宿木(36・37・38・39・40) 中の君の出産近づく

p196-208
36.匂宮、中の君と薫の仲を疑い、情愛深まる
 〈p153 ほとんど草の枯れはてている前庭の〉
 国宝源氏物語絵巻 宿木(三)の場面です。

 ①匂宮と中の君@二条院 晩秋の景色
  枯れ枯れなる前栽の中に、尾花の、物よりことに手をさし出でて招くがをかしく見ゆるに、
  →脚注9 薄の穂のなびく様子を手を振って人を招く動作に見立てる。

 ②露をつらぬきとむる玉の緒、はかなげにうちなびきたるなど、、
  →百人一首 No.37 文屋朝康
   白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける

 ③「わが身ひとつの」
  →脚注4貫之 おほかたの我が身ひとつの憂きからになべての世をも恨みつるかな
  →リンボウ訳は百人一首No.23 大江千里を引用している。
   月見れば千々にものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど
   [脱線] 大江千里には春の素晴らしい歌がある。
   照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(花宴p248)

 ④匂宮の琵琶、中の君の筝の琴
  催馬楽 伊勢の海
  →明石8・9 源氏、入道との語らい(2013.3.21) コメント欄参照 明石p138
  
 ⑤匂宮「、、このごろ見るわたりは、まだいと心とくべきほどにもならねど、片なりなる初ごとをも隠さずこそあれ、すべて、女は、やはらかに心うつくしきなんよきこととこそ、、」
  →一般論はいいが六の君と比較して中の君を窘めるのはいかがなものか。 

37.夕霧、匂宮を連れ去る 中の君悲観する
 〈p157 中の君にお琴をお教えになったりして、〉

 ①二条院(中の君)に3、4日居続ける匂宮、こともあろうに夕霧が連れ戻しに来る。
  →おとど!そりゃあ、いけません、大人気ありませんぞ。
  →夕霧には二条院は久しぶりか。あの紫の上の死顔に見入ったところである。
  (脚注13の二条東院とは隣り合わせだが違うのではないか)

 ②勢ひこちたきを見るに、並ぶべくもあらぬぞ屈しいたかりける。
  →何と言っても今や夕霧の威勢が一番。夕霧に踏み込まれ匂宮を連れ去られた中の君の心境察するに余りありです。

38.中の君の出産近づく 諸方より見舞多し
 〈p159 正月の末頃から、中の君は、〉

 ①明けてK26年 中の君の出産近く見舞が相次ぐ(匂宮の母明石の中宮からも)
 
 ②匂宮と中の君が契ったのはK24年8月 足掛け3年である。
  六の君に押されて第二夫人の位置づけであった中の君も出産が近づき注目される。  

39.女二の宮の裳着の用意 薫中の君を憂慮す
 〈p159 薫の君は、匂宮が御心痛のあまり〉

 ①薫は女二の宮の裳着→婚儀もあり慌ただしい。中の君の出産も気がかりである。
  →お忙しいことです。

40.薫、権大納言に昇進、右大将を兼ねる
 〈p160 薫の君は二月の初め頃、〉

 ①K26年2月 薫 中納言から権大納言兼右大将に昇進(大出世である)

 ②薫は昇進新任披露の宴を六条院で行う。
  →六条院春の町(紫の上の町)であろうか。同じ六条院夏の町には六の君が居る。
  →匂宮は最初躊躇したが結局参列し六の君の所へは行かず二条院に戻る。

 ③語り手の評言
  劣るべくもあらぬ御ほどなるを、ただ今のおぼえのはなやかさに思しおごりて、おしたちもてなしたまへるなめりかし。
  →中の君は親王の娘(桐壷帝の孫) 六の君は臣下(夕霧)の娘(源氏の孫)
  →身分は中の君の方が上だが世人の一般評価は権勢家夕霧の娘六の君の方が上である。

