東屋(10・11) 浮舟の縁談、破談に 母の嘆き

p36-43
10.浮舟の結婚の準備 常陸介破断を告げる
 〈p208 北の方は、誰にも知らせず、〉

 ①よくよく考えてみるとこの段不審なことが多い。
  ・何故北の方(中将の君)は介に浮舟の結婚のことを一切言ってなかったのか。
   (バレルに決まっておろうに)
  ・何故常陸介は浮舟と実娘をそこまで区別しようとするのか。
   (浮舟は連れ子だが親王の落し胤。浮舟の利用価値もあるのではないか)
  ・介と北の方、別に憎み合ってるような夫婦仲でもあるまいに。
  ・そもそも介が北の方を後妻にしたのは北の方の血筋と女性としての魅力をを買ってであろうに。
   (北の方はぶくぶくと太ったとあるからイヤになったのかも)
  →以上余談です。

 ②北の方 婚礼支度の浮舟を見て感慨にふける。
  世が世なら少将ふぜいに嫁ぐこともなかったろうに、、
  「あはれや、親に知られたてまつりて生ひ立ちたまはましかば、、」
  →つくづく八の宮の非情が恨めしかったことだろう。

 ③常陸介、北の方に憎しみを込めて仲人との語らいを通告する。
  めでたからむ御むすめをば、要ぜさせたまふ君たちあらじ。賤しく異やうならむなにがしらが女子をぞ、いやしうも尋ねのたまふめれ。
  →一方的に浮舟の縁談を進めていた北の方。介が怒るのも一理はあろう。

11.中将の君、乳母とともに浮舟の不運を嘆く
 〈p210 こちらの部屋に来てみますと、〉

 ①浮舟の乳母が登場。この乳母、今後大活躍する重要脇役です。

 ②少将との破談を聞いた乳母、むしろそれでよかったと考える。
  乳母「何か。これも御幸ひにて違ふこととも知らず、、、、、、
     大将殿の御さま容貌の、ほのかに見たてまつりしに、さも命延ぶる心地のしはべりしかな。、、、」

  →乳母は薫しかないと考えている。(薫への道筋がはっきりしてきた)

 ③北の方の冷静な分析
  「かの母宮などの御方にあらせて、時々も見むとは思しもしなん、それ、はた、げにめでたき御あたりなれども、いと胸いたかるべきことなり。」
  →召人として辛い目に合った北の方の実感であろう。
  →でも上昇志向も消しがたい。ひょっとして薫の厚遇を受けれたらとの気持ちもあろう。

 ④夫婦のあり方に対する北の方の述懐
  「故宮の御ありさまは、いと情々しくめでたくをかしくおはせしかど、人数にも思さざりしかば、いかばかりかは心憂くつらかりし。この、いと言ふかひなく、情なく、さまあしき人なれど、ひたおもむきに二心なきを見れば、心やすくて年ごろをも過ぐしつるなり」
  
  →北の方の経験に基く述懐、説得力がある。
  →一夫多妻妾は辛い。一夫一妻がいい。これぞ紫式部の考えではなかろうか。
  →夫婦ともども二心がないのが一番。男にとっても同様である。

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東屋(8・9) アッパレ、仲人!

昨日に続き仲人が巧みな弁術で介に少将を売り込む。傑作な場面が続きます。

p31-36
8.仲人、少将の人物を大げさに賞賛する
 〈p204 どうやらうまくゆきそうだと、〉

 ①仲人「、、、人柄はいとやむごとなく、おぼえ心にくくおはする君なりけり。、、、、領じたまふ所どころもいと多くはべり。まだころの御徳なきやうなれど、、、」
  →よくもこんな風にうまく言えたものである。全くのウソではない。利点を大げさに誉め欠点(財産の少ないところ)はさらりと言い繕う。すごいです。

