人物談義(10) 花散里・秋好中宮

少しマイナーな女君です。
【花散里】
 ①花散里=評価:良 好き嫌い度:好き
  →丸っこくておっとりしていて包容力ある感じ。夏みかんのイメージ、好きです。

  花散里 歌6首 代表
   その駒もすさめぬ草と名にたてる汀のあやめ今日やひきつる(蛍)

 ②橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ(源氏@花散里)
  初夏五月、花橘が香り五月雨、ほととぎす、ほたる、、。
  「夏は来ぬ」の世界です。「花散里」という名前が実にいい。

 ③源氏との色恋は語られないが何と六条院の夏の町をいただき、夕霧・玉鬘の母親代りに役割をおおせつかる。これはすごい!
  →源氏も紫の上も花散里には心を許したのであろう。家事をよくする家庭的な人。

 ④「源氏とは閨を共にすることがない」ということが何度も強調される。
   今はあながちに近やかなる御ありさまももてなしきこえたまはざりけり(初音)
   いかで東の御方、さるものの数にて立ち並びたまへらむ(野分)
  →そんなに器量が悪かったのだろうか、、、紫の上や玉鬘に比べるとそうであろうが。 

【秋好中宮】
 ①秋好中宮=評価:良 好き嫌い度:好き
  →この人人生苦労したろうな、、と思います。でも中宮になって素直に生きているところが好ましいです。

  秋好中宮 歌7首 代表
   こてふにもさそはれなまし心ありて八重山吹をへだてざりせば(胡蝶)
  →紫の上との春秋争いは面白かった。「秋好中宮」なんて最初変な名前だと思ったけど馴れてみるとけっこういい感じ。

 ②何と言っても出自がすごい。六条御息所の娘、即ち先東宮の遺児。6年間も伊勢に斎宮に行き朱雀帝のために神に仕える。
  →朱雀帝がご執心だったのも無理はない。6年間の伊勢時代、何を思って生きていたのだろう。

 ③帰京後母が死に藤壷と源氏の計らいで冷泉帝妃に。後中宮にまでなる。
  →母が果たせなかった道を見事に歩いた。このストーリーもすごい。

 ④六条院秋の町、御息所思い出の場所、を里とする。
  →紫の上との春秋争い、秋好中宮は紫の上に勝ちを譲ったように思うのだが、、。

 ⑤冷泉帝と仲睦ましく、薫を養母として可愛がる。この辺も好ましい。
  →冷泉帝との間に子どもができなかったのが何とも、、、。

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人物談義(9) 明石の君・明石の入道・明石の尼君・明石の女御

【明石一族】まとめて考えてみました。
 ①明石の入道=評価:良 好き嫌い度:好き 尼君=評価:良 好き嫌い度:大好き
 明石の君=評価:優 好き嫌い度:好き 姫君(中宮)=評価:良 好き嫌い度:好き
  →明石一族、好きです。素晴らしい。これも入道の徳のいたすところでしょう。

  明石の入道 歌5首 代表
   ひとり寝は君も知りぬやつれづれと思ひあかしのうらさびしさを(明石)
  明石の尼君 歌7首 代表
   身をかへてひとりかへれる山里に聞きしに似たる松風ぞ吹く(松風)
  明石の君 歌22首 代表
   年月をまつにひかれて経る人にけふ鶯の初音きかせよ(初音)
  明石の姫君 歌4首 代表
   秋風にしばしとまらぬつゆの世をたれか草葉のうへとのみ見ん(御法)

 ②明石の入道、この人物設定が実にいい。大臣家の出自ながら宮仕えに気がそまず播磨守に成り下がりそこで再起を期す。桐壷更衣のいとこ。桐壷更衣の果たせなかった夢(子孫を皇位につける)を明石の姫君が東宮を生むことで果す。住吉大社が一族の守り神社。

