総角(36・37・38・39) 大君死す

p254 -263
36.大君死す 薫、灯火の下にその死顔を見る
 〈p330 この俗世を厭い離れよと、〉

 ①大君死す
  見るままにものの枯れゆくやうにて、消えはてたまひぬるはいみじきわざかな。
  →紫の上の死も「消えはてたまひぬ」
  →御法6のコメント欄で女君たちの臨終の場面をリストアップしています。

 ②隠したまふ顔も、ただ寝たまへるやうにて、変りたまへるところもなく、うつくしげにてうち臥したまへるを、、
  →死顔を愛でる薫。
  →夕霧が紫の上の死顔に見入る場面があった(御法8 p260)

 ③煙も多くむすぼほれたまはずなりぬるもあへなし
  →痩せ細ってて煙も多く出ない。哀れ限りない描写。

37.中の君悲嘆深し 薫も宇治に閉じこもる
 〈p332 山荘では大君の御忌みに籠っている人が多いので、〉

 ①思はずにつらしと思ひきこえたまへりし気色も思しなほらでやみぬるを思すに、いとうき人の御ゆかりなり。
  →大君の絶望は匂宮が中の君を捨てたと思いこんだことにあった。
  →匂宮は中の君に消息すると同時に大君にももっと切実に意中を伝えるべきであったか。

 ②薫の後悔と感慨
  かうもの思はせたてまつるよりは、ただうち語らひて、尽きせぬ慰めにも見たてまつり通はましものを、
  →後悔先に立たず。中の君は匂宮に心を通わせている。Too lateでしょう!

38.薫、喪服を着られぬ身の上を悲しむ
 〈p334 こうしてはかなく日は過ぎて行きます。〉

 ①女房たち 「思ひの外なる御宿世にもおはしけるかな。かく深き御心のほどを、かたがたに背かせたまへるよ」
  →女房たちにしてみれば期待に反する結果となりお先真っ暗である。
  (大君は死んでしまい中の君は匂宮に捨てられそう。薫も来なくなる)

 ②薫→中の君「昔の御形見に、今は何ごとも聞こえ、うけたまはらむとなん思ひたまふる。うつうとしく思し隔つな」
  →中の君には大君の死は薫のせいだとの思いが消えてないだろうに。

39.薫、月夜の雪景色に大君をしのび歌を詠む
 〈p336 雪があたりを暗くして降りしきる日、〉

 ①世の人のすさまじきことに言ふなる十二月の月夜の曇りなくさし出でたるを、簾捲き上げて見たまへば、向かひの寺の鐘の声、枕をそばだてて、
  →完璧に枕草子清少納言を意識した叙述(朝顔9 13.5.30 参照)

 ②薫の絶唱 二首
  おくれじと空ゆく月をしたふかなつひにすむべきこの世ならねば
  恋ひわびて死ぬるくすりのゆかしきに雪の山にや跡を消なまし
   ことつけて身も投げむと思すぞ、心きたなき聖心かな
  →薫の悲壮な心境も作者から軽くからかわれている(脚注4)

 ③女房の述懐
  「御心地の重くならせたまひしことも、、、、、、あいなう人の御上を思し悩みそめしなり」
  →総括脚注参照 結局大君は薫を許してはいなかった、、、私も概ね賛成です。

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6 Responses to 総角(36・37・38・39) 大君死す

  1. 青玉 のコメント:

    あっけないほど大君の哀しくも憐れな死・・・
    この世にわずかでも幸福のひと時があったのでしょうか?
    あえて父子三人が肩寄せ合っての山里の暮らしに幸せを見出していたのでしょうか?
    あまりにも幸薄い人生、哀傷やるかたないです。

    今までにも女君(特に紫の上)の死の美しい描写はありましたがそれぞれに生き切った幸せ感がありました。
    特に紫の上は中宮に手を取られこの世に思い残すことのないやすらさが感じられました。
    しかしこの大君の場合は悲惨過ぎます。

    薫の後悔は今更ながら詮無いことです。
    厳しいようですがすべて自身の責任です。
    薫さえもっと積極的に行動していれば結果は変わっていたかも・・・
    これも結果論で言わずもがなですね・・・

    世の人のすさまじきことに言ふなる十二月の月夜
    清少納言を意識して皮肉っている辺り紫式部の彼女に対するライバル心がうかがえますね。
    一方清少納言は紫式部をどう思っていたのでしょう?

    薫の追募と絶望感は同情もできますが忸怩たる思いが強いです
    薫の絶唱(和歌)も虚しく響くばかりです

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      大君の死の場面、辛い場面です。どんな場面でもいつも真正面からオーソドックスに読み解いておられる姿勢に感心しています。

      1.大君の絶望の死と一条御息所のコミュニケーション不足・誤解による怒りの死。この二つの死には読者として「何という情けないこと、何とかならなかったのか」と周りの登場人物に憤りを感じます。救いのない死はやりきれませんね。

      2.紫式部と清少納言、色々面白おかしく取沙汰されてますね。清少納言が定子に仕えたのは993-1000年。紫式部が彰子に仕えたのが1005-1012年で宮仕えの時期が異なっています。枕草子が書かれたのは源氏物語より前で紫式部は枕草子を読んでいたが清少納言は枕草子執筆時源氏物語はなかったし紫式部のことも知らなかったのだと思います。