 ②そしてついに帝の口を借りて少将の将来性を吹きこむ。
  仲人「、、、来年は四位になりたまひなむ。こたみの頭は疑ひなく、帝の御口づからごてたまへるなり。」
  →いやあ、最高!昇進予想までしてしまう。少将が聞いたら何と思うのだろう。

 ③仲人の言う帝の言葉
  『よろづのこと足らひてめやすき朝臣の妻をなん定めざなる、はや、さるべき人選りて後見をまうけよ、上達部には、我しあれば、今日明日といふばかりになし上げてん』
  →私は源氏物語中一番の傑作だと思います。帝の言葉の捏造、、ただただ感心するばかりです(帝に聞かせてあげたいなあ)

 ④何ごとも、ただこの君ぞ、帝にも親しく仕うまつりたまふなる。
  →田舎者の介が一番弱い宮中の話をさも見て来たかのように自信を持って言い伝える。
  →仲人も自分の言葉に酔って介を見下したような気持ちで畳み掛けているのではなかろうか。

 ⑤、、、鄙びたる守にて、うち笑みつつ聞きゐたり。
  →介は完全に籠絡された。夢見心地で聞いていたのでしょう。

 この段、紫式部のコメデイセンスに脱帽です。
  
9.介、少将を婿に望む 少将妹に心移す
 〈p206 「少将殿の御収入が現在もの足りないことなどは〉

 ①介は仲人に対し二つ返事で婿入りを承諾、後見を約束する。
  介「このごろの御徳などの心もとなからむことはなのたまひそ。、、、、、
   当時の帝、しか恵み申したまふなれば、御後見は心もとなかるまじ。、、、」

  →財力は介が最も得意とする所。「金の事は心配ご無用、お任せあれ!」てとこでしょう。
  →然も帝の声がかかってるとなれば何をか謂わん。介は帝から「少将の後見を頼むよ」と言われた気持ちだったのではないか。

 ②仲人から介の承諾&後見の約束を聞かされた少将、北の方(中将の君)を裏切ることになるのは心苦しいが背に腹は変えられない。仲人の言い繕いを真に受けて相手を実娘に変えて婿入りすることを決心する。

  いとまたく賢き君にて、、(クレバーボーイである)

 ③昇進活動に莫大な金がいることがよく分かる。
  身分上位の婿を金で買った常陸介、身分を売り物に金を約束させた少将。
  →その意味ではお互い WIN・WINの取引である。

何度読んでも面白く思わず笑ってしまうくだりであります。

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東屋(6・7) 少将 変心 仲人の活躍

少将と介を取り持つ仲人の言葉巧みさ。父と婿との心の探り合い、人情の程が正直に描かれる大傑作場面だと思います。

p24-30
6.少将、介との縁組を欲して実の娘を所望す
 〈p200 この仲人は追従者の上、性格の悪い男なので、〉

 ①この人追従あり、うたてある人の心にて、これをいと口惜しうこなたかなたに思ひければ、
  →この仲人、成功報酬をもらえることになってたのだろう。すぐには諦めない。

 ②仲人、少将の気持ちを知って即座に浮舟から実の娘への乗り換えを提案する。
  →第一提案が蹴られたらすぐ代案をプロポーズする。  
  →素晴らしい! これぞ商社マンの鑑であります。

 ③少将 「わが本意は、かの守の主の人柄もものものしくおとなしき人なれば、後見にもせまほしう、、、
  もはら顔容貌のすぐれたらん女の願ひもなし。品あてに艶ならん女を願はば、やすく得つべし。、、、」

  本心は介の財力(後見)であって女性ではない。
  美女は望んでないし、上流の貴女も望めばすぐ手に入る。
  →何とも正直な男である。
  →こういう正直で単純な男の要望を叶えてやるのは有能な仲人なら容易いことである。

 ④少将 「すこし人に謗らるとも、なだらかにて世の中を過ぐさむことを願ふなり。守に、かくなんと語らひて、さもとゆるす気色あらば、何かはさも」
  →分かりやすいですねぇ。この時代の中間貴族は皆こんな気持ちだったのであろう。