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宿木(33・34・35) 浮舟の出自

p188-196
33.薫、浮舟について聞き知り弁に仲介を頼む
 〈p146 さて、話のついでに、〉

 ①弁から浮舟の事が詳しく語られる。キチンと頭に入れておきたい。
  弁「京に、このごろ、はべらんとはえ知りはべらず。、、、、、かの君の年は二十ばかりにはなりたまひぬらんかし。いとうつくしく生ひ出でたまふがかなしきなどこそ、中ごろは、文にさへ書きつづけてはべめりしか」
  1.八の宮が北の方を亡くした直後中将の君という女房(上臈)に手をつけた。
  2.女の子誕生。八の宮は煩わしくて中将の君を以後一切近づけず。子どもも認知せず。
  3.庶子誕生に懲りた八の宮はその後仏道修行に入る。
  4.中将の君は陸奥守の妻となりその後夫の転勤で常陸に移り近頃京に戻った。
  5.浮舟は現在二十ばかり、いとうつくしく生ひ出でたまふ

  →八の宮には改めてがっかり。怒りを感じます。
   あいなくわづらはしくものしきやうに思しなりて、またとも御覧じ入るることもなかりけり。
   例え認知はしないまでも何かせにゃあ。やりっ放し放ったらかしは許せません。

  →浮舟は誕生後すぐ地方暮らし、陸奥・京・常陸と渡り歩き今や20才。玉鬘が3才~21才まで九州で育ったことを思い出させる。

 ②弁「母君は、故北の方の御姪なり。弁も離れぬ仲らひにはべるべきを、、」
  →中将の君は北の方の姪。藤壷と紫の上の関係と同じ。八の宮が手をつけたのもそのゆかりか。
  →弁と北の方は従姉妹。従って中将の君・浮舟とも血縁にあたる。

34.薫、宇治の人々をいたわる 弁の尼との唱和
 〈p149 夜が明けると薫の君は京へお帰りになりますので、〉

 ①晩秋の宇治 薫と弁、歌を交し合う。
  いとけしきある深山木にやどりたる蔦の色ぞまだ残りたる。
  薫 やどり木と思ひいでずは木のもとの旅寝もいかにさびしからまし 代表歌
  弁 荒れはつる朽木のもとをやどり木と思ひおきけるほどの悲しさ
  →薫は八の宮や弁といった老人と話が合う。いや合い過ぎではなかろうか。

35.薫、宇治の邸の件で中の君と消息を交す
 〈p151 中の君に蔦紅葉をお贈りなさいますと、〉

 ①宮に紅葉奉れたまへれば、男宮おはしましけるほどなりけり。
  →「宮」は中の君。「男宮」が匂宮。ややこしい。

 ②薫から中の君へ蔦紅葉と共に文が届けられる。
  →匂宮が疑うのも、中の君がドキッとするのも無理なからん。

 ③匂宮「よくもつれなく書きたまへる文かな。まろありとぞ聞きつらむ」
  「返り事書きたまへ。見じや」
  かく憎き気色もなき御睦びなめりと見たまひながら、わが御心ならひに、ただならじと思すが安からぬなるべし。

  →中の君を挟んでの匂宮と薫の気持ち。私にはよく分かりません。

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宿木(30・31・32) 薫、宇治を訪問 弁の尼と語る

p180-188
30.薫、宇治を訪れて弁の尼に対面する
 〈p140 薫の君は、宇治の山荘を、〉

 ①K25年9月20余日 薫、宇治を訪れる。
  いとどしく風のみ吹き払ひて、心すごく荒ましげなる水の音のみ宿守にて、人影もことに見えず。
  →晩秋、寂しげな宇治の様子

 ②宇治に残り尼修行をしている弁と語り合う。
  →中の君が宇治から二条院に移ったのがK25年2月。それから7ヶ月経っている。

 ③弁「げにかの嘆かせたまふめりしもしるき世の中の御ありさまを、ほのかにうけたまはるも、さまざまになん」
  →幸せになって欲しいと念じて中の君を送り出した尼。匂宮と六の君の結婚話を聞き「やっぱりそうか」と後悔の気持ちであったろう。