  清廉潔白・高貴朴訥・高潔 爽やかなイメージの男である。あくどい受領の面影はない。
  ・尼君、明石の君、姫君と別れ播磨に残るシーン(松風)
  ・姫君が天子の子を産んだと聞き願いが叶ったとして山に身を隠すシーン(若菜上)
  →涙ながらのシーンでした。ここは入道大好きな式部さんに語ってもらいましょう。

 ③明石の尼君 家族思いの素晴らしいお母さん、お婆さん。頑固一徹の入道をうまくコントロールしバランスがとれた考えの持ち主。幸せ者の典型と目され近江の君がいい賽の目と出そうと「明石の尼君、明石の尼君」と唱えるところが面白い(若菜下)。

 ④明石の君 優れた人、賢い人、控え目な人、したたかな人
  出自的には源氏の妻にはなれない、召人扱いが精々。源氏が言い寄るのに躊躇したのも当然だろう。ところがうまく立ち振る舞い源氏を自邸に来させることに成功し、しかも娘が生まれる。これが大きい。
  →六条御息所に似ていると源氏に感じさせた明石の君、田舎にいながら教養抜群で源氏に一目おかせるような人物であったのだろう。
  →六条院に入っても紫の上を立て分を弁えひたすら姫君の幸せを考え行動した賢さには頭が下がります。一番頭がよかった女性は明石の君ではないでしょうか。

 ⑤明石の姫君(中宮) 女御として中宮としてバランスのとれたしっかりした人物
  養母紫の上を慕い最後まで礼を尽した。 
  →紫の上臨終の場面、中宮に手をとられて身罷るシーンは印象的でした。

  宇治十帖でも夕霧とともに重要な脇役として登場。
  (明石の中宮=匂宮の母、薫の異母姉)

明石一族の明石物語、まともな人たちによるまともなサクセスストーリーで源氏物語を盛り立ててくれたと思っています。

(月~水 会津~裏磐梯に行ってきます。「八重の紅葉」です。返信遅れます。ご容赦ください)

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人物談義(8) 朧月夜

【朧月夜】
 ①朧月夜=評価:良 好き嫌い度:好き
  →丁度空蝉とは逆のイメージでしょうか。お酒に酔って登場するのはこの人だけでしょう。

  朧月夜 歌9首 代表
   うき身世にやがて消えなば尋ねても草の原をば問はじとや思ふ(花宴)
   →契った直後の艶めかしい返歌
   →藤原俊成は「花宴」を絶賛し「源氏見ざる歌よみは遺恨のことなり」と述べている。

 ②「花宴」私はこの短い巻が大好きです。華やかで艶めかしい。
  宮中南殿での桜の宴の後、藤壷を求めてそぞろ歩く源氏にほろ酔い機嫌の女性が近づく。
   照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき(大江千里)
  →女性が口遊んだ歌から名付けられた「朧月夜」、、、いい名前です。
  →細殿(渡り廊下)での契りの場面、、「すげぇなあ」としか言いようがありません。

 ③朧月夜は右大臣の六の君・弘徽殿女御の妹。朱雀帝への入内が決まっていた。そんな女性を源氏がモノにした。
  →藤壷との密通ほどではないですがこの狼藉ぶりも相当なものである。

 ④源氏と朧月夜はその後も密会を続け遂に右大臣邸で右大臣に見つかる。(賢木)
  →この場面、面白かった。源氏のふてぶてしさと右大臣の気の弱さを感じました。

 ⑤朧月夜をめぐる朱雀帝と源氏の三角関係も何とも奇妙、異常。
  →朱雀帝は朧月夜が余程好きだったのでしょう。それだけ朧月夜が「いいオンナ」だったのだろうと推測されます。

 ⑥賢木での密会発覚の15年後、源氏が朱雀院出家で里下がりした朧月夜を二条宮に訪ねて行く場面も凄かった。迫る源氏、拒みながらついには受け入れてしまう朧月夜。(若菜上)
  →これは女性作家紫式部ならではの情念場面ではないでしょうか。

