手習(18・19) 妹尼、初瀬に 浮舟は残る

p198-212
18.妹尼初瀬にお礼参り 浮舟少人数で居残る
 〈p284 九月になって、この尼君はまた初瀬に参詣しました。〉

 ①九月になりて、この尼君、初瀬に詣づ。
  →8月も過ぎて9月秋も深まる。
  →初瀬に行くということは宇治を通るということ。
  →妹尼は浮舟を誘うが浮舟はさらりと断る。

 ②浮舟 はかなくて世にふる川のうき瀬にはたづねもゆかじ二本の杉 代表歌
  →手習(巻名)する浮舟 二本は薫と匂宮を暗示 紫式部の歌の才能はすごい!

 ③尼君「二本は、またもあひきこえんと思ひたまふ人あるべし」と、戯れ言を言ひあてたるに、胸つぶれて面赤めたまへるも、いと愛敬づきうつくしげなり。
  →図星を言い当てられて戸惑う浮舟。思い出したくない、、でも忘れられない。

 ④我はと思ひて先せさせたてまつるに、いとこよなければ、また手なほして打つ。
  →浮舟は囲碁が強かった。頭がよかったのであろう。益々いい女ですなあ。

  既出の囲碁の場面
   1.空蝉と軒端荻 (空蝉p167)
   2.玉鬘の大君と中の君 (竹河p104) 国宝源氏物語絵巻 竹河(二)
   3.今上帝と薫 (宿木p66)

 ⑤もの好みするに、むつかしきこともしそめてけるかなと思ひて、心地あしとて臥したまひね。
  →妹尼が帰ったら囲碁を打たされる。ひっそりしていたい浮舟には煩わしい。
 
19.中将来訪 浮舟、母尼の傍らに夜を過す
 〈p289 月が上って美しい夜になった頃、〉

 ①月さし出でてをかしきほどに、昼、文ありつる中将おはしたり。
  →浮舟からの返事はもらえない。ただ妹尼も女房たちも歓迎してくれているし、、ここはもう一押しと言うことだろうか。中将は小まめな男である。

 ②中将 山里の秋の夜ふかきあはれをももの思ふ人は思ひこそ知れ
  浮舟(つぶやき)うきものと思ひも知らですぐす身をもの思ふ人と人は知りけり
  →考えていることの次元が違うので二人の想いは噛みあう筈がない。
  →「中将よ、この女性はおよしなさい!」とアドバイスしたくなる。

 ③例は、かりそめにもさしのぞきたまはぬ老人の御方に入りたまひにけり。
  →お屋敷なら塗籠へでも隠れるところ。老人の居室とはよく考えたものである。

 ④中将「それももの懲りしたまへるか。なほ、いかなるさまに世を恨みて、いつまでおはすべき人ぞ
  →中将の推測は図星である。誰が考えても男との出来事が原因だろうと察しがついたのだろう。

 ⑤宵まどひは、えもいはずおどろおどろしきいびきしつつ、前にも、うちすがひたる尼ども二人臥して、劣らじといびきあはせたり。
  →これも傑作場面でしょう。考えるだに恐ろしくなります。
  (大分前になりますが身内の通夜で八十後半の老婆三人と同室で夜を明かしたときのこと思い出しました)

 ⑥浮舟の回顧
  あさましうもてそこなひたる身を思ひもてゆけば、宮を、すこしもあはれと思ひきこえけん心ぞいとけしからぬ、、、、
  →あの匂宮との二回の逢瀬が全てを狂わせてしまった、、でも過去は塗り替えられない。

 ⑦さすがに、この世には、ありし御さまを、よそながらだに、いつかは見んずるとうち思ふ、
  →少し俗心がよみがえる。でもそれは一瞬のことだろう。

カテゴリー: 手習 パーマリンク

4 Responses to 手習(18・19) 妹尼、初瀬に 浮舟は残る

  1. 青玉 のコメント:

    妹尼から初瀬参りに誘われるも断る浮舟。
    道中の宇治は浮舟にとって良くも悪くも忘れられない思い出の場所。
    すべてを宇治川に流したつもりが忘れようにも忘れられない・・・
     はかなくて世にふる川のうき瀬にはたづねもゆかじ二本の杉
    素晴らしい手習いの和歌ですね。

    ここまで来て浮舟の変化を感じます。
    悩み苦しむ姿から少しずつ考える女へ、流されない主体性と意思が感じられ聡明さが見えてきます。

    妹尼の留守を狙って中将が訪れるも浮舟にさらさらその気持ちなどない。
    煩わしいだけである。執拗な中将、いい加減察しなさいよ!!
    用心深く母尼の部屋に逃げ込む浮舟。

    老醜の尼たちのおどろおどろしい表現、まさに鬼女ですね。
    歳を重ねることの悲哀を感じて身につまされます。

    一瞬思い出す過去の色恋・・・
    追い詰められる浮舟の生きる道は?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      出て来ましたね。二本の杉。

       はかなくて世にふる川のうき瀬にはたづねもゆかじ二本の杉

        →浮舟の心の内を余すところなく歌い出していると思います。
       「流したつもりが忘れようにも忘れられない・・・」その通りですね。

         流れたくない流れたい 愛したくない愛していたい
         何を信じて生きてく女 春はいつくる渋谷新宿池袋
                         (盛り場ブルース8番)
       
      二本の杉は玉鬘と右近の出会いで出て来ました。
       
       二本の杉のたちどを尋ねずは古川野辺に君を見ましや(右近@玉鬘10)

      この二本の杉は古来初瀬川べりにあって男女の出会いを意味したとのこと。紫式部は巧みに古今集の旋頭歌を取り入れたということですね。

      [オマケ]
      この部分ネットでチェックしていたら古今集1007,1008,1009と旋頭歌が並んでおり内二つを紫式部はいただいているんですね。夕顔を読んだ時には気がつきませんでした。

       (古今集1007)
         うちわたすをちかた人にもの申すわれ
          そのそこに白く咲けるは何の花ぞも
       
          →夕顔1に引かれている。
       
       (古今集1008)
          春されば野辺にまづ咲く見れどあかぬ花
          まひなしにただ名のるべき花の名なれや

         
       (古今集1009)
          初瀬川古川野辺に二本ある杉
          年を経てまたも逢ひ見む二本ある杉

           →右近の歌に引かれている。

      これだけ調べたらこの二本の杉、見に行かんわけにはいきませんねぇ。。

  2. 式部 のコメント:

     このあたりから浮舟は本当にいい女に変わりつつありますねえ。
     母親の言うまま、身分ある男のいうままに流されてきた半生を自問自答できる小野の里。 浮舟さん、ここに来られてよかったねと読者は応援したくなります。

     紫式部の老醜描写、いつもながら詳細で辛辣ですね。
     思わず笑いながら、我が老い先もちらりと頭をかすめたりして、、、
     
     ここではっきりと匂宮との過去の色恋は断ち切れましたね。
     薫の君の良さは再確認しているようですが、さあどうなるのでしょうね?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      浮舟はいい女に変りつつありますか。なるほど。さっぱりとキッパリと生きるをモットーの式部さんらしい評価だと思います。

      浮舟はこの段で過去を振り返る訳ですが一番忘れ去り難かったのは匂宮とのことだったと思います。それをすっかり否定したらもうサッパリするでしょう。何せ薫への想いはお義理みたいなものだったのでしょうから。。。

コメントを残す