p47-58
9.匂宮の心寄せ 姫君たち心を閉ざす
〈p167 匂宮からも、度々御弔問のお手紙が届きます。〉
①匂宮も八の宮の死を聞き薫に対抗して姫たちに想いを寄せる。
匂宮 牡鹿鳴く秋の山里いかならむ小萩がつゆのかかる夕暮
→想いを綿々と書き綴り歌で訴える。匂宮らしいストレートなアプローチである。
→薫は姫たちの心を察し経済的支援はするものの歌はまだ贈っていない。
②返事を躊躇する中の君に代って大君が返歌を書く
大君 涙のみ霧りふたがれる山里はまがきにしかぞもろ声になく
→返事を出さないのも失礼だし、下手にも出せない。難しいところである。
③御使は、木幡の山のほども、雨もよにいと恐ろしげなれど、さやうのもの怖ぢすまじきをや選り出でたまひけむ、、、
→京から宇治への途中の木幡山、恐ろしげだったことを強調。
→奥の細道の山刀伐峠越えのくだりを思い出しました。
④使い 駒ひきとどむるほどもなくうち早めて、片時に参り着きぬ、
→選ばれた屈強の若者、意気に感じて必死に駆けた。でも1時間は無理でしょう。
→この辺の細かい描写がリアルで素晴らしい。返事を待つ匂宮の物欲しげな顔、忠義を尽くし恩賞に与ろうとする若者。
⑤御前なる人々ささめききこえて、憎みきこゆ。ねぶたければなめり。
→匂宮が起きて待ってるので女房たちも寝られない。すまじきものは宮仕えです。
⑥返歌をもらった匂宮、チャンスとばかりさらにたたみかける。
匂宮 朝霧に友まどはせる鹿の音をおほかたにやはあはれとも聞く
→この情熱が匂宮の信条
⑦匂宮から攻勢をかけられた姫たちの苦悩
思はずなることの紛れつゆにてもあらば、うしろめたげにのみ思しおくめりし亡き御魂にさへ瑕やつけたてまつらん、、、
→父の訓戒(遺言)が呪縛になっている。打ち破るには莫大なエネルギーが要る。
10.薫、宇治を訪問し、大君と歌を詠み交す
〈p173 薫の君へのお返事だけは、〉
①忌中も終わり薫、宇治を訪れる。
実直に亡き父の言葉に従って後見しますと訴える薫
大君 昔ざまにても、かうまで遥けき野辺をわけ入りたまへる心ざしなども思ひ知りたまふべし、すこしゐざり寄りたまへり。
→大君も薫の誠実さは感じていたことであろう。
②け疎くすずろはしくなどはあらねど、知らぬ人にかく声を聞かせたてまつり、すずろに頼み顔なることなどもありつる日ごろを思ひつづくるもさすがに苦しうて、
→深窓で純粋培養された姫たち、世間のこと男のこと分かる由もない。親の責任ではないか。
③薫 色かはる浅茅を見ても墨染にやつるる袖を思ひこそやれ
大君 色かはる袖をばつゆのやどりにてわが身ぞさらにおきどころなき
→薫と大君、几帳越しとは言え初めての対談。
→脚注 、、、こうして互いの気持がしだいに近寄っていくのである。
匂宮からも弔問は寄せられているようですがこの和歌は姫君への恋慕が先だっているようですね。
姫君たちは父を失った悲しみの方が大きくてそれどころではないでしょうに・・・
それでも何とか失礼のないように返歌はされる・・・
当時の恋愛は気の遠くなるようなエネルギーが必要ですね。
今のインターネットの瞬時のやり取りから思えば雲泥の差です。
でも待つ喜びや自筆で書かれた手紙のゆかしさ、ときめきなどは昔の方が趣があるように思います。
使いに走る者も何だか命がけのようでこの辺りの描写は脳裏に映像が浮かびます。
薫の宇治訪問、匂宮に比べてすべてがおっとりですね。
世間慣れしていない姫君たちにとっては何もかもが初めての経験で何をどうしていいのやら戸惑うばかりでしょう。
ここは有能で賢明な女房の出番でしょうがそのような人物はいなかったのでしょうか?
弁では役不足?
それでも大君には薫の誠実さだけは通じているような気がしますが・・・
ありがとうございます。
1.匂宮は八の宮とは直接関係もなく父宮の死自体は気の毒には思うがそれ以上の気持ちはなかったのでしょう。ただ父の死で草深い宇治に残された姫たちへの同情(哀れに思う気持ち)は益々募り是非とも交誼を結びたいとの気持ちは高まったのだと思います。それで使者を走らせ熱心に歌を詠みかける。自分に正直な純粋な行動だと思います。
2.一方の薫は全てを背負ってしまい姫たちのことをどうすればいいか心の整理もまだついてない情況だったのではないでしょうか。大君については漠然と結婚することになるのだろうなとの想いはあるにせよこの段ではまだ大君に何が何でもという恋情は抱いていないと思います。その辺が純粋にイケイケドンドンの匂宮とは思考パターン・行動パターンが違うのでしょう。
3.おっしゃる通り姫たちには頼りになる有能な女房がいませんねぇ。弁が一番でしょうがどうも年取り過ぎてるようですし。末摘花の場合もそうでしたが落ち目の皇族・貴族からは有能な女房も逃げ出すのでしょうね。