少女(1・2) 朝顔との結末 ・ 夕霧六位に

「少女」雁なくやつらをはなれてただ一つ初恋をする少年のごと(与謝野晶子)

少女に入ります。冒頭のみ朝顔の姫君との結末が書かれ、一転して源氏の息子夕霧の話になります。この夕霧、物語の主役ではないものの今後ずっと(宇治十帖まで)主要な役どころで登場します。父親源氏との性格比較など面白く描かれています。そして巻末では六条院の完成が述べられます。

p60 – 70
1.源氏、朝顔の姫君と贈答 姫君の態度
 〈寂聴訳巻四 p98 新しい年が明け、〉

 ①朝顔巻末から年明けてG33年4月 葵祭りの頃合い

 ②源氏はまだ諦めず朝顔&女五の宮に文でご機嫌をうかがっている。

 ③女五の宮→朝顔 繰り返し源氏との結婚をそそのかす(無理な話ではない)
  朝顔は頑として応じない。これが朝顔の生き方・考え方。
   →いくらスーパースターの源氏が言い寄っても靡かない女もいたのですよと作者は言いたかったのだろうか。

 これにて朝顔の姫君との話は打ち切りとなり以後殆ど登場しません(もういいです)。

2.夕霧元服 源氏きびしい教育方針をとる
 〈p102 故太政大臣家の葵の上のお遺しになられた若君の御元服を、〉

 夕霧登場、新しい話の始まりです。
 ①夕霧(後「夕霧」の巻で主人公として登場するので夕霧と呼ばれる)
  =父光源氏 母葵の上 父方祖父桐壷帝 母方祖父左大臣 母方祖母大宮
  G22年生まれ 現在 12才

 ②母葵の上は出産直後に死亡、ずっと三条邸で祖父母大宮に育てられてきた。
  12才になり源氏は元服させる。場所はやはり大宮の居る三条邸で。
  伯父の頭中一家も参加し盛大にに元服の儀が執り行われる。

 ③元服すると勤めが始まる。こともあろうに源氏は夕霧を六位から始めさせる。
  →本人はショック、大宮は不満で心外に思う(激怒したことだろう)

 ④源氏→大宮 長文の学問論・教育論 学問の位置づけがよく分かる。
  →作者紫式部自身の学問に対する考え方であろうと言われている。
  →学力低下の現代にうってつけの議論ではなかろうか。

 ⑤「大和魂」 この言葉源氏物語に初出
  「漢才すなわち学問(漢学)上の知識に対して、実生活上の知恵・才能。和魂。(広辞苑)」

 ⑥大宮の嘆きは尤もである。
  →婿の源氏が可愛いから、そしてその可愛い源氏の子どもだから12年も大事に育ててきた最愛の孫がこともあろうに父源氏の独断で遊び仲間よりも低い位につかされた。大宮は憤懣やるかたなかったでしょう。

 ⑦官位と色 (男性が着る袍の色)  
  帝(天皇) 黄櫨染 麹塵
  太上天皇 赤色
  親王、孫王、源氏の子孫 黄衣
   一位 深紫
  二位三位 浅紫
  四位 深緋
  五位 浅緋
  六位 深緑
  七位 浅緑

 文字通りの色分け。身分社会が如実に表されている。

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朝顔 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

「朝顔」のまとめです。

和歌
39.秋はてて霧のまがきにむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔
    (朝顔の君)  難攻不落の女君

40.こほりとぢ石間の水はゆきなやみそらすむ月のかげぞながるる
    (紫の上)  紫の上、冷えゆく心

名場面
39.人づてならでのたまはせんを、思ひ絶ゆるふしにもせん」と下りたちて
    (p37 朝顔の姫君つれなく拒む)

40.漏らさじとのたまひしかど、うき名の隠れなかりければ、恥づかしう
    (p52 故藤壷の宮、源氏の夢枕に)

[「朝顔」を終えてのブログ作成者の感想]

