早蕨(1・2) 新年を迎えた中の君、薫、匂宮

早蕨 早蕨の歌を法師す君に似ずよき言葉をば知らぬめでたさ(与謝野晶子)

長い総角に続き短い早蕨です。大君亡き後京に迎え入れられることになった中の君を巡っての匂宮、薫とのお話です。

早蕨と言えば万葉集のこの歌が思い浮かびます。春を迎えたはずむような心を見事に詠んだとして絶賛されている歌です(リズムがいいですねぇ)。
 
  石ばしる垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりにけるかも(志貴皇子)

p12 – 22
1.春の訪れにも、中の君の傷心癒えず 
 〈寂聴訳巻九 p10 古い歌にも日の光は藪と言わずどこと言わず、〉

 ①大君が亡くなったK24年から年が明けてK25年 新春
  中の君も25才、大君を偲びながら廻り来る春を迎えている。

 ②阿闍梨より春の山菜(蕨、土筆)が贈られてくる。
  手はいとあしうて、歌は、わざとがましくひき放ちてぞ書きたる。  
   君にとてあまたの春をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり(阿闍梨)
  →稚拙な文字・書き振りで歌意も凡庸だが実直に誠意を示している。
  →八の宮、大君死亡の際は読者を怒らせた阿闍梨だがここでは情けある人物として描かれている(椎本7コメント欄で式部さんが言われてたのはこの場面か)。

 ③中の君 この春はたれにか見せむなき人のかたみにつめる峰の早蕨 代表歌
  →父も姉も亡くなった。でも春は廻ってくる。中の君の感慨

 ④並びたまへりしをりは、とりどりにて、さらに似たまへりとも見えざりしを、うち忘れては、ふとそれかとおぼゆるまで通ひたまへる
  →血は争えない。写真もなかった時代、親子・兄弟姉妹は亡き人と似ていると見えたことだろう。
  →薫には見れば見るほど大君そっくりに見えたのではないか。   

2.薫、匂宮に嘆き訴える 中の君への心寄せ
 〈p14 正月に行われる宮中の内宴などで、〉

 ①正月二十一日ころの宮中の宴(内宴)が過ぎて公務も暇になり、薫は二条院の匂宮の所へ遊びに行く。
  匂宮 折る人の心に通ふ花なれや色には出でずしたに匂へる
  薫 見る人にかごとよせける花の枝を心してこそ折るべかりけれ
  →話は自ずと中の君のことに。

 ②世に例ありがたかりける仲の睦びを、「いで、さりとも、いとさのみはあらざりけむ」と、残りありげに問ひなしたまふ
  →匂宮には薫が大君と契ってなかったなど信じられなかっただろう。
  →「えぇ~っ、それってありなの?」って感じだろうか。

 ③げに、心にあまるまで思ひむすぼほるることども、すこしづつ語りきこえたまふぞ、こよなく胸のひまあく心地したまふ。
  →全くその通り。友だち同士の気さくな会話はストレス解消に最適。

 ④二条院に中の君を連れてくる。薫に協力を頼みつつも手を出されることを心配する匂宮。手出しはしてはならないと自戒しつつ面倒はオレが見なけりゃと考える薫。
  →姫(中の君&後の浮舟)を巡る薫と匂宮の複雑な物語の始まりと言えましょうか。

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総角 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

総角のまとめです。

和歌

93.あげまきに長き契りをむすびこめおなじ所によりもあはなむ
     (薫)  改めて大君に求愛(催馬楽)

94.山姫の染むる心は分かねどもうつろふ方や深きなるらん
     (大君)  どうぞ中の君にお情けを!

名場面

94.屏風をやをら押し開けて入りたまひぬ。いとむつつけくて
     (p110  薫、押し入り、第一回目)

95.心しけるにやとうれしくて、心ときめきしたまふに、やうやう、あらざりけりと見る
     (p140  薫、押し入り、中の君だ!)

