総角(17・18・19) 匂宮、薫と連れ立って宇治へ

p182 – 194
17.中の君、匂宮の情けを受けわが前途を悩む
 〈p273 匂宮は、今夜、宮中からなかなか抜け出せなかったことを〉

 ①三日目の閨の中での匂宮と中の君
  匂宮「心のほどやいかがと疑ひて思ひ乱れたまはむが心苦しさに、身を棄ててなむ。常にかくはえまどひ歩かじ」
  →行動に制約ある匂宮としては事情を説明しておかねばならない。当然である。
  →中の君は「もう来れないことの言い訳か」と疑心暗鬼になる。これも当然である。

 ②明けゆくほどの空に、妻戸おし開けたまひて、もろともに誘ひ出でて見たまへば、霧りわたれるさま、所がらのあはれ多くそひて、
  →晩秋の朝の宇治川の様子。匂宮は感無量だったことだろう。

 ③男の御さまの、限りなくなまめかしくきよらにて、この世のみならず契り頼めきこえたまへば、、、なかなか、かの目馴れたりし中納言の恥づかしさよりはとおぼえたまふ。
  →中の君は長らく近しくしていた薫よりも一気に契ってしまった匂宮の方を好ましく思う。(「萌えはじめた人妻の喜び」段末脚注)
  →男女の肉体関係とはそのようなものであろう。それにしても千年前によくぞ喝破したものだと感心する。

 ④匂宮 中絶えむものならなくに橋姫のかたしく袖や夜半にぬらさん
  中の君 絶えせじのわがたのみにや宇治橋のはるけき中を待ちわたるべき
  →中の君の返歌は愛おしい。これを聞けば匂宮は放っておけないと思ったことだろう。

 ⑤女房「中納言殿は、なつかしく恥づかしげなるさまぞそひたまへりける。思ひなしのいま一際にや、この御さまは、いとことに」
  →この女房の一言が二人の違いを言い当てている。匂宮のオーラは格別である。

18.匂宮の訪れ途絶える 大君・薫の心痛
 〈p278 匂宮は御帰りの道すがら、〉

 ①その後匂宮は宇治を訪れることができない(文は毎日来るものの)
  大君は中の君を慮って心を痛める。
  →そう簡単に来れないことは分かりそうなものだが。
  →情報の少ない世にあっては悪い方は悪い方へと考えてしまうのであろう。  

19.薫、匂宮と宇治を訪れ、大君と対面する
 〈p279 九月十日頃のことですから、宇治の野山の紅葉の〉

 ①9月10日 匂宮、薫と連れ立って宇治を訪れる。この季節当然雨である。
  →8月26日が新婚初夜。それから2週間ほど。そんなご無沙汰ではなかろうに。

 ②薫がついてきた。
  大君 さかしら人のそひたまへるぞ、恥づかしくもありぬべく、なまわづらわしく思へど、、
  →大君はもう薫とのことは終わったと思ってるのか。でも経済的後見はしてもらわねばならず、そう邪険にもできないのでは。

 ③薫と大君の対話 恋心を訴える薫。独身を通すことを自ら再確認する大君
  →いやぁ、噛みあいませんねぇ。この平行線を打ち破るにはどうすべきだったのでしょう。

 ④匂宮「中納言の、主方に心のどかなる気色こそうらやましけれ」とのたまへば、女君、あやしと聞きたまふ。
  →こういう一文が入るのが何とも滑稽です。それほどに薫と大君の関係は異常ということでしょうか。

 ⑤この段に匂宮と中の君の閨での語らいの場面がないのは驚きです。これ以上に不必要なことは書かないということでしょうか。主題は大君と薫なんですから。

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総角(14・15・16) 三日の夜更け 匂宮、宇治に到着

p174 -182
14.匂宮参内 母宮の諌めにそむき宇治に行く
 〈p267 匂宮は、その夜参内なさいましたら、〉

 ①明石の中宮
  「なほかく独りおはしまして、世の中にすいたまへる御名のやうやう聞こゆる、なほいとあしきことなり。何ごとももの好ましく立てたる心なつかひたまひそ。」
  →匂宮の立場と行動を制限される事情を如実に語っている。
  →母として子を&中宮として東宮になるべき皇子を諭す言葉。当然である。

 ②薫参上、匂宮「いかがすべき。いとかく暗くなりぬめるを、心も乱れてなむ」
  →匂宮は薫を頼りにしている。「お願い助けて!」の心境であろう。

 ③薫と匂宮の会話が面白い。
  →薫も匂宮から身を低くして頼まれれば応えるしかない。
  →薫の男気が感じられる場面と思うがいかが。

 ④馬はやめといたらという薫に急ぐ匂宮はあえて馬で行く。
  →そりゃ、急がなくっちゃ。走れ、匂宮!

