東屋 ありし世の霧来て袖を濡らしけりわりなけれども宇治近づけば(与謝野晶子)
いよいよ浮舟物語の開始です。総角・早蕨・宿木と重っ苦しい話が続きましたが一気に軽妙で親しみ易い展開になります。
脇役としての登場人物もそれぞれに個性的に描かれており感情移入もしやすくなります。
抑えておくべき登場人物としては、
浮舟は勿論ですが、
浮舟の母 中将の君
継父 常陸介
左近少将
仲人
浮舟の乳母
といったところでしょうか。
取分け浮舟には読者として自分のイメージを作り上げるのがいいかと思います。男性なら自分の理想とする女性を、女性なら自分を投影しての浮舟像を考えてみてください。
→私もこれまでの読み込みから浮舟像は持っていますが更に今回の投稿を通じて考えていくつもりです。
p14-18
1.薫、浮舟を求めつつ躊躇 中将の君も遠慮
〈寂聴訳 巻九 p192 薫の君は、筑波山に育った常陸の守の継娘に、〉
①本帖はK26年8月から9月 2ヶ月の話です。
(前帖宿木はK26年4月薫が宇治へ行き浮舟を垣間見る所で終わっている)
②筑波山=常陸の国(東国)の象徴
東国は京からすると野蛮、劣等、田舎臭いイメージ
→日々筑波山を眺めている私としては言いたいこともありますが、、、、。
百人一首No.13 陽成院
筑波嶺の峯より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる
③浮舟が何才から何才まで筑波山の麓で育ったのか不明だが(京へ戻ったのはK23年頃か)、要は親王の落し胤ながらとんでもない田舎育ちであるということ。
④浮舟に興味を抱くものの世間の目を憚ってすぐに行動できない薫。
薫の意向を伝え聞きながら身分が違い過ぎるとして乗り気になれない中将の君。
→致し方ないところであろうか。
2.中将の君、特に浮舟の良縁を切望する
〈p192 常陸の守には、亡くなった北の方の子供も大勢いる上、〉
①常陸介と先妻の間に多数の娘=もうそれぞれに嫁いでいる。
常陸介と中将の君との間にも多数の娘 (浮舟の異父妹)
→子沢山の家庭である。
②中将の君は当然に大事な浮舟を然るべく縁づけようと必死である。
3.常陸介の人柄と生活 左近少将の求婚
〈p193 常陸の守も、素性の賤しい人ではないのでした。〉
①守も賤しき人にはあらざりけり。
徳いかめしうなどあれば、、、
→常陸介、身分的に決して賤しい男ではない。
→「徳」は財産。受領でごっそり財産を貯めこんでいる。
②若い時から陸奥~常陸を歴任、東国暮らしが長く田舎じみた感じがしみ込んでいる。
琴・笛など風流は解せず武道には長けている。
→京での雅なお話であった源氏物語が一気に東国色を帯びる。
→紫式部の越前暮しの経験がなせるわざであろうか。
③腰折れたる歌合せ
→下手くそな和歌の競い合い。面白い表現である。
④左近少将 22-3才 常陸介の財産を狙っての婚活に乗り出してくる。
→この人物設定も見事、物語の引き立て役である。
月も変わり場面は新たに「東屋」新鮮な気持ちでスタートできそうです。
浮舟を取り巻く登場人物も目新しいですね。
京の都からすれば筑波山のイメージがやや蔑まれて書かれていますが清々爺さんにとっては不満でしょう。その気持ち解ります。
薫側、浮舟側双方それぞれの立場から躊躇があり一直線にはいかないところから始まるのも何だか暗示が感じられる冒頭部分です。
中将の君があまり大切に扱われていない連れ子の浮舟の幸せを願うのは母として当然ですよね。
さま容貌のなのめにとりまぜてもありぬべくは・・・~あはれにかたじけなく生ひ出でたば・・・・
浮舟の美貌の様がうかがえます。
左近少将、この人物も今までにないキャラの持ち主ですね。
続きを楽しみにしましょう。
ありがとうございます。
(大分留守にしてしまいました。一週間分溜まった返事追々やっていきます。ごめんなさい)
ようやく長くて暗いトンネルを抜けましたかね。東国の匂いとともに浮舟とそれを取り巻く新たな人物が多数登場し物語は一気に進展を遂げる感じがします。トーンとしては軽妙でカラッとしてて明るい感じです。
常陸介も決して非道な人物でなくむしろ普通の分かりやすい男だと思います。中将の君の母心も自然ですよね。素晴らしい冒頭部分だと思います。