朝顔、どうでしたか。薄雲まで結構波乱に富んだ物語の展開で面白かったのですがこの巻はよく分からない朝顔の姫君とのことで今一つワクワク感がなかったように思います。

朝顔の姫君については色々コメントいただきましたが現代感覚から言えばやはり評価は低くならざるを得ないのではないでしょうか。この対極が朧月夜、こちらの方が好感が持てると思います。

そして藤壷の鎮魂。藤壷は成仏できず冥界に苦しんでいる。大袈裟な法要をやる訳にいかず源氏はひたすら阿弥陀仏を心に念ずる。。。やはり皇統を乱した藤壷を紫式部はこのようにしか扱えなかったのでしょうか。

これで24か月中の8か月、三分の一終了です。いいペースだと思っています。この調子で行きたいと思います。引き続きバックアップをよろしくお願いいたします。

来週から6月、少女を10回(6/3 – 6/14)+総括(6/15)、玉鬘を8回(6/18 – 6/27)+総括(6/28)の予定です。なお式部さんの朗読は明日少女・玉鬘を一挙にアップします。予習にご活用ください。

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朝顔(9・10) 紫の上と女君を語る・藤壷夢枕に

p44 – 54
9.雪の夜、紫の上と昔今の女の評をかわす
 〈p87 雪がたいそう降り積もった上に、〉

 雪の夜の紫の上との語り合い→興味深い場面です。
 ①「すさまじき例に言ひおきけむ人の心浅さよ」とて、御簾捲き上げさせたまふ
  →枕草子攻撃の一つ 「すさまじきもの、、、師走の晦日夜、、、」(23段)
  →御簾捲き上げさせたまふ も香鑪峰の雪は御簾をかかげて看るを引いている。

 ②童べおろして雪まろばしせさせたまふ
  →これも枕草子を意識している。枕草子がさも重要行事と言ってるのを 世に古りたることなれど と軽くいなしている。

 ③先ず藤壷のこと 
  やはらかにおびれるものから
  →脚注で情交を暗示とあるが、ここから情交を読み取るのは難しいのではないか。

 ③次に前斎院(朝顔)
  →六条御息所亡きあとプラトニックに心を通わせられる姫君はこの人ただ一人

 ④紫の上の方から尚侍(朧月夜)のことを持ち出す。
  →さすがの源氏も賢木で見つかって以来逢えていないのだろう(朧月夜からのアタックも途絶えている。二人して大人になったということか)。

 ⑤明石の君のこと
  →源氏は徹底して明石の君の身分の低さを紫の上に刷り込む。源氏の真情の裏返しでもあろう。

 ⑥花散里のこと
  →二条東院に居る女君の内この人だけが六条院に移る。
   今はた、かたみに背くべくもあらず、深うあはれと思ひはべる
   →ちょっと言い過ぎではないか。

 ⑦紫の上 こほりとぢ石間の水はゆきなやみそらすむ月のかげぞながるる 代表歌
  →紫の上の歌はいつも哀しい。私は物語中屈指のいい歌だと思っています。

 ⑧そして源氏は藤壷のことを思い出している
  かきつめてむかし恋しき雪もよにあはれを添ふる鴛鴦のうきねか

 この段脚注の総括をよく読んでおきましょう。

10.亡き藤壷の宮、源氏の夢枕に立って恨む
 〈p92 源氏の君は御寝所にお入りになられても、〉

 名場面と言うより重要場面です。
 ①藤壷は未だ成仏せず中空をさまよっている。密通の大罪のせいだろうか。

 ②この夜紫の上と共寝している。源氏が何やらうなされて泣いているのを見れば紫の上も一睡もできなかったのではなかろうか。

 ③源氏 藤壷を想っての独詠
  とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に結ぼほれつる夢のみじかさ
  →共に寝ている紫の上のことは忘れて藤壷を想う源氏。紫の上とは馴れ親しみ過ぎてその良さが分からなくなったのか。