15.薫、中宮に対面 女一の宮を思うも慎む
 〈p270 薫の君が中宮のところに参りますと、〉

 ①中宮「宮は出でたまひぬなり。あさましくいとほしき御さまかな」
  →わざわざ夜女性の所にでかけなくても内に侍らせておればいいものを、、、。
  →子を想う親心。恋する若者の心が分かっていない。

 ②薫は中宮の側に女一の宮の気配を感じて(妄想して)ふがいない自分に自責の念に駆られる。
  ひがひがしき心のたぐひやは、また世にあむべかめる、それに、なほ動きそめぬるあたりは、えこそ思ひ絶えね
  →(薫の心内)「律儀の程にも限りがある、大君にあれだけ近づいて、何もしなかったとは、、、情けない」
  →分かってても行動に出られないところが薫の薫たる所以

 ③女房相手の戯れ事について。
  中宮の後宮、美貌・教養申し分ない女房たちが薫に媚態を示す。薫には空しく映るだけ。
  →もう少し柔軟になれませんかね、薫の中将!(偶には浮気もあったのでしょうが)

16.匂宮の来訪を女房ども喜ぶ 大君の心境
 〈p271 宇治では薫の君が三日夜のお祝いを仰々しく〉

 ①三日目の深夜、激しい風をついて匂宮到着!
  →文だけ来て本人が来ないので絶望に陥りかけたところへ匂いと共に到着。
  →大君・中の君&宇治山荘の全ての人は喜びの声を上げたことだろう。
  →三日間宇治に通う。匂宮はエライ!筋金入りの好色ではなかろうか。

 ②中の君 正身も、いささかうちなびきて思ひ知りたまふことあるべし。いみじくをかしげに盛りと見えて、ひきつくろひたまへるさまは、ましてたぐひあらじやはとおぼゆ。
  →中の君も三日目、身も心も匂宮に靡いたということだろう。
  →匂宮の情熱はすごい。さすが源氏の孫である。

 ③中の君と匂宮の閨から離れて老女房たちと同じ部屋で寝る大君
  我もやうやう盛り過ぎぬる身ぞかし、鏡を見れば、痩せ痩せになりもてゆく、
  →中の君とは2才違いの26才。老醜などととんでもない。
  →こんな内向き志向では薫の胸に飛び込めない。心の持ち方は難しいものである。

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総角(11・12・13) 後朝、二日目そして三日夜の餅の用意

p164 -174
11.匂宮の後朝の文 大君中の君に返事させる
 〈p259 匂宮はお帰り早々、中の君に後朝のお手紙をさし上げます。〉

 ①匂宮が去った翌朝の姫たちの気持ち、
  中の君:大君が計らって匂宮を自分のところに差し向けた。姉君はケシカラン。
  大君:てっきり薫が中の君の所へ行くと思ったのに、、。でも中の君にはそれすら言ってなかったので、怒っているだろうな。
  →つくづくと難しいもんですねぇ。現代にも通じるでしょう。

 ②匂宮 世のつねに思ひやすらむ露ふかき道の笹原分けて来つるも
  →後朝の文を届ける匂宮、決して脚注にあるような「身勝手な遊び心だけ」とは思わないのだがいかが。

 ③その夜、「オイ、行こうぜ。案内してよ」と声をかける匂宮
  言い訳を言って同行を断る薫

12.大君、中の君をなだめて匂宮を迎えさせる
 〈p262 宇治では、どうしたらいいだろう、〉

 ①匂宮は三日間宇治に通わねばならない。その二日目。
  さる方にをかしくしなして待ちきこえたまひけり。遥かなる御中道を、急ぎおはしましたりけるも、うれしきわざなるぞ、かつはあやしき。
  →準備をして待ち受ける大君。来てもらってほっとする。
  →この辺が現代感覚では理解できない。結局は来てもらわねばその方が困るのだろうか。