96.一夜の戸口に寄りて、扇を鳴らしたまへば、弁参りて導ききこゆ。
     (p157  薫・匂宮 ダブル押し入り)

97.見るままにものの枯れゆくやうにて、消えはてたまひぬるはいみじきわざかな
     (p254  大君死す)

[総角を終えてのブログ作成者の感想]

総角を終えました。長かったですね。お疲れさまでした。

良かれ悪しかれ何といってもこの帖は大君が主役だと思います。八の宮の遺言を背景にしての大君の頑迷さ、ネガテイブな心の持ち方。疲れましたね。分からず屋振りには憤りも感じました。挙句の果て大君は自らを死に追い込んで行った。薫は自分なりに精一杯考え、意を尽して説得し、一世一代の策も弄したが皆裏目に出てしまい、結局は大君を救うことはできなかった。四人が四人とも不幸になる救いようのないお話に思え、読んでても暗い気持ちになりました。ただ一つ匂宮の中の君への情熱と匂宮を信じようとする中の君の心の動きに一筋の光明を見る思いがします。

大君の生き方、救う道はなかったのか、、皆さんからのご意見で大賑わい、色々と考えることができました。ありがとうございました。特に大君の出自・性格を分析し「男性の行動力でしか解決策はなかったろう、匂宮なら7割超大君を救えただろう」との青黄の宮さんの明快なるコメント、さすがでした。ごじゃごじゃ考えてる暇があったら行動すべし、、、いつの時代でもどういう状況でも一理ある考えだと思います。頭より体、それに心がついてくるということかもしれません。
 
 →男女の事に限らないでしょうが特に男女の肉体関係では大きいのかもしれません。永遠の文学テーマでしょう。

さて、薫の優柔不断さ振りは相変わらずですが、次帖以降物語はどん底から這い上がり徐々に面白くなっていきます。ご期待ください。

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総角(40・41) 雪の中、匂宮、宇治を訪問

p264 -274
40.深更、匂宮雪の中を弔問 中の君逢わず
 〈p339 薫の君は、自分の浅慮から、〉

 ①まだ夜深きほどの雪のけはひいと寒げなるに、、、宮、狩の御衣にいたうやつれて、濡れ濡れ入りたまへるなりけり。
  →雪をおして匂宮が中の君を訪れる。ジャジャーンである。

 ②心もとなく思しわびて、夜一夜雪にまどはされてぞおはしましける。
  →どれほどの雪か不明だが、宮は夜馬で訪れる。尋常なことではない。

 ③中の君「いますこしものおぼゆるほどまではべらば」
  →今は拒否する中の宮。「今でしょう!!」にねぇ。

 ④匂宮の来訪
  8月26日 中の君に侵入(初夜)
  それから3日間(27日&28日)通う
  9月10日頃 薫といっしょに来訪 中の君と共寝
  10月1日 紅葉狩りにかこつけて宇治に来るが逢えず
  その後禁足で自由がきかず
  11月中ごろ 大君死亡
  そして今回12月である
  →紅葉狩りで逢えずに帰ってしまったことがきいている。
  →やはりもう少し来るべきであったろう。大君の絶望も已む無いかも。

 ⑤中の君 来し方を思ひいづるもはかなきを行く末かけてなにたのむらん
  匂宮 行く末をみじかきものと思ひなば目のまへにだにそむかざらなん
  →やっと歌の贈答。匂宮は拒否されたととったとあるが歌は中の君から詠まれている。

 ⑥中の君「心地もなやましくなむ」とて入りたまひにけり。
  →匂宮、折角来たのに。ここはいつもの通り押し入るべきではなかったか。

 ⑦中納言の、主方に住み馴れて、人々やすらかに呼び使ひ、人もあまたして物まゐらせなどしたまふを、あはれにもをかしうも御覧ず。
  →どうも薫と匂宮は宇治の姫たちのことについて意思を通じ合っていないようだ。お互い見栄の張り合い、遠慮のし合いだろうか。

 ⑧中の君 つれなきは苦しきものをと、一ふしを思し知らせまほしくて、心とけずなりぬ。
  →中の君の心も頑なである。何故折角訪ねて来てくれた匂宮の胸に飛び込めなかったのだろう。

41.歳暮、薫帰京 匂宮、中の君を迎える準備
 〈p345 年の暮れになりますと、〉

 ①歳暮 四十九日が過ぎて薫は京へ帰る。

 ②女房たちの嘆き
 「、、、はかなきことにもまめなる方にも、思ひやり多かる御心ばへを、今は限りに見たてまつりさしつること」
  →女房たちの嘆きも当然だが中の君とて同じであろう(薫の後見なくば宇治の暮らしは成り立たない)。

