p68-78
13.薫、匂宮の意を伝え、わが恋情をも訴える
〈p185 薫の君は、新年になってからでは、〉
①新年になると多忙になるとて薫はK23年末また宇治を訪れる。
大君も薫の誠意に応えて几帳越しに対面する。
②薫の大君に対する印象
さきざきよりはすこし言の葉つづけてものなどのたまへるさま、いとめやすく、心恥づかしげなり。かやうにてのみは、え過ぐしはつまじと思ひなりたまふも、いとうちつけなる心かな、なほ移りぬべき世なりけりと思ひゐたまへり。
→はっきりと大君に対する恋心を自覚する。
③薫→大君
匂宮から取り持ちが悪いと恨まれている
匂宮は決して好色なだけの男ではない
私が仲介の労をとって宇治と京を走り回りますから、、、
→大君にとっては回りくどい分かりにくい話ではなかろうか。
④薫→大君
それは、雪を踏みわけて参り来たる心ざしばかりを御覧じわかむ御このかみ心にても過ぐさせたまひてよかし。
→匂宮の恋心と自分の恋心がごっちゃになっていて大君も混乱したのではないか。
⑤大君 雪ふかき山のかけ橋君ならでまたふみかよふあとを見ぬかな
薫 つららとぢ駒ふみしだく山川をしるべがてらまづやわたらむ
→大君の言い訳の歌を逆手に取って薫は自分の大君への恋心をストレートに訴える。
⑥大君 思はずに、ものしうなりて、ことに答へたまはず。
→匂宮と中の君の話だと思っていたのにいきなり訴えられては大君も困る。
⑦けざやかにいともの遠くすくみたるさまには見えたまはねど、今様の若人たちのやうに、艶げにももてなさで、いとめやすくのどやかなる心ばへならむとぞ、推しはかられたまふ人の御けはひなる。
→薫の目に映った(心に刻まれた)大君の様子。もう恋する心は固まった。
14.薫、大君の迎え入れを申し出る 薫の威徳
〈p190 「日がすっかり暮れてしまいましたら、〉
①薫、大君に京へ来いと誘いかける。
ただ山里のやうにいと静かなる所の、人も行きまじらぬはべるを、さも思しかけば、いかにうれしくはべらむ。
→女房は「やった!」と喜ぶ。大君には答えようもない。
→父から宇治を離れるなと訓戒されている大君には「あり得ない話」と聞こえたのではないか。
②かの御移り香もて騒がれし宿直人ぞ、鬘髭とかいふ頬つき心づきなくてある、、、
→この滑稽な名脇役が登場すると場面がホッとする。
→さし絵(伴大納言絵詞)がすばらしい。
③薫 立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本むなしき床になりにけるかな 代表歌
→この八の宮を偲ぶ薫の歌は心底からのものであろう。
→自分の仏道修行のためにも、大君との恋のためにも八の宮には生きていた欲しかった。
④近き所どころに御庄など仕うまつる人々に、御秣とりにやりける、、
→薫はこの付近の荘園にも顔がきく。将来の話の展開への布石でもある。
薫はストレートに先ず自分の思いを告げるべきです。
こんな時に匂宮のことを長々と話すなんて野暮です。順番が違います・・・
匂宮への友情や弁護もあるでしょうがここは我が恋慕優先すべきです。
これも姫君への接近の口実かもしれませんが廻りくどいですね。
これでは焦点がぼけてしまい大君に対して真の想いが伝わらないし大君も混乱するでしょう。
さも思しかけば、いかにうれしくはべらむ。
薫、やっと大君に本心を伝えましたね。
姫君、ここではやはり八の宮の訓戒が大きな枷になっていますね。
中の君も不愉快に思っているようですが・・・
かの宿直人の登場ですね。
さし絵を見て私が思っていたイメージとはかけ離れていました。
顔が結構ふっくら気味で鬘髭が恐そうな風貌じゃないですか、私は痩せこけた頼りないイメージを抱いていました。
そりゃこの風貌が薫の狩衣で匂いぷんぷんさせれば滑稽この上ないですね。
立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本むなしき床になりにけるかな
八の宮を仏道の師と頼みにもしていた薫の無念さが伝わってきます。
いつもながらポイントをついたコメント、ありがとうございます。
いよいよややこしい恋物語が本格的になってきました。
1.この物語、薫と大君・中の君姉妹の話であれば簡単なのですが、匂宮が加わり四人が絡み合う話になっていくのが何とも面白いところだと思います。四人のそれぞれの思惑が複雑に交錯し思いが叶ったり叶わなかったり、、、。その中で匂宮だけは(気楽にと言えるかどうかは議論あるところとして)直球一本の真っ向勝負といったところでしょうか。
2.薫は弔問から一旦間をおいて弁との話も踏まえ自分の心の整理もついたのでしょうか。漸く本格的に「大君を自分のものにしたい」という気持ちになったのだと思います。でも匂宮のことも疎かにできない。他人のことを思い遣る優しく面倒見のいい性格が仇となって大君への話もさっぱり要領を得ない中途半端なものになったような気がします。でも「つららとぢ駒ふみしだく、、」の歌は「私とあなたの方が先ですよ」と切実に訴えているように思います。
3.「立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本、、」
薫は八の宮の不遇な生涯を自分に重ねて、八の宮が俗世から離れ宇治の静かな住まいで仏道修行に没頭する姿に心を打たれたのだと思います。薫にとって八の宮は正に「椎の大木」であったのでしょう。おっしゃる通り薫の無念さを見事に詠んだ歌だと思います。