 ②大君は中の君に昨晩のことを詫び受け入れを説得する。
  →結局大君は匂宮と中の君の結婚を承諾したということ。これが当時の定めなのか。

 ③中の君の様子 まいてすこし世の常になよびたまへるは、御心ざしもまさるに、、
  →一夜を経て中の君はもの柔らかになっている。細かい描写だが「そうか」と思わせるに十分。

 ④中の君、深窓で育ち男女のことなど何も分からないウブな姫であった。一夜を経てもろくに返事もできない。
  さるは、この君しもぞ、らうらうじくかどある方のにほひはまさりたまへる。
  →でも利発で才覚に富む資質は姉君よりもまさっていた。

13.三日夜婚儀の用意 薫来たらず贈物あり
 〈p265 「新婚三日めの夜には、〉

 ①三日目、三日夜の餅の用意をする。
  →欠かせない儀式。それだけに気を遣う。

 ②薫からお祝いの贈り物が届く。それはいいが、
  薫 小夜衣きてなれきとはいはずともかごとばかりはかけずしもあらじ
  →これはマズイ。大君の心を逆なでするだけ。
  →薫こそ第一回目の侵入の時コトを果たし三日間通うべきであったろうに。

 ③大君 へだてなき心ばかりは通ふともなれし袖とはかけじとぞ思ふ
  →脚注には「凛としてゆるがぬ気品を示す」とあるがこれもマズイのでは。売り言葉に買い言葉のように思えるがいかがか。
  

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総角(9・10) 匂宮、中の君と契る

p148 -164
9.薫、匂宮に中の君を譲るべく相談する
 〈p246 三条の宮邸が焼失なさった後は、〉

 ①薫は三条宮が焼けて修理中で六条院に移っている。匂宮は二条院の筈。三条宮と二条院は隣り合わせだが六条院と二条院は遠い。
  近くては常に参りたまふ
  →不審。作者の勘違いだろうか。

 ②例によって薫は匂宮に姫たちの様子を報告する。
  匂宮「このごろのほどに、かならず、後らかしたまふな」
  →匂宮としては薫の話を聞くだけでは欲求不満になるばかり。

  匂宮「あなかしがまし」とはてはては腹立ちたまひぬ。
  →本気で怒ったというより、「うるさい、何とかしてよ!」とすねた感じか。

 ③薫の心内 、、、、譲りきこえて、いづ方の恨みをも負はじ
  中の君を匂宮と結婚させれば大君は自分に靡くだろう。
  →これが致命的な読み違え。あるいは楽観し過ぎ。
  →大君は中の君を薫に、自分は独身を通すとの考えを変えていない。

 ④匂宮「よし、見たまへ。かばかり心にとまることなむまだなかりつる」
  →匂宮は本気である。

 ⑤、、とて、おはしますべきやうなどこまやかに聞こえ知らせたまふ。
  →薫は手筈のほどを匂宮に詳しく説明する。若者の心弾む悪だくみの語らいである。

10.匂宮、中の君と契る 薫、大君に拒まれる
 〈p250 八月の二十六日は、彼岸明けの日で、〉

 ①K24年8月26日 月の出ない月末の宵 二人は宇治へ。
  →匂宮の心はどれほどか踊っていたことだろう。さあ、待望の宇治へ。

 ②薫が来た。迎える姫たちの想い。
  大君:中の君の方へ心替りして来たのだろう。
  中の君:自分とは何もしなかった。やはり大君のところへ来たのだろう。
  →二人とも妥当な考えではなかろうか。

 ③ところが薫は大君の所へ。又もや障子の中に手を入れてきて無体に及ぶ。そして衝撃の言葉
  「宮の慕ひたまひつれば、え聞こえいなびで、ここにおはしつる、音もせでこそ紛れたまひぬれ。、、、、」 
  →これはない。大君は薫の余りの無神経さに慄然としたのではないか。

 ④宮は、教へきこえつるままに、一夜の戸口に寄りて、扇を鳴らしたまへば、弁参りて導ききこゆ。
  →匂宮の方は首尾万端。しめしめとばかり中の君の寝所に入ったのであろう。
  →中の君との情交場面は一切省筆されている。さすが紫式部である。

 ⑤必死に弁解し理解を求める薫。絶望の内に薫を難詰する大君。
  →このたばかりは大君ならずとも怒るのはあったりまえでしょう!