 段末の脚注にあるとおり本巻は朝顔のこともあるが(巻名は朝顔だが)薄雲で亡くなった藤壷を鎮魂する巻と位置付けられています。 
 

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朝顔(7・8) 朝顔、源氏を拒む・紫の上に弁明

p36 – 44
7.源氏、姫君に求愛、姫君つれなく拒む
 〈p80 西面の朝顔の姫宮のお部屋では〉

 ①ありつる老いらくの心げさうもよからぬものの世のたとひとか聞きし
  →枕草子攻撃の一つ(明日の稿でまとめます)

 ②思ひ絶ゆるふしにもせん  名場面にします
  →百人一首 No.63 藤原道雅(父は中宮定子の兄藤原伊周)
   今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな
    →道雅が元伊勢斎宮に通ってた時の歌 百人一首中でも屈指の秀歌(田辺聖子)

 ③源氏が懸命に歌を詠みかけるが、姫君の答えは I’ll never change!
  →もう今さらというのが朝顔の姫君の真情なんでしょう。

 ④朝顔の姫君、一体どういう女性なんでしょう。  
  ・拒む女、可愛くない女
  ・結婚しようと思っていない女
  ・恋に臆病な女(俵万智) 六条御息所みたいになりたくない。

  やはり斎院として8年間仕えたことが大きいか。典型的な皇女、宇治の大君・中の君に通じるか。

8.朝顔の姫君との仲について紫の上に弁明
 〈p85 源氏の君はそうむやみに苛立っていらっしゃるわけでもないのですが、〉

 ①朝顔のことが気にかかって二条院に居ても紫の上の西の対にはなかなか行けない(夜離れ重ねたまふ
  →これがp29の 途絶えおくを ということか。
 
 ②やっと紫の上を訪れてあれこれ弁明する。
  →御髪をかきやりつつ  まろがれたる御額髪ひきつくろひたまへど
   相変わらず紫の上を子ども扱いしている。紫の上も既に23才、いつまでも子どもではない。

 ③明石の君のことを弁明したときも大よそ同じ調子であった。紫の上は辛抱強い、爆発しない。それをいいことに源氏はあれこれ言ってまだ朝顔の姫君をあきらめていない。

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朝顔(5・6) 源氏、また式部卿邸へ

p28 – 36
5.源氏、女五の宮の見舞にかこつけて外出
 〈p73 ある夕暮のこと、今年は諒闇のため、〉

 ①源氏→紫の上 出かける言い訳をする(いつものことだが)
  女五の宮と来れば朝顔の所とピンと来る筈で源氏との問答は意味深長である。

  →休みの日に出かける夫は言い訳を何やかや考える。いい加減でも真剣すぎてもマズイ。妻はその言い訳を鋭い直感で分析する。そして決して忘れることはない、、、。(単なるつぶやきです)

 ②源氏 見だてなく思さるるにやとて途絶えおくを、またいかが
  →これはどういうことか?「何時も私があなたの傍にいるのも馴れすぎて面白くないでしょうからちょっと外へ行って来ます。その方が刺激になっていいでしょう、、、」ということだろうか。それとも最近アチラの方ちょっと御無沙汰しているということ? まさかね。

 ③「いでや。御すき心の古りがたきぞあたら御瑕なめる。軽々しきことも出で来なむ」
  →女房たちのこの言葉面白い。ナレーションとしてぴったりではないか。
 
6.源氏、式部卿宮邸で源典侍に出会う
 〈p75 桃園の宮のお邸では、〉

 ①式部卿宮邸に入っていく場面(荒廃した式部卿邸)
  →脚注にもあるが末摘花邸の雪の朝の場面、夕顔の冒頭大弐の乳母を訪れる場面を思い出させる。
  →蓬も出てくる。源氏は既にしばしば訪ねていたはず。修理でもしてやらなかったのか。

