人物談義(2) 光源氏と頭中将

【光源氏と頭中将】
源氏と頭中、この二人のコンビが実にいい。青春時代は恋のライバルで友だち、長じては政治的ライバル。でも頭中は何ごとにつけても絶対に源氏に敵わない。そういう呼吸が何とも読み心地がよかったと言えましょう。

 ①源氏=人物評価:優→秀 好き嫌い度:大好き 頭中将=人物評価:良→優「 好き嫌い度:大好き
  →当然でしょう。嫌いな所もあるが圧倒的に好ましいところが多い。源氏が好きじゃなくっちゃこんな長いお話読んでおられないでしょう。

  源氏 歌221首(さすが断トツ) 代表歌
   大空をかよふまぼろし夢にだに見えこぬ魂の行く方たづねよ(幻)
   →迷いましたが紫の上を偲ぶこの歌にしました。やはり一番愛していたのは紫の上でしょうから。

  頭中 歌16首 代表歌
   たづがなき雲居にひとりねをぞ泣くつばさ並べし友を恋ひつつ(須磨)
   →須磨に源氏を訪ねた時の歌。男の友情でしょう。

 ②光源氏のモデルとされるのは源融、源高明、在原業平、元良親王、藤原道長など枚挙にいとまなしですが、よくぞこんなスーパーヒーローを生み出したものだと感心します。男性なら誰しも光源氏になってみたいと思うでしょうし、女性なら誰しも光の君に想われてみたいと思うのではないでしょうか。

 ③物語中源氏と関係があった女君(女房・召人クラスは除く但し源典侍含む)は13人。
  葵の上、藤壷、空蝉、軒端荻、夕顔、六条御息所、末摘花、朧月夜、紫の上、源典侍、花散里、明石の君、女三の宮

  一番愛したのは紫の上、
  一番好きだったのは朧月夜、
  一番苦手だったのは六条御息所(僅差の二番目が葵の上か)

  だと思いますがいかがでしょう。

 ④物語中源氏が女君のことで残念に思ったのは、
  一番目が藤壷が出家してしまったこと
  二番目が朝顔と関係を結べなかったこと
  三番目が女三の宮をもらってしまったこと
  、、、、まあ色々ありました。

 ⑤頭中は源氏との恋のライバル関係を繰り広げた青春時代がいいですねぇ。
  右大臣の四の君を正妻とし(娘は弘徽殿女御)、他の女性関係もお盛ん。娘として玉鬘(母夕顔)、雲居雁(母按察大納言の北の方)、近江の君が登場。息子も長男柏木を始め子沢山、源氏も子宝という点では頭中に敵わなかった。

 ⑥それにしても頭中の子どもたちは源氏(と夕霧)になんと深く関わっていくことでしょう。玉鬘は一大物語を展開するし雲居雁と夕霧の恋物語、それと何と言っても柏木の密通。青春時代も壮年時代も頭中なくして源氏物語は語れないということでしょう。

カテゴリー: クールダウン パーマリンク

10 Responses to 人物談義(2) 光源氏と頭中将

  1. 式部 のコメント:

     源氏も頭中将もいいですね。特に若い時の二人の競争、友情みんな好きです。二人とも大好きです。
     ③の13人のなかで源氏以外の男性とかかわりがあった女性は8人ですね。当時の貴族女性としては、これくらいの確率ですかね。
     ④に関連しますが、源氏にはその気があったのに、なんとなく手に入らなかった女性も三人います。 朝顔の宮、玉鬘、秋好中宮ですが、まあこれでよかったのでしょうね。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.なるほど13人中8人は源氏以外の男性とかかわりがありますね。ちょっと分析してみました。
       藤壷=皇妃 空蝉=部下の妻 軒端荻=後で人妻に
       夕顔=友人の元愛人 六条御息所=未亡貴婦人 朧月夜=東宮妃候補
       源典侍=恋多き宮中女房 女三の宮=唯一源氏が他男性に寝取られた女
       →よくぞこれだけ多彩なシチュエイションを描き出したものです。
       →女性の方も結構な割合で複数の男性と関わっています。武家社会の「二夫にまみえず」とは違いますね。

      2.朝顔の宮、玉鬘、秋好中宮。そうでしたねぇ。まあ一番の無理筋は秋好中宮だったでしょうが。。またその項で詳しくやりましょう。

  2. 青玉 のコメント:

    源氏(優→秀) (大好き)  頭中(良→優) (大好き)
    この二人の友情とライバル意識、良きにつけ悪しきにつけ、長所も短所も含めて丸ごと認めます。
    共感したり腹を立てたりしましたが振り返ってみれば懐かしく愛すべき人物です。
    子どものように可愛かったり憎らしかったり大人げなかったりさすが源氏と尊敬の念を抱いたり様々な感情が甦ります。
    源氏が頭中に差をつけられたのは子どもの数だけでしょうか。
    須磨に流謫と言う苦難を源氏は経験していますが頭中は割合と平凡ですね。
    頭中にも多少は花を待たせてあげてバランスがとれています。
    逢えるものならもう一度二人に逢いたい!!

