p58-67
11.薫、弁と対面して、尽きせぬ感慨に沈む
〈p176 それを引き留めるような折でもありませんので、〉
①大君に代り相手をする弁に対し薫は今の心境を述べる。
→無常観を持って生きてきた中出生の秘密を知り、法の友八の宮を失くし、姫たちの後見役を仰せつかった。薫、どう生きていくべきか考えどころである。
②弁の出自と経歴(重複の部分もあるが)
母は柏木の乳母(柏木とは乳母きょうだい)
父は八の宮の北の方の叔父(即ち弁と八の宮の北の方とはいとこ)左中弁であった。
この父の伝手で八の宮家の乳母格として入り姫たちの面倒を見て来た。
→知識教養的にも人格的にも一流ではないがそこそこの女性との評価。絶妙である。
③薫 古人の問はず語り、みな、例のことなれば、おしなべてあはあはしうなどは言ひひろげずとも、いと恥づかしげなめる御心どもには聞きおきたまへらむかし、、、
→弁は秘密を守っていると言ってるが薫は信用できない。
→今はいいがボケてきたら喋りだすかも。宇治(弁)から目を離すことはできない。
→うまい設定である
④薫 秋霧のはれぬ雲居にいとどしくこの世をかりと言ひ知らすらむ
→すっきり晴れない薫の心境
⑤薫は帰京するとすぐ匂宮を訪れ宇治の姫たちのことを話題にする。
→主従、ライバル、恋敵、友だち、、色々入り混じった関係である。
12.姫君たち、山籠りの寂寥の日々を過す
〈p181 「それにしても、月日というものは、〉
①姫たちの心中
「さても、あさましうて明け暮らさるるは月日なりけり。かく頼みがたかりける御世を、昨日今日とは思はで、、、、」
→落ちぶれてはいたものの宮として君臨していた父が儚く亡くなった。世間も何もしらない姫たちは途方に暮れるしかなかっただろう。風の音にも人影にも怯える姿は哀れである。
②雪、霰の降る年末になると益々寂しい。
女房たちは薫・匂宮が救世主となり経済的に豊かになることを切望
阿闍梨たち出入りの人も少なくなり歳暮の贈答もおざなりになってくる。
山寺→檀家 薪・炭・木の実 檀家→山寺 冬衣(お布施)
③大君 君なくて岩のかけ道絶えしより松の雪をもなにとかは見る
中の君 奥山の松葉につもる雪とだに消えにし人を思はましかば
→亡き父を偲んでの姉妹の絶唱である。
弁は出生の秘密を握る唯一の人物、それだけに目を離せなく油断もできないがそれでも今は弁だけがしみじみと心の内を語れる話し相手、その複雑な薫の心境が上手く描写されています。
宇治へ通う口実が姫君の後見と弁とを絡めて上手く繋がります。
重い荷を背負った薫の心境は宇治の川霧のように晴れないですね。
宇治の姫君たちは父を失くして途方に暮れている・・・
「宇治」とは誠に背景としてはこの上ない設定ですね。
八の宮、姫君、薫、殊更に無常感をそそり感心しきりです。
大君、中の君の和歌も読者の同情を誘います。
引き換え現実はここ数日春本番、桜もちらほらの季節その対照はあまりにもせつなく悲哀を感じます。
ありがとうございます。
1.薫の秘密を握っている唯一の人物、弁。二人は秘密の世界を語り合っている限りは味方同士だが秘密をバラされたら終わり。二人の関係には危ういものがありますね。ミステリー小説なら秘密を握った弁が薫を脅迫し耐えきれなくなった薫が殺人を犯す、、、なんてね。勿論王朝物語の世界ではそんなことはあり得ませんが設定としては面白いと思います。何れにせよ薫は弁(&宇治)からは目が離せないってことです。
2.父を亡くした姫たち。もう二人で生きていくしかない。二人いっしょにいる限りは互いに励まし合って大丈夫。でも一人になるとお互い困る。特に姉大君は父親代わりの立場でもあり自分を頼りにしている妹中の君をさしおいて自分勝手なまねはできない。。。。父八の宮の遺言と併せて考えると姫たちの結婚問題は非常に制約が多いと言わざるを得ません。
→そこを考えるのが薫中将、アナタですぞ!
春うららになってきましたね。宇治の姫たちには同情しつつ折角の春を楽しむことに致しましょう。