宿木(25) 匂宮、二条院へ 薫の残り香

p148-156
25.匂宮、中の君を訪れ、薫との仲を疑う
 〈p114 匂宮は、二条の院へずいぶん御無沙汰したことを、〉

 ①久しぶりに匂宮が二条院に帰ってくる。
  →どれくらいご無沙汰だったのだろう。結構(2週間ほどは)久しぶりだったのかも。

 ②中の君 ただ、消えせぬほどはあるにまかせておいらかならんと思ひはてて、いとらうたげに、うつくしきさまにもてなしてゐたまへれば、
  →中の君の決心。やっと現状をacceptしようとの心境になったか。

 ③御腹もすこしふくらかになりにたるに、かの恥ぢたまふしるしの帯のひき結はれたるほどなどいとあはれに、
  →匂宮には初めての子。人の親になる! 匂宮も嬉しかったことだろう。

 ④かの人の御移り香いと深くしみたまへるが、、、、あやしと咎め出でたまひて、 名場面
  →体に薫香をおびた薫を切り札的に使う場面。うまい使い方である。

 ⑤「かばかりにては、残りありてしもあらじ」と、よろづに聞きにくくのたまひつづくるに、心憂くて身ぞ置き所なき。
  →匂宮が怒るのも無理なからん。
  →中の君には言い訳のしようもない。夜離れも耐えて行こうと決心した矢先だったのに。

 ⑥匂宮 また人に馴れける袖の移り香をわが身にしめてうらみつるかな 代表歌
  中の君 みなれぬる中の衣とたのみしをかばかりにてやかけはなれなん
  →怒りをぶつける匂宮。中の君の歌がいじらしい。
  →江戸時代の武士なら不貞を働いた妻、即刻手打ちであろう。王朝人は心優しい。
  →留守中に妻と肌を合わせた薫にけしからん!という心は働かなかったのだろうか。

 ⑦しおらしく振る舞う中の君に匂宮は機嫌を直す。
  いみじき過ちありとも、ひたぶるにはえぞ疎みはつまじく、らうたげに心苦しきさまのしたまへれば、えも恨みはてたまはず、、
  またの日も、心のどかに大殿籠り起きて、、、
  → ♡♡ 男女の仲直りはこれに限るのであろう。

 ⑧六条院 さばかり輝くばかり高麗、唐土の錦、綾
  二条院 世の常にうち馴れたる心地して、、
  →これでもかと飾り立てた六条院(六の君)より普通の形の二条院(中の君)の方がくつろげる。

 ⑨しるきさまなる文などやあると、近き御厨子、小唐櫃などやうの物をも、さりげなくて探したまへど、さる物もなし、
  →匂宮にしては疑り深い。匂宮とて人の子、まあ仕方がないか。

 ⑩薫の芳香は自分の足跡を消せないという意味で弱点である。中の君と添い臥したら香が残り匂宮に気づかれるとは考えなかったのであろうか。
  →そんなバカなこと言う読者はいないでしょうね。

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5 Responses to 宿木(25) 匂宮、二条院へ 薫の残り香

  1. 青玉 のコメント:

    久しぶりの訪れにやはり頼るべきは夫である匂宮との思いを自覚する中の君。
    御腹もすこしふくらかになりにたるに・・・
    宮も愛おしく感じたことでしょうね。

    匂宮はいち早く薫の移り香に気付き嫉妬と共にかえって愛情を深める。
    疑心暗鬼の宮の態度がよく現われている場面です。
    中の君、言い訳の言葉もないですね。
    宮も想像逞しく嫉妬心が増幅ししたのでしょう。
    証拠の品を探す姿を想像して可笑しくなりました。

    しばらくは六条院へいかず薫を警戒したりで嫉妬がかえって愛情を深めると言うのも皮肉なものです。
    六条院のけばけばしいばかりの華やかさが匂宮には安らげないのでしょう。
    かえってつつましやかな二条院が気楽、この気持ちわかりますね。

    宮と中の君の心の動きがまるで夫婦の痴話げんかのようで可愛らしいです。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      この段は青玉さんの解説通り薫の移り香が原因の二人の痴話げんかだと思います。雨降って地固まるとなればいいですよねぇ。

      一つ気になったのが生まれつきとされる薫の体臭(芳香)。
       
       さるは、単衣の御衣なども脱ぎかへたまひてけれど、あやしく心より外にぞ身にしみにける。

      下着を取り替えてもまだ残ってるなんてちょっとねぇ。お話としては最高なんですがいくら何でも、、、。リアリズムを尊重する紫式部に少し物申したい所です。

      • 青玉 のコメント:

        いと恥ずかしと思したりつる腰のしるしに・・・
        単衣の御衣なども脱ぎかへたまひてけれど・・・

        珍しく紫式部にしては直接的な表現をしていますね。
        これまでは読者の想像に委ねる書き方がなされていたのに今回は腹帯といい下着といい少し踏み込んでいます。
        これは何か意図的するものがあるのでしょうか?
        薫の移り香で読者はもっと何かあったのでは?と想像力逞しくしてしまいます。
        身体から芳香を発散する男を主人公にする紫式部の着想は普通の人間では想像もつかないことです。
        良し悪しはともかくとして関心しております。
        物語のインパクトは抜群だと思います。

        (平安時代の宮中での腹帯はやはり衣の上から着帯したようですね)

  2. ハッチー のコメント:

    昨日、映画”WOOD JOB”を見てきました。青玉さんの解説どおり、笑えて心温まる作品で、近年見た中でも傑作に入る名映画でした。
    先般屋久島に行き、樹齢千年越えの屋久杉を見てきたばかりなので、木の”気”を改め感じました。山や木を神と考えることも理解できます。
    それと男優陣の高い高い木に登る演技などにも関心させられましたプロとは大変です。あと、長沢まさみもかわいかったです。
    この仲間に入っていなかったなら、三浦しおんさんも知らず映画も見なかったかと思います。
    三重高出身の皆さんには、すでに予定済みとは思いますが、必見かと思います。

    さて、物語ですが、中の君や匂の宮の行動・反応にはよく理解ができますが、ここまでは、薫の行動にはどうもしっくりしませんね。逃げる惚れ込んだ女にはとことん追いかけるが、追い詰めると最後は自ら逃がしてしまうのか、そして今度は逃がしたら後悔ばかりして、また追いかけるのか、いささか疲れますね、小生には。
    さてさて、これからどうなることやら?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.WOOD JOB、面白そうですね。是非見なくっちゃと思っています。木には精霊(木霊)が宿る。源氏物語でもこの後、浮舟に絡んで木霊が出て来ます。タイトルはWOOD JOBでもいいけど「神去り」ももっと強調したらいいのにと思っています。屋久島の千年杉、よかったですね。今度逢う時聞かせて下さい。何せ千年というとすぐ光源氏を思い浮かべるものですから、、。

      2.全く薫には疲れますねぇ。私が父親ならガツンと言わすところですけどね。それともなるようにしかならないってしばらく放っておきましょうか。
      (「放っておく」=LET IT GO! (レリゴー)です)

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