宿木(9・10・11・12) 匂宮・六の君 初夜

p98-108
9.薫、憂愁に堪え仏道に精進 女三の宮の不安
 〈p75 薫の君はやはり、中の君の物腰の雰囲気や

 ①薫 などて昔の人の御心おきてをもて違へて思ひ隈なかりけんと、悔ゆる心のみまさりて、
  →薫の後悔と自省は尽きることがない。いくらなんでもこれでは身がもたない。

 ②母宮の、なほいとも若くおほどきてしどけなき御心にも、かかる御気色をいとあやふくゆゆしと思して、
  母女三の宮は未だに若い。その母すら薫の浮かぬ様子を心配する。
  →薫は親不孝な息子である。帝の女二の宮をいただくことになっている薫は幸せの絶頂にあってもよさそうなものなのだが、、。 

10.匂宮夕霧邸に迎え取られる 中の君の嘆き
 〈p76 夕霧の右大臣は、六条の院の東の御殿を〉

 ①8月16日 婚礼(初夜)の日 六条院で匂宮を待ち受ける夕霧と六の君
  匂宮は二条院(中の君)に帰ってしまいなかなか来ない。
  夕霧 大空の月だにやどるわが宿に待つ宵すぎて見えぬ君かな
  →夕霧がいらいらするのは当然。歌をやってやんわり催促。悠長なものです。

 ②匂宮「いま、いととく参り来ん。ひとり月な見たまひそ。心そらなればいと苦し」
  →さすが匂宮。中の君へのいたわり心が溢れている。
  →源氏なら中の君にストレートに訴えるところだろうに。
   「図らずも六の君と婚儀になったが私が一番愛しているのは貴女ですから心配無用ですよ、、、」 

11.中の君身の上を省み嘆く 女房ら同情する
 〈p79 「考えてみれば幼い頃から心細く悲しい身の上の姉妹で、〉

 ①残された中の君 来し方を振り返り自身の不幸を嘆く
  「今宵かく見棄てて出でたまふつらさ、来し方行く先みなかき乱り、心細くいみじきが、わが心ながら思ひやる方なく心憂くもあるかな、おのづからながらへば」
  →見捨てられている訳ではない。匂宮を信じなくっちゃ。

 ②中の君 山里の松のかげにもかくばかり身にしむ秋の風はなかりき
  →松風。宇治の山里に吹く秋風を思い浮かべる。
  →源氏を信じ京に出て来たが源氏はなかなか来てくれない。その時の明石の君の感じ方に似ているのでは(@松風) 

12.匂宮六の君と一夜を過し、後朝の文を書く
 〈p82 匂宮は中の君をたいそう可哀そうに思われながらも、〉

 ①さて、匂宮は六条院六の君の所へ
  人のほど、ささやかにあえかになどはあらで、よきほどになりあひたる心地したまへるを、
  →六の君の様子。小柄ひ弱でなくほどよく成熟している。何才なのだろう?
 (後の宿木20で「二十に一つ二つぞあまりたまへりける」と出てくる)

 ②さやなる御けはひにはあらぬにや、御心ざしおろかなるべくも思されざりけり。秋の夜なれど、更けにしかばにや、ほどなく明けぬ。
  →六の君は魅力的な女性であった。匂宮もご満悦。初夜の様子は例によって省筆。

 ③二条院へ帰った匂宮、早速六の君へ後朝の文を書く
  「御気色けしうはあらぬなめり」と、御前なる人々つきしろふ。
  →「ね、ね、ねっ、宮さま満更でもなさそうよ、、」女房たちの勘は鋭い。

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宿木(8) 薫、二条院に中の君を訪ねる

p86-98
8.薫、中の君を訪れ、互いに胸中を訴えあう
 〈p66 夜が明けてくるにつれ、〉

 ①女どちはしどけなく朝寝したまへらむかし、
  →主人匂宮は公務で宮中泊り。中の君も女房たちも気を許して朝寝している。
  →朝早い二条院の様子がよく分かる。描写が細かい。

 ②中の君の応対 今はみづから聞こえたまふことも、やうやう、うたてつつましかりし方すこしづつ薄らぎて面馴れたまひにたり。
  →匂宮の妻に納まって然も妊娠もして中の君は昔のおぼこではない。