31.薫、阿闍梨と寝殿の改築のことを相談する
 〈p142 薫の君は、阿闍梨をお呼びになって、〉

 ①阿闍梨、良きにつけ悪しきにつけ登場する。
  
 ②薫の計画
  宇治八の宮山荘の寝殿を解体しその材木を阿闍梨の山寺に持って行き新しくお堂を作る。
  お堂を寄進することで八の宮・大君の供養とする考え。
  →阿闍梨にとって異存のある訳はない。

 ③八の宮山荘の領地は今は中の君の所有になっており、中の君は匂宮の妻になっているから領地は匂宮の領地と言える(p184脚注22)
  →そういう理屈になるのかなあ。。。

 ④暦の博士はからひ申してはべらむ日をうけたまはりて、、、、
  →何ごとにつけても吉日・忌日がある。ややこしい時代である。

32.薫、弁の尼を召して昔話を語らせる
 〈p144 このお邸もこれで見納めかとお思いになり、〉

 ①夜も近く臥せて、昔物語などせさせたまふ。故権大納言の君の御ありさまも、聞く人なきに心やすくて、いとこまやかに聞こゆ。
  →聞く方も話す方も何度も何度も繰り返し同じ話だろうが飽きることはなかったろう。

 ②弁「めづらしくおはしますらん御ありさまをいぶかしきものに思ひきこえさせたまふめりし御気色などの思ひたまへ出でらるるに、、」
  →脚注10 まあ子どもを見たいと柏木が言うのは当然であろう。
  →薫にはじ~んときた言葉であったろう。

 ③弁と語り合うにつけ亡き大君のこと今の中の君のことが頭をよぎる。
  、、、、など、心の中に思ひくらべたまふ。
  →大君・中の君の比較が語られ異母妹浮舟へと話が転じられる(脚注12)

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宿木(28・29) 浮舟の語り出し

p166-180
28.薫、中の君と対面、思いを抑えて語り合う
 〈p129 薫の君も、どうしても恋心をこらえられず、〉

 ①薫、またしても二条院中の君の所へ
  中の君「いとなやましきほどにてなん、え聞こえさせぬ」
  →薫のことが煩わしい。気分が悪いというのは口実

 ②いとほのかに、時々もののたまふ御けはひの、昔の人のなやみそめたまへりころまづ思ひ出でらるる
  →中の君の立居振舞何につけても大君のことが偲ばれる。

 ③気分が悪い、胸が痛い、、薫を避けようとする中の君
  そんな訳ないでしょう、子どもみたいにだだをこねないでと切り返す薫
  →薫はどこまで本気だったのか。薫の優柔不断さからすれば中の君を匂宮から奪い取るような大胆な行動はできっこないでしょうに。

 ④ただかばかりのほどにて、時々思ふことをも聞こえさせうけたまはりなどして、隔てなくのたまひ通はむと、誰かは咎め出づべき。
  →相変わらずの中途半端。男らしくない。後見だけならそっとしておけばよかろうに。

29.薫、中の君から異母妹浮舟のことを聞く
 〈p133 外のほうを愁いありげに御覧になりますと、〉
 
 浮舟のことが語り出される重要な段である。
 ①薫「かの山里のわたりに、わざと寺などはなくとも、昔おぼゆる人形をも作り、絵にも描きとりて、行ひはべらむとなん思うたまへなりにたる」
  →大君のことが忘れられない。宇治の山里に大君の像(木像か石像か)でも建てようとするのだろうか。

 ②死んだ人を絵や像にして供養し自らの心をも慰める。そんな習慣があったのであろう。
  →絵師に賄賂を贈らなかった王昭君の話は悲惨である。

 ③中の君「人形のついでに、いとあやしく、思ひよるまじきことをこそ思ひ出ではべれ」
  →薫が人形を持ち出したに乗じて浮舟のことを語り出す。絶妙の手順である。

 ④中の君「年ごろは世にやあらむとも知らざりつる人の、この夏ごろ、遠き所よりものして尋ね出でたりしを、、、、、」
  薫 夢物語かとまで聞く
  →薫は「え、えっっ!」と思わず膝を乗り出したことだろう。
  →読者も「よっしゃ、これは面白いことになるぞ!」と目を輝かしたことだろう。

