総角(9・10) 匂宮、中の君と契る

p148 -164
9.薫、匂宮に中の君を譲るべく相談する
 〈p246 三条の宮邸が焼失なさった後は、〉

 ①薫は三条宮が焼けて修理中で六条院に移っている。匂宮は二条院の筈。三条宮と二条院は隣り合わせだが六条院と二条院は遠い。
  近くては常に参りたまふ
  →不審。作者の勘違いだろうか。

 ②例によって薫は匂宮に姫たちの様子を報告する。
  匂宮「このごろのほどに、かならず、後らかしたまふな」
  →匂宮としては薫の話を聞くだけでは欲求不満になるばかり。

  匂宮「あなかしがまし」とはてはては腹立ちたまひぬ。
  →本気で怒ったというより、「うるさい、何とかしてよ!」とすねた感じか。

 ③薫の心内 、、、、譲りきこえて、いづ方の恨みをも負はじ
  中の君を匂宮と結婚させれば大君は自分に靡くだろう。
  →これが致命的な読み違え。あるいは楽観し過ぎ。
  →大君は中の君を薫に、自分は独身を通すとの考えを変えていない。

 ④匂宮「よし、見たまへ。かばかり心にとまることなむまだなかりつる」
  →匂宮は本気である。

 ⑤、、とて、おはしますべきやうなどこまやかに聞こえ知らせたまふ。
  →薫は手筈のほどを匂宮に詳しく説明する。若者の心弾む悪だくみの語らいである。

10.匂宮、中の君と契る 薫、大君に拒まれる
 〈p250 八月の二十六日は、彼岸明けの日で、〉

 ①K24年8月26日 月の出ない月末の宵 二人は宇治へ。
  →匂宮の心はどれほどか踊っていたことだろう。さあ、待望の宇治へ。

 ②薫が来た。迎える姫たちの想い。
  大君:中の君の方へ心替りして来たのだろう。
  中の君:自分とは何もしなかった。やはり大君のところへ来たのだろう。
  →二人とも妥当な考えではなかろうか。

 ③ところが薫は大君の所へ。又もや障子の中に手を入れてきて無体に及ぶ。そして衝撃の言葉
  「宮の慕ひたまひつれば、え聞こえいなびで、ここにおはしつる、音もせでこそ紛れたまひぬれ。、、、、」 
  →これはない。大君は薫の余りの無神経さに慄然としたのではないか。

 ④宮は、教へきこえつるままに、一夜の戸口に寄りて、扇を鳴らしたまへば、弁参りて導ききこゆ。
  →匂宮の方は首尾万端。しめしめとばかり中の君の寝所に入ったのであろう。
  →中の君との情交場面は一切省筆されている。さすが紫式部である。

 ⑤必死に弁解し理解を求める薫。絶望の内に薫を難詰する大君。
  →このたばかりは大君ならずとも怒るのはあったりまえでしょう!

 ⑥薫 しるべせしわれやかへりてまどふべき心もゆかぬ明けぐれの道
  大君 かたがたにくらす心を思ひやれ人やりならぬ道にまどはば
  →薫には絶望した。でも経済的支援は薫に頼らざるを得ない。大君の苦悩は深い。

 ⑦帰途につく薫と匂宮。満足げな匂宮、何とも苦々しい薫。でも二人とも笑いとジョークの中に想いを隠して。。。

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7 Responses to 総角(9・10) 匂宮、中の君と契る

  1. 青玉 のコメント:

    そうですよね、二条院は紫の上が亡くなったところでお婆様っ子だった匂宮の住まいになっているのでしたよね。
    近くはないはずですね。脚注にも不審とありますが・・・

    薫の苦肉の策とも思える態度はいただけませんね。
    こういう場合、策を弄するとろくなことになりかねません。
    ここは匂宮を煽るだけです。
    思ったらすぐ行動する匂宮が相手では勝ち目はないですね。
    匂宮を上手く利用して目的を果たそうと言うのも姑息な手段です。

    それぞれの思惑が食い違って姫君にとって思いもよらない結果に・・・
    すべてを打ち明けてしまうのも薫らしいといえばそうも言えますが徹底的に男を下げてしまいましたね。
    姫君には見限られたことでしょう。大君の嘆きは深まるばかりですね。

    宮の方は首尾よくことが運んだようですがこれからの宇治通いが大変です。
    薫の不完全燃焼の無様さが強調されて何だか憐れを誘います。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      本段源氏物語の中でも屈指の「問題場面」だと思います。
      薫の苦肉の策・姑息な手段で薫は徹底的に男を下げ、大君の嘆きは深まるばかり、、、全くおっしゃる通りです。

      これだけ私たち読者が薫を応援し期待しているのにサッパリ分かってないようでガックリきます。

      前回(中の君と一夜を明かした時)から大君の心は変わってないのにいきなり匂宮に中の君を娶せるなんてしてはならないことでしょうに。

      結局薫は大君の心が解らなかった、読めなかったと言うことでしょうか。

      少し角度を変えて突っ込んでみると、
       「女性に男の方を向かせるには多少強引でも肉体的関係を結ぶべきである、、、」 そんな観点から薫が匂宮に中の君を襲わせたのならそれはそれで薫の一つの決断かも知れません。でもそれなら何故自分は三度目の侵入であったのに大君と実事に及ばなかったのでしょう。正に見逃しの三振じゃないでしょうか。ましてや匂宮を中の君に手引きしたと打ち明け理解を求めるなどどう考えてもおかしい。中途半端としか言いようがありませんね。

