東屋(8・9) アッパレ、仲人!

昨日に続き仲人が巧みな弁術で介に少将を売り込む。傑作な場面が続きます。

p31-36
8.仲人、少将の人物を大げさに賞賛する
 〈p204 どうやらうまくゆきそうだと、〉

 ①仲人「、、、人柄はいとやむごとなく、おぼえ心にくくおはする君なりけり。、、、、領じたまふ所どころもいと多くはべり。まだころの御徳なきやうなれど、、、」
  →よくもこんな風にうまく言えたものである。全くのウソではない。利点を大げさに誉め欠点(財産の少ないところ)はさらりと言い繕う。すごいです。

 ②そしてついに帝の口を借りて少将の将来性を吹きこむ。
  仲人「、、、来年は四位になりたまひなむ。こたみの頭は疑ひなく、帝の御口づからごてたまへるなり。」
  →いやあ、最高!昇進予想までしてしまう。少将が聞いたら何と思うのだろう。

 ③仲人の言う帝の言葉
  『よろづのこと足らひてめやすき朝臣の妻をなん定めざなる、はや、さるべき人選りて後見をまうけよ、上達部には、我しあれば、今日明日といふばかりになし上げてん』
  →私は源氏物語中一番の傑作だと思います。帝の言葉の捏造、、ただただ感心するばかりです(帝に聞かせてあげたいなあ)

 ④何ごとも、ただこの君ぞ、帝にも親しく仕うまつりたまふなる。
  →田舎者の介が一番弱い宮中の話をさも見て来たかのように自信を持って言い伝える。
  →仲人も自分の言葉に酔って介を見下したような気持ちで畳み掛けているのではなかろうか。

 ⑤、、、鄙びたる守にて、うち笑みつつ聞きゐたり。
  →介は完全に籠絡された。夢見心地で聞いていたのでしょう。

 この段、紫式部のコメデイセンスに脱帽です。
  
9.介、少将を婿に望む 少将妹に心移す
 〈p206 「少将殿の御収入が現在もの足りないことなどは〉

 ①介は仲人に対し二つ返事で婿入りを承諾、後見を約束する。
  介「このごろの御徳などの心もとなからむことはなのたまひそ。、、、、、
   当時の帝、しか恵み申したまふなれば、御後見は心もとなかるまじ。、、、」

  →財力は介が最も得意とする所。「金の事は心配ご無用、お任せあれ!」てとこでしょう。
  →然も帝の声がかかってるとなれば何をか謂わん。介は帝から「少将の後見を頼むよ」と言われた気持ちだったのではないか。

 ②仲人から介の承諾&後見の約束を聞かされた少将、北の方(中将の君)を裏切ることになるのは心苦しいが背に腹は変えられない。仲人の言い繕いを真に受けて相手を実娘に変えて婿入りすることを決心する。

  いとまたく賢き君にて、、(クレバーボーイである)

 ③昇進活動に莫大な金がいることがよく分かる。
  身分上位の婿を金で買った常陸介、身分を売り物に金を約束させた少将。
  →その意味ではお互い WIN・WINの取引である。

何度読んでも面白く思わず笑ってしまうくだりであります。

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3 Responses to 東屋(8・9) アッパレ、仲人!

  1. 青玉 のコメント:

    まったくこの仲人口には呆れるよりも感心してしまいます。
    ここまできたら褒めてあげるしかないかな?
    少将が直接聞いていたらどう思ったでしょう。

    帝まで持ち出すとは大胆不敵で大した度胸です、
    単純な介のこと、ころりと参っています。
    仲人はしてやったりの心境でしょうか?

    根が正直な少将、多少気の咎めを感じているも財の誘惑には勝てない。
    仲人の口上手に介も少将もすっかり乗せられる・・・
    ここでの一番の強者はやはり仲人でしょうね。
    帝まで登場させる仲人、天晴れとしか言いようがないです。

    お互いの利欲を巧妙に絡ませての人間模様の描き方、傑作ですね。

  2. 式部 のコメント:

     少将も介も本当に正直者で本音を語っていますから、わかりやすいですよね。
     その両者の間をとりもつ仲人は、さぞ楽しかったことでしょう。
     いろいろと言葉の奥の本音を探る必要がないのですから、ことさら頭を使わなくてよいのです。そこで帝まで登場いただくようなホラ話へと発展してしまったのでしょう。
     ここは何度読んでも笑えて笑えて面白い!
     紫式部はユーモア小説でも大成功したでしょうねえ。
     日頃お上品で声たてて笑わない姫君も女房も、おもわず笑ってしまったのではないでしょうか。

  3. 清々爺 のコメント:

    青玉さん、式部さん ありがとうございます。この場面最高ですね。式部さんの朗読、笑いを噛み殺してのさまがよく分かります。

    こういう物語に帝を持ち出すのは畏れ多くなかったのでしょうかね。そもそも源氏物語は道長が彰子を通じて一条帝の歓心を買うために紫式部に書かせたものであり、一条帝も実際に源氏物語を読んでますからね。宇治十帖は本編より後に書かれた話なので一条帝がこの件を読んでたのかどうかは分かりませんが。

    帝を持ち出すこと仲人の奔放さにも驚きますが紫式部の大胆さには敬服します。
    尤も紫式部日記に紫式部自身も自分のことを評したという一条帝の言葉を引用していますけどね。

     内裏の上の、源氏物語、人に読ませ給ひつつ聞こしめるに、「この人は日本紀をこそ読みたるべけれ。まことに才あるべし」と、のたまはせけるを・・・ (紫式部日記 53)

     →紫式部が「日本紀の御局」と称されるに至る有名な所です。

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