 ②女五の宮 眠たくて源氏の話を聞きながら居眠りをする。いびきみたいな音が聞こえる。
  →リアリテイのある表現で面白い。

 ③源典侍、また出た~あ! 70か71才。紫式部はこの人大好きのようです。
  老いの極みの強烈なる表現が続きます。

 ④源典侍 心ときめきに思ひて若やぐ
  →そりゃあいくら年をとっても源氏を見かければ若返り華やかな気分になるであろう。

 ⑤源典侍登場の場面を整理しておくと、
  1.紅葉賀 頭中に踏み込まれた場面など
  2.葵   紫の上と葵祭りの見物に出かけたとき源氏に歌を詠みかける
  3.朝顔  本段です

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朝顔(3・4) 源氏・朝顔 歌の贈答、紫の上の苦悩 

p22 – 28
3.源氏、帰邸後、姫君と朝顔の歌を贈答する
 〈p68 お気持ちのおさまらないままお帰りになった源氏の君は、〉

 ①空しく帰った朝、朝顔をテーマに歌の贈答をする
  この朝顔は今の朝顔と同じと考えましょう(槿との説もあるが)

 ②源氏→朝顔
   見しをりのつゆわすられぬ朝顔の花のさかりは過ぎやしぬらん
   →これは親しみ故のおふざけだろうがチト強烈
   →脚注で「見し・朝顔」でありもしなかった情交をあったかのごとくにいう、とあるが過去に一度は情交があったのではなかろうか。なかったという証拠はないと思うのだが。
   →あったとすれば16年ほど前、互いに17才の頃でさぞ初々しい朝顔だったことだろう

 ③朝顔→源氏
   秋はてて霧のまがきにむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔  代表歌

 ④③の強烈な歌に対する語り手の弁解が面白い。

4.源氏、朝顔の姫君に執心 紫の上悩む
 〈p71 源氏の君は東の対にひとり人目を避けていらっしゃって、〉

 ①二条院に朝顔の女房宣旨を呼びつけて朝顔をどうアタックするか相談する。
  →どんな相談をしたのだろう。宣旨は「無理ですよ」と受け流したのだろうか。源氏も32才、昔王命婦に迫り藤壷への手引きを強要したような元気はもはやなくなったということか。

 ②源氏が熱心に朝顔に言い寄っているとの噂が紫の上の耳に入る。
  紫の上の心内 「同じ筋にはものしたまへど、おぼえことに、昔よりやむごとなく聞こえたまふを、御心など移りなばはしたなくもあべいかな。年ごろの御もてなしなどは立ち並ぶ方なくさすがにならひて、人に押し消たれむ」

  →紫の上の悩みは深刻である。明石の君なら身分的にも自分が上位で子どもも養女にして面子もたっているが朝顔の姫君では逆転して正妻になられてしまう。これはつらい。

  →源氏物語は第二部若菜上から人の苦悩を描き出す近代小説になる(第一部は古代の物語)と言われているが、紫の上が真剣に悩み始める朝顔のこの辺りからそれが始まるとの説もあり私も賛成です。

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朝顔(1・2) 源氏、朝顔の姫君を訪ねる

「朝顔」みづからはあるかなきかのあさがほと言ひなす人の忘られぬかな(与謝野晶子)

これまではチラリとしか出て来なかった朝顔の姫君の登場です。明石の君に対しては娘を養女として引き取ることで何とか心の整理をつけた紫の上も身分的に源氏の正妻に相応しいこの姫の登場でまた心は騒ぎます。嫉妬心・不安感は段々と昂じていくのです。

p12 – 22
1.源氏、故式部卿宮邸に女五の宮を訪ねる
 〈寂聴訳巻四 p60 斎院の朝顔の姫宮は、〉

①朝顔の姫君 = 式部卿宮(桐壷帝の弟)の娘、即ち源氏とはいとこ(同年くらいだろうか)

②帚木の巻が初出、葵・賢木でも源氏が折に触れ歌を贈答し合ってる姫君として出ている。

③葵の上が死去し正妻候補であったがG24年賀茂の斎院に召し出される。以後G32年の今まで実に8年間も斎院として神に仕えていた(女盛りを神に捧げたと言えようか)。

④父式部卿宮が死去して斎院から降りて桃園宮邸に里帰り(内裏の北東に隣接)