 ⑥薫 しるべせしわれやかへりてまどふべき心もゆかぬ明けぐれの道
  大君 かたがたにくらす心を思ひやれ人やりならぬ道にまどはば
  →薫には絶望した。でも経済的支援は薫に頼らざるを得ない。大君の苦悩は深い。

 ⑦帰途につく薫と匂宮。満足げな匂宮、何とも苦々しい薫。でも二人とも笑いとジョークの中に想いを隠して。。。

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総角(7・8) 薫、二回目の侵入。あっ、中の君だ、、

p137 -148
7.薫、姫君たちの部屋に忍び入る 大君脱出
 〈p237 夜が少し更けていく頃、〉

 ①宵すこし過ぐるほどに、風の音荒らかにうち吹くに、はかなきさまなる蔀などはひしひしと紛るる音に、
  →侵入の晩。男が忍んでいく晩は大抵このように風が吹いてザワザワした感じ。

 ②薫、第二回目の侵入 - 名場面
  音を聞きつけて逃れる大君。寝入っている中の君
  →源氏が空蝉と軒端荻の所へ侵入したのと同じ(空蝉p176)

 ③中納言は、独り臥したまへるを、心しけるにやとうれしくて、心ときめきしたまふに、やうやう、あらざりけりと見る。いますこしうつくしくらうたげなるけしきはまさりてやとおぼゆ。
  →大君だけが事の成り行きを承知していた。
   (薫が来る。私は逃げる。薫は中の君と契るだろう。中の君は吃驚するだろうが薫と結ばれればそれが一番だ、、、)
  →薫と中の君はそれぞれに驚いたことだろう。

 ④薫 なほ本意の違はむは口惜しくて、うちつけに浅かりけりともおぼえたてまつらじ、この一ふしはなほ過ぐして、、、
  →ここで契ってしまったら大君とは結婚できまい。匂宮にも恨まれる。
  →ここは思い止まるのが妥当なところだろうか。
  →「まあこちらでもいいか」って軒端荻と情を交した源氏とは比較にならない。

 ⑤女房たち「いま、おのづから見たてまつり馴れたまひなば、思ひきこえたまひてん
  →いかにも女房は品が落ちるといった言い方だが、それだけにリアルである。

 ⑥薫→中の君「あひ思せよ。いと心憂くつらき人の御さま、見ならひたまふなよ」
  →薫はどんな思いで中の君と実事なき夜を過ごしたのだろう。
  →中の君も間近に薫に顔を見られた、即ち殆ど情交したに等しいということ。

 ⑦こんな事態になって薫・中の君・大君はそれぞれにどう思ったのだろう。
  薫と中の君、両方から恨まれる羽目になった大君が一番堪えたのではないか。

 ⑧薫が弁に腹たちまぎれにおどし・いやみを言う場面
  「来し方のつらさはなほ残りある心地して、、、、今宵なむまことに恥づかしく、、うきもつらきも、かたがたに忘られたまふまじくなん。、、、、」

  →正に捨て台詞。みっともいいもんじゃない。源氏はこんなこと言わない。

8.薫、大君と片枝の紅葉につけて歌を交す
 〈p244 大君も、一体どうしたことだろう、〉

 ①薫より後朝の文
  大君 「例よりはうれしとおぼえたまふも、かつはあやし。」
  →この辺が微妙ですねぇ。女心ははかりしれません。

 ②青き枝の、片枝いと濃くもみぢたるを、
  →芸が細かい。さすがです。

 ③薫 おなじ枝を分きてそめける山姫にいづれか深き色ととはばや
  大君 山姫の染むる心は分かねどもうつろふ方や深きなるらん 代表歌
  →お互い感情が高ぶってて歌どころではないだろうと思うに、さすが王朝人ですね。
  →でもそれでまた「ひょっとしたらまだ行けるのか」という気持ちになる。

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総角(5・6) 薫・大君、苦衷の駆け引き

p119 – 136
5.大君妹を薫にと決意 中の君移り香を疑う
 〈p224 姫君は、女房たちが昨夜のことを、〉

 ①薫との実事なき夜を過ごした大君の心境
  「、、、この人の御けはひありさまの疎ましくはあるまじく、故宮も、さやうなる心ばへあらばと、をりをりのたまひ思すめりしかど、みづからはなほかくて過ぐしてむ、我よりはさま容貌も盛りにあたらしげなる中の宮を、人並々に見なしたらむこそうれしからめ、」
大君 ・父宮も薫の君ならよかろうと言われていた。
     ・中の君を結婚させてやりたい。
     ・私は独身を通そう。
  →さあ、薫は大君にどう対処していくのであろうか。