      従って紫式部日記は清少納言のことを名指しでボロクソに言ってるし源氏物語中でも枕草子のことをコケにしていますが清少納言には紫式部について述べたものはないようです。残念ですねぇ。切れ味鋭い紫式部論・源氏物語論を聞きたかったものです。

  2. 式部 のコメント:

     どうすれば大君は救われたのか? 清々爺さんが総角34のところのコメントで書かれているように、八の宮の一周忌を済ませてすぐ大君は出家するのが良かったと私は思います。大君タイプの人間の心の平安のためにはそれしかないでしょう。
     大君が出家すれば薫も諦めざるをえず、大君も薫の懸想で悩まなくてすんだでしょう。
     仏道に入れば、中君と匂宮のことであれこれひとりよがりな心配をすることなど戒めなければならないわけで、少しは俗世を離れた安らかな心境になれたかもしれません。そうして生命永らえてほしかったです。
     もちろん出家したとしても、八の宮の性格を受け継いで、きっぱりと心の整理がつかないかも・・・
     大君と薫は深い部分で心を通わせられなかったことが悲しいですね。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      大君への出家推奨については下のコメント欄で青黄の宮さんから疑問が寄せられていますが幸せにならないまでも絶望して死んでしまうことはなかったのではと思います。八の宮が没頭していた仏への道ですから親孝行にもなるだろうし日々八の宮と顔を合わせてるような気になり心の平安も得られたのではないでしょうか。

      ただ大君には行動力がない。従って阿闍梨あたりが強引に引導を渡して尼にしてしまうなんてあってもいいと思いました。絶望で食も細り死への道を進んでいる大君を救うことこそ阿闍梨の仕事だった、、、、なんて言ってもアホかと言われそうですけど。。。

  3. 青黄の宮 のコメント:

    とうとう大君が短い一生を終えました。心からご冥福とあの世での八の宮との再会を祈ります。

    大君の一生は誠に幸が薄いものでしたが、その上に恨みを抱きつつ死出の旅に赴くというのでは、可哀想過ぎてやりきれないですね。何故そんなにも薄幸な生涯となってしまったのか? その一つの原因は父親である八の宮が権力闘争に負けた側に属していたので凋落の一途を辿り、娘たちを幸せにする力を失ったことにあるでしょう。もう一つの原因は大君の限りなく悲観的な思考のせいでしょう。妹の中の君が大君ほど薄幸に見えないことからすれば、大君のマイナス思考こそが彼女の人生をあんなにも暗くて救いのないものにした主因であると思います。

    では、どうすれば大君は多少なりとも幸せな人生を送れたのか? 式部さんのコメントのように、八の宮の一周忌を済ませてすぐ大君は出家するのが良かったし、大君タイプの人間の心の平安のためにはそれしかないのかもしれません(注1)。確かに出家すれば心穏やかに毎日を送れるかもしれませんが、それが果たして幸せな人生と言えるのでしょうか? 寂聴源氏塾の解説によれば、出家とは家族や恋人を捨てることでもあり、「生きながらにして死ぬ」ことに他ならないとあります。源氏のお相手だった女性の大半は最後に出家しましたが、彼女たちの多くは激しい恋愛や不幸な結婚生活を経験した後の出家であり、心の平安を得るために出家を一つの有力なExit(出口、退出口)と考えたことは理解できます。でも、小生には恋愛も結婚も経験していない(多分)処女のままの大君が出家によって幸せな人生を送れるとは思えず、むしろ憐れと感じます(注2)
    (注1) 厳密に言えば、式部さんの設問は「どうすれば大君は救われたのか」であり、「・・・幸せな人生を送れたのか」とは異なります。
    (注2) 「幸せな人生」かどうかは、本人の主観の問題であり、本人以外が判断する問題ではないと言われそうですが、ある程度は客観的な物差しもあると思います。

    では、どうするか。マイナス思考から抜け出すためには、考えてばかりいてはダメで、行動が必要と言われます。といっても、大君は自分から行動しそうもないので、やはり、男性がリードする必要があるでしょう。やはり、薫にもう一歩踏み込んで欲しかったですね。先日、清々爺から「もし匂宮が大君に有無を言わさず、とってかかり『お前はオレのモノだ。オレについて来い!』って宣言したらどうなってたのでしょう。大君の心は開かれたのでしょうか。」との質問がありましが。小生は言葉もテクニックも上手い匂宮なら成功の確率は7割を超すと思います。

    • 清々爺 のコメント:

      大君に対する詳細なる分析ありがとうございます。

      大君の不幸な生涯は八の宮の凋落と大君のマイナス思考が原因である。分かりやすい、その通りだと思います。つくづくと心の持ち方の大切さを感じます。悩める現代社会、教育のあり方に通じる問題だと思います。

      解決策は男性の行動力あるのみ、これも分かりやすい。匂宮なら7割超の成功率ですか。よくぞ言ってくれました。それぐらい自信満々でないと女性を幸せにすることなどできないでしょう。一抹の不安は妻にした後のフォローアップですが匂宮ならそこそこはやるでしょう。

      源氏なら多分100%成功したでしょう。薫ならどうだったでしょう。テクニック(勿論口説きのテクニックです)的にも劣るのだろうな、、、匂宮が70%なら薫は50%というところでしょうかね。
       →いやあの踏ん切りのつかない性格だと50%以下かもしれません。

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