 ⑦朧月夜は源氏を煩わしく思い出家。驚く源氏、未練たらたらの源氏。先ずは自分のことを祈ってくれと頼む源氏に対し出家した朧月夜はサバサバした感じで「他の人といっしょにアナタのことも祈ってあげるわ」と言い放つ。(若菜下)
  →寂聴さん絶賛の場面。私は源氏がいささか可哀そうに思いました。

 ⑧朧月夜、色っぽい女ランキングではやはり第一位でしょうか。
 「心弱い女」「奔放な女」「自分に忠実に生きた女」、、、色々に言われています。
  →寂聴さんの言われる六条御息所ほどではないですが、「もし源氏物語に朧月夜が出て来なかったら物語はずっと華やかさの欠ける地味なものになっていたのでは、、」と思っています。

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人物談義(7) 葵の上・六条御息所

「葵」「賢木」は重厚で読み応えがありました。

【葵の上】
 ①葵の上=評価:並 好き嫌い度:嫌い
  →やっぱり素直に心を開いてくれない女性は好きになれません。

  葵の上 歌なし!!
  →何と歌が詠まれていない。紫式部の意図だと思うのですがなんぼなんでもそれは可哀そうに思います。

  物の怪が葵の上の口を借りて詠んだ歌:
   なげきわび空に乱るるわが魂を結びとどめよしたがひのつま(葵)

 ②葵の上は源氏より4才年上、源氏12才葵の上16才の時添い臥しのような形で夫婦になる。桐壷帝と左大臣による政略結婚でした。
  →夫婦になったと言っても形だけのものだったのだろうか。全く心が通っていない。
  →やはり日々歌を詠み合いお互いが打ち解けるべく努力しないとラブラブ夫婦になれない。
  →源氏も源氏なら葵の上も葵の上という感じ。一旦歯車が狂うと修復が難しい。

 ④疎遠な仲が続く内に源氏が二条院に姫君(紫の上)を引き取ったとの噂が耳に入る。
  →葵の上にはつらかったろう。勝手にしてよ(自分も勝手だが)と思ったのでは。

 ⑤結婚9年目葵の上23才の時初めて身籠り夕霧を出産。
  →六条御息所との車争い~物の怪に取り殺されるシーンは圧巻だった。
  →妊娠~出産と源氏との心の交流が通い始めたのだが、、、、遅かった。。

【六条御息所】
 ①六条御息所=評価:良 好き嫌い度:普通
  →すごい設定の女性。好きか嫌いかと言われると葵の上同様苦手な方です。

  六条御息所 歌11首 代表
   袖ぬるるこひぢとかつは知りながら下り立つ田子のみづからぞうき(葵)
   →誇り高き六条御息所が陥った恋の泥沼、、、。切実な歌です。

 ②前東宮の未亡人、世が世なら中宮にもなろうという身分だった六条御息所。源氏とわりなき仲になるがその恋は成就しない。
   →身分が全てを決する平安貴族社会、然も美貌も教養も抜群、六条御息所は最高の女性だったのでしょう。
   →その誇り高いところが却って源氏との仲の妨げになる。難しいものであります。

 ③「もし六条御息所がいなかったら源氏物語はもっと薄っぺらなものになっていたでしょう」(寂聴さん)
  ・葵の上との車争い
  ・物の怪になって出産近い葵の上を苦しめる場面
  ・源氏との野宮の別れ
  ・娘(秋好中宮)には手を出してくれるなと訴える死に際の場面
  ・死しても霊となって紫の上に憑りつき苦しめる場面
  →確かに源氏との腐れ縁はこれでもかと言う程すごいものがありました。

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人物談義(6) 末摘花・源典侍

【末摘花】
 ①末摘花=人物評価:劣 好き嫌い度:嫌い
  →紫式部の筆に乗せられた感じですがどう考えても人物的について行けません。

  末摘花 歌6首 代表
   からころも君が心のつらければたもとはかくぞそぼちつつのみ(末摘花)
   →「からころも」ばかりに閉口した源氏の歌が面白かった。
   唐衣またからころもからころもかへすがへすもからころもなる(行幸)

