総角(3・4) 薫、大君への第一回目の侵入

p107 -119
3.薫、大君のもとに押し入り事なく朝を迎う
 〈p214 今夜は薫の君もここにお泊りになって、〉

 ①薫、大君への第一回目の侵入 名場面
  、、、」とて、屏風をやをら押し開けて入りたまひぬ。
 大君「隔てなきとはかかるをや言ふらむ。めづらかなるわざかな」
  →薫は意を決して侵入。大君のたしなめの言葉は余り強くないのでは。

 ②心にくきほどなる灯影に、御髪のこばれかかりたるを掻きやりつつ見たまへば、人の御けはひ、思ふやうに、かをりをかしげなり。
  →髪を掻き上げて顔を見る。情交手前というより客観的には情交そのものということだろう。髪をあげて顔を見たけど情交しなかった、、、なんてあり得なかったのだろう。
  →これが薫の薫たる所以であろうが如何なものか。

 ③大君「かかる御心のほどを思ひよらで、あやしきまで聞こえ馴れにたるを、ゆゆしき袖の色など見あらはしたまふ心浅さに、みづからの言ふかひなさも思ひ知らるるに、慰む方なく」
  →侵入され顔を見られた大君。恥ずかしさは実事があったに等しかったのでは。
  →とすれば実事に及んでもよかったのでは、薫の中将!
  
 ④かの物の音聞きし有明の月影よりはじめて、をりをりの思ふ心の忍びがたくなりゆくさまを、いと多く聞こえたまふに、恥づかしくもありけるかなと疎ましく、

  →覗き見をバラしてはいけない。実事の後ならいいだろうけど。。

 ⑤いぎたなかりつる人々は、かうなりけりとけしきとりてみな入りぬ
  →女房たちは「結婚成就!」と喜んだことだろう。
  →如何にも薫の独りよがり独り相撲。夕霧と女二の宮のケースといっしょである。

4.宇治の邸の夜明け 香煽る、大君と歌を交す
 〈p220 そのうちにいつかまにか夜明け方になっていました。〉

 ①夜が明けて
  空のあはれなるをもろともに見たまふ。女もすこしゐざり出でたまへるに、
  →「女」と言う言葉が使われている。大君も薫に寄り添うように明けゆく空を見ている。もう二人は結婚した以外の何物でもなかろう。薫の中将よ、後は既成事実を積み重ねていくだけですぞ。

 ②薫「何とはなくて、ただかやうに月をも花をも、同じ心にもて遊び、はかなき世のありさまを聞こえあはせてなむ過ぐさまほしき」
  →そんなこと言わなくていいのに。

 ③大君「今より後は、さればこそ、もてなしたまはむままにあらむ。今朝は、また、聞こゆるに従ひたまへかし」
  →脚注1は大君のその場しのぎの言葉というが、それだけでもなかろう。この瞬間は大君もまんざらではなかったのではなかろうか。

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6 Responses to 総角(3・4) 薫、大君への第一回目の侵入

  1. 青玉 のコメント:

    何と言うことでしょう!!
    この場に及んで何ごともなく朝を迎えるなんてあり得ない!!
    薫よ!!これは誠実でもなんでもない、残酷な仕打ちですよ!!
    しかも言わずもがなことを!!

    そりゃ女房や周りのものは事があったと思うのは当然ですよね。
    残り香からも結婚したものと思うでしょう。
    実事がないのにあったと思われる方がよほど辛いじゃないですか。
    薫も薫なら大君も大君ですね。!!

    昔から「嫌よ嫌よも好きのうち」と言うじゃありませんか。
    大君の本心、まんざらでもないように思います。
    ここは薫のひと押しがあれば大君も覚悟が決まったかと思えるのですがね~

    今日は???!!!のオンパレードです。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。
      ???!!!のオンパレードですか。なるほど、言い得て妙だと思います。

      薫の踏み込み不足もさることながら、何故大君はかくも頑ななのでしょうかねぇ。女房どもも周りの人々も(読者も)みな薫と大君なら似合いのカップルだと思っているのに。。。大君はこれ以上何を望むというのでしょう。