 ③薫 よそへてぞ見るべかりける白露のちぎりかおきし朝顔の花
  中の君 消えぬまに枯れぬる花のはかなさにおくるる露はなほぞまされる
  →こういう歌を交し合うのが王朝人なんですね。

 ④つつましげに言ひ消ちたまへるほど、なほいとよく似たまへるものかなと思ふにも、まづぞ悲しき。
  →声も話し方も立ち居振舞も大君そっくり。「大君のゆかり」である。

 ⑤故院の亡せたまひて後、二三年ばかりの末に、世を背きたまひし嵯峨院にも、
  →源氏の死が語られる重要ポイント。
  →幻の巻の翌年G53年に出家、嵯峨院(現清凉寺辺)で二三年過した後に亡くなった。
  →早すぎる感じ。紫の上を失くし精魂つきて自ら死を欲したのだろうか。

 ⑥六条院、源氏の出家、死で寂れたが夕霧が移り住んで復興している。
  この右大臣も渡り住み、宮たちなども方々ものしたまへば、昔に返りたるやうにはべめる。
  →六条院夏の町(かつて花散里が居た所)に夕霧が女二の宮&六の君と住んでいる。
   (夕霧は勿論雲居雁三条邸と六条院を半々に住み分けている)

 ⑦中の君「、、忍びて渡させたまひてんやと聞こえさせばやとなん思ひはべりつる」
  →八の宮の三回忌、中の君は宇治に帰りたいと薫に訴える。
 
  薫「荒らさじと思すとも、いかでかは」
  →匂宮の妻に納まっている中の君を宇治に連れ帰るなどできる筈がない。

 ⑧薫「かしこは、なほ、尊き方に思し譲りてよ」
  →八の宮宇治山荘はお寺に寄進しよう。薫の道心が表れている。

 ⑨宮の、などか、なきをりには来つらんと思ひたまひぬべき御心なるもわづらわしくて、
  →それは当たり前だろう。いくら鷹揚な匂宮とて留守中に妻の所に来られては平常ではおれないだろうに。

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宿木(7) 薫の追憶と今の心境

さて、連休も終りました。4日間源氏を離れすっかり充電できました。気分一新、まだまだ難関の宿木に挑みたいと思います。よろしくお願いします。

p78-86
7.薫大君を追懐しつつ中の君に同情し恋慕す
 〈p60 薫の君も、「何というお気の毒なことだろう」〉

 ①匂宮の六の君との婚儀のことを聞き薫は中の君のことを心配する。
  花心におはする宮なれば
  →「花心」素晴らしい言い方ではないか。
  →夜離れが多くなるだろう。それをうまく言い聞かせることこそ薫の役目。

 ②「あいなしや、わが心よ、何しに譲りきこえん、、、、」
  以下、これまでの経緯への薫の長い長い心内描写
  大君に無体な行状に及ばなかったこと。
  大君に中の君を勧められても大君を想う気持ちは変えられなかったこと。
  中の君を匂宮と娶せれば大君は自分になびくだろうと術策を弄したこと。
  →皆々済んでしまったこと。今さら繰り返しても仕方がなかろう。
  →過去を振り返りつつ結局は自分のしたことに理由をつけ肯定している。
  →自尊心を捨てられない薫というべきか。

 ③帝の御むすめを賜んと思ほしおきつるもうれしくもあらず
  →薫にも大君に似た結婚恐怖症・拒否症みたいなものを感じるのだがどうか。
  →「自分は日向を歩いていく男ではない。妻帯は重荷になるだけ」という思いだろうか。

 ④この君を見ましかばとおぼゆる心の月日にそへてまさるも、ただ、かの御ゆかりと思ふに、思ひ離れがたきぞかし、
  →かの御ゆかり = 大君のゆかり
  →本編が「紫のゆかり」の物語とすれば宇治十帖は「大君のゆかり」の物語である。

 ⑤け近く使ひ馴らしたまふ人々の中には、おのづから憎からず思さるるもありぬべけれど、まことには心とまるもなきこそさはやかなれ。
  とりたてて心とまる絆になるばかりなることはなくて過ぐしてんと思ふ心深かりしを、
  →女房たちともひと時の肉体関係は結んでも心を通わすことはしない。
  →女性は仏道修行の妨げと思っている。女性拒否症に近い。

