早蕨 早蕨の歌を法師す君に似ずよき言葉をば知らぬめでたさ(与謝野晶子)
長い総角に続き短い早蕨です。大君亡き後京に迎え入れられることになった中の君を巡っての匂宮、薫とのお話です。
早蕨と言えば万葉集のこの歌が思い浮かびます。春を迎えたはずむような心を見事に詠んだとして絶賛されている歌です(リズムがいいですねぇ)。
石ばしる垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりにけるかも(志貴皇子)
p12 – 22
1.春の訪れにも、中の君の傷心癒えず
〈寂聴訳巻九 p10 古い歌にも日の光は藪と言わずどこと言わず、〉
①大君が亡くなったK24年から年が明けてK25年 新春
中の君も25才、大君を偲びながら廻り来る春を迎えている。
②阿闍梨より春の山菜(蕨、土筆)が贈られてくる。
手はいとあしうて、歌は、わざとがましくひき放ちてぞ書きたる。
君にとてあまたの春をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり(阿闍梨)
→稚拙な文字・書き振りで歌意も凡庸だが実直に誠意を示している。
→八の宮、大君死亡の際は読者を怒らせた阿闍梨だがここでは情けある人物として描かれている(椎本7コメント欄で式部さんが言われてたのはこの場面か)。
③中の君 この春はたれにか見せむなき人のかたみにつめる峰の早蕨 代表歌
→父も姉も亡くなった。でも春は廻ってくる。中の君の感慨
④並びたまへりしをりは、とりどりにて、さらに似たまへりとも見えざりしを、うち忘れては、ふとそれかとおぼゆるまで通ひたまへる
→血は争えない。写真もなかった時代、親子・兄弟姉妹は亡き人と似ていると見えたことだろう。
→薫には見れば見るほど大君そっくりに見えたのではないか。
2.薫、匂宮に嘆き訴える 中の君への心寄せ
〈p14 正月に行われる宮中の内宴などで、〉
①正月二十一日ころの宮中の宴(内宴)が過ぎて公務も暇になり、薫は二条院の匂宮の所へ遊びに行く。
匂宮 折る人の心に通ふ花なれや色には出でずしたに匂へる
薫 見る人にかごとよせける花の枝を心してこそ折るべかりけれ
→話は自ずと中の君のことに。
②世に例ありがたかりける仲の睦びを、「いで、さりとも、いとさのみはあらざりけむ」と、残りありげに問ひなしたまふ
→匂宮には薫が大君と契ってなかったなど信じられなかっただろう。
→「えぇ~っ、それってありなの?」って感じだろうか。
③げに、心にあまるまで思ひむすぼほるることども、すこしづつ語りきこえたまふぞ、こよなく胸のひまあく心地したまふ。
→全くその通り。友だち同士の気さくな会話はストレス解消に最適。
④二条院に中の君を連れてくる。薫に協力を頼みつつも手を出されることを心配する匂宮。手出しはしてはならないと自戒しつつ面倒はオレが見なけりゃと考える薫。
→姫(中の君&後の浮舟)を巡る薫と匂宮の複雑な物語の始まりと言えましょうか。