手習(16・17) 母尼、吾妻琴を独(断)奏

p192-198
16.母尼和琴を得意げに弾き、一座興ざめる
 〈p278 話の途中のそこここで咳をしながら、〉

ここかしこうちしはぶき、あさましきわななき声にて、なかなか昔のことなどもかけて言はず、誰とも思ひわかぬなるべし。
  →年老いた母尼の様子がすごくリアルに描写されている。
  →母尼は80才+ 源氏物語中登場人物の最高年齢ではなかろうか。
  (源典侍がお化けのように登場したのは朝顔の巻(p34)70か71才の時)

 ②母尼「くそたち、琴とりてまゐれ
  →「くそたち」が面白い。「お前たち」と言うことか。年寄りの昔言葉であったのだろうか。

 ③中将が笛を吹き、妹尼が琴の琴。そして母尼が昔とった杵柄、吾妻琴を持ち出す。
  →さすが小野の山里とは言え風流な人たちである。

 ④母尼「、、この僧都の、聞きにくし、念仏よりほかのあだわざなせそとはしたなめられしかば、何かはとて弾きはべらぬなり
  →「お婆ちゃんは念仏だけ唱えてればいいんですよ」僧都にたしなめられていた。いつの時代でもいっしょですね。微笑ましい。

 ⑤ただ今の笛の音をもたづねず、ただおのが心をやりて、あづまの調べを爪さはやかに調ぶ
  →唯我独尊。けっこうじゃないですか。

 ⑥「たけふ、ちちりちちり、たりたんな
  →そりゃあ越前国武生のことでしょう。

 ⑦中将「いとをかしう、今の世に聞こえぬ言葉こそは弾きたまひけれ」とほむれば、
  →年寄りをおだてる。この中将なかなかの人物じゃないですか。

 ⑧母尼「ここに月ごろものしたまふめる姫君、容貌はいときよらにものしたまふめれど、もはら、かかるあだわざなどしたまはず、埋れてなんものしたまふめる
  →母尼の言葉を借りて浮舟のひっそりした様子を読者に伝える。

17.中将、妹尼と歌を贈答 浮舟経を習い読む
 〈p281 その朝、「昨夜は、何かにつけて、心が乱れましたので、〉

 ①翌朝、中将から浮舟に逢えなかったことを恨む文が届く。
  中将 忘られぬむかしのことも笛竹のつらきふしにも音ぞ泣かれける
  →浮舟の固い心を知っている読者には空しい歌である。

 ②妹尼 笛の音にむかしのこともしのばれてかへりしほども袖ぞぬれにし
  →妹尼は何とかして中将に通って欲しいと心から願っていたのであろう。そのためには先ず浮舟が心を開いてくれなければならない。

 ③出家を願う浮舟の心
  人の心はあながちなるものなりけりと見知りにしをりをりも、やうやう思ひ出づるままに、「なほかかる筋のこと、人にも思ひ放たすべきさまにとくなしたまひてよ」
  →窮極の恋に悩み抜いた浮舟には中将のアタックなど煩わしいだけである。

 ④よろづの咎見ゆるして、明け暮れの見ものにしたり。すこしうち笑ひたまふをりは、めづらしくめでたきものに思へり
  →妹尼はじめ小野の里の人たち、何と我慢強く心優しいのであろう。浮舟ももうちょっと愛想よく振る舞ってもいいのではと思ってしまう(それができればオシマイだろうけど)。

[早朝から那須へ一泊ゴルフに出かけます。返信遅れます。ご容赦ください]

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3 Responses to 手習(16・17) 母尼、吾妻琴を独(断)奏

  1. 青玉 のコメント:

    この場面、母尼を登場させているのがいかにも面白い!!
    つんぼ桟敷状態の母尼がここぞとばかりに自分のお得意を披露する。
    周りは何となく白けるも、悟したりおだてたりしてご機嫌をとるのは現代にも見られる光景です。
    ちょっと一休み、ホッとする場面とは対照的で浮舟の胸中は程遠く醒めているのが印象的です。

    中将、妹尼の願いが強ければ強いほど空しく浮舟の心は離れていく・・・
    そうした煩わしさと孤独感が出家への願望となっていく浮舟の心の軌跡がみえてきます。

    思いに反して愛想よく振舞えないのが浮舟の浮舟たる所以ではないでしょうか。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      ここで80才あまりの老尼を登場させるところ見事ですねぇ。風流事を忘れられず月下に琴を持ち出す場面(浮舟16)から恐ろしいいびきが響き渡るシーンまです随分長くリアルに描かれています。

      これまでの老女の登場シーン思い出してみました(他にもあるかもしれませんが)。

       ①源氏が五条に老病の乳母(惟光の母)を見舞う場面(夕顔2)
        →老婆を労わる優しい源氏

       ②源典侍がお化けのように登場(朝顔6)
        →老いて尼になってもなお艶めかしい源典侍(皮肉っぽい書き方)

       ③大宮。夕霧・雲居雁の結婚にやきもきしながら亡くなってしまう。
        →さすがに老いぼれた様には書かれていないが存在感抜群だった。
        →晩年、源氏ももう少し大宮に優しくしてあげて欲しかった。

       ④幸せ人、明石の尼君が明石の女御に昔を語る場面(若菜上25)
        →呆けぎみだが醜くは書かれていない。妥当な評価であろう。

      時には優しく時には痛烈に年老いた女性のことが書かれています。なぜか老爺の呆けた所は出て来ないと思うのですがいかがなものでしょう。

  2. 青玉 のコメント:

    言われてみれば老爺を揶揄したものや呆けた変態爺さんのような人物は今まで現れていないですね。
    如何に女と言うものは業が深いのか知らしめされているようでこれはちょっと口惜しいかな?

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