橋姫(17・18) 薫、弁から出生の秘密を聞く

p228-238
17.薫、弁に対面、柏木の遺書を手渡される
 〈p130 さて、その夜明け方、〉

 ①明け方になり八の宮は朝の勤行に、絶好の機会、弁を呼びつける。
  弁は60才前、老女である。柏木密通は22年前のこと。

 ②薫「なほ、かく言ひ伝ふるたぐひやまたもあらん」
  弁「小侍従と弁と放ちて、また知る人はべらじ。一言にても、また、他人にうちまねびはべらず」
  →極秘事項を他に知っている人がいては困る。薫は警戒する。
  →冷泉帝が夜居の僧都から源氏・藤壷の密通を聞きだす場面に似ている。

 ③若菜下柏木密通の場面では柏木と小侍従がやけに親しいと感じたが(おそらくデキていたのだろうが)、そこに弁が仲立ちとして入っていたとなると納得でもある。
  →柏木と弁は乳母姉弟、弁と小侍従は従姉妹。

 ④薫「仏にもこのことをさだかに知らせたまへと念じつる験にや、、」
  弁「仏は世におはしましけりとなん思うたまへ知りぬる」
  →薫は自分の出生について知りたいと仏に祈ってきた。弁も薫に伝えたいと仏に祈ってきた。
  →仏のお蔭で念願が叶った。薫は益々仏道を尊く思ったことだろう。

 ⑤弁の身の上話
  弁の母、柏木の死直後に死亡
  弁、さる男の妻となって九州へ
  九州で夫が死亡して10年ぶりに京へ帰ってきた
  柏木→弘徽殿女御を頼ってもよかったが八の宮の北の方の縁で八の宮に仕えている。
  →うまく物語を作るものである。

 ⑥弁の話を聞いた薫「かかる対面なくは、罪重き身にて過ぎぬべかりけること」
  →冷泉帝が僧都に言うことと同じ。実父に孝をつくさねば罪になるとの意識。

 ⑦ささやかにおし巻き合はせたる反故どもの、黴くさきを袋に縫ひ入れたる取り出て奉る。
  →弁が柏木から預った古文書。やっと薫の手に渡る。名場面です。

 ⑧弁から秘密を聞いた薫、弁には秘密を守ってもらわねばならない。年とって口さがない弁だけに秘密が漏れないか心配。薫は宇治を放っておけなくなる。
  →薫にとって宇治は仏道修行の場、秘密保持監視の場、姫たちとの交流の場となる。

18.薫、柏木の遺書を読み、母宮を訪れる
 〈p135 薫の君は京へお帰りになって、〉

 ①薫帰って弁からもらった黴くさい袋を開ける。
  開くるも恐ろしうおぼえたまふ。
  →当然であろう。手が震えたことだろう。

 ②いろいろの紙にて、たまさかに通ひける御文の返り事、五つ六つぞある。
  →柏木が大事にしていた女三の宮からの返書。5-6通もあった!続いていたんだ。

 ③死に際に女三の宮に書いたが渡せてなかった遺書
  陸奥国紙五六枚に、つぶつぶとあやしき鳥の跡のやうに書きて
   目の前にこの世をそむく君よりもよそにわかるる魂ぞかなしき
   命あらばそれとも見まし人しれぬ岩根にとめし松の生ひすゑ 代表歌
  
  →柏木p273で源氏が不義の子薫を見ながら女三の宮に皮肉を込めて言い放った歌に呼応
   源氏 誰が世にか種はまきしと人問はばいかが岩根の松はこたへむ

 ④紙魚といふ虫の住み処になりて、古めきたる黴くささながら、跡は消えず、ただ今書きたらむにも違はぬ言の葉どもの、こまごまとさだかなるを見たまふに、、
  →22年前の手紙、紙は古いが内容は生々しい。独り見る薫は孤独である。

 ⑤宮の御前に参りたまへれば、いと何心もなく、若やかなるさましたまひて、経読みたまふ
  →母女三の宮は相変わらず若くて悩みない様子(まだ色香を漂わせている)
  →薫は秘密を自分の胸一つに留めておかなければならない。

出生の秘密を知って宇治とは切っても切れない縁ができた薫。さて物語はどう進展するのでしょうか。
  

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2 Responses to 橋姫(17・18) 薫、弁から出生の秘密を聞く

  1. 青玉 のコメント:

    なるほど、弁と小侍従の関係がよく解りました。
    柏木密通の裏に弁が一役かっていたということなのですね。
    弁の衝撃の告白、この巻一番のクライマックスです。

    長年の疑念が晴れ真相を知った薫、
    宇治の出会い、縁もひとえに仏の御計らい、導きによるもの、ますます道心を深めたことでしょう。

    それにしても22年前の昔の出来事と宇治をかくも上手く繋げたものだと感心することしきりです。
    しかも全く無理がなく流れが自然です。

    柏木遺品の袋をを受け取った時点で薫はこの事態を母宮に伝えようと思ったかどうか?
    実際帰京し袋の中身を確かめた後、母の姿を見て何も言えなかった・・・
    この気持ち痛いほど解ります。
    能天気な母宮の姿と薫の深い苦悩が対照的で痛ましいです。
    遺品の中身はあたかも今、現実の如く生々しく薫に迫ったことでしょう。

    出生の秘事、弁のこと、姫君のこと多くの問題を抱えてしまった薫。
    あはれ薫、この秘密は自身が一生背負うことを覚悟したのでしょうか?
    今日の場面は最高にドラマティツクでした。

         ひそやかに月下のしづく霧立ちぬ
            浮き身ぞあはれ宇治の橋姫

    浮きと憂きを掛けてみましたが・・・

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。本帖一番の重要場面を分かりやすくまとめていただきました。

      1.柏木・女三の宮の出来事の一部始終を知った薫は一番に何を思ったのでしょうかね。
        ・父柏木を哀れに思った。
        ・母女三の宮を哀れに思った。
        ・養父源氏を哀れに思った。
        ・生まれた自分を哀れに思った。
       
       全部が正解だと思います。世の中全てが信じられなくなって自暴自棄になっても仕方ないところ、薫はエライですね。事実を受け入れそれをベースに生きていこうとする。母女三の宮の様子を窺いに行くところなんか涙が出てきます。ガンバレ、薫!
       
      2.物語がうまく繋がってますよね。弁はよくぞ八の宮の所へ戻って来てたものです。秘事を薫に伝えたいなら無理してでも多少なりとも伝手のある冷泉院に出仕した方が薫に会うチャンスは多かった筈ですが、、、。そこは物語、正しく御仏の導きだったのでしょう。

      3.柏木の今際の歌(二首)を読んで柏木のこともさることながら父頭中のことが甦りました。頭中は事の真相を知らずじまいでしたがその方が幸せだったのか、、、、。知ってたらひっくり返っていたでしょうね。

      4.橋姫の歌、お見事です。霧立つ秋、宇治で月下に身を潜めて生きる姫たち。哀れさがひしひしと伝わってきます。薄幸の姫を救うべく白馬の貴公子よ来たれ!ってところですね。

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