7.常陸介、少将の意向を知って満足する
 〈p201 この仲人は、妹が西の対の継娘の姫君に〉

 ①仲人、少将の意向を介に直接伝えにいく。
  →この状況判断が素晴らしい。行きにくいところだが直接会って訴えるのが最上策。

 ②仲人から介への大口上。これがすごい、見事である。
  「、、、ある人の申しけるやう、まことに北の方の御腹にものしたまへど、守の殿の御むすめにはおはせず、、、、、、」
  →少将の心変りを説明するに「ある人」を持ち出し、世間のせいにする。これで少将は悪者にならなくて済む。
  →私が介なら「ある人って誰なんだ!」と突っ込みたい所ですけどねぇ。

 ③仲人の口上を聞いての介
  「、、なにがしを取りどころに思しける御心は知りはべらざりけり。さるは、いとうれしく思ひたまへらるる御事にこそはべるなれ」
  →単純な介、イチコロである。

 ④介「少将殿におきたてまつりては、故大将殿にも、若くより参り仕うまつりき。、、」
  →身分はあるが金のない貴族と金はあるが身分は低い受領階級。
  →ギブ・アンド・テイクが功を奏する典型事例であろう。

(、、、この仲人、誰に配役しようか考えながら書いています。。。)

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東屋(4・5) 少将、浮舟を連れ子と知って立腹

p18-24
4.少将、浮舟と婚約 介、実の娘に尽す
 〈p195 この母君は、大勢の求婚者たちの中で、〉

 ①人もあてなり、これよりまさりてことごとしき際の人、はた、かかるあたりを、さいへど、尋ね寄らじ、、
  中将の君は少将ならまあよかろうと考える。

 ②中将の君は介に隠して早速に八月に浮舟との婚礼をと日取りを決める。

 ③婚礼調度品、介の財に任せて豪華絢爛。母は浮舟にいいものを持たせようと準備する。劣るものは浮舟以外の妹たちへ。
→中将の君の介を馬鹿にした態度。

 ④品の劣る家具調度に埋れたような妹たちの様子
  人の調度といふかぎりはただとり集めて並べ据ゑつつ、目をはつかにさし出づばかりにて。
  →家具類の中に埋れる娘たち。皮肉っぽい誇張である。

 ⑤手ひとつ弾きとれば、師を起居拝みてよろこび、禄を取らすること埋むばかりにてもて騒ぐ。
  →田舎びとが憧れるのは管弦音曲・風流事。
  →こればかりは財と違って一朝一夕ではものにならない。
  →教養とはそんなものであろう。

5.少将、浮舟が介の実子ならぬを知り立腹
 〈p197 そうこうするうちに、あの少将は、〉

 ①はじめより伝へそめける人
  少将のことを取り次いできた仲人。
  →とにかくこの仲人が傑作である。

 ②中将の君、仲人に浮舟が介の実子でないことを告げる。
  →仲人は言われるまでもなく知っていたのではないかと思うのだが、、。

 ③「しかじかなん」と申しけるに、気色あしくなりぬ。
  →そんな大事なことを!怒る少将。まあ気持ちは分からぬでもない。

 ④少将「はじめより、さらに、介の御むすめにあらずといふことをなむ聞かざりつる。、、」
  →「そんなこと聞いてなかったぜ!」よく聞くセリフである。

 ⑤仲人をなじる少将、あれこれ弁解する仲人
  →二人の会話が面白い。事の経緯がよく分かる。
  →出自・身分が全てであった当時、やはり少将としては裏切られた気持ちであったのだろう。
  →でもこの時点では浮舟が八の宮の落し胤ということも知らない訳でもし知っていたら少将はどう考えたのが興味のある所である。

 ⑥少将「かやうのあたりに行き通はむ、人のをさをさゆるさぬことなれど、、、、もてあがめて後見だつに罪隠してなむあるたぐひもあめるを、、、、守にもをさを承けられぬさまにてまじらはんなむ、いと人げなかるべき」
  →介の後見を得られるなら受領階級の娘との結婚も已む無いが後見もなく結婚するのはゴメンである。
  →少将の気持ち、賛成はできませんが理解はできます。