 ③匂宮「なほかう参り来ることもいと難きを、思ひわびて、近う渡いたてまつるべきことをなむ、たばかり出る」
  →京へ連れてくるしかない。匂宮も心を決めた。
  →中宮の許しも得て二条院の西の対に。

 ④薫 宮の思しよるめりし筋は、いと似げなきことに思ひ離れて、おほかたの御後見は、我ならではまた誰かはと思すとや
  →匂宮の二条院と薫の三条宮は隣合わせ。色恋抜きに匂宮夫人中の君の面倒をみよう考える薫。そんなことうまくできるのだろうか。。。

ということでK24年は暮れていきK25年早蕨へと移ります。

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総角(36・37・38・39) 大君死す

p254 -263
36.大君死す 薫、灯火の下にその死顔を見る
 〈p330 この俗世を厭い離れよと、〉

 ①大君死す
  見るままにものの枯れゆくやうにて、消えはてたまひぬるはいみじきわざかな。
  →紫の上の死も「消えはてたまひぬ」
  →御法6のコメント欄で女君たちの臨終の場面をリストアップしています。

 ②隠したまふ顔も、ただ寝たまへるやうにて、変りたまへるところもなく、うつくしげにてうち臥したまへるを、、
  →死顔を愛でる薫。
  →夕霧が紫の上の死顔に見入る場面があった(御法8 p260)

 ③煙も多くむすぼほれたまはずなりぬるもあへなし
  →痩せ細ってて煙も多く出ない。哀れ限りない描写。

37.中の君悲嘆深し 薫も宇治に閉じこもる
 〈p332 山荘では大君の御忌みに籠っている人が多いので、〉

 ①思はずにつらしと思ひきこえたまへりし気色も思しなほらでやみぬるを思すに、いとうき人の御ゆかりなり。
  →大君の絶望は匂宮が中の君を捨てたと思いこんだことにあった。
  →匂宮は中の君に消息すると同時に大君にももっと切実に意中を伝えるべきであったか。

 ②薫の後悔と感慨
  かうもの思はせたてまつるよりは、ただうち語らひて、尽きせぬ慰めにも見たてまつり通はましものを、
  →後悔先に立たず。中の君は匂宮に心を通わせている。Too lateでしょう!

38.薫、喪服を着られぬ身の上を悲しむ
 〈p334 こうしてはかなく日は過ぎて行きます。〉

 ①女房たち 「思ひの外なる御宿世にもおはしけるかな。かく深き御心のほどを、かたがたに背かせたまへるよ」
  →女房たちにしてみれば期待に反する結果となりお先真っ暗である。
  (大君は死んでしまい中の君は匂宮に捨てられそう。薫も来なくなる)

 ②薫→中の君「昔の御形見に、今は何ごとも聞こえ、うけたまはらむとなん思ひたまふる。うつうとしく思し隔つな」
  →中の君には大君の死は薫のせいだとの思いが消えてないだろうに。

39.薫、月夜の雪景色に大君をしのび歌を詠む
 〈p336 雪があたりを暗くして降りしきる日、〉

 ①世の人のすさまじきことに言ふなる十二月の月夜の曇りなくさし出でたるを、簾捲き上げて見たまへば、向かひの寺の鐘の声、枕をそばだてて、
  →完璧に枕草子清少納言を意識した叙述(朝顔9 13.5.30 参照)

 ②薫の絶唱 二首
  おくれじと空ゆく月をしたふかなつひにすむべきこの世ならねば
  恋ひわびて死ぬるくすりのゆかしきに雪の山にや跡を消なまし
   ことつけて身も投げむと思すぞ、心きたなき聖心かな
  →薫の悲壮な心境も作者から軽くからかわれている(脚注4)

 ③女房の述懐
  「御心地の重くならせたまひしことも、、、、、、あいなう人の御上を思し悩みそめしなり」
  →総括脚注参照 結局大君は薫を許してはいなかった、、、私も概ね賛成です。

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総角(33・34・35) 大君臨終に際しての大君と薫

p240 -253
33.阿闍梨八の宮の夢を語り大君罪業を悲しむ
 〈p317 御祈祷は初夜から始めて法華経を絶え間なく〉

 ①瀕死の大君に対しまたまた阿闍梨が余計なことを言う。
  阿闍梨「いかなる所におはしますらむ。さりとも涼しき方にぞ、、、先つころ夢になむ見えおはしましし。俗の御かたちにて、、、、」
  八の宮が夢に出た。姫たちのことが心にかかって成仏できず彷徨っている、、、
  →Oh, My God! Give me a break!! やめてくれよ!

