秘密を守ってもらわねばならない。年とって口さがない弁だけに秘密が漏れないか心配。薫は宇治を放っておけなくなる。
  →薫にとって宇治は仏道修行の場、秘密保持監視の場、姫たちとの交流の場となる。

18.薫、柏木の遺書を読み、母宮を訪れる
 〈p135 薫の君は京へお帰りになって、〉

 ①薫帰って弁からもらった黴くさい袋を開ける。
  開くるも恐ろしうおぼえたまふ。
  →当然であろう。手が震えたことだろう。

 ②いろいろの紙にて、たまさかに通ひける御文の返り事、五つ六つぞある。
  →柏木が大事にしていた女三の宮からの返書。5-6通もあった!続いていたんだ。

 ③死に際に女三の宮に書いたが渡せてなかった遺書
  陸奥国紙五六枚に、つぶつぶとあやしき鳥の跡のやうに書きて
   目の前にこの世をそむく君よりもよそにわかるる魂ぞかなしき
   命あらばそれとも見まし人しれぬ岩根にとめし松の生ひすゑ 代表歌
  
  →柏木p273で源氏が不義の子薫を見ながら女三の宮に皮肉を込めて言い放った歌に呼応
   源氏 誰が世にか種はまきしと人問はばいかが岩根の松はこたへむ

 ④紙魚といふ虫の住み処になりて、古めきたる黴くささながら、跡は消えず、ただ今書きたらむにも違はぬ言の葉どもの、こまごまとさだかなるを見たまふに、、
  →22年前の手紙、紙は古いが内容は生々しい。独り見る薫は孤独である。

 ⑤宮の御前に参りたまへれば、いと何心もなく、若やかなるさましたまひて、経読みたまふ
  →母女三の宮は相変わらず若くて悩みない様子(まだ色香を漂わせている)
  →薫は秘密を自分の胸一つに留めておかなければならない。

出生の秘密を知って宇治とは切っても切れない縁ができた薫。さて物語はどう進展するのでしょうか。
  

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