    源氏にも苦手な女性がいたのは微笑ましいです。
    又源氏の意のままにならない女性がいたのも好ましく感じます。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      源氏と頭中。何ごとにも秀でた主人公とちょっと落ちるけど頑張り屋で微笑ましい副主人公。痛快小説お決まりの人物設定、そのお手本みたいなものでしょうか。
        →二人で青海波を舞ったとき「立ち並びては、なほ花のかたはらの深山木なり」と謂われたのが全てを物語ってますね。

      源氏は子どもの数で頭中に劣り悔しがっていましたね。でも子どもの夕霧は子沢山、源氏の溜飲も下がったことでしょう。
       →と思いきや夕霧の妻雲居雁も頭中の子どもでした。

  3. 青黄の宮 のコメント:

    ちょっと甘いかもしれませんが、頭中将は源氏には劣るものの、友情に厚くて男らしい立派な人物であり、人物評価を「優」に引き上げたいですね。というのは、頭中将に優を付けないと、優に値する男性の登場人物がいなくなってしまい、優は源氏だけとなりそうな気がするからです。ちょっと先走ってしまいますが、より具体的に言えば、高い人物評価を獲得しそうな惟光や明石入道よりも頭中将が劣る筈がないと思うからです。許されるなら、源氏は別格で優より秀でた「秀」、頭中将以下は「優」というのが収まりとして落ち着きが良いと考えます。

    朧月夜が一番好きだったという見方には異論はありませんが、源氏はその時その時に相手となっていた女性を一番好きになる傾向があり、藤壺とか夕顔も同様に一番好きな女性であった時期があるのではないでしょうか。

    夕顔の突然の死去も源氏が女君のことで残念に思ったことの上位3番目以内に来ると思いますが、如何でしょうか。

    • 清々爺 のコメント:

      誠に適切なコメントありがとうございます。さすがであります。

      1.源氏は別格の「秀」にしましょう。そもそも5段階なんてケチな相対評価をしようというのが間違ってて採点する方が窮屈になってしまってる感じですもんね。私も桐壷帝他ランクをそれぞれ引き上げることにします。

       →思えば小中校でつけられていた5段階の相対評価(それも5は全体の何パーセント真ん中の3は何パーセントと決められていた)は何だったのでしょう。愚かとしか言いようがないですね。

      2.式部さんも青玉さんも頭中は優・大好きとおっしゃってます。やはりこの二人のコンビがいてこその源氏物語青春篇ですもんね。頭中の配役設定も楽しみです。

      3.「源氏はその時その時に相手となっていた女性を一番好きになる傾向があり」、、、その通りだと思います。その意味ではずっと一緒に居た紫の上こそ一番好きだった筈ですが源氏も紫の上に自ら何度も語っているように「キミは別格だよ!」だったのでしょね。

      4.「夕顔の突然の死」、そうでした。夜が待てないほどに没頭していただけにショックだったでしょうね。源氏に直接聞いたら1位に上げるかもしれません。
       →そう言えば「葵の上の突然の死」もありましたけどこちらは冷静だったのかも知れません。

  4. ハッチー のコメント:

    皆さんのコメント大変楽しく読ませていただきました。桐壺帝も含めこれだけコメントのやり取りがあることは、素晴らしいです。

    頭の中将は皆さんと同じ意見です。

    光源氏について

    人物評価はスーパーヒーローにて”秀”で一致。ところで、秀が優より高い評価とは、認識ありませんでした。勉強になります。

    好感度は、”好き”です。爺が言うように誰もが成りたいと思う人物ではあると考えますが、いざ自分が成りたいかといわれると、才能もありすぎ、かっこよすぎて、自分とは遠過ぎる存在のようです。
    登場人物としては、教養や諸芸にも秀でユーモラスも行動力もあり、なくてはならない存在ですし、身分もかえりみず愛を大事に生き、相手も大切にするなどすばらしいと思います。
    ただ、女三の宮を降嫁のうえもらいながら、紫の上には出家させなかったことが、だから薫が生まれて物語的には大変面白い展開となるのですが、小生的には気に障るところでしょうか。
    あとは、出家・出家といいながら、なかなか実行できなかったことも、人間味にあふれ物語としては納得ですが、紫の上が亡くなった後時間を置かず出家できていれば大好きになったかと感じる次第です。

    源氏物語は”特秀”にて”大大好き”ながら、素直になりきれないハッチーより

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。源氏物語の評価は「特秀」で好き嫌い度は「大大好き」ですか。私と全くいっしょです。素晴らしい。

      光源氏が時にユーモラスというのもいいですよね。ホッとします。でもそれは総じて前半部分だけの気がします。女三の宮を妻に迎えた若菜以降はトーンががらりと変わりますもんね。明から暗、軽から重へ。青年時代の源氏と壮年~晩年の源氏を演じ分ける役者は難しいでしょうね。

  5. 進乃君 のコメント:

    何と言っても頭中将は若い時も老いてからも
    きっぷが良くて好いですね。
    今から振り返ってみると、源氏と頭中将の若いライバルどうしの
    展開の爽快さが なんと面白かったことか。
    似たようなsituationでも 薫と匂宮のライバル関係は
    爽快さが消え、獲物を得る事が目的の狩猟ゲームを
    やっているようで 感情移入が出来ませんでした。
    源氏と頭中将、この二人が大きく明るく、
    そして なによりも品も良いことで、物語に没入できたと思います。
    進乃君

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。全くおっしゃる通りだと思います。

      源氏と頭中、面白かったですねぇ。末摘花を取り合ったり源典侍でかちあったりいっしょに青海波を舞ったり須磨で感激の対面をしたり、、、。本当に読んでて楽しくなりましたもんね。それに引き替え宇治十帖は違いますよね。人間の弱さずるさ汚さ、、、そんな裏面が前面に出て来て痛快な物語ではなくなってますから。文学的には宇治十帖の方が上とも言われてますが我々が素人として楽しむには「光源氏の物語」の方が数段上だと思っています。
       →まあ宇治十帖まで苦労して読み通したからこそ言える感想ではないでしょうか。

コメントを残す