 ②大君「いかで、かのまだ定まりたまはざらむさきに参でて、同じ所にも
  →可哀そうな大君。死に際まで苦しめられる。

 ③阿闍梨は言少なにて立ちぬ。
  →これはジョークというものだろうか。

 ④薫と中の君 歌の贈答(匂宮から見舞いはなかったのだろうか?)
  つれなき人の御けはひにも通ひて、思ひよそへらるれど、
  →中の君には男の声は夫(匂宮)に聞こえてしまう。情を交した女性の気持ちか。

34.大君、受戒を望むが、女房に妨げられる
 〈p324 大君自身も、平癒しますようにと、〉

 ①大君「なほかかるついでにいかで亡せなむ」
  →もう生きようというより死を願望している。

 ②大君「、、かたちをも変へてむ、さてのみこそ、長き心をもかたみに見はつべきわざなれ」
  →大君の出家願望。今から思うと大君はもっと早く(八の宮の一周忌ぐらいのタイミングで)出家するのがベストだったのかも。阿闍梨はこういうことこそ進言するべきではなかったのか。

 ③大君 「忌むことなん、いと験ありて命延ぶることと聞きしを、さやうに阿闍梨にのたまへ」
  →薫も女房たちも大君の今際の願いを聞いてやればいいのに、、。

35.豊明の夜、臨終の大君、薫を妹の件で恨む
 〈p325 薫の君がこうして宇治にずっと籠りっきりで〉

 ①豊明=新嘗祭(11月中の兎の日の翌日 宮中の重要行事
  風いたう吹きて、雪の降るさまあわたたしう荒れまどふ。
  →寒々しい冬の描写

 ②薫 かきくもり日かげも見えぬ奥山に心をくらすころにもあるかな
  →薫は「何でオレはついてないんだろう、、悪いことした覚えもないのに」と感じていたのではないか。

 ③大君の描写
  腕などもいと細うなりて、影のやうに弱げなるものから、、、衾を押しやりて、中に身もなき雛を臥せたらむ心地して、、、
  →自ら食を断ち死を願望してた大君の痩せ細った様子、哀れである。

 ④大君臨終に際しての薫と大君の会話
  大君最後の言葉「かくはかなかりけるものを、思ひ隈なきやうに思されたりつるもかひなければ、、、、、、これのみなむ恨めしきふしにてとまりぬべうおぼえはべる」
  →結局大君の心は変わっていない。中の君と薫が結婚し、自分は独身を貫く、これが叶わなかったのが恨めしい。

  薫の返答「かくいみじうもの思ふべき身にやありけん、いかにもいかにも、、、、今なむ、悔しく心苦しうもおぼゆる。されども、うしろめたくな思ひきこえたまひそ」
  →結果論的には薫は大君の望み通りにしなかったことを後悔したのであろうが、薫としては中の君-匂宮、大君-薫のダブル結婚が理想だった訳でそう画策したのだから、、、。大君の決意の強さを読み間違えたということだろうか。

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総角(30・31・32) 薫、重病の大君と対話

p230 – 246
30.匂宮の文来たる 姫君たち心ごころに読む
 〈p311 すっかり夜も更けて暗くなった頃、〉

 ①中の君の呼び方=御方(匂宮の夫人であるということ)
  →ああ、それなのに。

 ②匂宮 ながむるは同じ雲居をいかなればおぼつかなさをそふる時雨ぞ
  →常套句だと大君には喝破されているが匂宮としては精一杯の所か。
  →訪れないまでも連日手紙と歌攻勢で誠意を訴えるべきであったろうに。

 ③中の君 ほど経るにつけても恋しく、さばかりところせきまで契りおきたまひしを、さりとも、いとかくてはやまじと思ひなほす心ぞ常にそひける。
  →私をあれほど慈しんで下さった匂宮さまがこのまま私を見捨てることはないでしょうに、、、そうです。信じなくっちゃ。
  