 ②没落皇族(と言っても父常陸の宮が亡くなっただけのようだが)の娘、これも雨夜の品定めで「中の品の女」と品定めされた範疇。荒れたる屋敷にひっそりと住む女性、そういうのに素晴らしい女性がいる! そう聞かされてきた源氏には乳母子大輔命婦の持ちこんだ話に有頂天になったのではないか。
  →大輔命婦と源氏のやりとりが滑稽で面白かった。

 ③頭中将との恋のさやあてはお愛敬。
  →ライバル同士には女性そのものもさることながら、ライバルに勝つことが目的になる傾向あり。宇治の姫たちをめぐる薫と匂宮も同様。

 ④それにしても屋敷の荒れよう、末摘花の容貌・仕草・態度、女房の質の悪さ、性悪叔母の登場、役立たずの兄(醍醐の阿闍梨)。よくぞここまで醜悪に書いてくれました。

  、、、あなかたはと見ゆるものは鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ
  →この一文は忘れられない、源氏物語に違った意味での彩を添えていると思います。

 ⑤末摘花、いくらなんでもお粗末なお人ですね。そんな女性でも何度か通った女性は面倒を見る。蓬生で源氏が夜露を振り払いながら末摘花を訪れるシーンは感動的でした。そして二条東院で末永く庇護する。これも読者サービス、源氏はえらい!と思わせてくれます。

【源典侍】
 ①源典侍=評価:劣 好き嫌い度:嫌い
  →面白いのですがこういう目立ちたがり屋、嫌いというより敬遠申し上げたくなります。

 源典侍 歌6首 代表
  君し来ば手なれの駒に刈り飼はむさかり過ぎたる下葉なりとも(紅葉賀)
  →この時おん年57~8才、熟女と言おうか老女と言おうか。

 ②源氏との濡れ場に頭中が踏み込む場面には唖然としました。
  「ふるふふるふ」「あが君、あが君」は頭に焼き付いています。
  →読者の女房たちも声をあげて笑ったのではないでしょうか。

 ③この源典侍、琵琶をよくし漢籍にも通じ美声で催馬楽を口ずさみ源氏と丁々発止やりあう。実は教養ある優れた宮廷女官だったのでしょう。モデルは紫式部の義理の姉、源明子と言われてますがどうなんでしょう。

 ④紫式部、どういう訳か源典侍をお気に入りで葵祭りの時(葵)に再登場しさらに70才で朝顔の巻に出て来たときにはギョッとしました。
  →これも読者サービスかも知れません。「源典侍は今!」なんてね。

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人物談義(5) 紫の上 ‐ 紫のゆかり

【紫の上】
 ①紫の上=評価:優 好き嫌い度:大好き
  →私は何と言っても紫の上が大好きです。女の鑑、もし私が女ならかくありたいと思っています。 
 紫の上 歌23首 代表
  かこつべきゆゑを知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるなん(若紫)
  →紫の上の歌は哀しい切ないものばかり。10才初出の歌、初々しいじゃないですか。

 ②「雀の子を犬君が逃がしつる、伏籠の中に籠めたりつるものを」
  初登場の場面がいいですねぇ。夕顔を亡くしわらわ病にもかかり傷心の源氏にパッと光明がさした感じでした。この女の子なら源氏を幸せにしてくれる!そう思ったものでした。

 ③若紫の巻、紫の上登場の前に明石の君のことが語られている。実に含蓄深い伏線ではないでしょうか。源氏が自分好みの女性に育てあげた紫の上、源氏の期待とおりのよくできた女になったと思います。

 ④ところが正式な結婚をしてなくてなしくずし的に第一夫人になってしまった紫の上。結局これが後の不幸を生むことになる。
  →葵の上が亡くなり最初に契ったあたりで桐壷帝も兵部卿宮(紫の上の父)も巻き込んで正式に結婚すればよかったのに、、、。