⑤叔母女五の宮といっしょに住んでいる。
 女五の宮 未婚の老皇女 姉女三の宮が羨ましい
 女三の宮(大宮) 左大臣の妻 葵の上の母(源氏は婿) 頭中の母

 女五の宮は何とかして朝顔を源氏に娶せたい。

⑥女五の宮→源氏 故式部卿宮も源氏を婿にしたいと思ってたことなどほのめかす。 

2.源氏朝顔の姫君を訪ね、女房を介して話す
 〈p64 あちらの朝顔の姫宮のいらっしゃるお庭のほうを〉

①源氏、朝顔の姫君と対座。8年間のブランク。その間源氏は須磨流謫の目にも合っている。

②昔のことを引き合いに訴えようするがお互い既に中年の域、若年の時のような恋は語れない。

③朝顔の心情を伝える宣旨の言葉 「禊を神はいかがはべりけん」
 恋せじと御手洗川にせしみそぎ神はうけずもなりにけるかな
   (伊勢物語六十五段 業平・高子の話とも言われている)
     →高貴な女性に言い寄っても神は聞き届けてくれなかったということ

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薄雲 代表歌・名場面 & ブログ作成者の総括

薄雲のまとめです。

和歌
37.末遠き二葉の松にひきわかれいつか木高きかげを見るべき
    (明石の君)  明石の姫君、二条院へ

38.入日さす峰にたなびく薄雲はもの思ふ袖に色やまがへる
    (源氏)  藤壷を痛惜しての絶唱

名場面
35.声はいとうつくしうて、袖をとらへて「乗りたまへ」と引くもいみじうおぼえて
    (p178 大堰邸での子別れ)

36.灯火などの消え入るやうにてはてたまひぬれば、いうかひなく悲しきことを思し嘆く
    (p198 藤壷の宮 崩御)

37.そのうけたまはりしさま」とてくわしく奏するをきこしめすに、あさましう
    (p204 夜居の僧都、秘密を奏上)

38.見たてまつらぬこそ口惜しけれと、胸のうちつぶるるぞうたてあるや
    (p216 斎宮の女御に恋情を)

[「薄雲」を終えてのブログ作成者の感想]

薄雲、いかがでしたか。随分色々と展開があり面白かったと思います。前半は大堰の子別れそして後半が藤壷の薨去でしょうか。それぞれに興味深いコメントをいただき読みが深まったと思います。ありがとうございました。

明石の姫君が紫の上の手に預けられる。紫の上・明石の君・明石の姫君の三者関係が今後どう展開するのか明石物語は頂上に向け進められます。

一方藤壷と左大臣の薨去は最初からの物語に大きな区切りをつける出来事だと思います。そして冷泉帝が秘密を知り、冷泉帝が秘密を知ったことを源氏が知る。でもこの秘密は二人だけのもの(僧都と王命婦を除き)。何ともすごい物語を書いてくれたものです。

さて、次は若干寄り道的ですが朝顔の姫君とのお話です。何れにせよこの高貴なお姫さまも決着をつけておかねばなりませんからね。

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薄雲(19・20・21) 源氏、斎宮の女御に恋情を

p214 – 228

藤壷のことから離れ後宮争いの続き、斎宮の女御の登場です。
19.源氏、斎宮の女御を訪れ、恋情を訴える
 〈p48 前斎宮の病後は、源氏の君がかねてより〉

 ①斎宮の女御 入内(G31年春)して一年半(今はG32年秋)、源氏の居る二条院に里帰り。

 ②源氏は野宮の別れで近づいているがずうっと女御をはっきりとは見ていない。
 見たてまつらぬこそ口惜しけれと、胸のうちつぶるるぞうたてあるや
   →語り手もちょっと呆れた口調で茶々を入れる

 ③六条御息所、藤壺とのことを心に浮かべ女御へのあやにくな恋を思う
  源氏→女御 あはれとだにのたまはせずは、いかにかひなくはべらむ
   そう言われても女御は戸惑うしかなかろう。
 