31.匂宮、雑事に紛れて気にかけつつも訪れず
 〈p314 それは十月も末の日のことでした。〉

 ①匂宮、11月は新嘗祭・五節舞と公務繁多で宇治に出かけられない。

 ②母中宮からは「六の君を正妻にしてその中の君とやらを召人にしたらいいじゃないの」と繰り返し諭される。

32.薫、重態の大君を看護 大君、薫を拒まず
 〈p315 薫の君も、匂宮とは思ったより軽薄で〉

 ①中納言も、見しほどよりは軽びたる御心かな、さりともと思ひきこえけるもいとほしく心からおぼえつつ、をさをさ参りたまはず。
  →薫よ、それはないだろう。匂宮と中の君との恋のプロデューサーは君ではなかったのか。匂宮の友だちとしても中の君の後見者としてもマズイのではないか。

 ②11月、大君重病と聞いて薫が駆けつける。
  「心憂く。などか、かくとも告げたまはざりける。院にも内裏にも、あさましく事しげきころにて、日ごろもえ聞こえざりつるおぼつかなさ」
  →それは言い訳というものだろう。先に大君を訪ねた時この事態は容易に予知できたであろうに。秀才薫にしてはいかにもちぐはぐでどこかおかしい。

 ③薫、大君の手をとらえて話しかけるに、大君、
 「心地にはおぼえながら、もの言ふがいと苦しくてなん。日ごろ、訪れたまはざりつれば、おぼつかなくて過ぎはべりぬべきにやと口惜しくこそはべりつれ」
  →この時の大君の心はどうであったのか。脚注6参照。
  →大君は薫を夫としてacceptする気持ちになったのだろうか。そこまではなかったと思うのだが如何でしょう。

 ④大君 かかるべき契りこそはありけめと思して、こよなうのどかにうしろやすき御心を、かの片つ方の人に見くらべたてまつりたまへば、あはれとも思ひ知られにたり。
  →「かかるべき契り」とは何だろう。
  →大君の薫への好意を示すものではあろうが恋情まではいってないだろう。
  →やはり薫はもっと早く大君とコトに及んでおくべきであったろう。機会は何度もあったのに。

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総角(27・28・29) 大君、重病に。匂宮訪れ得ず。

[お知らせ]
右欄の源氏百首、名場面集、青玉和歌集 椎本まで更新しました。
万葉さん、いつもながらありがとうございます。

p220 -232
27.薫、大君の病を聞き、訪れて看護する
 〈p303 匂宮を待ちに待っていらっしゃる宇治では、〉

 ①待ちきこえたまふ所は、絶え間遠き心地して、
  →宇治が待っているのは匂宮である。薫ではない。

 ②薫、大君が病気と聞いて宇治を訪れる。薫の説明にも大君は耳を貸さない。
  →事態がここまで悪化しては回復不可能である。

28.翌朝、大君自ら薫を枕頭に招く
 〈p306 翌朝、薫の君が、「少しは御気分も〉

 ①翌朝、薫が大君を訪ねるに、大君は薫を側に来させる。
  大君「日ごろ経ればにや、今日はいと苦しくなむ。さらば、こなたに」
  →大君の容態は決定的である。薫は一目見て(気配を察して)そう思わなかったのだろうか。

 ②大君「苦しくてえ聞こえず。すこしためらはむほどに」
  →ここは帰ってはいけない。京の公務は放ったらかすべきであろうに。

29.匂宮の縁談の噂を聞く 大君の嘆き増す
 〈p307 薫の君のお供をしてきているうちに、〉

 ①匂宮と六の君の結婚のこと、日ごろの様子などが薫の供人から情人(八の宮邸の女房)を通じ大君の耳に入る。
  →いつもの狂言回し的手法。読者にも匂宮の様子がよく分かる。

 ②大君「今は限りにこそあなれ、やむごとなき方に定まりたまはぬほどの、なほざりの御すさびにかくまで思しけむを、さすがに中納言などの思はんところを思して、言の葉のかぎり深きなりけり」

  →大君にはこれは辛かっただろう。六の君と中の君、世が世なら中の君の方が正妻であって不思議ではない。それはともかく、「匂宮が中の君に言い寄って、契りも交し三日間も通ったのに結局はお見限りになったのは薫に対する思惑を気にしただけのことだったのか、中の君に対する恋心からではなかったのか、、、」この誤解は決定的である。

