p236-246
24.僧都、帰山の途中立ち寄り 浮舟を励ます
〈p316 一品の宮はすっかり御全快あそばして僧都も山へ上りました。〉
①妹尼「なかなか、かかる御ありさまにて、罪も得ぬべきことを、のたまひもあはせずなりにけることをなむ。いとあやしき」
→妹尼が僧都を恨むのも無理はない。一番浮舟のことを想って面倒をみている妹尼の留守中に無断で出家させたのは、高僧としていかがなものか。
②僧都「このあらん命は、葉の薄きが如し」
「松門に暁到りて月徘徊す」
→白氏文集を引用。思えば源氏物語は桐壷での長恨歌の引用から始まっていた。
→僧都も教養高いが紫式部もさすがである。
(法師は常々仏典のみに集中しているので漢詩や和歌などは苦手なのだろう)
③法師なれど、いとよしよししく恥づかしげなるさまにてのたまふことどもを、思ふやうにも言ひ聞かせたまふかなと聞きゐたり。
→浮舟は僧都が妹尼を説得するのを聞いてほっとしたことだろう。
25.中将来訪、浮舟の尼姿を見る 浮舟の精進
〈p317 今日は、終日吹いている風の音も、〉
①中将、浮舟が出家したと知った後もしつこくやってくる。
②中将「さま変りたまへらんさまを、いささか見せよ」
→ちょっとこの男オカシイのではないですか。余程今の奥さんとうまくいってないのでしょうか。
③薄鈍色の綾、中には萱草など澄みたる色を着て、いとささやかに、様体をかしく、いまめきたる容貌に、髪は五重の扇を広げたるやうにこちたき末つきなり。こまかにうつくしき面様の、化粧をいみじくしたらむやうに、赤くにほひたり。
→浮舟の出で立ち。最上級の描写ではなかろうか。中将ならずともビビッときそうである。
④障子の掛金のもとにあきたる穴を教へて、紛るべき几帳など引きやりたり。
→オイオイ、そんなサービスするから中将がつけ上がるのに。
⑤中将「なかなか見どころまさりて心苦しかるべきを、忍びたるさまに、なほ語らひとりてん」
→参りますねえ、こういう男には。コメントのしようがありません。
⑥中将 おほかたの世を背きける君なれど厭ふによせて身こそつらけれ
→出家した尼さんへの恋歌。この男はきっと地獄に落ちることでしょう。
⑦中将「はらからと思しなせ。はかなき世の物語なども聞こえて、慰めむ」
→紫式部もこれでもかと異常を書き立ててる感じです。あり得ないでしょうに。
⑧この本意のことしたまひて後より、すこしはればれしうなりて、尼君とはかなく戯れもしかはし、碁打ちなどしてぞ明かし暮らしたまふ。
→中将のことはともかく浮舟は出家してようやく心の平常を取り戻しつつある。
[源氏物語に下らない男もけっこう出てきますが、本段の中将もワーストランキングに入るのではないでしょうか]
、、このあらん命は、葉の薄きが如し」と言ひ知らせて、「松門に暁到りて月徘徊す」
紫式部の高い教養を知らしめる箇所ですね。
思えば日本は文学に限らず中国の影響を色濃く受けているのですね。
「さま変りたまへらんさまを、いささか見せよ」
中将の異様な好奇心ですがそれほど浮舟の尼姿は美しかったのでしょうね。
薄鈍色の綾、中には萱草など澄みたる色を着て、いとささやかに、様体をかしく、いまめきたる容貌に、髪は五重の扇を広げたるやうにこちたき末つきなり。こまかにうつくしき面様の、化粧をいみじくしたらむやうに、赤くにほひたり。
この表現は美の象徴ですね。
中将の「はらからと思しなせ」
何がはらからですか、浮舟の心も知らずに疎ましい限りです。
ようやく心の安定を得たかに見える浮舟ですが季節の移ろいと共に心揺れるのも当然のことでしょう。
人間そう簡単に悟れるものではありませんものね。
ありがとうございます。
「ようやく心の安定を得たかに見える浮舟ですが季節の移ろいと共に心揺れるのも当然のことでしょう」
よくぞ言っていただきました。浮舟の心、その通りでしょうね。妹尼に無断で出家してしまった浮舟、妹尼に「何故尼になんぞなってしまったの!」と散々泣かれたことでしょう。決心は固かったものの秋の気配を感じつつ独りになるとふと俗世のことが心をよぎったとしても不思議ではありません。
そんな中、中将の来訪。中将があれこれ迫れば迫るほど浮舟は「ああ、尼になっていてよかった!」との思いを深めたのではないでしょうか。私には中将はそのお役目を果たすために登場したとしか思えません。全く罰当りの男であります。