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東屋(1・2・3) 浮舟の出自 筑波山

東屋 ありし世の霧来て袖を濡らしけりわりなけれども宇治近づけば(与謝野晶子)

いよいよ浮舟物語の開始です。総角・早蕨・宿木と重っ苦しい話が続きましたが一気に軽妙で親しみ易い展開になります。

脇役としての登場人物もそれぞれに個性的に描かれており感情移入もしやすくなります。
抑えておくべき登場人物としては、
  浮舟は勿論ですが、
  浮舟の母 中将の君
  継父 常陸介
  左近少将
  仲人
  浮舟の乳母
といったところでしょうか。

取分け浮舟には読者として自分のイメージを作り上げるのがいいかと思います。男性なら自分の理想とする女性を、女性なら自分を投影しての浮舟像を考えてみてください。
 →私もこれまでの読み込みから浮舟像は持っていますが更に今回の投稿を通じて考えていくつもりです。

p14-18
1.薫、浮舟を求めつつ躊躇 中将の君も遠慮
 〈寂聴訳 巻九 p192 薫の君は、筑波山に育った常陸の守の継娘に、〉

 ①本帖はK26年8月から9月 2ヶ月の話です。
  (前帖宿木はK26年4月薫が宇治へ行き浮舟を垣間見る所で終わっている)

 ②筑波山=常陸の国(東国)の象徴
  東国は京からすると野蛮、劣等、田舎臭いイメージ
  →日々筑波山を眺めている私としては言いたいこともありますが、、、、。

  百人一首No.13 陽成院
  筑波嶺の峯より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる  

 ③浮舟が何才から何才まで筑波山の麓で育ったのか不明だが(京へ戻ったのはK23年頃か)、要は親王の落し胤ながらとんでもない田舎育ちであるということ。

 ④浮舟に興味を抱くものの世間の目を憚ってすぐに行動できない薫。
  薫の意向を伝え聞きながら身分が違い過ぎるとして乗り気になれない中将の君。
  →致し方ないところであろうか。

2.中将の君、特に浮舟の良縁を切望する
 〈p192 常陸の守には、亡くなった北の方の子供も大勢いる上、〉

 ①常陸介と先妻の間に多数の娘=もうそれぞれに嫁いでいる。
  常陸介と中将の君との間にも多数の娘 (浮舟の異父妹)
  →子沢山の家庭である。

 ②中将の君は当然に大事な浮舟を然るべく縁づけようと必死である。  

3.常陸介の人柄と生活 左近少将の求婚
 〈p193 常陸の守も、素性の賤しい人ではないのでした。〉

 ①守も賤しき人にはあらざりけり。
  徳いかめしうなどあれば、、、

  →常陸介、身分的に決して賤しい男ではない。
  →「徳」は財産。受領でごっそり財産を貯めこんでいる。

 ②若い時から陸奥~常陸を歴任、東国暮らしが長く田舎じみた感じがしみ込んでいる。
  琴・笛など風流は解せず武道には長けている。
  →京での雅なお話であった源氏物語が一気に東国色を帯びる。
  →紫式部の越前暮しの経験がなせるわざであろうか。

 ③腰折れたる歌合せ
  →下手くそな和歌の競い合い。面白い表現である。

 ④左近少将 22-3才 常陸介の財産を狙っての婚活に乗り出してくる。
  →この人物設定も見事、物語の引き立て役である。

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宿木 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

宿木のまとめです。

和歌

97.また人に馴れける袖の移り香をわが身にしめてうらみつるかな
    (匂宮)   匂宮・中の君・薫 トライアングル

98.やどり木と思ひいでずは木のもとの旅寝もいかにさびしからまし
    (薫)    弁の尼と宇治の昔をしのんで

名場面

99.寄りゐたまへる柱のもとの簾の下より、やをらおよびて御袖をとらへつ

    (p139  薫、人妻中の君に迫る)