 ③こういう思考回路になると頭に浮かぶのは父八の宮の遺言でしかない。
  父のこと、「罪深かなる底にはよも沈みたまはじ、いづくにもいづくにも、おはすらむ方に迎へたまひてよ、かくいみじくもの思ふ身どもをうち棄てたまひて、夢にだに見えたまはぬよ」

  →八の宮の遺言は姫たちにとって悪夢の遺言であった。それが正夢になろうとは。

 ④中の君「故宮の夢に見えたまへる、いともの思したる気色にて、このわたりにこそほのめきたまひつれ」
  大君「亡せたまひて後、いかで夢にも見たてまつらむと思ふを、さらにこそ見たてまつらね」
  →二人の会話は余りにも悲しい。救いようがない。

 この所歌は全く詠まれていない。大君は重病だし中の君もそれどころではない。匂宮から薫からはどうしたのだろう、、、(明日匂宮からの文が来るようです)  

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総角(24・25・26) 大君の苦悩募る

p207 – 219
24.大君、匂宮を恨み、結婚拒否の念つのる
 〈p294 宇治の山荘では、匂宮の御一行がとうとう〉

 ①かしこには、過ぎたまひぬるけはひを、遠くなるまで聞こゆる前駆の声々、あだならずおぼえたまふ。
  →これは哀しい。宇治山荘の人たちは声もなく下を向くばかりだったろう。

 ②大君の心内が長く語られる。
  まして、なほ音に聞く月草の色なる御心なりける、、、
  男といふものは、そら言をこそいとよくすなれ、、、

  →気持ちは分かるが内向きに過ぎはしないか。  
  →大君は秀才タイプ。物事を論理的にしかとらえられない。

 ③中の君 さりともこよなうは思し変わらじと、おぼつかなきもわりなき障りこそはものしたまふらめと、心の中に思ひ慰めたまふ方あり。

  →脚注16参照。やはり直に心と肉体を通わせた者は強い。同感です。

 ④続けて大君の心内 しつこく繰り返し薫への不信、父の遺言に従わなかった不孝を悔いる。
  、、、なほ我だに、さるもの思ひに沈まず、罪などいと深からぬさきに、いかで亡くなりなむ、
  →もう死んでしまいたい、、。あまりにも悲観的である。

  物もつゆばかりまゐらず、、
  →食事が喉を通らない。拒食症ではないと思うのだが。 

25.匂宮の禁足厳重に 薫わが措置を後悔する
 〈p298 匂宮はすぐ引き返して、いつものようにお忍びで〉

 ①匂宮のことを内裏(中宮・帝)に告げ口する衛門督(夕霧の長男)
  →夕霧&衛門督が匂宮の恋を邪魔するワル者として描かれている。

 ②左の大殿の六の君をうけひかず思したることなれど、おしたちて参らせたまふべくみな定めらる。
  →中の君にとって致命的な出来事がただの一行で語られる。

 ③薫 いづれもわがものにて見たてまつらむに、咎むべき人もなしかし。
  →元々そうであったのに!でもToo Late! さて薫よ、どうする。

 ④中宮(匂宮の母)
  「御心につきて思す人あらば、ここに参らせて、例ざまにのどやかにもてなしたまへ」
  →尤もな考えであろう(貴女の母、明石の君も一歩間違えばそうなってたのですよ!と言いたいところですが、、)

26.匂宮、女一の宮に戯れ、女房とも浮気する
 〈p300 時雨がしとしと降る、もの静かなしっとりしたある日、〉

 ①匂宮vs女一の宮(同腹の姉)
  伊勢物語49段が引かれている。当時は兄妹・姉弟と言えど常時いっしょにいる訳ではなく新鮮な気持ちは芽生えることもあったのだろう。でも同腹での同衾はなかっただろうに。

 ②匂宮、姉の女一の宮を第一にいい女と思い、次に冷泉院の女一の宮、そして今や宇治の中の君のことを愛しいと思っている。
  →この段は「中の君」のことを言いたいがためのものであろう。
  →夕霧の六の君のことは眼中にない。

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NHK 新日本風土記「京都 すぐそばに源氏物語」

お気づきでしょうが朝刊で源氏関連番組を見つけました。ご参考まで。

本日午後9-10時 BSプレミアム 新日本風土記「京都 すぐそばに源氏物語」

[内容](科学の世界ではやってはいけないコピペです)