 ⑤それにしても紫の上の一生は次々に現れる源氏の女問題に悩まされ耐え続けた一生と言えましょう。
  ・先ず明石の君。身分的には劣るが何と言っても源氏の娘を生んだ、これは負けます。
  ・次いで朝顔の宮。朝顔が振ってくれたからよかったものの、もし結婚してたらみじめだった。この結婚話くらいから紫の上の悩みは深刻になった。
  ・そして血縁の女三の宮(従姉妹にあたる)
   
 ⑥女三の宮の登場にはゾッとしました。六条院春の町の寝殿を女三の宮に譲って東の対に移る。女楽では女三の宮を立て下位の席に座る。可哀そうで涙が出ました。

 ⑦結局紫の上は幸せだったのか、不幸だったのか。
  →人間の幸せ不幸せ、そう単純に決められないでしょう。私は生きている役割を果たした紫の上は幸せだったと思います。

 ⑧明石の君との折り合いの付け方、明石の姫君を引き取り実子のように可愛がり育てた紫の上。普通なら敵対しそうな関係なのにうまく自分を納得させた生き方は賢明でした。
  →臨終の場面、源氏ではなく明石の姫君(中宮)に手をとられて息を引き取った。安らかな大往生だったと思います。

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人物談義(4) 藤壷との密通 もののまぎれ

【藤壷】
 ①藤壷=評価:良 好き嫌い度:普通
  藤壷 歌12首 代表
   世がたりに人や伝へんたぐひなくうき身を醒めぬ夢になしても (若紫)
   →密通後の源氏の贈歌(見てもまた、、)への返歌。大変なことをしてしまった!

 ②「紫のゆかり」「もののまぎれ」、源氏物語第一部のトップストーリーでしょう。桐壷更衣が亡くなった後その更衣にそっくりな人として藤壷が登場するのだが先帝の四の宮なら桐壷帝も先刻ご承知だった筈。チト不思議に思い勘ぐってみました。
  →気の強い弘徽殿女御にちょっと嫌気がさして身分の低い桐壷更衣に癒しを求めた桐壷帝。その更衣が亡くなり回りを見渡したところ、いましたいました、先帝の四の宮が。これで弘徽殿女御・右大臣家の勢いを削ぎ親政ができる、、、桐壷帝は政治的にそう考えたのではないでしょうか。

 ③藤壷との密通場面(若紫13)は凄かったですねぇ。病気で里下がりしてきている藤壷の寝所に手なづけた女房(王命婦)の手引で侵入する。省筆ながら行間を読むにちょっと考えられない異常な官能場面だったと言えましょう。

 ④生まれた皇子を挟んでの桐壷帝-藤壷-源氏の三角関係は見どころでした。ともあれ桐壷帝は皇子を生んだ藤壷を中宮にして皇子を次の次の天皇にする手筈を整え譲位する。そして藤壷と皇子の後見を源氏に託す。見事な「賜姓源氏の物語」の進め方だと思いました。

 ⑤藤壷は皇妃それも中宮なのであまり露骨な人物描写は控えられていますが皇女でありながら「強い人」「しっかりした人」だと思います。しっかり桐壷帝に寵愛され中宮の地位を獲得し源氏の恋慕を巧みに交しつつ(溺れてしまっては終わり)源氏の庇護を得て国母になる。
 →姪であり朱雀帝の皇女だった「女三の宮」の頼りなさとは大違いですねぇ。

 ⑥藤壷の身体描写(容貌・顔立ち・身体つきなど)は遠慮してか書かれていません。賢木で源氏が迫る場面で脱ぎすべらした御衣ともども黒髪をとられて抱き寄せられる場面、エロっぽい所ですがそれ以上の描写はありません。
 