 ⑥薫「北の院に参らんに、ことごとしからぬ車さし出でさせよ」
  →中の君の二条院は薫のいる三条宮の北に隣接している。

 ⑦薫「さばれ、かの対の御方のなやみたまふなるとぶらひきこえむ」
  →いくら中の君の後見者と公認されてる薫でも主人のいない留守に人妻の所へ出かけるのはいかがなものだろう。不思議な感じがします。

 ⑧薫 今朝のまの色にやめでんおく露の消えぬにかかる花と見る見る
  女郎花をば見過ぎてぞ出でたまひぬる。
  →朝顔は無常の象徴。女郎花は女性・好色を表す。薫には女郎花は眼中にない。
   (脚注13)

補遺 p82 人の上さへあじきなき世を思ひめぐらしたまふ
  →百人一首 No.99 後鳥羽院
   人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆえにもの思ふ身は

  後鳥羽院は源氏物語のこのあたりを意識してNo.99を作ったのだろうか。
  →もう一か所須磨のところも挙げられている。
   かかるをりは、人わろく、恨めしき人多く、世の中はあぢきなきものかなとのみ、よろづにつけて思す。
  →「後鳥羽院はこのとき自分を光源氏になぞらへてゐた」(丸谷才一)

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源氏の集い

今日から連休後半、爽やかな日が続きます。それぞれにファミリーイベントでお忙しいことと思います。源氏購読も4日間お休みです。爺も源氏を忘れジイになって行ったり来たり思う存分エンジョイしたいと思っています。

ブログを開始して1年10ヶ月、お蔭さまで順調に宇治十帖も総角・宿木と一番シンドイ正念場を通過中です。随分と書いてきました。みなさんにも随分と書いていただきました。先日来最初のウオームアップからざっと読み直したのですが分量が多すぎて読み切れず「玉鬘」の所で断念しました。
 (本日現在で投稿が455件、コメント総数が1788件です。投稿を平均1000字、コメントを平均200字とすると合計812,600字。400字詰で2031枚になります)
 
すごいボリュームです。こうして爺が何とかここまで来れたのも皆さまのご支援あってのこと、取分け投稿毎に一度も欠かさず熱いコメントを寄せていただいている青玉さんのお蔭です。改めて感謝申し上げます。
 
昨晩は在京のコメンテーター各位(式部さん・青黄の宮さん・ハッチーさん・進乃君さん)に集まっていただき新宿で「源氏の集い」を行いました(名古屋の青玉さんには失礼しました)。爺には勿論旧知の面々ですがお互い初対面の方もあり少し心配しましたが、そこが源氏物語の力でしょうか、源氏をベースに次々に話が進みお互いの分野(ケニアやら中国やら)に話が及び、また源氏に戻るといった調子であっという間の3時間でした。

三重県勢3人のローカルな話題に大阪・京都ベースのハッチーさん・進乃君さんが応酬すると言う構図もあり否が応でも話は盛り上がったのではないでしょうか。

 ・しをんちゃんの「神去なあなあ」(WOOD JOB)
 ・斎宮博物館
 ・本居宣長、小津安二郎
 ・清少納言 榊原温泉(ななくりの湯)
 etc. etc.

このように話が弾むのも源氏物語のすごさ、紫式部の偉大さによるものと改めて思いました。

後は来年の百人一首のこと、年末の完読記念旅行のこと、配役表のことなど話し再会を約してほろ酔い気分で帰途につきました。

(配役表=先年の講読会の時源氏物語登場人物141人をピックアップしそれぞれに配役を決めたもの。今回完読時にはもう少し主要人物に絞った形で2014年版を作ろうと爺が勝手に思っており、2010年版を皆さんに配り協力を依頼しました。青玉さんには別途メール添付でお送りします)

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宿木(4・5・6) 匂宮、六の君と結婚へ

p68-78
4.夕霧、六の君の婿に匂宮をと切望する
 〈p52 こうした話を、夕霧の右大臣はちらりとお聞きになりまして、〉

 ①夕霧の六の君
  母は藤典侍 母の父は例の惟光。即ち六の君は惟光の孫(勿論源氏の孫でもある)

 ②夕霧は六の君を薫にと思ってたが帝の女二の宮との縁談話から薫をあきらめ匂宮に切り替える。
  →妹にあたる明石の中宮に頼み込む。匂宮も母中宮には逆らえない。

 ③匂宮 ただ、いと事うるはしげなるあたりにとり籠められて、心やすくならひたまへるありさまのところせからんことをなま苦しく思す
  →窮屈な夕霧の婿になるのは気が進まない。
  →左大臣の娘葵の上に気が進まなかった源氏と似ているのでは。