 ⑤中の君「また、あいなきことをさへうちそへて、人も聞きつたへんこそ、いといとほしかるべけれ」
  →中の君は浮舟の出現を煩わしいこと、迷惑なことと思っている。

 ⑥宮の忍びてものなどのたまひけん人の忍ぶ草摘みおきたりけるなるべしと見知りぬ。
  →薫は真相を知った。八の宮がひそかに契った女との間にできた忘れ形見。これぞ人形の出来である。

 ⑦中の君、薫の求めに言葉少なにあらましを語る。
  「いと遠き所に年ごろ経にけるを、母なる人の愁はしきことに思ひて、、、、何ごとも思ひしほどよりは見苦しからずなん見えし、これをいかさまにもてなさむと嘆くめりしに、、、」
  →浮舟の母の登場、この母は重要である。
  →田舎に下っていたがそんなに田舎じみてはいない。

 ⑧中の君への想いは募るばかりだが突破口は見いだせない。そんな折り新しい女君の存在が耳に入る。
  →さあ、薫中納言、どうするのでしょうか。

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宿木(26・27) 匂宮の夜離れ、薫の横恋慕 中の君の悩み

p157-165
26.薫、執心を抑えて、中の君をよく後見する
 〈p122 薫の君は、こうして匂宮が二条の院に〉

 ①匂宮が二日も中の君の所に居続けている。
  中納言の君は、かく、宮の籠りおはするを聞くにも、心やましくおぼゆれど、
  →脚注16「籠り」の語感に注意。=四六時中ぴったり寄り添っている感じか。

 ②薫、二条院の人々の衣服が古くなっているので母に頼んで誂えてもらう。
  →面倒見のいい薫。

 ③薫 むすびける契りことなる下紐をただひとすぢにうらみやはする
  →未練がましい。嫉妬がましい。匂宮と中の君の閨房を想像して詠んだのだろうか。

 ④誰かは、何ごとをも後見かしづききこゆる人のあらむ。
  →中の君を経済的に後見する人は薫しかいない。
  →匂宮には財産はないのか。源氏は臣下に下ったので財をなすことができたのか。

 ⑤匂宮 限りもなく人にのみかしづかれてならはせたまへれば、世の中うちあはずさびしきこと、いかなるものとも知りたまはぬ、ことわりなり。艶に、そぞろ寒く花の露をもてあそびて世は過ぐすべきものと思したる、、
  →皇子の有り様の記述。楽と言おうかつまらないと言おうか。でも現実であろう。

 ⑥中の君には二人の男が必要である。一人は夫としての匂宮。もう一人は経済的後見人としての薫。この後見人が後見人だけに止まらなくなるとゴタゴタが起る。
  →当然である。
  →匂宮・中の君は薫に助けられているが薫は二人から何のお返しも受けていない。一方的な貢献だけでは薫も辛かろう。

 ⑦この君しもぞ、宮に劣りきこえたまはず、さまことにかしづきたてられて、、、
  故親王の御山住みを見そめたまひしよりぞ、さびしき所のあはれさはさまことなりけりと心苦しく思されて、、、、
  →匂宮に劣らぬ高貴人だった薫も八の宮の感化で気配りの人間になった。
  →宇治十帖は八の宮の影を引きずっての物語である。

27.中の君、薫の態度に悩みわずらう
 〈p127 こうして薫の君は、やはり何とかして〉

 ①御文などを、ありしよりはこまやかにて、ともすれば、忍びあまりたる気色見せつつ聞こえたまふを、女君、いとわびしきことそひにたる身と思し嘆かる。
  →文による薫の攻勢はエスカレートしたのだろう。
  →でも和歌も省筆されている。所詮詮無いことである。