 ⑦「かかやく日の宮」と称された藤壷、源氏は藤壷のどこに一番魅せられたのでしょう。
  ・母似だった(と言われてた)から
  ・帝の妃だから
  ・父の妻(義母)だから
  →よく分かりませんが普通に考えて帝妃という身分ステイタスじゃないでしょうか。母に似てるからとかましてや義母だからなんて近親相姦嗜好などはなかったと思います。

 何れにせよ私には別世界で好き嫌いを言えるお人じゃありませんが、苦手というかちょっとゴメンなさいというタイプかと思っています。

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人物談義(3) 空蝉と夕顔 ‐ 雨夜の品定め

【雨夜の品定め】
G17年5月梅雨の長雨の頃物忌みで宮中は静まりかえっている。若き源氏も手持無沙汰(実は前夜には藤壷との最初の密会がありボオーッとしてたらしいのだが)、その源氏の宿直所(桐壷か)に友だちの頭中将が現れ左馬頭と藤式部丞が加わり女性論議になる。そこで話される「中の品の女」、、、これが源氏物語の一方の流れを形作っていく。
 →「紫のゆかり」だけでは面白くない。中の品の女性への恋の冒険、これで源氏物語はパッと明るくなりました。
 →「雨夜の品定め」で話される話自体は全く面白くなく何も頭に残ってませんが。

【空蝉・軒端荻】
 ①空蝉=評価:並 好き嫌い度:嫌い(苦手) 軒端荻=これは評価外でしょう。
  空蝉 歌7首 代表
   空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびにぬるる袖かな(空蝉)
  軒端荻 歌1首
   ほのめかす風につけても下荻のなかばは霜に結ぼほれつつ(夕顔)

 ②雨夜の品定めのつまらない話から一転して「中の品の女性」第一号空蝉が登場する場面はエキサイテイングだった。部下筋の伊予介の人妻を方違えにかこつけて襲う、最初の官能シーンでドキドキしました。文章も何故かスラスラ読めたものです。

 ③それにしても空蝉は固い固い、カチンコ。紫式部自身になぞらえられていると言われてますがそうですかねぇ。源氏二度目の侵入の時継娘軒端荻を放って逃げたのはいかがなものでしょう。
  →どうもこのあたり好きになれません。嫌いというより苦手という感じです。
  →後に出家して二条東院で源氏の庇護を受けて暮らしたというのは読者サービスでしょうか。

 ④軒端荻は碁打ち覗き見シーンのグラマラスな女性というだけでした。
  →「いと白うをかしげにつぶつぶと肥えて」忘れられない場面です。

【夕顔】
 ①夕顔=評価:良 好き嫌い度:好き
  夕顔 歌6首 代表
   心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花(夕顔)
  →夕顔の人物議論、やりましたね。先日来の浮舟論議とよく似てると思います。
  →「浮舟は夕顔の再来」とも言われる所以です。

 ②「夕顔」は面白かった。私はここまで来て源氏物語の面白さに憑りつかれ引き返せなくなりました。

 ③某の院への恋の逃避行。物の怪の登場。右近と惟光の活躍。
  →若き源氏が経験した初めての修羅場。「源氏よガンバレ!」と叫んだものでした。

 ④五条下町の夕顔の宿の庶民生活の描写は新鮮でした。蕉風俳諧の風情。逆に芭蕉は「奥の細道」福井の所で夕顔のこの部分を下敷きに一文を創作しています。

 ⑤そして何と言っても夕顔は玉鬘の母。夕顔の面影は玉鬘を経て浮舟へと繋がっているのだと思っています。

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人物談義(2) 光源氏と頭中将

【光源氏と頭中将】
源氏と頭中、この二人のコンビが実にいい。青春時代は恋のライバルで友だち、長じては政治的ライバル。でも頭中は何ごとにつけても絶対に源氏に敵わない。そういう呼吸が何とも読み心地がよかったと言えましょう。