5.薫、女二の宮との縁組を承諾 大君を想う
 〈p54 女二の宮も、今は母女御の服喪が明けましたので、〉

 ①K25年夏 既に大君は亡くなっている(K24年11月)
  はしたなきやうはなどてかはあらん、そのほどに思し定めたなりと伝にも聞く
  →帝が女二の宮との婚儀を進めているのでは薫は拒否のしようもない。
  →でもまだ大君のことが忘れられない。どうしてそこまで固執するのであろう。

6.匂宮、六の君と婚約 中の君の不安と後悔
 〈p55 夕霧の右大臣はお急ぎになりまして、〉

 ①この段から早蕨の巻末に繋がる。

 ②右大臣には急ぎたちて、八月ばかりにと聞こえたまひけり。
  →匂宮・六の君の婚儀は8月にと決まった。

 ③中の君 かへすがへすも、宮ののたまひおきしことに違ひて草のもとを離れにける心軽さを、恥づかしくもつらくも思ひ知りたまふ
  →八の宮の遺言、呪縛が甦る。大君のように結婚しなければよかったとの思いも甦る。

 ④中の君 何かは、かひなきものから、かかる気色をも見えたてまつらんと忍びかへして、聞きも入れぬさまにて過ぐしたまふ。
  →中の君は気丈に耐えるべく心を固める。そうだ!エライぞ中の君!
  →段末脚注参照 女三の宮降嫁の時の紫の上にも似ている。

 ⑤さるは、この五月ばかりより、例ならぬさまになやましくしたまふこともありけり。
  匂宮 「もし。いかなるぞ。さる人こそ、かあうにはなやむなれ」

  →中の君懐妊! 戸惑う匂宮。
  →女房がはっきりと教えてやればいいのに。

 ⑥宮は、隔てんとにはあらねど、言ひ出でんほど心苦しくいとほしく思されて、さものたまはぬを、女君は、それさへ心憂くおぼえたまふ。
  匂宮は中の君に六の君との婚儀のことを伝えない。中の君は冷たいなあと思う。
  
  →源氏は紫の上に言い過ぎだと思うほど何でも報告していた。匂宮にはできない。
  →源氏-紫の上 vs 女三の宮 或いは 明石の君
   匂宮-中の君 vs 六の君
   構図が似ている。

 ⑦匂宮 このごろは、時々御宿直とて参りなどしたまひつつ、かねてよりならはしきこえたまふをも、ただつらき方にのみぞ思ひおかれたまふべき。
  →夜離れの予行練習なんて聞いたことない。でも面白い。匂宮の心づくしの一つか。

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宿木(1・2・3) 薫、帝の女二の宮と縁談話

宿木 あふけなく大御むすめをいにしへの人に似よとも思ひけるかな(与謝野晶子)

早蕨で匂宮が中の君を二条院へ移し入れたのがK25年春。宿木は1年遡ってK24年春から語り起されます。京を舞台での薫の縁談話からです。

p58-68
1.藤壷女御、女二の宮の養育に力を尽す
 〈寂聴訳 巻九 p44 その頃、藤壷の女房と申し上げたお方は、〉

 ①「そのころ、藤壷と聞こゆるは、、」
  →新しい話の語り出し。宇治十帖は橋姫・宿木・手習の冒頭が「そのころ、」で始まっている。

 ②藤壷女御 今上帝に一番早く(明石の中宮より早く)入内した女御(梅枝p204)
  →最初麗景殿女御だったが藤壷に住いが変わっている。藤壷の持つ意味は大きい。

 ③睦ましくあはれなる方の御思ひはことにものしたまふめれど、
  今上帝との仲も明石の中宮に次いで良好だった。
  →明石の女御が中宮になったのは無論源氏の後ろ楯による。 

2.藤壷女御の死去 女二の宮の不安な将来
 〈p45 この女二の宮が十四歳になられました年、〉

 ①K24年春 女二の宮裳着の儀(14才になった)
  →結婚年齢になったということ。

 ②女御、夏ごろ、物の怪にわづらひたまひて、いとはかなく亡せたまひぬ。
  →あっけなく亡くなってしまう。今上帝も驚き悲しんだことであろう。
  →女二の宮は裳着を終えてスタンバイ。さあ誰を婿にするか。 