 ②(前述の通り)中の君には二人の男が必要である。
  夫匂宮はなかなか来てくれない(夜離れが続く)。
  経済的後見人薫はそれだけに止まらず何かと言い寄ってくる。
  →中の君の悩みは尽きない。

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宿木(25) 匂宮、二条院へ 薫の残り香

p148-156
25.匂宮、中の君を訪れ、薫との仲を疑う
 〈p114 匂宮は、二条の院へずいぶん御無沙汰したことを、〉

 ①久しぶりに匂宮が二条院に帰ってくる。
  →どれくらいご無沙汰だったのだろう。結構(2週間ほどは)久しぶりだったのかも。

 ②中の君 ただ、消えせぬほどはあるにまかせておいらかならんと思ひはてて、いとらうたげに、うつくしきさまにもてなしてゐたまへれば、
  →中の君の決心。やっと現状をacceptしようとの心境になったか。

 ③御腹もすこしふくらかになりにたるに、かの恥ぢたまふしるしの帯のひき結はれたるほどなどいとあはれに、
  →匂宮には初めての子。人の親になる! 匂宮も嬉しかったことだろう。

 ④かの人の御移り香いと深くしみたまへるが、、、、あやしと咎め出でたまひて、 名場面
  →体に薫香をおびた薫を切り札的に使う場面。うまい使い方である。

 ⑤「かばかりにては、残りありてしもあらじ」と、よろづに聞きにくくのたまひつづくるに、心憂くて身ぞ置き所なき。
  →匂宮が怒るのも無理なからん。
  →中の君には言い訳のしようもない。夜離れも耐えて行こうと決心した矢先だったのに。

 ⑥匂宮 また人に馴れける袖の移り香をわが身にしめてうらみつるかな 代表歌
  中の君 みなれぬる中の衣とたのみしをかばかりにてやかけはなれなん
  →怒りをぶつける匂宮。中の君の歌がいじらしい。
  →江戸時代の武士なら不貞を働いた妻、即刻手打ちであろう。王朝人は心優しい。
  →留守中に妻と肌を合わせた薫にけしからん!という心は働かなかったのだろうか。

 ⑦しおらしく振る舞う中の君に匂宮は機嫌を直す。
  いみじき過ちありとも、ひたぶるにはえぞ疎みはつまじく、らうたげに心苦しきさまのしたまへれば、えも恨みはてたまはず、、
  またの日も、心のどかに大殿籠り起きて、、、
  → ♡♡ 男女の仲直りはこれに限るのであろう。

 ⑧六条院 さばかり輝くばかり高麗、唐土の錦、綾
  二条院 世の常にうち馴れたる心地して、、
  →これでもかと飾り立てた六条院(六の君)より普通の形の二条院(中の君)の方がくつろげる。

 ⑨しるきさまなる文などやあると、近き御厨子、小唐櫃などやうの物をも、さりげなくて探したまへど、さる物もなし、
  →匂宮にしては疑り深い。匂宮とて人の子、まあ仕方がないか。

 ⑩薫の芳香は自分の足跡を消せないという意味で弱点である。中の君と添い臥したら香が残り匂宮に気づかれるとは考えなかったのであろうか。
  →そんなバカなこと言う読者はいないでしょうね。

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宿木(23・24) 薫、二条院で中の君に迫る  

p136-148
23.中の君宇治への同行を願う 薫中の君に迫る
 〈p106 中の君は、匂宮の冷たいお仕打ちの恨めしさなどは、〉

①中の君 山里にあからさまに渡したまへと思しく、いとねんごろに思ひてのたまふ。
  →中の君は純粋に宇治に帰ってみたいと思っていただけだろう。

 ②薫「それはしも。心ひとつにまかせては、え仕うまつるまじきことにはべなり」
  →それは当然。匂宮に黙って隠れて行くことはできない。
  →こんな相談を持ちかけられれば薫が中の君は自分を当てにしている。脈ありと考えるのは当然。