100. かの人の御移り香のいと深くしみたまへるが、、、あやしと咎め出でたまひて
    (p150  匂宮「う~ん、匂うぞ!」)

101. 腕をさし出でたるが、まろらかにをかしげるなるほども、、まことにあてなり
    (p236  薫、宇治で浮舟をかいま見)

[宿木を終えてのブログ作成者の感想]

宿木を終えました。長かったですねぇ。お疲れさまでした。
(総角の時も全く同じこと書いています)

二条院に迎え入れられた中の君を挟んでの匂宮と薫。三人の心の動きが長々と書かれています。匂宮は夫であるが中の君の身の廻りのこと(経済的後見)には気が回らない。正式に結婚した六の君の六条院にも通わなければならない。薫は後見人は自分しかいないとの強烈な思い(偏執的)から頻繁に二条院に出入りし中の君にさまざまに絡んでいく。当然匂宮は薫を疑い警戒しだす。

薫が中の君に迫るものの腹帯を目にして思いとどまる場面(23・24段)は凄かった。薫の心理・行動については不可解、納得できないなど否定的なご意見が多かったですね。(さすがの青玉さんも「ほとほと嫌になります」とおっしゃってるし私も「男として失格」などと口走らざるを得ない感じでした)

この重っ苦しい状況を一転させるべく登場するのが浮舟ということでその語り出しには期待十分なものがあったと思います。

一つ「宿木」で感じたのは宇治十帖はつくづく裏のお話なんだなあということでした。宿木で匂宮と六の君及び薫と女二の宮の婚儀のことが語られていますがこちらが匂宮にとっても薫にとっても表の世界であり、宇治の姫たちとの話は裏の世界なのだと思いました。匂宮が宇治から没落親王の遺した娘を連れてくる或いは薫が宇治の姫に懸想をしてたらしいなんてことは帝や中宮はじめ京の殿上人からすればどうでもいいことだったのでしょう。でも匂宮も薫も裏の世界(宇治の姫たちとのこと)の方が心の重要部分を占めている。人間には表に見えない裏の世界があるということかと思います。

もう一つ、匂宮と薫の宇治の姫たち(今後の浮舟との話も含め)との恋愛劇は「あやにくな恋」なのでしょうがこの恋は表の世界には影響しないあくまで匂宮・薫の内面での話だと思います。それに引き換え源氏の「あやにくな恋」は藤壷との不義といい(冷泉帝が生まれる)、受領の娘明石の君との結婚といい(姫君が生まれやがて国母となる)表の世界に直接つながって行く話でした。源氏物語正編&宇治十帖、それぞれに違った観点から興味深いものだと思いました。

(今週末から金曜日まで新潟・富山・金沢・福井に行ってきます。奥の細道の終盤部分です。予定投稿はしてありますが返信は遅れるかと思います。ご容赦ください)

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宿木(49・50) 薫、浮舟との運命的出会いに感じ入る

p238-244
49.薫、弁の尼と対面 浮舟の容姿に感動する
 〈p184 尼君は、こちらの薫の君にも、〉

 ①弁が浮舟の所へ行って女房と話をする。その様子を薫は垣間見続けている。
  まことにいとよしあるまみのほど、髪ざしのわたり、かれをも、くはしくつくづくとしも見たまはざりし御顔なれど、これを見るにつけて、ただそれと思ひ出でらるるに、、
  →見れば見るほど大君にそっくり。声の気配は中の君にも似ている。
  →浮舟が大君に似ていることがこれでもかと語られる。

 ②浮舟を見ての薫の心内、心情が語られるこの場面は極めて重要。
  薫が今後浮舟に持ち続ける想いが集約されている。

  あわれなりける人かな
  かばかり通ひきこえたらん人
  →大君(&中の君)にそっくり。何とも懐かしい人よ!

