宿木(9・10・11・12) 匂宮・六の君 初夜

p98-108
9.薫、憂愁に堪え仏道に精進 女三の宮の不安
 〈p75 薫の君はやはり、中の君の物腰の雰囲気や

 ①薫 などて昔の人の御心おきてをもて違へて思ひ隈なかりけんと、悔ゆる心のみまさりて、
  →薫の後悔と自省は尽きることがない。いくらなんでもこれでは身がもたない。

 ②母宮の、なほいとも若くおほどきてしどけなき御心にも、かかる御気色をいとあやふくゆゆしと思して、
  母女三の宮は未だに若い。その母すら薫の浮かぬ様子を心配する。
  →薫は親不孝な息子である。帝の女二の宮をいただくことになっている薫は幸せの絶頂にあってもよさそうなものなのだが、、。 

10.匂宮夕霧邸に迎え取られる 中の君の嘆き
 〈p76 夕霧の右大臣は、六条の院の東の御殿を〉

 ①8月16日 婚礼(初夜)の日 六条院で匂宮を待ち受ける夕霧と六の君
  匂宮は二条院(中の君)に帰ってしまいなかなか来ない。
  夕霧 大空の月だにやどるわが宿に待つ宵すぎて見えぬ君かな
  →夕霧がいらいらするのは当然。歌をやってやんわり催促。悠長なものです。

 ②匂宮「いま、いととく参り来ん。ひとり月な見たまひそ。心そらなればいと苦し」
  →さすが匂宮。中の君へのいたわり心が溢れている。
  →源氏なら中の君にストレートに訴えるところだろうに。
   「図らずも六の君と婚儀になったが私が一番愛しているのは貴女ですから心配無用ですよ、、、」 

11.中の君身の上を省み嘆く 女房ら同情する
 〈p79 「考えてみれば幼い頃から心細く悲しい身の上の姉妹で、〉

 ①残された中の君 来し方を振り返り自身の不幸を嘆く
  「今宵かく見棄てて出でたまふつらさ、来し方行く先みなかき乱り、心細くいみじきが、わが心ながら思ひやる方なく心憂くもあるかな、おのづからながらへば」
  →見捨てられている訳ではない。匂宮を信じなくっちゃ。

 ②中の君 山里の松のかげにもかくばかり身にしむ秋の風はなかりき
  →松風。宇治の山里に吹く秋風を思い浮かべる。
  →源氏を信じ京に出て来たが源氏はなかなか来てくれない。その時の明石の君の感じ方に似ているのでは(@松風) 

12.匂宮六の君と一夜を過し、後朝の文を書く
 〈p82 匂宮は中の君をたいそう可哀そうに思われながらも、〉

 ①さて、匂宮は六条院六の君の所へ
  人のほど、ささやかにあえかになどはあらで、よきほどになりあひたる心地したまへるを、
  →六の君の様子。小柄ひ弱でなくほどよく成熟している。何才なのだろう?
 (後の宿木20で「二十に一つ二つぞあまりたまへりける」と出てくる)

 ②さやなる御けはひにはあらぬにや、御心ざしおろかなるべくも思されざりけり。秋の夜なれど、更けにしかばにや、ほどなく明けぬ。
  →六の君は魅力的な女性であった。匂宮もご満悦。初夜の様子は例によって省筆。

 ③二条院へ帰った匂宮、早速六の君へ後朝の文を書く
  「御気色けしうはあらぬなめり」と、御前なる人々つきしろふ。
  →「ね、ね、ねっ、宮さま満更でもなさそうよ、、」女房たちの勘は鋭い。

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5 Responses to 宿木(9・10・11・12) 匂宮・六の君 初夜

  1. 青玉 のコメント:

    薫は能天気な母、女三の宮をも心配させるほど親不幸をしてるのですね。
    仏道に専念してこの無明の闇からは抜け出せるのでしょうか?