 ②薫の移り香が大君についたと知った中の君
  まことなるべしといとほしくて、寝ぬるやうにてものものたまはず。
  →中の君は大君のことをそんなに不憫だと思ったのだろうか。よかったなという気持ちはなかったのだろうか。

 ③薫と大君が既に契ったと思いこんでいる女房たちは姫たちのしゃきっとしない態度を非難する。
  →弁はどうしたのだろう。薫から聞いて事情を知る弁こそ大君の味方になって相談に乗ってやるべきであろうに。

6.喪明け、薫宇治を訪問 女房手引の用意
 〈p227 御一周忌も済み、喪服をお脱ぎ捨てなさるにつけても、〉

 ①大君から見た中の君
  、、めでたければ、人知れず、近劣りしては思はずやあらむと頼もしくうれしくて
  →女盛りで薫に引き合わせても見劣りしない。中の君と薫を結婚させよう、、、。

 ②宇治山荘の女房たちは薫が姫(大君)の所へ来てくれることを切望しており、そのためには何でもする、、、そんな雰囲気になっており。大君もそれを感じている。

 ③大君は中の君を薫に取り持つのが一番と考え中の君に話して聞かせる。
  「、、、君だに世の常にもてなしたまひて、かかる身のありさまも面だたしく、慰むばかり見たてまつりなさばや」
  →自分よりも妹のことを、、、この大君の考え分かる気がしますが如何。
  →中の君はそんなこと言われても困ってしまうのみ。

 ④薫は大君との対面を果たそうと居座って帰ろうとしない。
  困った大君、弁を引きこんで対話する。
  大君→弁: 薫には中の君をもらって欲しい。私は独身を通す。
  弁→大君: 薫はそれでは承知しない。二人とも結婚すればいい。八の宮もそう考えていた。
  →互いに十分言い尽くしている感じ。どっちもどっち、大君は決断できるか。

 ⑤薫「さらば、物越しなどにも、今はあるまじきことに思しなるにこそはあなれ。今宵ばかり、大殿籠るらむあたりにも、忍びてたばかれ」

  →おお、頼もしや薫の中将!それでこそ男。さて首尾のほどや如何。

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総角(3・4) 薫、大君への第一回目の侵入

p107 -119
3.薫、大君のもとに押し入り事なく朝を迎う
 〈p214 今夜は薫の君もここにお泊りになって、〉

 ①薫、大君への第一回目の侵入 名場面
  、、、」とて、屏風をやをら押し開けて入りたまひぬ。
 大君「隔てなきとはかかるをや言ふらむ。めづらかなるわざかな」
  →薫は意を決して侵入。大君のたしなめの言葉は余り強くないのでは。

 ②心にくきほどなる灯影に、御髪のこばれかかりたるを掻きやりつつ見たまへば、人の御けはひ、思ふやうに、かをりをかしげなり。
  →髪を掻き上げて顔を見る。情交手前というより客観的には情交そのものということだろう。髪をあげて顔を見たけど情交しなかった、、、なんてあり得なかったのだろう。
  →これが薫の薫たる所以であろうが如何なものか。

 ③大君「かかる御心のほどを思ひよらで、あやしきまで聞こえ馴れにたるを、ゆゆしき袖の色など見あらはしたまふ心浅さに、みづからの言ふかひなさも思ひ知らるるに、慰む方なく」
  →侵入され顔を見られた大君。恥ずかしさは実事があったに等しかったのでは。
  →とすれば実事に及んでもよかったのでは、薫の中将!
  
 ④かの物の音聞きし有明の月影よりはじめて、をりをりの思ふ心の忍びがたくなりゆくさまを、いと多く聞こえたまふに、恥づかしくもありけるかなと疎ましく、

  →覗き見をバラしてはいけない。実事の後ならいいだろうけど。。

 ⑤いぎたなかりつる人々は、かうなりけりとけしきとりてみな入りぬ
  →女房たちは「結婚成就!」と喜んだことだろう。
  →如何にも薫の独りよがり独り相撲。夕霧と女二の宮のケースといっしょである。

4.宇治の邸の夜明け 香煽る、大君と歌を交す
 〈p220 そのうちにいつかまにか夜明け方になっていました。〉

 ①夜が明けて
  空のあはれなるをもろともに見たまふ。女もすこしゐざり出でたまへるに、
  →「女」と言う言葉が使われている。大君も薫に寄り添うように明けゆく空を見ている。もう二人は結婚した以外の何物でもなかろう。薫の中将よ、後は既成事実を積み重ねていくだけですぞ。