  知られたてまつらざりけれど、まことに故宮の御子にこそはありけれ
  →認知はされてないが尊敬する法の友八の宮さまの血を引く御子!

  この人に契りのおはしけるにやあらむ
  →この人との出会いは宿命的だ!!

  薫の胸はドキドキ、息も止まらんばかりに興奮したのではなかろうか。

 ③源氏物語の三大女主人公登場の場面は何れも素晴らしい。(p242段末脚注)
  1.北山での紫の上の登場 (若紫p22)
  2.椿市での玉鬘の登場 (玉鬘p192)
  3.宇治山荘での浮舟の登場 (宿木p231)     

50.薫、弁の尼に浮舟との仲立ちを依頼する
 〈p187 日も次第に暮れてきましたので、〉

 ①弁の語る浮舟とのこと。
  2月の初瀬詣での時、薫のことを母に伝えた。母は満更でもなかった。
  今回(4月下旬)は母は来ていない。
  →頻繁に初瀬に来ている。しかも今回は母もおらず浮舟だけ。
  →薫は「このオレに逢うために来たのだろう!」と胸がじ~んと熱くなったのではないか。

 ②薫「かく契り深くてなん参り来あひたる、、」
  弁「うちつけに、いつのほどなる御契りにかは」
  →弁は軽くいなしているが薫は真剣そのものであったろう。

 ③薫 かほ鳥の声も聞きしにかよふやとしげみを分けて今日ぞ尋ぬる
  →薫の独詠、つぶやき。しみじみ「今日はいい日だなあ」と思ったのでは。

 ④段末脚注
  薫が弁に自分の意中を浮舟に伝えるよう依頼したところでぷっつり切れている。
  →「次帖に続く」「To be continued」早く次が読みたい、読者はみなそう思ったろう。

これで宿木は終わり東屋へと続き浮舟物語が本格的に展開します。お楽しみに。。 

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宿木(47・48) 薫、宇治で浮舟を垣間見

p229-238
47.薫、女二の宮を迎えても、なお大君を追慕
 〈p47 その日の夜になって、女二の宮を宮中から、〉

 ①藤壷の宴の翌日夜に女二の宮、薫の三条宮にお輿入り
  牛車の数がすごい 女二の宮の乗る廂の御車以下宮中から31台
  プラス薫からの迎え車12台 合計43台 さすが帝のご威光。大行列である。

 ②女二の宮の様子
  かくて心やすくうちとけて見たてまつりたまふに、いとをかしげにおはす。ささやかにあてにしめやかにて、ここはと見ゆるところなくおはすれば、、
  →小柄で気品高くしっとりと落ち着いている。薫大納言もまんざらでもなかったろう。

 ③過ぎにし方の忘らればこそはあらめ、なほ、紛るるをりなく、もののみ恋しくおぼゆれば、
  →それでも大君のことが忘れられない。救いようのない男である。

48.薫宇治へ行き、来合せた浮舟をかいま見る
 〈p178 賀茂の祭などで、世間の騒がしい頃を〉

 ①K26年4月 賀茂祭を過して薫は宇治へ(寺造立の様子・尼に会いに)

 ②女車のことごとしきさまにはあらぬ一つ、荒ましき東男の腰に物負へるあまた具して、下人も数多く頼もしげなるけしきにて、橋より今渡り来る見ゆ
  →じゃじゃ~ん、浮舟登場。この辺りの書き振り玉鬘の椿市の場面に似ていると思うがどうか。
  →京の人でもなく宇治の人でもない第三の人物(姫君)登場がよく分かる書き方
  →宇治川に橋はかけられていた(先日の橋姫総括でのコメントを訂正してください)。

 ③「常陸前司殿の姫君の初瀬の御寺に詣でてもどりたまへるなり」
  →初瀬が出てくると面白い話が展開される、、、読者の期待は高まる。

 ④薫は早速に覗き見。勝手知ったる宇治の山荘。どこに節穴があるかもお手の物だったのだろう。
  「あやしくあらはなる心地こそすれ」
  →浮舟最初の言葉。慎重な性格である。

 ⑤つつましげに下るるを見れば、まづ、頭つき様体細やかにあてなるほどは、いとよくもの思ひ出でられぬべし。
  →薫の覗き見た浮舟。本当に大君にそっくりである!