 ①源氏=人物評価:優→秀 好き嫌い度:大好き 頭中将=人物評価:良→優「 好き嫌い度:大好き
  →当然でしょう。嫌いな所もあるが圧倒的に好ましいところが多い。源氏が好きじゃなくっちゃこんな長いお話読んでおられないでしょう。

  源氏 歌221首(さすが断トツ) 代表歌
   大空をかよふまぼろし夢にだに見えこぬ魂の行く方たづねよ(幻)
   →迷いましたが紫の上を偲ぶこの歌にしました。やはり一番愛していたのは紫の上でしょうから。

  頭中 歌16首 代表歌
   たづがなき雲居にひとりねをぞ泣くつばさ並べし友を恋ひつつ(須磨)
   →須磨に源氏を訪ねた時の歌。男の友情でしょう。

 ②光源氏のモデルとされるのは源融、源高明、在原業平、元良親王、藤原道長など枚挙にいとまなしですが、よくぞこんなスーパーヒーローを生み出したものだと感心します。男性なら誰しも光源氏になってみたいと思うでしょうし、女性なら誰しも光の君に想われてみたいと思うのではないでしょうか。

 ③物語中源氏と関係があった女君(女房・召人クラスは除く但し源典侍含む)は13人。
  葵の上、藤壷、空蝉、軒端荻、夕顔、六条御息所、末摘花、朧月夜、紫の上、源典侍、花散里、明石の君、女三の宮

  一番愛したのは紫の上、
  一番好きだったのは朧月夜、
  一番苦手だったのは六条御息所(僅差の二番目が葵の上か)

  だと思いますがいかがでしょう。

 ④物語中源氏が女君のことで残念に思ったのは、
  一番目が藤壷が出家してしまったこと
  二番目が朝顔と関係を結べなかったこと
  三番目が女三の宮をもらってしまったこと
  、、、、まあ色々ありました。

 ⑤頭中は源氏との恋のライバル関係を繰り広げた青春時代がいいですねぇ。
  右大臣の四の君を正妻とし(娘は弘徽殿女御)、他の女性関係もお盛ん。娘として玉鬘(母夕顔)、雲居雁(母按察大納言の北の方)、近江の君が登場。息子も長男柏木を始め子沢山、源氏も子宝という点では頭中に敵わなかった。

 ⑥それにしても頭中の子どもたちは源氏(と夕霧)になんと深く関わっていくことでしょう。玉鬘は一大物語を展開するし雲居雁と夕霧の恋物語、それと何と言っても柏木の密通。青春時代も壮年時代も頭中なくして源氏物語は語れないということでしょう。

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人物談義(1)桐壷帝と桐壷更衣、左大臣と右大臣

[お知らせ]
右欄の「源氏百首」「源氏物語 名場面集」「青玉源氏物語和歌集」、夢浮橋までアップ完了しました。これが最終リストとなります。万葉さん、ありがとうございました。

お蔭さまで予定通り2年間で何とか夢浮橋までたどり着きました。さすがに長かったです。「源氏物語は長すぎることが不幸だ」(折口信夫)と言われますが実感です。こんなに面白いのにこんなに意味深いのに長すぎる故に完読されることは滅多にない。つくづく不幸だと思いました。

2年間結構全力投球だったので疲れました。へとへとになりました。このままでは肩が壊れそうなのでクールダウンが必要です。2年間の熱戦を振り返りつつごくごく気楽に源氏物語のアレコレをみなさんと語り合えればと思います。苦労して読み通したからこそできる気持ちのいいウイニングランとでも言いましょうか。

3カ月のクールダウン1日おきのペースで前半は登場人物談義、後半は人物以外の観点からの諸々と考えています。私の書き振りは断片的で平仄無視のバラバラになると思います。どうぞ自由気ままに思うところを書き込んでください。

さて先ずは人物談義です。一応物語順に主だった人を取り上げて感じたことを書いていきます。読み返しなどしないで記憶と直感のみです。的はずれも多いかと思いますが大目に見てください。

