p207 – 219
24.大君、匂宮を恨み、結婚拒否の念つのる
〈p294 宇治の山荘では、匂宮の御一行がとうとう〉
①かしこには、過ぎたまひぬるけはひを、遠くなるまで聞こゆる前駆の声々、あだならずおぼえたまふ。
→これは哀しい。宇治山荘の人たちは声もなく下を向くばかりだったろう。
②大君の心内が長く語られる。
まして、なほ音に聞く月草の色なる御心なりける、、、
男といふものは、そら言をこそいとよくすなれ、、、
→気持ちは分かるが内向きに過ぎはしないか。
→大君は秀才タイプ。物事を論理的にしかとらえられない。
③中の君 さりともこよなうは思し変わらじと、おぼつかなきもわりなき障りこそはものしたまふらめと、心の中に思ひ慰めたまふ方あり。
→脚注16参照。やはり直に心と肉体を通わせた者は強い。同感です。
④続けて大君の心内 しつこく繰り返し薫への不信、父の遺言に従わなかった不孝を悔いる。
、、、なほ我だに、さるもの思ひに沈まず、罪などいと深からぬさきに、いかで亡くなりなむ、
→もう死んでしまいたい、、。あまりにも悲観的である。
物もつゆばかりまゐらず、、
→食事が喉を通らない。拒食症ではないと思うのだが。
25.匂宮の禁足厳重に 薫わが措置を後悔する
〈p298 匂宮はすぐ引き返して、いつものようにお忍びで〉
①匂宮のことを内裏(中宮・帝)に告げ口する衛門督(夕霧の長男)
→夕霧&衛門督が匂宮の恋を邪魔するワル者として描かれている。
②左の大殿の六の君をうけひかず思したることなれど、おしたちて参らせたまふべくみな定めらる。
→中の君にとって致命的な出来事がただの一行で語られる。
③薫 いづれもわがものにて見たてまつらむに、咎むべき人もなしかし。
→元々そうであったのに!でもToo Late! さて薫よ、どうする。
④中宮(匂宮の母)
「御心につきて思す人あらば、ここに参らせて、例ざまにのどやかにもてなしたまへ」
→尤もな考えであろう(貴女の母、明石の君も一歩間違えばそうなってたのですよ!と言いたいところですが、、)
26.匂宮、女一の宮に戯れ、女房とも浮気する
〈p300 時雨がしとしと降る、もの静かなしっとりしたある日、〉
①匂宮vs女一の宮(同腹の姉)
伊勢物語49段が引かれている。当時は兄妹・姉弟と言えど常時いっしょにいる訳ではなく新鮮な気持ちは芽生えることもあったのだろう。でも同腹での同衾はなかっただろうに。
②匂宮、姉の女一の宮を第一にいい女と思い、次に冷泉院の女一の宮、そして今や宇治の中の君のことを愛しいと思っている。
→この段は「中の君」のことを言いたいがためのものであろう。
→夕霧の六の君のことは眼中にない。
待ちぼうけを食わされた宇治では次第に遠のいていく匂宮一行をの気配をどんな気持ちで過ごしたことでしょう。
大君はますます頑なに心を閉じていくばかりです。
男に対する不信感、屈辱感に苛まれ内向的にならざるを得ないようです。
さて、ここで思うのは大君ほどの女性ならば一呼吸おいて冷静になってもらいたいものです。
相手を信じ又その立場をを思いやることも大事ではないかと・・・
今日はきっと何か深い事情があったのではないか、次はきっと・・・前向きに良い方へと考えられないでしょうか?
すべてに恨みの矛先を向ける悲観的傾向は周囲をよけいに不安にさせますよね。
中の君自身が止むを得ない事情があったのでは?と身びいきにとらえているのですもの、ここは姉として明るく励まして欲しいですね。
延々と続く大君の嘆きはどうしようもなく絶望の淵をさまよっているように見えます。
立場の弱さが不安感を掻き立てるのでしょうか?
匂宮、ますます身動きの取れない状況に薫の後悔や複雑な心境が思いやられます。
若草のねみむものとは思はねどむすぼほれたる心地こそすれ
姉君の美しさに中の君を重ね合わせるのは良いとしてもこの和歌は厭らしいですね。
中の君が更に美しく愛おしい事を強調するためであったとしてももっと言い方があると言うものです。
紫式部の教養の幅(伊勢物語)を印象付けたのでしょうか、ちょっと穿ち過ぎかしら?
まして女房にもお手をつけるのは中の君恋しさのうっぷんでしょうか?
宇治の姫君たちの状況はなかなか好転しないようですね。
ありがとうございます。
1.大君の心内を詳細に読み解いていただきました。その通りだと思います。延々と続く出口の見えない繰り言の繰り返し。読むのも辛くなりますね。いい加減にしてくれと言いたくなります。
先日のコメントで書いていただいた「得体の知れない厭世的な嫌悪感」でしょうね。食事も喉を通らない。完全に精神的に病の状態でしょう。六条御息所も一条御息所も紫の上も精神的に追い詰められて病になりますが大君の場合は自分で自分を追い詰めているように思います。
→おおらかに思える王朝時代にも極めて現代的な心の病があったということでしょうか。
2.26段は無用だと思います。匂宮と女一の宮→姉と弟→絵物語→伊勢物語と無理矢理こじつけてる感じがします。匂宮の窮屈さを言いたいのでしょうが、もう少し爽やかなエピソードにして欲しかったです。
女房とのこと、薫でも出て来ますが言わずもがな。書いて欲しくない感じがします。
本稿の私の表題を「大宮の苦悩募る」としていたの「大君」でしょうと青黄の宮さんから指摘を受け訂正しました。ご指摘ありがとうございました。この機会に大君・中の君の呼称について考えてみました。
1.「宮」というのは天皇の子女につけるのが通常で天皇の子(親王)の子は「宮」とは呼ばないのが普通なんでしょう。従って八の宮の子である大君・中の君は大宮・中の宮とは呼ばない。ところが物語中でも混乱しているのか、親王の子でも「宮」と呼ぶ場合もあるのか大君は「姫宮」とも呼ばれているし(p119脚注13)、中の君は「中の宮」とも呼ばれています(p48脚注7)。固有名詞がない時だから仕方がないのでしょうがある意味いい加減だなとも思ってしまいます。
2.私が宇治十帖に不満なのは「八の宮」「大君」「中の君」と重要人物が一般名詞で片づけられているところです。「八番目に生まれた宮」「長女として生まれた君」「真ん中に生まれた君」では味も素っ気もないですよね。
「浮舟」は素晴らしい名前です。作者がつけなかったのなら後世の読者がいい名前をつけてあげるべきだったのじゃないでしょうか。まあ中の君はともかく八の宮・大君にはいい名前は思いつきませんが。。。考えておいてください。