 ⑥泉川の舟渡りも、まことに、今日は、いと恐ろしくこそありつれ。
  →泉川は今の木津川、初瀬詣でにはこれを渡る(脚注1)
  →百人一首No.27 藤原兼輔(紫式部の曽祖父 人の親の心は闇にあらねども、、、)
   みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ

 ⑦主は音もせでひれ臥したり。腕のさし出でたるが、まろらかにをかしげなるほども、
  →浮舟の様子。エロチックな感じが漂う。

 ⑧二人して、栗などやうのものにや、ほろほろと食ふも、聞き知らぬ心地には、かたはらいたくて退きたまへど、、
  →薫には思いもつかない田舎人の様子。鄙にはまれな貴人を言わんがためか。

 ⑨何ばかりすぐれて見ゆることもなき人なれど、かく立ち去りがたく、あながちにゆかしきも、いとあやしき心なり。
  →浮舟の姿は深く薫の心に沁み込んだ。皇女を娶った直後だというのに、、、。

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宿木(45・46) 薫、中の君を訪ね若君を抱く

p218-229
45.薫、中の君を訪ね、若君に対面する
 〈p167 薫の君御自身も、いつものように、〉

 ①性懲りもなく薫は匂宮の留守を狙って中の君を訪れる。
  →さながらストーカー行為である。

 ②薫「心にもあらぬまじらひ、いと思ひの外なるものにこそと、世を思ひたまへ乱るることなんまさりにたる」
  女二の宮との縁組は気が進まなかったと訴える薫
  そんなこと言われても中の君は答えようがない。
  →総角では大君の心情に何故??と疑問をはさんだがここでの薫の心境も全く理解できない。
  →男(公人としても私人としても)として人間失格ではなかろうか。

 ③若君を切にゆかしがりきこえたまへば、、、、乳母してさし出でさせたまへり。
  →薫が匂宮の若君を抱く。感慨深い場面です。
   (若君に薫の芳香が移ったらヤバイのでは)

 ④このごろ面だたしげなる御あたりに、いつしかなどは思ひよられぬこそ、あまりすべなき君の御心なめれ。
  →大君の子どもは夢想するが女二の宮の子どもは心に浮かばない。
  →結婚は義務や義理でするものではない。愛情なき結婚は相手への冒涜であろう。

46.藤壷の藤花の宴 薫の晴れ羨望される
 〈p171 夏になれば、三条のお邸は宮中から〉

 ①夏になる前に(K26年4月朔日頃)女二の宮を三条宮に迎えることにする。

 ②明日とての日、藤壷に上渡らせたまひて、藤の花の宴せさせたまふ。
  三条宮への降嫁にあたって帝主催の大歓送会(@藤壷)折しも藤の盛りである。
  →夕霧右大臣、紅梅大納言始め皇子・公達総出の大宴会である。

 ③楽器 夕霧が和琴 匂宮が琵琶
  笛は、かの夢に伝へし、いにしへの形見のを、 横笛は勿論薫

 ④今上帝の皇女女二の宮争奪戦の勝者薫の晴れ晴れしさ
  敗者按察大納言(紅梅大納言)の腹立たしさ
  →p226脚注 薫の異例の繁栄ぶりを語る。ああそれなのに薫の心は何故浮き立たぬ。

 ⑤薫 すべらきのかざしに折ると藤の花およばぬ枝に袖かけてけり
  →心にもないことを、白々しい。

  今上帝 よろづ世をかけてにほはん花なれば今日をもあかぬ色とこそみれ
  →今上帝の歌は二首のみ。もう一つは国宝絵巻の薫と碁打ちの場面で詠んでいる。
  →今上帝と言えば柏木が猫を借りたことがあった。まさかあの猫がきっかけで薫が生まれたとは今上帝も知る由もないでしょうに。
  