3.帝、女二の宮と薫との縁組を画す
 〈p47 お庭前の菊の花が、〉
国宝源氏物語絵巻 宿木(一)の場面です。

 ①朱雀院の姫宮を六条院に譲りきこえたまひしをりの定めどもなど思しめし出づるに、
  若菜上の冒頭朱雀院の悩みの場面と瓜二つである。

  1)朱雀院 藤壷女御(名前もいっしょ)が死亡 女三の宮をどうするか
  2)今上帝 藤壷女御が死亡 女二の宮をどうするか

  1)朱雀院 悩んだ末源氏に嫁がせる
  2)今上帝 チョイスは薫しかいない
  即ち
  1)朱雀帝・藤壷女御 - 女三の宮 - 源氏
  2)今上帝・藤壷女御 - 女二の宮 - 薫

 ②帝、女二の宮と囲碁を打っていた。ここに薫を召し寄せ三番勝負
  →源氏物語に囲碁の場面は4例
   空蝉と軒端荻(空蝉p167) 玉鬘の大君と中の君(竹河p102)
   本段 帝と薫(宿木p64) 後出 浮舟と尼(手習p202)

 ③帝 三番に数一つ負けさせたまひぬ
  →ここはわざとだろうか。本来ならわざとでも薫が負けるべき。
 
 ④薫 世のつねの垣根ににほふ花ならば心のままに折りて見ましを
  帝 霜にあへず枯れにし園の菊なれどのこりの色はあせずもあるかな
  →こういう風に儀礼的に和歌を詠み合い事を進めていく。これぞ王朝流であろう。

 ⑤薫 例の心の癖なれば、急がしくもおぼえず。
  薫は結婚に消極的 劣り腹の女二の宮だからだろうか。

  后腹におはせばしもとおぼゆる心の中ぞ、あまりおほけなかりける
  明石の中宮腹の女一の宮ならいいのに、、と思う。

  →これは(薫の実の父)柏木が女二の宮に心を動かされず女三の宮に執着したのとそっくりではないか。

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早蕨 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

早蕨のまとめです。

和歌

95.この春はたれにか見せむなき人のかたみにつめる峰の早蕨
     (中の君)  父に次いで姉まで、お気の毒に

96.袖ふれし梅はかはらぬにほひにて根ごめうつろふ宿やことなる
     (薫)    中の君は匂宮に娶られていく、、、、

名場面

98.御車のもとに、みづから寄らせたまひて下ろしたてまつりたまふ。

     (p42  中の君、二条院へ到着)

[早蕨を終えてのブログ作成者の感想]

早蕨、短い帖でした。大君が亡くなり悲嘆にくれた年も改まり、舞台が宇治から京に移動する。その経緯を記した謂わば繋ぎの帖と言うことでしょうか。文字通り玉の輿に乗って当代人気ナンバーワンの貴公子匂宮に迎えられて京に入る中の君。世にも羨むお輿入れだが中の君は不安で一杯。そりゃそうでしょう。ついていく肉親は誰もおらず頼りになる女房もいない。後見人は薫だがどうもスケベ心が見え隠れしてて100%心を許すことはできない。

(田舎から京へ迎えられた例としては源氏の要請で明石の君が大堰に移ったケースがあるがこの時は母(明石の尼君)&娘(明石の姫君)が一緒で頼りになる乳母(宣旨の君)もいた。それでも明石の君は京へ上っても源氏に見棄てられるのではないかと心配していた)

京へ迎え入れられたといっても夫匂宮は忙しい身だしそうそう自由がきかない。権力者夕霧の六の君との縁談話も進んでおりそうなると否応なく第二夫人になってしまう。それとややこしい薫の存在。ちょっと考えただけで中の君が匂宮と幸せな結婚生活に入るには支障が多すぎる感じがします。

中の君の京での日々、どうなって行くのでしょうか。宿木をお楽しみに(総角に匹敵する長さですが総角よりは変化があるので面白いと思います)

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早蕨(8・9・10) 中の君、二条院に落ち着く

p41 – 50
8.中の君、二条院に落ち着く 薫ひそかに後悔
 〈p36 夜に入って大分遅くなった頃、〉

 ①中の君、二条院へ
  いかばかりのことにかと見えたまへる御ありさまの、にはかにかく定まりたまへば、おぼろけならず思さるることなめりと、世人も心にくく思ひおどろきけり。
  →零落の姫宮を二条院に引き取る。正妻でないにせよ、世間は「ほお~っ」と驚きの声を上げたことだろう。