 ③いみじくらうたげなるかなと、常よりも昔思ひ出でらるるに、えつつみあへで、寄りゐたまへる柱のもとの簾の下より、やをらおよびて御袖をとらへつ。 名場面
  →人妻に対してそれはない。またもや薫の中途半端な行動である。

 ④中の君「思ひの外なりける御心のほどかな。人の思ふらんことよ。あさまし」
  →中の君は薫は後見はしてくれるが自分には手出しはしないと高を括っていたのだろうか。それにしても「スキあり」と言わざるを得まい。
  
 ⑤中の君の宇治に行きたいとのリクエスト、薫として叶えてやる術はなかったのか。
  匂宮を説得しての正面突破もあり得たのでは。
  二条院に一旦入ったが最後出るに出られぬ籠の鳥。中の君も可哀そうである。

 ⑥遠慮して座をはずす女房たち それでも薫は自制してしまう。
  昔だにありがたかりし御心の用意なれば、なほいと思ひのままにももてなしきこえたまはざりける。
  →薫はトコトン逆上しない男ですねぇ。まあこの場面は自制するのが普通でしょうが。

24.薫、中の君への恋情に苦悩する
 〈p110 まだ宵のつもりでいたのに、〉

 ①薫 いと恥づかしと思したりつる腰のしるしに、多くは心苦しくおぼえてやみぬるかな、
  →腹帯(当時は中でなく衣服の外に締めていたらしい、どのようにかよく分かりませんが)を見て薫はびっくりし、「こりゃあいかんな」と逸る心も萎えたのではないか。

 ②さらに見ではえあるまじくおぼえたまふも、かへすがへすあやにくなる心なりや。
  →それでも中の君の可愛らしい様子を思い浮かべると恋心を断ちきることはできない。

 ③薫 いたづらに分けつる道の露しげみむかしおぼゆる秋の空かな
  →空しく過ごした宇治の一夜。今さらいってもねぇ。

 ④すこし世の中をも知りたまへるけにや、さばかりあさましくわりなしとは思ひたまへりつるものから、、、、さすがになつかしく言ひこしらへなどして、出だしたまへる
  →薫より中の君の方が人間的にも上に立っている。

 ⑤けしかならぬ心なるや。さばかり心深げにさかしがりたまへど、男といふものの心憂かりけることよ。
  →所詮男たるものは情けないもの。紫式部の喝破である。

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宿木(20・21・22) 中の君、薫を招き入れる

p128-136
20.匂宮、六の君の容姿に魅せられる
 〈p99 匂宮は、右大臣家の六の君の御様子を、〉
 国宝源氏物語絵巻 宿木(二)の場面です。

 ①匂宮の見た六の君
  大きさよきほどなる人の、様体いときよげにて、、、、、すべて何ごとも足らひて、容貌よき人と言はむに飽かぬところなし。
  →絶賛である。匂宮もぞっこんまいったことであろう。
  →六の君が誉められれば褒められるほど中の君が哀れになる。

 ②二十に一つ二つぞあまりたまへりける。いはけなきほどならねば、片なりに飽かぬところなく、あざやかに盛りの花と見えたまへり。
  →21~2才 女盛りである。(匂宮は26才)

 ③夕霧の大君(雲居雁腹)は東宮に入内している。
  そして六の君(藤典侍腹)が匂宮(東宮の次の東宮候補)と結婚
  →夕霧の絶大なる権勢の程が示される。

 ④六の君の父(夕霧)の父は源氏
  六の君の母(藤典侍)の父は例の惟光 
  匂宮の母(明石の中宮)の父は源氏
  →源氏の孫と孫の結婚である。
  →惟光の孫が匂宮の妻になった(やがて中宮になるかもしれない)

  →惟光は夕霧が娘に言い寄っていると聞いて「明石の入道の例にやならまし」と喜んだことがあった(少女p135)。その夢が実現しようとしている。
  →惟光はどうしたのだろう。三日夜の婚儀の場面で消息でも伝えて欲しかった。
  