    一方、匂宮の婚儀。
    待てど暮らせど来ぬ宮への夕霧の和歌なんだか滑稽に思えます。
    匂宮も何となく気まり悪げでいそいそとはいかないのでしょう。

    残された中の君が健気でいじらしいですね。
    こんな時は宇治の山里でさえ懐かしく恋しくなるのでしょう。
    人間の心の微妙な変化で環境の良し悪しも変わるものですね。
    わが身の上を嘆くばかりでなくここは匂宮を信じたい所です。

    さて思ったよりも六の君を気に入られた様子ですが一体どんな和歌を贈られたのでしょうね。
    夕霧のようにあちらとこちら半々にお通いになるのでしょうか?
    それにしても六の君のお返事を見ずに中の君の元に行かれるのは何やら可愛らしいですね。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.薫は母女三の宮のことをどう思ってたのでしょうね。橋姫巻末で出生の秘事を知った薫が女三の宮の様子をうかがいに行ったところ無邪気に経を読む母の姿に何も言いだせず秘密は自分だけのものにしておこうと決心した場面がありました。ここで母に出生のことを話できていれば薫の心持はずっと軽やかになっていたのかもしれません。でも実際上はそんなフランクな話はできっこないでしょうね。
       →女三の宮の頼りなさもさることながら、例えしっかりした母親であっても自分の方から話しかけることはできなかったでしょうね。

       でも薫は母をふしだらなケシカラン女性だとは思ってなかったのでしょう。「私も大変な人生を生きることになっているけど母上もさぞ辛い悲しい人生を生きて来られたのだろう、お気の毒なことだ、、」という思いだったのでしょうか。

      2.夕霧が匂宮の来邸を促す場面、頭中が夕霧に雲居雁に逢いに(結婚しに)来るよう促す場面を思い出しました。

       頭中 わが宿の藤の色こきたそかれに尋ねやはこぬ春のなごりを
       夕霧 なかなかに折りやまどはむ藤の花たそかれどきのたどたどしくは
            (藤裏葉 p234)

       娘の所に早く来て欲しいと婿殿に催促する父親の姿、世代が変っても繰り返されると言う訳ですね。

       焦る父vs焦らす婿殿、面白い構図です。

  2. 青玉 のコメント:

    映画 WOOD JOB!(神去なあなあ日常)
    先ほど観てきました。
    笑いあり、涙ありでおもしろく楽しめました。
    途中大笑いしたり悲鳴あげたりでちょっと恥ずかしかったです。

    美杉の山の風景を余す所なく撮っていました。
    その風景は我が故郷と二重写しになりました。
    亡き父も長年森林組合でチェンソーを扱う仕事をしていましたので山の男の気概が伝わってきました。
    父も林業の仕事に誇りを持っていて山の話になると饒舌でした。
    初めて見る映像での伐採の場面は息を飲む臨場感がありました。
    方言には多少違和感がありましたがそれはまあ仕方ないですね。

    今の季節に合った映画です。皆さん故郷が恋しくなるかもしれませんよ。
    名松線を走るマッチ箱のような一両の車両が何ともお似合いの風景でした。

    昨日夕刊の「あの人に迫る」は二面ほぼ全面が写真入りの三浦しをんさんのインタビューでした。

    • 清々爺 のコメント:

      おっ、もう見て来ましたか。青玉さんの行動力には感服です。私も近い内に行きたいと思っています。

      名松線、懐かしい響きです。一度乗った記憶はあるのですがそれ以上は思い出せません。まだ走ってるんですね。

      WOOD JOB、いいタイトルじゃないですか。林業も農業と並び日本の大切な分野、若い人への宣伝にもなることでしょうね。

  3. 青玉 のコメント:

    映画が後押ししたかどうかは解りませんが来年中には名松線の家城から奥津(現在不通)まで全線復旧するそうですよ。
    沿線住民の署名や熱意、もちろん行政の尽力がJR東海を動かしたこともあるでしょう。
    映画のロケ以降、美杉へ美杉へと人の流れが増えたそうです。
    願わくはこのローカル鉄道を利用して美杉を訪れる人が増えると良いですね。

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