朝顔(9・10) 紫の上と女君を語る・藤壷夢枕に

p44 – 54
9.雪の夜、紫の上と昔今の女の評をかわす
 〈p87 雪がたいそう降り積もった上に、〉

 雪の夜の紫の上との語り合い→興味深い場面です。
 ①「すさまじき例に言ひおきけむ人の心浅さよ」とて、御簾捲き上げさせたまふ
  →枕草子攻撃の一つ 「すさまじきもの、、、師走の晦日夜、、、」(23段)
  →御簾捲き上げさせたまふ も香鑪峰の雪は御簾をかかげて看るを引いている。

 ②童べおろして雪まろばしせさせたまふ
  →これも枕草子を意識している。枕草子がさも重要行事と言ってるのを 世に古りたることなれど と軽くいなしている。

 ③先ず藤壷のこと 
  やはらかにおびれるものから
  →脚注で情交を暗示とあるが、ここから情交を読み取るのは難しいのではないか。

 ③次に前斎院(朝顔)
  →六条御息所亡きあとプラトニックに心を通わせられる姫君はこの人ただ一人

 ④紫の上の方から尚侍(朧月夜)のことを持ち出す。
  →さすがの源氏も賢木で見つかって以来逢えていないのだろう(朧月夜からのアタックも途絶えている。二人して大人になったということか)。

 ⑤明石の君のこと
  →源氏は徹底して明石の君の身分の低さを紫の上に刷り込む。源氏の真情の裏返しでもあろう。

 ⑥花散里のこと
  →二条東院に居る女君の内この人だけが六条院に移る。
   今はた、かたみに背くべくもあらず、深うあはれと思ひはべる
   →ちょっと言い過ぎではないか。

 ⑦紫の上 こほりとぢ石間の水はゆきなやみそらすむ月のかげぞながるる 代表歌
  →紫の上の歌はいつも哀しい。私は物語中屈指のいい歌だと思っています。

 ⑧そして源氏は藤壷のことを思い出している
  かきつめてむかし恋しき雪もよにあはれを添ふる鴛鴦のうきねか

 この段脚注の総括をよく読んでおきましょう。

10.亡き藤壷の宮、源氏の夢枕に立って恨む
 〈p92 源氏の君は御寝所にお入りになられても、〉

 名場面と言うより重要場面です。
 ①藤壷は未だ成仏せず中空をさまよっている。密通の大罪のせいだろうか。

 ②この夜紫の上と共寝している。源氏が何やらうなされて泣いているのを見れば紫の上も一睡もできなかったのではなかろうか。

 ③源氏 藤壷を想っての独詠
  とけて寝ぬ寝覚めさびしき冬の夜に結ぼほれつる夢のみじかさ
  →共に寝ている紫の上のことは忘れて藤壷を想う源氏。紫の上とは馴れ親しみ過ぎてその良さが分からなくなったのか。

 段末の脚注にあるとおり本巻は朝顔のこともあるが(巻名は朝顔だが)薄雲で亡くなった藤壷を鎮魂する巻と位置付けられています。 
 

カテゴリー: 朝顔 パーマリンク

4 Responses to 朝顔(9・10) 紫の上と女君を語る・藤壷夢枕に

  1. 青玉 のコメント:

    清少納言を意識し所々に対抗意識を折り込んでいるのが面白いですね。

    それにしても夜語りに過去、現在の女性を引き合いにするという神経は信じられません。
    二人の会話に嘘寒いむなしさを感じます。
    紫の上の和歌 こほりとぢ石間の水はゆきなやみそらすむ月のかげぞながるる 
    彼女の悲痛な心の叫びが聞こえます。
    源氏の心は藤壺で占められている・・・
    紫の上よ、怒りなさいませ。つくづく哀れな女性です。

    共寝をしていても夢枕に立つのは藤壺。
    これでは紫の上も浮かばれません。

    ここで確認したいのは藤壺との密事、一切紫の上には打ち明けていないし又紫の上も感づいてはいないのですよね。

         断ちがたき思ひ秘めにしいくとせぞ
            君忘るるやあさがほの花

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.おっしゃる通り、今一番大事な人に向って昔今の女性の話をする源氏の心の内が全く分かりません。一夫一婦の夫婦関係にある我々には理解不可能じゃないでしょうか。源氏物語の世界として考えてみてもちょっと異常ですね。紫の上が優しすぎるのでしょうか。

       物語的には朝顔の君を登場させ藤壷鎮魂を描いた巻で藤壷もこれにて登場しなくなります。一つの切りだと思います。

      2.藤壷との密事は紫の上には一切打ち明けていないし紫の上も感づいていません(それ以外の読み方はないと思います)。

      3.和歌、いいですね。ここでの君は藤壷、正に鎮魂歌だと思います。そうです、もう藤壷は忘れていい頃じゃないでしょうか。

  2. ハッチー のコメント:

    今、いわゆる、早めの夏休み、実は毎日休みに近いのですが、にて、遊びに出かけてきています。

    清々爺の解説、実にわかりやすく、かつ深いものがあり、異国にいるせいもあるかもしれませんが、今までになく(失礼)面白く読ませてもらいました。物語もいよいよ佳境に入ってきたということでしょうか?源氏物語の深みを再確認させられました。

    そして、青玉さんのコメント、自分ではこうは書けませんが、全くそのとおりと思います。やはり源氏物語は、面白くよく構想が練られた名作なのでしょう。

    • 清々爺 のコメント:

      海外からのコメントですか。ありがとうございます。

      私の解説を褒めていただき嬉しいです。私のブログはあくまで「道しるべ」として登山道に案内板をかけたり、フォトスポットを案内したり、時には若干登山道を手直ししたり、、、というだけであくまでフォローいただく皆さんが自ら上り自ら絶景を楽しむお手伝いができればと思っているものですから。そうは言っても自分の読み方を強調したりチャランポランで反省はしてるんですが、、、。まあそんなことでご勘弁ください。おっしゃるように源氏物語は名作です。いっしょに楽しん読んで行きましょう。

      せっかくの海外旅行、紫の上の苦悩などしばし忘れ、奥さま孝行に専念あそばせ。

コメントを残す