 ②中納言は、三条宮に、この二十日余日のほどに渡りたまはんとて、
  →薫の三条宮は二条院の南に隣接している(地図要チェック)。
  →何とも絶妙な配置である。

 ③薫 しなてるやにほの湖に漕ぐ舟のまほならねどもあひ見しものを
  →あひ見し=情交する。「ああ、いい所まで行ったのに、」未練たらしい。

9.夕霧匂宮に不満、薫を婿に望み拒まれる
 〈p38 夕霧の右大臣は、六の君を匂宮にさし上げるのを、〉

 ①右の大殿は、六の君を宮に奉りたまはんと、
  →夕霧は大君(一の君)を東宮に入れている。六の君を匂宮には既定路線。
  →その機先を制し匂宮は中の君を二条院へ入れた。怒る夕霧。

 ②さらばと、夕霧は六の宮を薫に打診。
  薫「世のはかなさを目に近く見しに、いと心憂く。身もゆゆしうおぼゆれば、いかにもいかにも、さやうのありさまはものうくなむ」
  →匂宮と六の君のことは薫も知っていた筈。これは受けられない。
  →さらに薫は夕霧とは兄弟でもないことを知っており、うしろめたい気持ちで生きている。このような華やかな婚礼には拒否反応が働いたことだろう。
  →むしろ夕霧が何故薫にこんな打診をするのか疑問である。

10.薫、二条院を訪問 薫・中の君・匂宮の心
 〈p39 花盛りの頃、薫の君は近所の二条院の桜を〉

 ①3月初旬、花盛り。二条院は桜が多い。
  薫が二条院に匂宮(&中の君)を訪ねていく。

 ②薫は匂宮と話した後、、、立ち出でたまひて、対の御方へ参りたまへり。
  →オイオイ、人妻の所に行くのは如何なものか。

 ③中の君「げにおはせましかば、おぼつかなからず往き返り、かたみに花の色、鳥の声をも、をりにつけつつ、すこし心ゆきて過ぐしつべかりける世を、、」
  →大君が薫と結婚し三条宮にいて自分が匂宮に迎えられて二条院に来てればよかったのに、、、。
  →ダブル結婚ができていれば4人ともハッピーだった、、、でもそうはうまくいかない。

 ④段末の匂宮、薫、中の君 3人の会話、心内は非常に面白い。
  匂宮:よそよそしくするのもなんだけど、危ないなあ、気をつけてね。
  中の君:お世話になってる薫さま、私としてはただそれだけなんだけど。
  薫:ああ、なんでこんなことになってしまったのか。。

かくて短い早蕨は終わり長い宿木へと移ります。

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早蕨(5・6・7) 中の君、宇治に別れを告げ京へ

p32 – 41
5.薫、弁を召して互いの世の無常を嘆きあう
 〈p27 弁は、「こうしたお供を致そうとは、〉

 ①弁は中の君に同道せず出家して宇治山荘に残る。
  →留守番役になる。今後もまだまだ重要な出番が待っている。

 ②弁 げにむげに思ひほけたるさまながら、ものうち言ひたる気色、用意口惜しからず、ゆゑありける人のなごりと見えたり。
  →年取って頼りない弁ではあるが作者も一応の敬意を払っている。
 
  弁 さきにたつ涙の川に身を投げば人におくれぬ命ならまし
  →薫にとって弁は出生の疑問を語ってくれた大事な人、感謝の気持ちでいっぱいであったろう。
  
6.中の君、宇治にとどまる弁と別れを惜しむ
 〈p30 弁は、薫の君の苦しんでいらっしゃることや〉
  国宝源氏物語絵巻 早蕨の場面です。

 ①弁 人はみないそぎたつめる袖のうらにひとり藻塩をたるるあまかな
  中の君 しほたるるあまの衣にことなれや浮きたる波にぬるるわが袖
  →世話になった弁と別れて京へ行く中の君。さぞ名残り惜しかったであろう。

 ②中の君 世に住みつかむことも、いとありがたかるべきわざとおぼゆれば、さまに従ひてここをば散れはてじとなむ思ふを、さらば対面もありぬべけれど、、
  →京へ行ってもすぐ宇治へ帰って来るかもしれない、、中の君の真情であったろう。