1000年の時を超えて愛読される「源氏物語」。54帖(じょう)からなるその長大な物語には恋愛だけでなく親心や夫婦のいさかいといった今も変わらぬ人間関係、心の機微が描かれている。花をめで月をめで祭りを愛する。たたりを恐れ鬼門を嫌う。当時の習俗、娯楽、四季との関わり、さらには美意識、死生観など、いまの「日本人」につながるものが書き込まれている。京都を中心に現代の日本に息づく「源氏物語」の世界を旅する

(生活密着番組だから源氏そのものではなさそうですが、、、)

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総角(20・21・22・23) 匂宮、宇治へ紅葉見物 空しく帰る

p194 – 206
20.匂宮、中の君を迎えとる方途に苦慮する
 〈p283 匂宮は無理な算段をやり繰りしてお越しになっては、〉

 ①女方には、またいかならむ、人笑へにやと思ひ嘆きたまへば、げに心づくしに苦しげなるわざかなと見ゆ。
  →姫たちは結ばれたらすぐ捨てられることを心配する。
  →匂宮には捨てる気などさらさらないが女側は受け身でしかない。

 ②さばかりいかにでと思したる六の君の御事を思しよらぬに、なま恨めしと思ひきこえたまふべかめり
  →六条院で女二の宮に預けられている夕霧の六の姫、美貌で有名
  →匂宮には伯父の夕霧が鬱陶しい。この気持ちが宇治への逃避に繋がっているとも言える。

21.薫大君を迎える用意 中の君のために尽力
 〈p285 薫の君は、昨年焼失した三条の宮邸の〉

 ①三条宮修復なり薫は大君を迎えとろうと考える。
  →それならそれですぐ実行に移さなくっちゃ。

 ②10月 衣更え 薫は宇治に衣裳などを送り面倒をみる。
  →これは大君を迎えるために用意したもの。人が好いですなぁ。。

22.匂宮、紅葉狩りを口実に宇治訪問を計る
 〈p286 十月のはじめ頃、薫の君は、〉

 ①匂宮10月1日頃、紅葉見物を口実に宇治へ
  お忍びのつもりが表だって大袈裟になる。
  →当然のこと。薫も匂宮も危機管理が足らない。
  →これが結局は宇治の姫たちの期待を裏切りことになる。

 ②一行は宇治の夕霧山荘へ。舟で紅葉を愛でつつ楽宴。
  →どこから舟に乗ったのだろう。京から夕霧山荘に行くには宇治川を渡らねばならないがどこで渡ったのだろう。姫たちのいる山荘の方が京側なのでよく分かりません。

 ③宮は、あふみの海の心地して、をちかた人の恨みいかにとのみ御心そらなり。
  →琵琶湖は淡水なのでみるめ(海草)はいない。中の君に逢えない。
  →匂宮は憤懣やるかたなかったことだろう。

23.行楽の従者多く、八の宮邸をよそに帰京
 〈p288 興に乗って盛り上がっている人々の騒ぎが〉

 ①中宮の仰せ言にて、宰相の御兄の衛門督、ことごとしき随身ひき連れてうるはしきさまして参りたまへり。
  →万事休す。匂宮も読者も中宮&夕霧を憎たらしく思ったことだろう。

 ②随身たち 御心の中をば知らず、酔ひ乱れて遊び明かしつ。
  →そりゃあ随身たちにしてみれば絶好の行楽。むしろご主人さま(匂宮)に喜んでいただこうと大いに盛り上がったのではないか。

 ③中の君 近きほどにののしりおはして、つれなく過ぎたまふなむ、つらくも口惜しくも思ひ乱れたまふ。
  →折角準備万端で待ち受けていたのにここまで来て見せつけるように騒いでるだけで来れない。中の君が屈辱感に苛まされるのも無理なかろう。

 ④宴席での連作和歌、、、これは空しい。
  匂宮 秋はててさびしさまさる木のもとを吹きなすぐしそ峰の松風
  →匂宮の焦り。松風になって中の君の所へ行きたい心境だったろう。

 ⑤折角の企画が却って仇となった。
  →紅葉見物などとするのが拙い。第一目的のみに絞るべきであった。難しいもんです。でも物語としてはうまいですねぇ。

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