21.中の君、匂宮の夜離れを嘆き、薫に消息
 〈p101 こうしてそれから後は、〉

 ①匂宮は好むと好まざるにかかわらず(両方だろう)二条院の中の君の所へは離れがちになる。

 ②中の君「なほ、いかで忍びて渡りなむ、むげに背くさまにはあらずとも、しばし心をも慰めばや、」
  →夫の実家(二条院)に移って来たのに夫は新妻の実家(六条院)に入り浸り。これでは身の置き所がない。宇治に少しの間でも帰りたいと思うのは無理なからんところである。

 ③中の君、薫に文を出す。
  「、、、、、さりぬべくは、みづからも」(来て下さるとありがたい)
  →余程切羽詰ったのかもしれぬがこれは大胆!

 ④「みづから」とさへのたまへるがめづらしくうれしきに、心ときめきもしぬべし。
  御文を、うちも置かずひき返しひき返し見ゐたまへり。

  →そりゃあ薫も嬉しかっただろう。でもちょっと軽率、罪作りな話である。

 ⑤「あなかしこ」
  →この時代から手紙の末尾の常套句であった。

22.薫、中の君を訪ね、懇ろに語り慰める
 〈p103 さて次の日の夕方に、〉

 ①さて、またの日の夕つ方ぞ渡りたまへる。
  →そりゃあ薫は有頂天になって飛んで行ったことでしょう。

 ②女君も、あやしかりし夜のことなど思ひ出でたまふをりをりなきにしもあらねば、、、
  今日は、御簾の内に入れたてまつりたまひて、、
  →何かあやしいですね。中の君の気持ちには今一つ納得できません。

 ③宮の御心ばへ思はずに浅うおはしけると思しく、かつは言ひもうとめ、また慰めも、かたがたにしづしづと聞こえたまひつつおはす。
  →う~~ん、これは薫にとっても難しい局面ですね。中の君も隙を見せてはいけないでしょうに。
  →中の君のお腹には匂宮の子どもがいる。匂宮との仲を御破算にして私が面倒をみましょうなんて薫には言える訳がないし、、、。困ったものです。

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宿木(17・18・19) 匂宮・六の君 三日夜の儀

p120-127
17.匂宮と六の君の三日夜の儀盛大に催される
 〈p93 宵を少し過ぎた頃、〉

 ①三日夜 「夜いたう更けぬ」と女房してそそのかし申したまへど、いとあざれて、とみにも出でたまはず。
  →匂宮は六の君といちゃついている。やはり気に入ったのであろう。

 ②三日夜の盛儀の様子が詳しく語られる。
  →源氏物語中、この場面だけではなかろうか。
   源氏が女三の宮を迎えた時はどうだったのだろう。盛儀であるべきだが、、紫の上に遠慮したのだろうか。

 ③夕霧のとてつもない財力のほどが示されている。

18.薫、匂宮の婚儀につけて、わが心を省みる
 〈p95 薫の君の前駆の人々の中に、〉

 ①薫の従者「わが殿の、などか、おいらかに、この殿の御婿にうちならせたまふまじき。あぢきなき御独り住みなりや」
  →こういう人物を登場させて世間の人たちがどのように思っていたのかを読者に伝える手法、素晴らしいです。
  →自分たちもいい目を見たいとの正直な気持ちが表れている。

 ②薫は匂宮に比較しての我が身のことをあれこれ考える。
  →「匂宮は格別だが自分も捨てたものじゃない筈。帝の女二の宮をいただくこと余り気が進まなかったのだが、、まあ考えてみるか、大君に似てるかもしれないし、、」
  →大君のことを完全に忘れ去ることはできない。