      やはり八の宮の呪縛でしょうか。相手がどんないい男であれそもそも結婚そのものに踏み切れない。結婚拒否症(そんな言葉あるのか知りませんが)みたいなものでしょうか。

      ここでひと押しがあったら大君の覚悟は決まったのか、、面白い観点ですね。
        →押し倒しはなかったものの、顔を見られ二人で一夜を過ごした。これだけで覚悟を決めざるを得ない状況だとも思えるのですが。

      どうぞしばらくは「何故大君はかくも頑ななのか」読み明かしていただきたいと思います。 

  2. 式部 のコメント:

     現代に置き換えて考えても、私の友人、知人で一度も結婚しなかった人5~6人いますよ。いずれの場合も親のことが第一になっているように感じます。
     母親を早くに亡くして妹がいると、自分のことよりもまず妹を嫁がせて、自分は父親の面倒をみながら過ごすうちに、なんとなく結婚しそびれるのかもしれません。
     結婚に対する恐れや心配もあるのでしょうね。どうにかなると楽天的に考えられない人もいますからね。
     時代も身分制度も男女の関係も平安時代とは大きく変化しているのに、女性(人間)の本質的な部分で変わらないものがあるのだと考えさせられます。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

       女性の結婚のしにくさ、おっしゃる通り現代に通じると思います。現代の女性の結婚年齢が高くなってること・非婚率が高くなっている原因は一方では現代になって女性の自由度が増えてドンドン社会進出も果たすようになったことがあると思いますがやはり一方では家庭のしがらみで自分だけのことを考える訳にはいかないということがあるのではないでしょうか。女性にとって結婚するとはある意味実家を捨てること(言い過ぎかもしれないが)なので実家に問題を抱えている場合はなかなか自分だけ結婚するわけにはいかない、、、そんな気持ちが働くのではと思います。

       父想い、妹想いの大君の場合その気持ちが強く父の遺言、妹の行く末、自分の生き方この連立方程式を解くとなると自分に関しては「結婚はしない」という答えしか見出せなかったということでしょうか。

  3. 青黄の宮 のコメント:

    全面的に青玉さんのコメントを支持します。薫は何と優柔不断で勇気のないお馬鹿さんなのでしょう。ご指摘のとおり、この薫の不作為は誠実とか優しさではなく決断力の無さの表れであり、大君にとって残酷な結果を招いてしまったと思います。

    こうなったのは大君の頑なさや結婚拒否症、あるいは式部さんが指摘する女性の家庭環境や結婚に対する恐れや心配も一因であるとの見方もあるかもしれませんが、あまり賛成できません。なぜなら、女性をこうした結婚に対する漠然とした不安や懸念から解放し、性の悦びに目覚めさせたり、結婚生活の良さを分からせるのが男性の役割と信じるからです。

    匂宮役の小生としては、こんなにも決断力・行動力や男らしさに欠ける薫が今後の女性争奪戦の相手では物足り思いがしています。

    • 清々爺 のコメント:

      切れ味鋭いコメントありがとうございます。

       薫が一刀両断ものの見事に切り捨てられましたね。なるほど、匂宮サイドから見るとそんな風に見えるかも知れません。大方の読者もここはそんな受けとめ方だと思います。薫は当時には珍しく相手の女性の気持ちを大事にする男で「無体なことはできない、やるまい」と思ってたのでしょう。それはそれで立派な考えかと思うのですが、、、。

       女性を結婚に導くのは男性の行動力あってこそ、、、さすが青黄の宮さん、そう言い切れるところがすごいですね。

       本段、第一回目の侵入で実事もなく一夜を明かしたのは薫の決断力のなさだときついお叱りを受けていますが(私も含め一般の読者の感じ方はそうでしょうが)あえて考えてみると、もし薫が一歩踏み込んで情交に及んでいたとしても事態は変わっていなかった(大君の「結婚はしない」との心は変わらなかった)のかもしれません。というのは「顔を見られた、一夜を同室で過した」これだけで実事があったと同じインパクトがあったわけでしょうから。そもそも実事のあるなしといってもどこまでなら実事なしでどこからが実事ありかなんて微妙な所ですもんね(強姦罪の定義じゃあるまいしねぇ)。

       おかしなコメントになりました。まあ相手不足かも知れませんが我慢してお付き合いください。

       [薫のつぶやき、、、「匂宮はいいよなあ、真っ直ぐ行けばいいんだから、、こっちはそうは行かないんだよな、、」]

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