 ②薫「何とはなくて、ただかやうに月をも花をも、同じ心にもて遊び、はかなき世のありさまを聞こえあはせてなむ過ぐさまほしき」
  →そんなこと言わなくていいのに。

 ③大君「今より後は、さればこそ、もてなしたまはむままにあらむ。今朝は、また、聞こゆるに従ひたまへかし」
  →脚注1は大君のその場しのぎの言葉というが、それだけでもなかろう。この瞬間は大君もまんざらではなかったのではなかろうか。

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総角(1・2) 八の宮の一周忌間近。薫、大君に訴える

総角 心をば火の思ひもて焼かましと願ひき身をば煙にぞする(与謝野晶子)
 →晶子のこの歌、今ひとつよく分かりません。

さて総角です。薫と大君、どうなって行くのでしょう。ガンバレ、薫!
(総角=「あげまき」源氏物語か催馬楽に興味ない人には読めないでしょう)

p94 – 106
1.八の宮の一周忌近し 薫、大君に訴える
 〈寂聴訳巻八 p204 長い年月、すっかり耳馴れていた宇治川の川風の声も、〉

 ①K24年8月 八の宮の一周忌である。
  薫と阿闍梨が何かれと取り仕切る。
  →誰かの厄介になっていかねば姫たちは生きていけない。絶対絶命である。

 ②仏に奉る五色の糸を縒って作った飾り=総角(p97イラスト参照)
  伊勢の御と紀貫之の古歌が引かれる。 

  催馬楽 総角 
   →離れて寝ていたが互いに転び合って共寝してしまったよ
   →大らかでいい歌じゃないですか。

  薫 あげまきに長き契りをむすびこめおなじ所によりもあはなむ 代表歌
  大君 ぬきもあへずもろき涙の玉の緒に長き契りをいかがむすばん
  →父の一周忌に際してではあるが大君の歌にはまだ希望が見られない。
   薫にしては空しいやりとりである。

 ③薫は匂宮の想いについても大君に訴える。
  →この辺、誰が誰を欲しいのか甚だ曖昧である。
   「花いちもんめ」じゃないが「あの子が欲しい」って言わなくっちゃ。

 ④大君の言葉
  こののたまふめる筋は、いにしへも、さらにかけて、とあらばかからばなど、行く末のあらましごとにとりまぜて、のたまひおくこともなかりしかば、
  →父の言葉が呪縛となっているのもあるが、薫や匂宮の言いなりにはなりませんよという言い訳でもあろう。

  すこし世籠りたるほどにて、深山隠れには心苦しく見えたまふ人の御上を、いとかく朽木にはなしはてずもがなと、、
  →中の君のことが一番の心配。大君には父の遺言に続く第二の呪縛である。

2.薫、弁を呼び、姫君たちのことを話し合う
 〈p209 こんな場合、若い姫君がしゃきしゃきと大人ぶって、〉

 ①薫、弁に訴える。
  自分は八の宮に姫たちの後見を頼まれた。それなのに自分は拒否されるし匂宮のことも承知してくれない。何故だろう?
  →薫の訴えも道理である。

 ②弁は薫に女房たちの言葉も交えながら大君の考えを解説する。
 (弁の言う大君の考え)薫には中の君と結婚して欲しい。匂宮は本気ではないだろう。
  →この弁の言葉は実情であろう(p102 脚注2)

 ③薫は弁の言葉をどう聞いたのであろう。
  →「ともかくも中の君を結婚させてもいいと思ってるのはありがたい。結婚しない。宇治を出ないという一角が崩れることになるから。一つ崩れれば後は持って行き方次第、、、」と薫は考えたのではなかろうか。

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椎本 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

椎本のまとめです。

1.和歌

91.われ亡くて草の庵は荒れぬともこのひとことはかれじとぞ思ふ
    (八の宮)   あわれなり、八の宮

92.立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本むなしき床になりにけるかな
    (薫)     八の宮を偲んで

2.名場面

91.二月の二十日のほどに、兵部卿宮初瀬に詣でたまふ。
    (p12  匂宮、宇治に中宿り)

92.人々来て、「この夜半ばかりになむ亡せたまひぬる」と泣く泣く申す。
    (p42  八の宮薨去)