19.薫按察の君に情けをかける 女たち薫を慕う
 〈p97 例によって、なかなか寝つかれませんので、〉

 ①召人按察の君との様子が挿まれている。
  明け過ぎたらむを、人の咎むべきにもあらぬに、、
  →ずっといっしょに寝ていても誰も咎めない。公認の仲である。

 ②あながちに、世を背きたまへる宮の御方に、縁を尋ねつつ参り集まりてさぶらふも、あはれなることほどほどにつけつつ多かるべし。
  →女三の宮の三条邸に薫目当ての女房たちが伝を頼って集まってくる。
  →薫の絶大なる人気のほどを語っている。

 ③薫に召人は何人もいて決して性に疎い(晩生)訳ではない。逆に性に飢えているわけでも決してない。
  →恋愛とセックスは別ものということだろうが、これだけ女性とのセックスに通じていた薫が何故大君にはコトに及べなかったのか。
  →薫は仏道修行に心を奪われていた筈。昼は仏道修行、夜は召人とベッドインなんてありですかね!!

  この段、私には色々分からないことが多いです。

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宿木(13・14・15・16) 中の君の憂愁

p108-119
13.匂宮、中の君をいたわり慰める
 〈p84 寝乱れた匂宮のお姿も、〉

 ①寝たくれの御容貌いとめでたく見どころありて、、
  →これはない。中の君には失礼千万。当然身なりを整え前夜も何ごともなかったように颯爽と登場しなくっちゃ。

 ②匂宮「などかくのみなやましげなる御気色ならむ」
  →脚注14は不審。匂宮は当然中の君の妊娠を知ってたと思うのだが。

 ③なつかしく愛敬づきたる方はこれに並ぶ人はあらじかしとは思ひながら、なほ、また、とくゆかしき方の心焦られも立ちそひたまへるは、御心ざしおろかにもあらぬなめりかし。
  →中の君の可愛さは抜群だが六の君にも魅かれてしまった。
  →匂宮はウキウキ。正直な心情であろう。一夫多妻は哀しい世界である。

 ④匂宮「さらずは夜のほどに思し変りにたるか」
  中の君「夜の間の心変りこそ、のたまふにつけて、推しはかられはべりぬれ」
  →問答が面白い。中の君としては「あなたこそ新妻を得て心変りしたじゃない!」と叫びたいところであろう。
  →この辺り、源氏が女三の宮を迎えた時の紫の上の気持ちに似ていようか。

14.匂宮、中の君のもとで六の君の返歌を見る
 〈p88 引き出物としていただいた珍しく美しい衣裳の〉

 ①いつのほどに急ぎ書きたまひつらん、と見るも、安からずはありけんかし。
  →六の君からの返事を中の君の前で見る。見せる。そりゃあ中の君は堪らないでしょう。

 ②六の君の養母女二の宮(落葉の宮)の登場。
  →代筆だったからよかったものを。六の君からの強烈なラブレターだったらどうしたのだろう。

15.中の君、わが身の悲運を諦観する
 〈p89 「何だか不平がましい口ぶりなのも、〉

 ①普通の身分の者は一夫一妻。だが匂宮の身分では多妻が当たり前。
  世間の声も中の君は幸せ者だというばかり。
  →中の君も抗いつつも諦めざるを得ない。でも納得できようもない。

  中の君 おほかたに聞かましものをひぐらしの声うらめしき秋の暮かな
  →悲しい歌である。

 ②今宵は、まだ更けぬに出でたまふなり。
  中の君 、、、まどろまれぬままに思ひ明かしたまふ。
  新婚二日目の夜、匂宮はいそいそと六条院に出かけていく。
  →これは切ない。源氏が女三の宮の所へ出かける時の紫の上に照応する。

16.夕霧、薫を宮中から同伴 薫、婚儀に協力
 〈p92 その日は、明石の中宮のお加減が〉

 ①夕霧は匂宮・六の君の三日夜の婚儀に薫を招く。
  →婚儀を更に盛り立てるため匂宮と並び立つ薫にも来て欲しい。
  →薫は夕霧の異母弟、匂宮・六の君の叔父。
  (夕霧は薫の出生の秘密を本当に知らなかったのか、、知らなかったとして読むのが正当なんでしょうね)

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