それぞれの人物に私としての評価ランクと好き嫌い度をつけました。単なる余興です。恐らくみなさんそれぞれに評価は違うと思うので面白いかもしれません。
(評価は人物総合評価です。女性なら容貌・教養・性格、男性なら能力・実行力・人格ってなとこでしょうか。身分・境遇は関係ありません。好き嫌い度は勿論私の勝手によるものです)
(人物評価:優・良・並・劣・悪 好き嫌い度:大好き・好き・普通・嫌い・大嫌い)
 →(後で提案あり、源氏は別格として「優」より上の「秀」とした) 

【桐壷帝と桐壷更衣】
 ①桐壷帝=評価:並→良 好き嫌い度:普通  桐壷更衣=評価:並 好き嫌い度:普通
  桐壷帝 歌4首 代表歌
   たづねゆくまぼろしもがなつてにても魂のありかをそこと知るべく(桐壷)
  桐壷更衣 歌1首のみ 
   かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり(桐壷)
   →物語最初の歌として秀逸、源氏よ頑張って生きて欲しいとの想いが伝わる。

 ②「天皇の純愛は罪であった」なのに桐壷更衣をひたすら愛した桐壷帝。そのゆがみから物語が書き起こされる。桐壷帝、賢帝であり聖代を築いていた。我らがヒーロー源氏の父としては及第点でしょう。源氏を臣籍に下したのも正解、これで物語は縦横無尽となったのですから。

 ③第一后であった弘徽殿女御とはどれ位の仲だったのか、東宮の母でありながら何故中宮にしなかったのか。逆に藤壷との愛は左程に強いものであったのでしょうか。

 ④桐壷帝は源氏と藤壷の密通を知っていたのか?
  →読者それぞれの読み方次第でしょう。私もある時はYES,ある時はNOであります。

 ⑤桐壷更衣、母恋物語の原点としての位置づけ。「かぎりりとて、、、」の歌は迫力満点。いじめには屈したものの強い女性であった。自ずと桐壷帝の愛を得るにも相当な戦略と努力があったのでしょう。

 ⑥源氏物語を母恋物語と言うにしては源氏はこの母のことを左程思い出さない。ただ桐が薄紫色ということで紫のゆかり→藤壷へと繋がっている感じ。源氏は決してマザコン男ではないと思います。

【左大臣と右大臣】
 ①左大臣=評価:良 好き嫌い度:好き 右大臣=評価:劣 好き嫌い度:普通
  左大臣 歌1首のみ
   結びつる心も深きもとゆひに濃きむらさきの色しあせずは(桐壷)
   →源氏にかけた左大臣家の想い
  右大臣 歌1首のみ
   わが宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし(花宴)
   →この1首だけだが悪くない。招待を受け源氏も内心嬉しかったのだろう。 

  桐壷帝の下政権争いを繰り広げた左大臣と右大臣。平安王朝の権力争いの様子がよく分かります。物語の論調は当然源氏側の左大臣がいい者、弘徽殿女御側の右大臣がわる者です。

 ②左大臣は葵の上を何故東宮に入内させず源氏を婿に選んだのか。そりゃあスーパーヒーロー源氏の方がいいに決まってますが、左大臣には外戚として摂政関白になろうとの権勢欲はなかったのですかね。葵の上の死後も源氏に尽しまくるところなど好人物だと思います。源氏の須磨明石の不遇時代を支えたのも左大臣だったのでしょう。
  。。。大好きな大宮については夕霧・雲居雁の項で。

 ③右大臣は東宮(朱雀帝)の祖父で本来なら一番権力を振るえた筈だがおっちょこちょいで人望のない人物として描かれている。葵の上が亡くなった後朧月夜を源氏の妻にさせるチャンスもあったのに。源氏と朧月夜の逢瀬現場に現れ早口でまくしたてる所が何とも愉快。人物評価は落ちるものの憎めない男だったと言えましょうか。

(最初で長くなりました。次からはもっと短くします)

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