93.まづ一人たち出でて、几帳よりさしのぞきて、この御供の人々の
    (p85  薫、再び姫君をかいま見)

[椎本を終えてのブログ作成者の感想]

「椎本」を終えました。宇治十帖、面白くなってきましたね。
「橋姫」では宇治の舞台が設定され登場人物の紹介がなされた訳ですが、本帖「椎本」はそれを少し発展させ本格的に四つ巴の恋物語が語られる「総角」への繋ぎという位置づけかと思います。

 1.本帖での一番重要な出来事は八の宮の死だと思います(巻名も八の宮を表す「椎の大木」に由来している)。冷静に読めば余りにも頼りなく無責任な言い草には憤りを覚える八の宮ですが、姫たちにとっては勿論薫にとってもかけがえのない存在であった訳ですから。八の宮が死んで残した混沌、ここから宇治の恋物語が始まると言えるのではないでしょうか。
  
  →八の宮の人生(源氏の光りと八の宮の陰)には感慨深いものがあります。

 2.薫が宇治を訪れているのは意外と少ないのですね。K22年秋初めて姫たちを垣間見た以降列記してみると、

   K22年秋  八の宮不在時、月下に姫たちを垣間見
     10月  八の宮と後見の話、弁から秘密を詳細に聞く
   K23年2月 匂宮中宿り時 匂宮名代で訪問
       7月 八の宮と最後の対面、後見の話
       9月? 八の宮の忌はてて訪問、大君を見舞う
       年末  大君に胸中を訴える(中途半端)
   K24年夏  再び姫たちを垣間見

  →初めて姫たちを意識して垣間見てから2年も経ってるのですね。でも恋物語としては殆ど進展していません。いわばここまでが序曲なのでしょう。
  →明日からの「総角」はすごく長いですが期間はK24年秋から12月までの短期間です。一気に四つ巴(大君・中の君vs薫・匂宮)の恋物語が進展します。気合いを入れて読み進めたいと思います。

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椎本(17) 薫、またもや姫たちを垣間見

p83-88
17.薫、宇治を訪れ、姫君たちをかいま見る
 〈p197 その年、薫の君の御本邸、〉

 ①K24年 女三の宮が住んでいた三条宮が焼ける。
  →先に八の宮邸が焼けて宇治に移住せざるを得なかった。火事は多かったのだろう。
  →女三の宮は六条院に移る。以前いた春の町(柏木との思い出のある)であろうか。

 ②薫は姫たちを自分のものだとは自覚しながら姫の方から心を開いてくるまでは無理やり関係を迫ろうとは思っていない。
  →薫の真情であろう。分かる気がする。

 ③夏の盛り、薫は涼しい所を求めて宇治を訪れる。
  宿直人を呼び出して世話をさせる。
  →「オイ、ちょっと覗けるような所はないのか」とかつぶやいたのではないか。

 ④穴が開いてるところがあって薫は姫たちを垣間見る。
  まづ一人たち出でて、几帳よりさしのぞきて、この御供の人々のとかう行きちがひ、涼みあへるを見たまふなりけり。
  →中の君が薫のお供の若人を覗いている。覗き、覗かれである。

 ⑤薫が見た二人、垣間見の決定的場面です。
  中の君 なかなかさまかはりてはなやかなりと見ゆるは、着なしたまへる人がらなめり。
      かたはらめなど、あならうたげと見えて、にほひやかにやはらかにおほどきたるけはひ、

  →華やかでかわいらしくおっとりしている。快活な性格。

  大君 うちとけたらぬさまして、よしあらんとおぼゆ。頭つき、髪ざしのほど、いますこしあてになまめかしさまさりたり。
     気高う心にくきけはひそひて見ゆ。

  →嗜み深く気品高く優雅で心惹かれる。慎重な性格。

  この二人の容貌・性格をベースとして以後の物語が展開していきます。

 ⑥薫、大君を見て、、
  女一の宮もかうざまにぞおはすべきと、ほの見たてまつりしも思ひくらべて、うち嘆かる。
  →女一の宮 明石の中宮の長女、匂宮の姉。ナンバーワンレデイです。
  →叶わぬとは知りながら薫は女一の宮に恋心(憧れの気持ちか)を抱いている。

これで椎本を終わり長い総角に入ります。薫・匂宮の恋はどう進展するのでしょうか。お楽しみに。

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