人物談義(19)乳母、乳母子、女房たち

乳母、乳母子、女房たち即ち女性の脇役たちです。男性に比べその数は圧倒的です。如何に源氏物語が女性いっぱいの華やかな物語であるかということでしょう。思いつくまま一口コメント的に思い出してみたいと思います。

先ず密通の手引き者から、
【王命婦】
 藤壷の侍女、乳母子、もののまぎれの協力者。あの密通場面、すごくリアルでした。
   命婦の君ぞ、御直衣などはかき集めもて来たる(若紫13)

 そして生まれた皇子に会えず嘆く源氏に対する返歌
  見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらむこや世の人のまどふてふ闇(紅葉賀)
  →源氏もこの人には頭が上がらなかったのではなかろうか。
  →窮極の「いろごのみ」の協力者とも言えようか。

【弁のおもと】
 玉蔓の侍女、髭黒を手引。
  →この真木柱の冒頭にはびっくりしました。喜ぶ髭黒、戸惑う玉鬘。

【小侍従 & 弁の君(尼)】
 女三の宮の乳母子と柏木の乳母子。二人で語らって柏木を女三の宮に手引き。
  →小侍従は女三の宮にどことなく似て抜けた感じ。
  →弁の君は薫に出生の秘密を明かす=第二部と宇治十帖を繋ぐ重要な役割。

源氏に関係する女房たち
【中務・中将】
 葵の上付きの侍女、源氏と情けを交す。その後紫の上に仕え源氏に係る。
 →源氏の召人・愛人たちであります。こういう世界だったのだなあと思うだけです。

【少納言の乳母】
 紫の上の乳母、ずっと母代り。須磨時代紫の上が留守を守れたのはこの人のお蔭であろう。
 →源氏が紫の上を連れ去る場面で戸惑いながら車に乗るところが印象深かった。

【宣旨の娘】
 明石の姫君の乳母、源氏が選りすぐりの教育掛りとして明石に送り込む。
 →田舎出の明石の君母子が京へ出て姫は中宮にまで上りつめる。宣旨の娘あってのこと。源氏はわざわざ宣旨の娘を訪問し、歌を交して明石下向を頼み込む。
  (宣旨の娘)うちつけの別れを惜しむかごとにて思はぬ方に慕ひやはせぬ(澪標)
 →この場面、姫を絶対立派に育て上げるとの源氏の熱意に感動しました。

【大輔の命婦】
 源氏の乳母子、源氏を末摘花へ手引 
 →この人、末摘花のことを知っていたのか知らずにか。面白かったです。

夕顔の右近
【右近】
 夕顔の乳母子、「夕顔」で惟光とともに大活躍、源氏に認められ紫の上の侍女に。
 執念で夕顔の遺児玉鬘を長谷寺椿市で探し出す。
 →私はこの右近が大好きです。「夕顔」でのこの人の活躍に魅せられて源氏物語を読み続ける決心がついたってものです。

さて、ここから宇治十帖です。
【右近】
 浮舟の乳母子。薫が匿った浮舟を突如襲った匂宮。
 ウソをつき続けて秘密は隠さねばならない。
 →ウソつき右近、大活躍でした。浮舟を親身に思いやるいい女房だと思いました。

【侍従】
 浮舟の侍女。匂宮と浮舟の対岸への逃避行に同行。浮舟に匂宮を勧める。
 →右近とのコンビは絶妙。時方とよろしくやるところも好ましい。
 →匂宮も目をつけている。浮舟の侍女らしい容貌麗しい女であったのだろう。

【浮舟の乳母】
 二条院で匂宮が浮舟に無体に及ぼうとしたとき身をもって浮舟を守る。(東屋23~27)
 → 「降魔の相」かガマ(蝦蟇)相か。匂宮も手をやいたことでしょう。傑作でした。

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4 Responses to 人物談義(19)乳母、乳母子、女房たち

  1. 青玉 のコメント:

    王命婦の手引きが始まりでこの長い源氏物語が綿々と綴られていく。
    その意味では大きなきっかけの一つです。

    弁のおもとは玉蔓、小侍従 弁の君(尼)は女三の宮とそれぞれに密通の手引者として物語を大きく展開させる首謀者的役割を果たしましたね。
    特に弁の尼が薫に出生の秘密を語る場面は印象に残ります。

    宣旨の娘も良く出来た源氏から見込まれた乳母でしたね。
    この人あっての明石の君でしょう。

    夕顔の乳母子の右近も大活躍でした。
    特に長谷寺での玉鬘との再会にはワクワクドキドキでしたね。
    忘れられない女房です。

    浮舟関連では右近、侍従が大活躍。
    嘘に嘘を重ね辻褄を合せる連携が面白おかしく描かれていました。
    浮舟の心情を思えば何やら不謹慎にも思えますがやはりわが身が可愛いのでしょうね。

    最期に浮舟の乳母
    「降魔の相を出だして」の場面がうかびます。
    身を賭して女主人を守ろうとする気丈な乳母、ガマの相にもなるでしょう。

    良くも悪くも女房たちの活躍なくしては成り立たない脇役達、物語を充分に彩ってくれました。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      考えてみれば作者紫式部も女房として宮仕えしてた人、女房たちの生態に詳しいのは当たり前ですね。紫式部日記や枕草子では見聞きしたことがエッセイ風に描かれていますが、源氏物語は女房が女房を語り手として作り出した一大物語ということかと思います。

      姫君たちは(男君もそうだが)起きてから寝るまで日常生活、自分独りではないもできない(しない)。全てお付きの女房たちの世話になるしかない。当然そこには秘密もプライバシーもない。恋のきっかけも進展も女房次第、挙句のはては男の手引までされてしまう。考えてみれば異常な世界ですねぇ。
       →自立した生活をしないと自立した大人になれない。現代はいい時代です。

  2. 式部 のコメント:

     女房や乳母、乳母子の性格、教養、気働き、機転、能力によってお姫さまの運命は大きく変わるものですね。
     末摘花を源氏に引き合わせた大輔の命婦は末摘花にとって恩人ですよね。
     夕顔の右近も、うそつき右近も主人思いの働き者でいいですね。
     平安朝の仕事をもつ女性が生き生きと描かれていて、どの人もそれなりに評価できます。お姫様より多分楽しく生きたような気がします。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      源氏物語の女房たち何れも本名などなく呼び名で呼ばれてますが大体が父親の役職から来ているとみていいのでしょうか。そうすると父は相当な官職の人であったということが分かりますね。

       中納言・少納言・宰相・弁は太政官の次官~判官
       侍従は中務省で天皇に近侍
       右近は右近衛府の将監

      さらに上は王命婦は王というから皇族出であったのでしょうし、宣旨の娘は「澪標」で語られているように父は宮内卿の宰相、母は桐壷院の宣旨女房でした。

      一つ間違えば入内してもおかしくないような出自の女性たちです。そういう階層の女性で容貌・教養・人格に優れた人たちが宮仕えに出る(自ら好んでか親の意向からか、或いは無理矢理勧められてか)。様々な人生模様があったのでしょう。

       →紫式部しかり清少納言しかり和泉式部しかり赤染衛門しかり
       →女房でお姫さまの運命は決まる。スカウト合戦だったのでしょうね。

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