 ⑥薫は催馬楽 安名尊を歌う
  安名尊 今日の晴れ晴れしさ尊さを歌ったもの
  →朱雀院での放島の試みの際の楽宴で歌われている(少女p146)

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宿木(41・42・43・44) 中の君、男子を出産 

p209-217
41.中の君男子を出産 産養盛大に催される
 〈p162 ようようのことでその明け方に、〉

 ①やっと中の君男子を出産
  からうじて、その暁に、男にて生まれたまへるを、宮もいとかひありてうれしく思したり。
  →今上帝の初孫だろうか。男、皇位継承候補者である。

 ②次から次への盛大な産養 3日目5日目7日目9日目 果てしなく続く。

 ③九日も、大殿より仕うまつらせたまへり。よろしからず思すあたりなれど、、、
  →夕霧(六の君)の所からも祝儀が寄せられる。

 ④中の君 かく面だたしくいまめしきことどもの多かれば、すこし慰みもやしたまふらむ。
  →普段は六の君に気圧されて心が晴れないが子を産んで晴れがましい気持ちになる。
  →読者もこれで中の君もひどく軽んじられることはなかろうとホッとする。

42.女二の宮の裳着 薫、婿として迎えられる
 〈p164 こうしてその月の二十日過ぎに、〉

 ①2月20日過ぎ女二の宮裳着の儀 翌日薫が通い初夜を迎える。

 ②薫(臣下)が皇女の婿となる。世人はうらやみやっかみで辛口に評する。
  →確かに帝の在位中の皇女降嫁の例は少なかったのだろう(脚注15)

 ③源氏が女三の宮を得たのは朱雀帝が院になっての晩年
  柏木が女二の宮を得たのも朱雀院の晩年
  その女二の宮を柏木の死後もらったのが夕霧
  夕霧「故院だに、朱雀院の御末にならせたまひて、今はとやつしたまひし際にこそ、かの母宮を得たてまつりたまひしか。我は、まして、人もゆるさぬものを、拾ひたりしや」
  →何をおっしゃる夕霧右大臣!友人の未亡人を無理やり手籠めにしたのはどなたでしたっけ!

 ④宮は、げにと思すに、恥づかしくて御答へもえしたまはず。
  →女二の宮(落葉の宮)の登場。夕霧は今でも雲居雁と女二の宮を15日づつのペースで訪れているのであろうか。

43.薫、女二の宮を三条宮に迎えようとする
 〈p166 こうして、それから後は、〉

 ①薫は宮中の女二の宮の所へ通うのは鬱陶しい。母の三条宮に迎えようとする。
  帝は宮中から離したくないが母宮の意向とあっては仕方がない。
  →今上帝は母宮(女三の宮)の兄。父朱雀帝から後見を頼まれており無下にはできない。

 ②、、、かたみに限りもなくもてかしづき騒がれたまふ面だたしさも、いかなるにかあらむ、心の中にはことにうれしくもおぼえず、、、
  →薫は何故女二の宮を妻に迎えることに気が進まないのであろう。
  →大君は亡くなり中の君は子持ちの人妻である。
   薫の心境は深い謎であります。。。

44.薫、若君の五十日の祝いに心を尽す
 〈p167 薫の君は、匂宮の若君の生後五十日になられる日を〉

 ①宮の若君の五十日になりたまふ日数へとりて、その餅のいそぎを心に入れて、籠物、檜破子などまで見入れたまひつつ、、、
  →五十日の祝いといえば
   1.源氏が明石の姫君誕生の五十日の祝いに使いを出す場面(澪標p214)
   2.薫の五十日の祝いで源氏が薫を抱く超有名場面・国宝絵巻(柏木p265)
    →因果は廻る今度は薫が匂宮と中の君の皇子を祝う場面である。

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