 ④源氏がここで女御に言い寄るのは幾らなんでもあり得ないのではないか。
  ・女御は時の天皇(自分の息子)の妃
  ・兄朱雀院の想い人でもある
  ・六条御息所の今際での必死の遺言に背くことになる
  それこそ源氏が強引に振る舞っておれば身の破滅になったのではなかろうか。
  危ない橋を渡りそうで渡らない、、、源氏も32才分別盛りということか。

20.春秋優劣論に、女御、秋を好しとする
 〈p52 「家門の繁栄の望みなどはさておいて、〉

 ①時は秋たけなわ。風情のある御前の庭を見ながら春秋優劣論を展開する。
  →源氏と女御の口を借りての紫式部の議論。枕草子を意識している。

 ②額田王 秋派
  女御も母御息所を偲び秋を好しとする→秋好中宮の謂れ

 ③女房たち、源氏の三拍子何もかも揃っているのを愛でる
  →梅が香を桜の花ににほわせて柳が枝に咲かせてしがな(中原致時)

 ④紫の上 春の曙に心しめたまへる
  →やはり紫の上は華やかな春の姫君である

21.源氏、大堰を訪れ 明石の君と歌を交す
 〈p56 大堰の山里の明石の君も、〉

 ①月に二回しか大堰は訪問できない。

 ②大堰川ほとりの屋敷にて鵜飼の篝火を見ながら明石の浦を想う
  源氏 いさりせし影わすられぬ篝火は身のうき舟やしたひきにけん
  明石の君 あさからぬしたの思ひをしらねばやなほ篝火の影はさわげる

明石物語に始まった薄雲の巻、明石の君訪問のところで閉じられ次巻朝顔へと進みます。

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薄雲(16・17・18) 事を知った冷泉帝と源氏

p206 – 214
16.冷泉帝煩悶し、源氏に譲位をほのめかす
 〈p42 帝は悪夢のようなただならぬ恐ろしい一大事を〉

 ①冷泉帝の煩悶 この年で出生の秘密を突然知れば当然であろう。
  父桐壷のこと母藤壷のこと源氏のこと、今までのことが頭を駆け巡ったことだろう。

 ②冷泉帝は源氏のことをどう思ったのか。
  →実父と知って直ぐに肯定できたのだろうか。不実な男として反発はなかったのだろうか。

 ③譲位をほのめかす冷泉帝。とんでもないと言い聞かせる源氏。

17.帝、皇統乱脈の先例を典籍に求める
 〈p45 帝は、王命婦に詳しいことをお尋ねになりたくて、〉

 ①帝は密通の先例を調べる。源氏に聞きたいがそれはできない。自分で調べる。
  唐土には多い。日本には正式にはない。
  →この辺微妙である。脚注14の解説をよく読んでおきたい(業平が出てくる)。

 ②一人で漢籍を必死に読んで先例を調べる。
  →冷泉帝はよくできた人だと思う

 ③事実と史実
  秀吉 X 淀君 = 秀頼 のことが思い浮かぶ

18.源氏、帝意に恐懼 秘事漏洩を命婦に質す
 〈p46 秋の司召しには、源氏の君を太政大臣に〉

 ①秋の司召で源氏、太政大臣に。この時冷泉帝は自分が秘密を知ったことを源氏に漏らす。
  →どのように言ったのであろうか(書いて欲しかった)。

 ②暗黙の親子の名乗りの場面
  →帝位はそのままで(源氏が実父であることを二人の暗黙の了解として)二人で国事を行っていくことで落ち着いた。妥当な着地点であろう。

 ③源氏、王命婦に間接的に問い質す。王命婦は藤壷は漏らしていない(まして私をや)と答える。
  →源氏は僧都が密奏したとは考えなかったのだろうか。もし僧都の密奏を知ったらどうしたのだろう。

冷泉帝が事の真相を知ることになる場面、物語の構想としてはどうしても必要で僧都の密奏とはよく考えたものだと思います。

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