       →一回目、二回目、三回目と侵入を重ねる毎に薫と大君との状況は悪化していっておりもう回復不可能のように感じます。でもあきらめてはいけない。何とか妙手を打ち出してもらいたいものですが、、、。

  2. 青黄の宮 のコメント:

    薫はまたもや女性の心理とか感情をよく分かっていないお馬鹿さん振りを発揮しましたね。総角(3・4)の実事なき侵入の時ほどはひどくはないけど、女性経験が少ない薫には女性の微妙な心理や感情がよく分からないのでしょう。

    今回における最初のお馬鹿さんは「中の君を匂宮と結婚させれば大君は自分に靡くだろう」との期待を持ったこと。大君のこれまでの頑なな男性拒否症振りを身をもって経験したのに、そうした超楽観的な期待を持つのはあまりにもお馬鹿さんではないでしょうか。私見では、大君の男性拒否症を治すのは極めて困難であり、実事によって性の悦びを知る以外の方法で治る可能性がないように思います。

    次のお馬鹿さんは大君が嫌々対面している最中に、匂宮の中の君への侵入を自らの企みと告白してしまったこと。あのタイミングで大君に告げるのは彼女を益々不愉快にさせるだけであることが、どうして分からないのでしょう。侵入の件はいずれ後で判明するので、あのタイミングでわざわざ言う必要はありません。また、後で判明して、大君に詰め寄られたならば、①匂宮が独りで勝手に侵入したとして徹底的に白ばくれる、②中の君にとって皇子である匂宮との結婚がとても名誉で望ましいものであり、故八の宮も天国から大いに祝福してくれる筈などと説いて納得させる、といった対応をすれば良いと思います。

    ドジを踏み続けている薫に対して、匂宮はやることをやって、ぐっすり眠ってしまう。
    何とスマートで無駄がないことか。

    • 清々爺 のコメント:

      お見事!
      薫サイドとしてはぐうの音も出ません。まあちょっと反論考えてみます。これから出かけますのでまた後で。

         悔しいなあ、、、。匂宮はよく眠れたんだろうなあ、、、。

    • 清々爺 のコメント:

      今日一日(野暮用を足しながら)色々考えてみました。残念ながら本段の所で薫のお馬鹿さん振りを弁護するのは難しいようです。全く読者の懸命の声援に応えられない薫にはガックリ来てしまいます。特に青黄の宮さんご指摘の二番目(匂宮の手引を告白してしまうこと)、あれはないでしょうね。大君にもそうですが(ひたすら真っ直ぐに中の君を追い求める)匂宮に対しても失礼でしょう。

      仕方ないので少し角度を変えて考えてみたいと思います。
      匂宮がひたすら真っ直ぐに女性を追い求める。有無を言わさず実事に及び性の悦び、男性に愛される悦びを教える。第一部で源氏がやりまくったことです。源氏の場合一回きりで拒まれた空蝉もいたし、一回きりで源氏の方からご遠慮申し上げた末摘花もいた。源氏は多くの女性たちを幸せに導くべく思い通りに振舞い(やりまくり)一度関係した女性たちには懸命に誠意を尽した。でも第二部で詳述されたように紫の上始め源氏の女君たちは結局幸せにはなれなかった(少なくとも不孝をも背負いこんだ一生であった)。

      紫式部は宇治十帖で本編とはがらり変わった男女の恋物語を目指したのだと思います。匂宮を源氏の生まれ変わりのようなヒーローに設定し、「すぐやる男」を演じさせる。一方薫には「すぐやらない男」を演じさせる。解り易い匂宮とどうにも行動を理解しにくい薫。物語の筋としては薫に焦点をあて対極に立った匂宮との対照で「すぐやらない男」は女性を幸せにできるのかを追及していく。。。そんな感じかと思います。

       →結局は第一部の方が面白くていいんじゃないか、、、、いや宇治十帖の深刻さこそ源氏物語の要諦、、、。
       →紫式部の思う壺かも知れません。

      (私は到底匂宮のようには振る舞えませんが、薫ほど優柔不断ではないと思っているのですが、、、ね)

  3. 青玉 のコメント:

    青黄の宮さん
    ドジを踏み続けている薫に対して、匂宮はやることをやって、ぐっすり眠ってしまう。
    何とスマートで無駄がないことか。

    清々爺さん
    悔しいなあ、、、。匂宮はよく眠れたんだろうなあ、、、。

    お二人の応答が面白くてクスクス笑いしてしまいました。
    続き楽しみにしていま~す。

  4. 式部 のコメント:

    青黄の宮さんと清々爺の応酬面白くて笑ってしまいました。
    あまり深く考えない一直線の匂宮、あれこれぐだぐだ考えすぎて失敗する薫、ものがたりの中だから笑ってすませられますが、現実世界だと薫を手助けしてあげたくなりますね。
    もちろん恋は当事者だけの問題なので、まわりがとやかく言ってもしょうがないですけれどね。
    しっかりせい!薫!

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