7.上京する中の君、憂えと悔いの心をいだく
 〈p32 山荘の中はすっかり掃除をすませ、〉

 ①中の君上京の準備、匂宮では至らぬところまで薫が万端面倒をみる。

 ②大輔の君(女房)
  あり経ればうれしき瀬にもあひけるを身をうぢ川に投げてましかば
  →京へ付いて行く女房たちはランラン気分。弁との対比が生々しい。
  →こういう女房を登場させて人の気持ちの違いを浮きだたせるところがさすがである。

 ③2月7日京へ 宇治からの道のり
  道のほど遥けくはげしき山道のありさまを見たまふにぞ、つらきにのみ思ひなされし人の御仲の通ひを、ことわりの絶え間なりけりとすこし思し知られける。
  →牛車でゆっくり行ったのでは時間もかかったことだろう。
  →中の君は匂宮がこんな山道を三日連続で通ったこと、また大君死去の時には雪を冒し深夜に来てくれたことをつくづく(少しではなく)有難く思ったのではなかろうか。

 ④中の君 ながむれば山より出でて行く月も世にすみわびて山にこそ入れ
  →中の君の絶唱。昔は取り戻せない。未来に立ち向かうしかありませんぞ!

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早蕨(3・4) 京への移転の前日薫宇治へ

p22 – 31
3.中の君、宇治を離れがたく思い嘆く
 〈p19 宇治でも、器量のいい若い女や女童などを雇って、〉

 ①京へ移転の日が近づく。張り切る女房たち。中の君の悩みは深い。
  →結婚するな、宇治を離れるな、父の遺言に決定的に背くことになる。

 ②匂宮「浅からぬ仲の契りも絶えはてぬべき御住ひを、いかに思しえたるぞ」
  →これも道理。遠い宇治には匂宮は通えない。結婚は続けられなくなる。

 ③中の君 いかにはしたなく人笑はれなることもこそなどよろづにつつましく、心ひとつに思ひ明かし暮らしたまふ。
  →独りになった中の君、住み馴れた宇治を離れ京へ行くこと、とてつもなく高貴な人の妻になること、いかほどか心細く怖かったことだろう。
  →現代でも地方で育った女性が結婚し初めて親と離れて東京の新郎の所へ行くケースなど、新婚生活に胸は弾むものの一方では「怖い、行きたくない」と臆してしまうのではなかろうか。

4.薫の配慮 宇治を訪れ懐旧の情にひたる
 〈p20 徐服の祓いに川辺に行くための御車や〉

 ①京への引越しにあたっての薫の細やかな配慮 
  中納言殿より、御車、御前の人々、博士など奉りたまへり。
  →牛車や前駈の人々は分かるが陰陽博士というのが面白い。
  →除服が僧侶でなく陰陽師とはどういうことだろう。

 ②転居の前日、薫が宇治を訪れる。
  →前年末京へ帰って以来1ヶ月余振りである。

 ③薫、大君を偲ぶ
  「わが心もてあやしうも隔たりにしかな」
  →「何であの時思いを遂げておかなかったのだろう!」
  →大君のためにも自分のためにも。悔やんでも悔やみきれなかったろう。

 ④かいばみせし障子の穴も思ひ出でらるれば、寄りて見たまへど、
  →描写が細かい。男ならだれでも絶対するように思えます。

 ⑤薫、中の君と対面。互いに大君を偲ぶ。
  いみじくものあはれと思ひたまへるけはひなど、いとようおぼえたまへるを、心からよそのものに見なしつると思ふに、いと悔しく思ひゐたまへれど、かひなければ、その夜のこと、かけても言はず。
  →薫は自分の優柔不断さで結局は大君も中の君も両方取り逃がしてしまう結果となったこと、悔しくてたまらなかったろう。

 ⑥伊勢物語の古歌を引いて亡き人(八の宮・大君)&宇治を偲び合う二人
  月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして(業平)
  五月まつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする(古今集)
   (この伊勢物語60段は中々含蓄深い話です。読んでみてください)

  中の君 見る人もあらしにまよふ山里にむかしおぼゆる花の香ぞする
  薫  袖ふれし梅はかはらぬにほひにて根ごめうつろふ宿やことなる 代表歌
   →「根ごめうつろふ宿やことなる」、薫の実感が表れています。

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